バイトテロによる信頼失墜を防ぐために、企業が行うべき労務管理とは?

創業手帳

バイトテロ時代に求められる労務管理

(2019/02/22更新)

飲食店によるアルバイトの不適切行為、通称「バイトテロ」が連日話題になっています。アルバイトが面白半分に行った不適切行為は、YouTubeなどの動画サイトやTwitterなどのSNSに投稿されることで拡散され、メディア等で大きく報道されます。その結果多くの人の知るところとなり、企業の築いてきた信頼を一瞬にして奪ってしまうのです。

こうした悪ふざけはこれまでも、表沙汰にならないだけで企業内部で行われることはあったかもしれません。しかし、これだけSNSが浸透した昨今のインターネット社会では、このような悪ふざけが世間に明らかになってしまう環境が十分すぎるほど整っています。そのため、企業にとっては「バイトテロ=経営をゆるがすリスク」という認識が高まってきています。

今回は、アルバイトが不適切行為を行ってしまう理由や、そうしたバイトテロへの対策について、社会保険労務士の寺島有紀さんが解説しました。

なぜアルバイトが不祥事を起こすのか?

そもそも、不適切行為はアルバイトだけが起こすものではなく、正社員によって行われるケースも当然あります。では、昨今話題となっている不適切行為の多くがアルバイトによるものなのはどうしてなのでしょうか?

「いつかは辞める仕事」というアルバイト側の意識

無期雇用が前提の正社員に比べると、アルバイトについては「一時的な仕事」という意識を持っている場合が多い傾向にあります。有期雇用で労働時間の短いアルバイトだと、どうしても企業への帰属意識は薄まるようです。

「学生アルバイトが無断で急に会社に来なくなった」というご相談を企業からいただくことは少なくありませんが、一方で、正社員が無断で来なくなるケースは私の経験上では滅多にありません。「いつかは辞める一時的な仕事」という意識、そして帰属意識の欠如は「バイトテロ」のひとつの背景と言えるかもしれません。

「契約期間満了で辞めさせればいいか」という企業側の慢心

一般的な日本企業における正社員とは、無期雇用です。企業にとって、契約期間のない無期雇用社員は日本の労働法では解雇が難しいということもあり、その雇用管理は有期雇用者の労務管理方法に比べ、しっかりしたものを持っている企業が多くなっています。

例えば、後に詳述しますが、ほとんどの企業は正社員用の就業規則を策定しています。そして就業規則には守ってほしい服務規律が何項目も羅列されており、またそうした服務規律を守らなかった場合の懲戒事由なども細かく定めています。

一方で、正社員に対しては厳しく規律を設けていたとしても、有期雇用であるアルバイトにはなぜか緩やかな運用をしているということが多々あります。正社員に対してはほとんどの企業が策定している就業規則も、アルバイト用には準備していないというケースも多いのです。「最悪、契約期間満了で辞めさせられる」という企業側の慢心の表れと言えるでしょう。

正社員にはいわゆる日本型の「メンバーシップ型雇用」つまり「その企業の一員という意識を高く持て!」というロイヤリティ重視の労務管理体制をとっているのに、アルバイトに対してはなあなあな労務管理をしている。こうしたことは多くの企業で心当たりがあるところではないでしょうか。

バイトテロを防ぐための企業防衛型の労務管理とは


現在は深刻な人手不足もあり、「フルタイム・残業可」というような一般的な正社員を雇用することが難しくなっています。また、日本全体の就労人口も減少している中で、育児・介護中の方、障害のある方、シニアの方など、「フルタイムは難しいけれど、空いている時間で働いてもらえる方」の活用は企業にとって避けて通れない課題です。

これからの日本社会において、「正社員=ノーマル」「アルバイトなどの有期雇用=臨時的な雇用の調整弁」という従来の考え方は根本的に崩れていく可能性があります。主戦力としてアルバイトの活用が進んでいる中で、アルバイトの労務管理は「バイトテロ」のみならず重要になってきていると言えるでしょう。

では、アルバイトの労務管理とは具体的にはどのように構築していけばよいのでしょうか?企業の労務リスク防衛の観点から考えてみたいと思います。

アルバイトにもルールの整備を

先に述べたように、正社員用の就業規則はあっても、アルバイト用の就業規則はないという企業が見受けられます。現在は、正社員用の就業規則の中で、「アルバイトは、本就業規則は適用せず個別の定めによる」として、アルバイトは個別の雇用契約書でその労働条件を決めるという手法が多くとられています。
一方、服務規律や懲戒事由のようにアルバイトにも守ってほしいことは、「正社員就業規則を適用する」と雇用契約書内に記載して、適用させたい部分のみを正社員就業規則に飛ばすという作りになっていることが多いようです。こうした運用がとられている理由としては、単純にアルバイト用の就業規則を策定する手間やコストの問題に加え、法令上も「アルバイト用の就業規則を作りなさい」という義務があるわけではないからです。
(労働基準法では10人以上の労働者がいる場合に就業規則の策定義務はありますが、この10人のカウントには正社員だけではなくアルバイトなども含んでいます。つまり、就業規則を個別にわけて作れというような要請は法的にされていません。)

しかし、この方法だと、わざわざ正社員用の就業規則を読むというアルバイトがどれだけいるかという疑問があります。「このような不祥事をすると、このような懲戒処分もあって、さらには損害賠償も免れないですよ」ということをアルバイトの方にも理解し、規律をもって行動してもらう必要があります。

そのためには、アルバイト用の就業規則を作って採用時にお渡しすることが一番確実です。もしコストがかけられないという場合は、アルバイトに適用される正社員用の服務規律や懲戒などの就業規則条文部分を印刷して、採用の際に渡して説明するということだけでも効果は期待できます。

このような対応をすることで、企業としてもなにか不祥事があった場合の管理責任を問われた際に、「アルバイトにも不祥事を起こしてはならないという教育を施していたのだ」と主張ができますし、企業の責任の度合も低減します。

よりマイルドな「誓約書」という手も

また、より取り組みやすい「誓約書」という方法もあります。実例をご紹介しましょう。

弊社の顧問先のアルコール飲料を製造・販売する企業が、醸造所で未成年の学生のアルバイトを新たに雇用するというケースがありました。このケースでは、仕事の中で日々アルコールに接する機会が多いことから、バイトテロや労務のリスクが高いと考えました。そこで、「バイト中に飲酒をするなどの不適切行為はしません。」等を記述した誓約書をアルバイトから取得してもらったのです。

就業規則の策定が難しい場合でも、こうした誓約書を別途受領するというだけでアルバイト側の意識も変わりますし、企業の労務リスク防衛の観点からも効果があると考えられます。「アルバイトには服務規律もなければ懲戒条文の適用もない」といった現状の企業の場合、このような事項を盛り込んだものを誓約書として作成して取得するということは有用です。

また、昨今のバイトテロのニュースを見て感じることですが、不適切行為を実際に行う者の他に、それを動画に収める者がいるという事実も無視できません。

「他人をそそのかし、共謀し、又は他人に手を貸して助けたり隠ぺいした場合にも同様に懲戒の対象とする」「不適切行為が未遂におわってもその責を逃れることができない」といった内容を就業規則や誓約書に盛り込み、自分が不適切行為の実施者でなくとも処罰の対象となるのだということを理解させるようにしましょう。

まとめ

ここまで述べてきたように、旧来型のアルバイトへの労務管理では労務リスクの観点から不十分なケースが増えてきています。

労務管理上、就業規則や誓約書を取得してアルバイトへの教育を行うということはバイトテロ防止に直接的な効果があるものだと考えられます。しかし、「そもそものアルバイトの労働環境が劣悪になっていないか?賃金水準は適当か?」という労働環境を今一度振り返って考えてみることも必要です。アルバイトが誇りとモチベーションをもって働けるような職場環境であれば、こうしたバイトテロのリスクは劇的に低減するはずです。

バイトテロを起こす側が悪いのはもちろんのことです。しかし、企業の成長にとってなにより重要なのは、常日頃からアルバイトとの信頼関係を構築するということ。そしてそこに一定のルールを構築しておくことは、現代の企業の責務なのです。

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(監修:寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士 寺島有紀
(編集:創業手帳編集部)

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