事業ライフサイクルの4つの時期とは?時期による課題の洗い出し、解決方法を紹介
課題を先送りした時間や経費の無駄を削減できる「導入期・成長期・成熟期・衰退期」の考え方
事業を継続・発展するためには、客観的な視点をもとに事業全体のサイクルを見極めて、時期に合わせた戦略や戦術を決めることが重要です。その際に鍵となるのが、事業ライフサイクルの4つの時期になります。今回は、NPO法人CSビジネスサポート代表の志賀氏に、事業ライフサイクルの4つの時期について、時期による課題と解決方法などを聞きました。
当時まだ女性の少なかった建築業界で設計、現場監理などを担当。その後、大手HR系会社の子会社にて採用広告の営業を経て障害者就労支援施設の運営団体の役員兼施設長として施設運営を行う。その時の経験と実績を買われ、厚労省の障害者支援事業所向け施策を実施する地方自治体の関連団体にて施設へのコンサルティング、企業とのコーディネート、イベント企画と実施など多岐にわたり担当。その後独立し、現在は企業や団体の経営企画、業務改革、人事改革をメインとしてコンサルタントとして活動している。
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事業ライフサイクルとは
プロダクト・ライフサイクル(※)と同じく、事業ライフサイクルにも「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」の4つの時期があります。
プロダクト(製品やサービス)と事業のどちらも、社会や市場の変化に合わせて対応することが事業の発展・継続の鍵です。必要とされなくなった製品やサービスを廃止する事例などはよくあります。つまり、プロダクトは事業の目的を達成するための一つの方法であり、事業の一部といえます。
一方で、事業は「経営の目的を達成するための活動」にフォーカスするため、プロダクトを含む事業全体の現状を客観的に見極め、方向性を再確認しながら道筋を決めていく必要があります。その際、役に立つのが事業ライフサイクルの4つの時期に基づく視点であり、事業の命綱とも言えるでしょう。
(※)プロダクト・ライフサイクルとは、製品やサービスを市場に投入してから、需要がなくなって消失するまでのプロセスのことです。
時期による課題と解決方法
事業ライフサイクルの4つの時期は、それぞれ異なる課題に直面します。
時期による課題を洗い出すことで「今どの時期なのか」「課題の背景」「解決方法」が見極めやすくなり、行き着く先が見えないまま課題を先送りした時間や、経費などの無駄遣いをグンと減らすことにもつながります。
導入期
創業する場合は「創業期」にあたる導入期。この時期に直面する課題といえば、顧客の獲得と市場の拡大です。
製品やサービスを展開する際に綿密な計画を立てたとしても、なかなか思い描いた通りに受け入れられないケースも多く、予測しきれなかった事態も起こります。
それらの経験をもとに……
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- どうすれば製品やサービスが受け入れられるのか
- 戦略と戦術(※)は今の市場、今の社会に合っているか
などの分析を繰り返して、事業の柱となる製品やサービスを確立するための重要な時期です。
製品やサービスの市場分析と合わせて、小さなこともデータとして蓄積しながらPDCAを活用するという基本を徹底することが導入期の何よりの課題解決方法と言えます。
(※)戦略と戦術には、意味の違いがあります。
- 戦略=事業の方向性を決めて、実際に行動に移すこと
- 戦術=戦略を達成するための具体的な方法のこと
成長期
不安と迷いの導入期を乗り切った後に訪れるのが「成長期」です。
製品やサービスが広く受け入れられて、販路が拡大していきます。販路拡大の仕方は様々ですが、忙しさに比例して手応えを感じられる開花の時期になります。
成長期に見られる課題は、人とモノ、そして客観性の欠如です。
順調な売上の推移により、「人・モノ・金」の金には困らない状況になりますが、これまでの場所・これまでの人員でスムーズに運営することが難しくなっていきます。
ただし、それならば人を増やせばいい、広い場所に移ればいいと安易に行動すると後悔することになるでしょう。
なぜなら、成長期は忙しいという目前の状況に追われてしまい、基本のPDCAを怠っているケースが少なくないからです。
ここでもう一度PDCAのデータをもとに……
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- 売上が上がる要因はなにか
- さらなる販路拡大が見込める市場か
- 事業全体から見たプロダクトの位置付け
などを分析し、今後どのように事業を発展させるかを考えることが重要です。
事業全体を客観的に分析すると、採用ターゲットはどのような人材か、必要な人数はどれくらいかなどが明確になり、本当に広い場所が必要かなどの判断もしやすくなります。
順調な時期だからこそ、本当に必要な経費を見極めて無駄を抑え、内部留保率を高めながら次の展開に備えましょう。
成熟期
多忙の成長期を終えると、さらに事業が安定する成熟期に入ります。成熟期は様々なことに少し余裕を感じられる時期です。
創業時から続けてきたプロダクトなどがグンと成長し、人材も揃うことで組織らしさが増している状況かもしれません。そんなタイミングで顕著になるのが、人事システムと人材育成の課題です。
どちらも解決方法は時代によって変化しますが、人の感情が深く関わるのでなかなか一筋縄ではいきません。
また、就業規則・給与規定の見直しと並行しながら業務改革を進める必要があるため、課題解決までに時間がかかります。
ここで重要なのは……
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- これからの事業計画に沿った業務改善策になっているか
- 人事システムや研修制度の内容も事業計画に沿っているか
などを確認・改善することです。現在の経営状況だけを見て、表面上の体裁だけを整えてしまうと、いずれは収支のバランスが崩れる可能性があります。
プロダクトが複数ある場合は、それぞれのプロダクトで採算がとれる状態になるか、どのように売上を確保するかという視点も必要です。
また、成熟期は事業が安定している一方、あちこちでフラストレーションが溜まりやすく、要因の一つとして人事システムへの不満があります。
従業員の不満などを感じながらそのまま放置すると、サービスの低下を招いてしまい、事業が少しずつ上手く回らなくなる可能性があります。
そのような事態に陥る前に、思いきった業務改革に踏みきる必要がありますが、人事システムに対する不満は表面上のことにすぎず……
- 事業がどこに向かっているのかわからない
- 業務や責任の範囲が曖昧すぎてモヤモヤすることが多い
- 自分の仕事にやりがいを感じられない
など、言葉で上手く伝えにくい不満が根底にあることが多い傾向です。
従業員の根底にある不満、表面上の不満の双方を解決するには……
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- 事業の目的と達成イメージを共有する
- 目的達成に向けた事業計画を共有する
- 事業計画に沿った業務とそれぞれの役割の明確化
- 人事システムの再構築
などの対策が有効で、これらを実現できるかどうかで未来が変わる岐路でもあります。
事業を託せるかもしれない「次世代の人材を育てる絶好のタイミング」として、成熟期の課題をポジティブに捉えることが改革成功への鍵となります。
衰退期
衰退期は、大きな社会的変化(リーマンショック・パンデミックなど)がない限り、ジワジワと衰退していく特徴があります。
そのため、事業が衰退に向かっているという認識が遅れてしまい、気づいた時には「倒産」「廃業」などの二文字が現実として迫っている状況も少なくありません。
もう一つの特徴は、製品やサービスが受け入れられない理由として……
- 消費者の見る目がないから
- 優秀な人材がいないから販路拡大が上手くいかない
- 片腕候補として何人も採用したが全員期待外れだった
など、誰かのせいにする発言が増える傾向にあることです。
このような状態に陥ると、何もしなければ事業が立ちゆかなくなることがわかっていても、打開策を考えることすら難しくなります。
なぜなら、防衛本能によって、現状を変えること・新しい何かに挑戦することへの不安感が強くなっているからです。
衰退期の状況を解決する方法は「意識を変える」この一言に尽きますが、これが何よりも難しいのです。
そして、何よりも難しいことがもう一つ。それは、衰退期の事業は果たして必要とされているかどうかの見極めです。
衰退期に該当するのは長く続けてきた事業であるケースが多く、創業当時などから比べると、テクノロジーの進化・社会の変化が大きく、製品やサービスの市場そのものが衰退期であるかもしれません。
そのため、新たな市場を創っていく導入期でもありながら、一方で衰退していく市場の整理をする時期になります。
衰退期に絡む諸問題を解決するためには、多くの時間・労力・費用がかかり、スクラップ&ビルドで業務改革する必要があるのです。
このような状況を解決する方法は、「成長期・成熟期にやるべきこと」をきちんとPDCAで対応しておくことです。例えば……
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- 事業の目的を明確化する
- 時代にあった具体的な計画を落とし込む
- 計画の実行と振り返りをする
- 軌道修正を繰り返す
などの基本的な対策を地道に重ねていくことが重要です。
まとめ
必要書類などを揃えれば、創業自体は簡単にできますが、事業を継続させるのは決して簡単なことではありません。経験したことのない悩みを抱え、特に起業したばかりの頃は不安や葛藤が続きます。
一方で、小さな努力をコツコツと積み重ねて、それらを乗り越えた結果として得られる喜びは、お金では買うことのできない貴重な財産となるでしょう。その貴重な財産を掴むためにも、事業ライフサイクルの視点は役に立つのではないかと思います。事業の発展、継続を目指す上でぜひ参考にしてください。
(執筆:
NPO法人CSビジネスサポート 代表 経営企画、経営コンサルタント/志賀里世)
(編集: 創業手帳編集部)