嘱託社員とは?給与体系やほかの社員との違い、契約時の注意点をまとめました

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嘱託社員を戦力にするには働きやすい環境づくりを目指そう


人生100年時代を見据えて、厚生労働省でもより多くの人が働きやすい社会に向けた取組みを活発化しています。
これからも、高齢者やフレキシブルな雇用形態を望む人は増えていくと考えられます。

企業もより幅広く人材を活用するために、嘱託社員や時短勤務といった社員が働きやすい待遇を考えていかなければいけません。
企業の将来を見据えて、嘱託社員や他の働き方についてルールを整備しておきましょう。

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この記事の目次

意外と知らない嘱託社員の基本的なこと


人々のライフスタイルの変化に伴って、働き方も多様化しています。
その中でも多くの職場で導入されているのが嘱託社員の制度です。
「嘱託として再雇用された」、「正社員から嘱託になった」といった話を職場で聞いたことがあるかもしれません。
しかし、いざ嘱託がどういった制度なのか聞かれても、はっきり答えるのは難しいという人もいるでしょう。
嘱託社員の法的な扱いや制度といった基本的なことをまとめました。

嘱託社員に明確な定義はない

嘱託社員は、正社員とは違う立場で働く非正規雇用の一種だとされています。
しかし、法律によって厳格に嘱託社員の扱いや雇用形態が定められているわけではありません。
そのため、企業によって嘱託社員の扱い方、雇用形態はまったく違います。

日本での嘱託社員は、一般的に正社員が定年してから会社に所属して働くときに、嘱託社員の雇用形態となるケースがよく見られます。
定年を迎えた後に企業と再雇用を結ぶケースです。

定年した翌日から嘱託社員として通勤、勤務を継続するといったケースでは、立場が変わっても定年前と変わらずに働き続けているように見えるかもしれません。
嘱託社員は法的な定義がないため、短時間でもフルタイムでも労使の合意があれば比較的自由な働き方を選択できます。

嘱託社員になるときに社員から業務委託になることも

嘱託社員となるケースは、様々な業種、企業で起こります。
仕事の内容によっては、医師や職人のように専門性が高い場合もあり、その場合は有期雇用契約ではなく業務委託契約、請負契約となることもあります。

業務契約や請負契約は、企業と社員の関係ではなく、企業とフリーランスのビジネスパートナーの関係です。
会社を離れた社会人として役務を提供します。

公務員の嘱託は非常勤扱いが一般的

定年後に嘱託となるときには、労働条件の見直しになるのが一般的です。
正社員の時と同様にフルタイムで働くケースもありますが、時短勤務や隔日勤務といったワークスタイルは千差万別です。
加えて、嘱託社員の雇用期間も企業ごとに違います。

公務員の場合は、嘱託社員になると3年の有期雇用契約で非常勤扱いになるのが一般的です。
一般企業の場合も、自由に雇用期間を定められるので、1年の雇用期間ののちに契約を更新するかどうか判断するといった形式も採用されています。

嘱託社員の無期転換ルールとは

嘱託社員の待遇については、労使の同意のもとである程度自由に定められます。
しかし、注意しなければいけないのが嘱託社員の無期転換ルールです。

雇用契約には有期雇用契約と無期雇用契約があります。
有期雇用契約は期間を決めて雇用される契約社員や嘱託社員、無期雇用契約は雇用契約の期間が決まっていないアルバイトやパートです。
有期雇用契約の場合には、契約期間が終われば雇用関係が終了します。

無期転換ルールとは、同じ企業との間で有期労働契約が5年を超えて更新された場合に、有期労働契約者の申し込みによって期間の定めのない労働契約に転換するルールです。
有期労働契約者が雇止めになる心配なく働き続けるために、このルールが生まれました。

つまり、嘱託社員は5年以下の有期雇用契約を結んで通算5年以上更新されたときには、期間の定めのない雇用契約に転換できます。
期間の定めのない雇用契約になると、雇用期間満了を理由にして雇用契約を解除することはできなくなります。

5年以上継続する予定で嘱託社員と契約する場合には、将来的に雇用期間や働き方の転換をどうするのか考えておかなければいけません。
また、定年後の再雇用は無期転換ルール特例認定制度が利用できるので、事前に準備しておくことをおすすめします。

嘱託社員はいつまで働ける?

有期雇用契約を結ぶときには、基本的には無期転換ルールが適用されます。
そのため、有期雇用の嘱託社員の待遇で働けるのは5年間だけと考えるかもしれません。

しかし、定年後の有期雇用でより長く働いてもらいたい場合には、無期転換ルールの適用外にすることが可能です。
これは、『適切な雇用管理に関する計画を作成し、都道府県労働局長の認定を受けた事業主』と『定年に達した後、引き続いて雇用される有期雇用労働者(継続雇用の高齢者)』
が条件です。
この特例の適用を受けるためには、事業主は本社・本店を管轄する都道府県労働局で認定申請をおこないましょう。

無期転換がおこなわれると、本人の体力や年齢に関わらず雇用契約が継続します。
嘱託社員が高齢の場合には、必ずしも同じ条件で働き続けられるとは限りません
体力面や生活の変化に対して柔軟に対応するには、有期雇用契約を活用することで定期的に条件を見直すのがおすすめです。

嘱託社員はほかの社員とどこが違う?


嘱託社員は、有期雇用の非正規社員を指して使われています。会社には、ほかにも様々な働き方をしている人がいます。
嘱託社員と他の社員にはどのような違いがあるのでしょう。

嘱託社員と正社員は何が違う?

正社員を経て嘱託社員となるケースも、多くの職場で見られます。
嘱託社員と正社員の違いは、嘱託社員は非正規雇用であり有期雇用契約を結んでいること。

労働時間や待遇が違うほか、会社によっては福利厚生も違います。
業務についても、正社員よりも負担を少なくしたり、短時間勤務にしたりと会社によって調整しています。

嘱託社員と契約社員は何が違う?

嘱託社員も、有期の雇用契約なので契約社員の一種と考えることが可能です。
一般的には、契約社員の中でも定年退職後の再雇用された社員を嘱託社員と呼びます。
そのため、会社によっては一般的に嘱託社員と呼ばれる人を、契約社員としている場合もあります。

嘱託社員と派遣社員は何が違う?

有期雇用契約で働くと聞くと、派遣社員をイメージする人もいるかもしれません。
派遣社員と嘱託社員の違いは雇用先です。
派遣社員は嘱託社員と違って、派遣会社に雇用されています。
法的にもまったく違う立場なので、混同しないように注意してください。

嘱託社員にすると給与や待遇はどうなる?


定年を迎えた正社員が嘱託社員として働く場合、給与や福利厚生といった待遇が変わることも珍しくありません。
嘱託社員になると、正社員の立場ではなくなり、新しく雇用契約を結ぶことになります。
嘱託社員の給与や待遇についてまとめました。

嘱託社員の給与と賞与は会社によって扱いが違う

嘱託社員の給与や賞与といった待遇は、正社員と必ずしも同様である必要はありません。
嘱託社員の扱いが会社によって違うため、時短勤務や週に3日の勤務にして給与を減額するといったケースもあります。
ただし、企業が自由に労働条件を決められるわけではない点に注意してください。

パートタイム・有期雇用労働法8条で、正社員と有期雇用労働者の間で不合理な待遇格差を設けることは禁止されています。
つまり、職務や責任の範囲が同じなのに、給与や賞与といった待遇に差をつけることは許されていません。

さらに、パートタイム・有期雇用労働法9条では、有期雇用労働者であることを理由とする差別的取扱いを禁止しています。
会社は、嘱託社員の労働条件が不合理に不利なものにならないように、対処しなければいけません。

社会保険も加入可能

嘱託社員は、正社員と同じように健康保険や介護保険、厚生年金保険、労災保険、雇用保険に加入できます。
ただし、嘱託社員に変わるのに伴って就業時間を減らす場合には、社会保険の加入対象でなくなることもあります。

有給休暇も取得可能

嘱託社員も正社員と同じルールで有給休暇の繰り越しや計算が適用されます。そのため、正社員の時の有給休暇は嘱託社員になっても引き継ぎ可能です。
ただし、労働時間が減ることに比例して有給休暇が減る場合もあります。

嘱託社員として働く社員のメリット


嘱託社員として働くワークスタイルを選択する人は数多くいます。嘱託として働く社員には、どのようなメリットがあるのかまとめました。

なじみがある職場で働き続けられる

嘱託社員の多くは、今まで正社員として働いてきた職場や職種のままで嘱託社員になります。
慣れ親しんだ職場やメンバーに囲まれた環境で、今まで培ってきたスキルを活用して働けるのは、嘱託社員にとって大きなメリットです。

定年後に働きたいと考えていても、定年してから新しい職場や環境に慣れるのは負担がかかります。
不安なく仕事を続けられるからといった理由で多くの人が嘱託社員を選択しています。

自分に合った働き方ができる

嘱託社員になるときは、雇用契約も再度締結します。
一般的には、再雇用のタイミングで働き方、労働条件の見直しがおこなわれます。
正社員としてフルタイムで働いてきた人も、嘱託としてゆとりがある働き方を選びたいと考えている場合もあるでしょう。
また、体力面から働くのは、後2〜3年と考える人もいるかもしれません。

嘱託社員であれば、労働時間や勤務時間を減らしたり、雇用契約を短期間にしたりと自分のライフスタイルに合った働き方を選べます。

退職後に収入を得られる

国民年金、厚生年金の受給開始年齢は、原則65歳です。
つまり、60歳で定年退職すると、年金が受給できるようになる65歳までは年金無しで暮らさなければいけません。
貯蓄を切り崩しながら生活するのは不安、できるだけ老後資金を貯めておきたい労働者も嘱託社員として収入を得られます。

嘱託社員を雇う会社のメリット


嘱託社員の制度は働く側だけでなく、雇い主である企業にとってもメリットがあります。
企業にどのようなメリットがあるのか紹介します。

優秀な人材に引き続き活躍してもらえる

正社員に引き続き嘱託社員になってもらう場合、企業は優秀な人材を引き続き雇用できます。
すでに起用した人材を嘱託社員にするので、新しく発生する育成コストもありません。
嘱託社員にすることで、正社員としての期間が終わっても優秀な人材、スキルを確保できます。
フルタイム以外の働き方になっても、経験豊富な嘱託社員が在籍していることは、同じ職場で働く人にとって安心につながるでしょう。

活用次第で人件費を抑えられる

嘱託社員は一般的に勤務時間の減少や仕事に対する責任が緩和されるため、正社員よりも給与が安くなる傾向があります。
そのため、企業にとっては人件費を削減しながら人材を確保する手段として嘱託を活用できます。

労使それぞれがニーズに沿った働き方で契約できる

嘱託社員を雇用するときには、会社と雇用される嘱託社員双方のニーズを擦り合わせます。
そのため、会社にとって必要な時間だけ働いてもらう、スキルが活用できる業務に集中してもらうといった契約も可能です。
お互いのニーズを把握しながら、柔軟に働き方を決定できます。

新しく人を採用する手間や負担がかからない

新しい社員やパートの雇用は、会社や採用担当者に負担がかかる作業です。
求人広告などの方法で人材を募集し、選考を経てから採用に至るまでは時間も手間もかかります。

さらに、採用してからも戦力となる人材育成のためには、コストや時間がかかります。
すでに業務知識や経験がある嘱託社員を活用すれば、採用担当者の負担は大きく削減可能です。

嘱託社員と雇用契約するときの注意点


嘱託社員の存在は企業にとって心強く、うまく活用すれば職場の生産性向上にも貢献します。
しかし、嘱託社員を雇用する場合注意しなければならない点もあります。
どういった点に注意すればいいのかまとめました。

希望する者は、原則として65歳まで雇用しなければならない

高年齢者などの雇用の安定に関する法律(通称、「高齢者雇用安定法」)は定年後の雇用に関わるルールを定めた法律です。
高齢者雇用安定法によると、一部の業種を除くすべての企業に対して、原則として希望する人全員に65歳までの雇用の機会を与えることを義務付けています。

このルールに関して公共職業安定所(ハローワーク)の指導を繰り返し受けたにもかかわらず具体的な取組みがないと、厚生労働省より勧告書が発出され、さらに勧告に従わない場合は企業名の公表の措置に進みます。

企業は65歳までの雇用の機会を与えなければならないため、事前に対象者の希望を確認しておくようにしましょう。
希望があった場合に、すぐに適切なポストが見つかるとは限りません。
時間に余裕をもって勤務地や部署の受け皿を確保するようにしてください。

正社員と比較して「不合理な労働条件」は禁止

嘱託社員は、業務内容や給料などが正社員とまったく同じ待遇である必要はありません。
しかし、有期雇用社員に対して、正社員と比較して不合理な労働条件を適用することは禁止されています。

労働時間の短縮や業務の軽減といった合理的な理由があれば問題ありませんが、不合理なまでに低くなっていないか確認しておきましょう。
正社員に支給している手当が嘱託社員に支給されないといったケースがあるときには、その待遇差が合理的かどうかを確認してください。

雇用契約は新しく締結することになる

正社員として働いていた人材が嘱託社員となるときには、新しく雇用契約を締結しなければいけません。
労働条件や契約期間について合意したうえで新しく契約書を交わしましょう。
これから嘱託社員となる人材がいる場合には、事前に契約書の様式を準備しておきましょう。

再雇用制度については事前に検討しておく

企業によっては嘱託社員や再雇用の制度が整備されていないこともあります。
しかし、再雇用制度が適切に設計されていないと、労働条件や待遇が原因でトラブルに発展するリスクがあります。
事前に就業規則や嘱託社員用の雇用契約書を整備しておくようにしてください。

まとめ

働き方の一つとして多くの職場で嘱託社員が導入されています。
自分に合ったペースで働きたいと考える労働者と優秀な人材を確保したいと考える会社にとって、嘱託社員は使いやすい制度です。
有期雇用や高齢者雇用には、多くのルールがあるので理解したうえで、自社に合った嘱託社員の制度を整えましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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