起業家必見。労務問題とならないために知っておきたいHR Tech活用法

創業手帳

意外なところから出てくる労務問題

(2018/09/19更新)

(この記事は3分で読み終わります)

働き方改革法案が可決され、企業にとって労働時間の削減や生産性の向上が課題となっている現代。そのような課題に有効な手法として話題になっているのが、AIやクラウドなど最先端技術を活用して人事業務を行う「HR Tech」です。

特に、人材が少ないスタートアップにとっては、労働時間の削減などの観点で有効な「HR Tech」。ですが、労働的な観点から見ると、運用に注意が必要なものでもあるようです。

そこで今回は、「HR Tech」を利用する際に注意しておきたい点を、社会保険労務士の寺島 有紀さんに解説していただきました。

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HR Techとは

今、HR Techの市場が盛り上がっており、多くのベンチャー企業がHR Techサービスを展開しはじめています。「HR Tech」とは、“HR(Human Resources)”と“Technology”を組み合わせた造語で、AI、クラウド、ビッグデータなどの最先端のIT関連技術の活用によって人材育成や採用活動、人事評価などの人事領域の業務を行う手法のことです。

なかでも、起業後まもないスタートアップは、導入コストの安いクラウドソフトなどを利用しているケースも多いと感じています。そもそもベンチャー企業は新しいものを受け入れる土壌があるので、こうした手法を積極的に利用しているのではないでしょうか。

HR Techの種類と、利用上の注意点

「HR Tech」は、その用途などによって様々な分野に分かれています。
ここでは、代表的な「HR Tech」の種類と、それぞれの注意点についてご紹介します。

クラウド勤怠管理


ユーザーがインターネットを通じて、サービスを必要な時に必要な分だけ利用できるシステム「クラウド」を使用した勤怠管理システム、打刻システム等は、「HR Tech」で活用が進んでいる分野です。少し前は、「勤怠管理システムと言えばタイムカード!」という時代もありましたが、昨今ではPCやクラウドでの勤怠管理が主流になっています。

最近のクラウド勤怠管理システムは給与計算と連動されているものもあり、従業員がWeb上で打刻した時間を基に労働時間等を計算し給与計算まで可能にしてくれるような便利なものもあります。特に、営業社員など外回りが多い社員が会社に戻って打刻しなくとも、外出先で退勤の打刻などができるため、効率的という面もあります。

このようなクラウド勤怠管理サービスを利用する際に気を付けたいことは、適正な労働時間の把握です。
クラウド勤怠管理といえば、「ITを駆使して正確な労働時間集計が可能となる」というイメージを持っている人事担当者も多いと思います。ですが、従業員の打刻がベースとなっているので、労働時間の実態が適正に反映されるよう行われなければなりません。

例えば、クラウド勤怠管理サービスの中には、労働時間が36協定の限度時間を超えそうな社員に対して、時間外労働を抑えるよう注意喚起するポップアップが出てくる機能を備えたものがあります。
「時間外労働をしないと業務が終わらないが、もう今月は残業が認められない」といった社員が、勤怠管理システムで退社の打刻をしてから残業するといったことが起きる可能性もあります。

また、割増時間外手当を受給したい社員が、就業時間後机に座り続け業務に関係のないネットサーフィン等で時間をつぶした後に、退勤の打刻をすることも考えられます。
このような問題は、実際にはクラウド勤怠管理システムの登場の前のタイムカードの時代からの課題です。タイムカードの打刻機であれば目に見えて周囲にもわかりやすいですが、クラウド勤怠になるとよりその打刻はプライベートなものとなって見えにくくなるわけです。

このような状況を改善するために、厚生労働省が労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインというものを平成29年1月20日に発表しました。

本ガイドラインの中に、
「自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること。特に、入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間の分かるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間と当該データで分かった事業場内にいた時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること」

というものがあります。

つまり、クラウド勤怠管理ソフトを利用していて、社員が申告した(=打刻した)労働時間が当該社員のPCの起動のON/OFFの時間などに差異がある場合は、労働時間を補正しなければならない、ということです。

企業としては、打刻をした後はPCを速やかにシャットダウンし退勤することを徹底させる必要があります。「クラウド勤怠管理を導入したから大丈夫!」というわけではなく、その打刻時間が適正かどうかの管理も企業には求められていると言えます。

チャット形式のクラウド会議サービス


チャット形式でWeb会議ができるクラウドソフトも多く利用されています。以前はテレビ会議など高額の費用をかけて遠隔地との会議を実現するような企業が多くみられましたが、現在ではこうしたチャット形式にてグループで業務連絡や会議などを行う企業が多くなっています。

こうしたクラウド会議サービスを利用する企業で注意したいことは、業務連絡や会議を就業時間外に行う場合です。

裁判での判例上、労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれていると客観的に判断できる時間」とされています。
例えば、就業時間外にグループ会議を設定しその参加を強制する場合であれば、労働時間となります。

一方で、就業時間外、例えば休日であっても簡単な業務連絡をチャット形式で上司が部下に送るということは良くあるケースかと思います。
この場合、返信を義務付けていたり、スマートフォンをONにしておくように指示していたりする場合は、労働時間とみなされる可能性が高くなります。

実際に裁判になった場合には、その業務連絡の内容や頻度等の実態を総合的に判断して労働時間なのかどうかが判断されることになりますが、「返信は休日や労働時間以外には不要」とあらかじめ周知しておけば、業務連絡があったからといってそれが直ちに労働時間とみなされるリスクは少ないと言えます。

ビジネスSNS 


最近、ビジネスに特化したSNSを利用した採用活動を行っている企業が多くみられます。
「求職者と求人企業をあっせんするサービス」は職業安定法上の職業紹介事業者に当たるわけですが、職業紹介とは別に、詳細な労働条件を載せずに自社への興味を持ってもらおうとするようなプラットフォームサービスが出てきているわけです。

このようなビジネスSNSを利用した採用を行う場合であっても、労働者となる者を募集しようとする場合には職業安定法上、下記の労働条件について書面の交付(求職者が希望する場合は電子メールも可)により明示する必要があります。

  • 業務内容
  • 契約期間
  • 就業場所
  • 就業時間
  • 休憩時間
  • 休日
  • 加入保険
  • 試用期間
  • 時間外労働(裁量労働制を採用している場合はその記載)
  • 賃金月給(固定残業代を採用する場合はその記載)
  • 募集者の氏名または名称、派遣労働者として雇用する場合はその旨

さらに、平成30年1月1日に職業安定法が改正され、当初明示した労働条件が変更される場合は、変更内容について明示する義務が新設されたことにより一層労働者の募集の際には厳しい規制が課されることになりました。

ビジネスSNSを見て「まずは会社の雰囲気を見に来ました」という求職者に、ビジネスSNS上で詳細な労働条件を提示していない場合は、実際に面接することになったら上記の条件をメールで送付する等の対応が必要です。

まとめ

いかがでしたか?自社で上記に挙げたようなサービスを利用しているという会社も多いと思います。また、これ以外にもユニークなHR Techを導入している企業も多いと思います。

HR Techは便利な一方で、労務の基礎的な知識なくこうしたサービスを利用すると思わぬ落とし穴がある場合があります。
社労士などの専門家に相談しながら、できる限りリスクを把握し上手な利用で業務の効率化を進めていきましょう。

専門家が対応方法を教えます
働き方改革法案が可決!起業家が知っておくべき「6つの改正ポイント」

(監修:寺島戦略社会保険労務士事務所 所長 社会保険労務士 寺島有紀
(編集:創業手帳編集部)

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