Re.muse 勝 友美|1着20万円のスーツが営業マンから絶大な人気を得ている理由とは。(前編)
私の仕事は「人を自信に包みヴィクトリー(成功)をイメージしてもらうこと」
大阪と東京に店を構えるオーダーメイドスーツ専門店「Re.muse」(レ・ミューズ)。
「100年先にも名を残すブランド創り」をミッションに掲げているこのお店が作るスーツは、顧客の間で「ヴィクトリースーツ」と呼ばれ、営業マンたちに絶大な人気を誇っています。
その理由は、スーツそのもののクオリティだけではありません。顧客との関係性を築くために行なっている、代表取締役 勝友美さんの接客スタイルにも、大きく関わっていました。
自身の著書『営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく!』でも接客や自身のキャリアについて執筆している勝さん。今回は接客で心がけていることや、起業時のエピソードについてお話を伺いました。
創業手帳Womanでは、勝さんはじめ、多くの女性起業家インタビュー記事を掲載。他にも女性起業ならではのライフスタイルにあわせたオフィスについてや、資金調達方法などについても掲載しています。無料でお届けします。ご活用ください。
株式会社muse代表取締役
アパレルメーカーに入社後、トップセールスとなる。その後、スタイリストとして中国でのポータルサイト新規事業の立ち上げを経験したのち、オーダースーツ業界へ転身。最高峰の技術を習得し、2013年muse style labを大阪・淀屋橋にて創業(現在のRe.muse/レ・ミューズ)。現在は東京と大阪に店舗を構える。2018年より、テーラー業界では日本初となるミラノコレクションへの出場を3度果たしている。
日本初の女性テーラーであり、女性起業家として業界の枠を越えて、経済界始め幅広いメディアに取り上げられている。SNS総フォロワーは50万人を超える。
著書:『営業は「バカ正直」になればすべてうまくいく!』(SBクリエイティブ刊)
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人との接し方はテクニックではなく「直球勝負」
勝:実は、私自身はこの本を「営業のノウハウ本」として執筆したわけじゃないんです。「お客様を落とすにはこういうロジックがある」といったことを読者は求めているかもしれませんが、そういうことは私はやってきていませんし、伝えたかったわけじゃないんです。
営業をやっている方って、会社から課せられたノルマとかに追われて、「こういう風に言わないと人の心は動かないんじゃないか?」といったテクニックについてひたすら考えなくちゃいけなくなっている人がほとんどだと思うんですね。
ですが人との接し方って、小手先のテクニックではなく「直球勝負」が一番相手の心に響きます。そういう考えで突き進んでいった結果、たくさんの人と出会って、たくさんの人の手にスーツが渡って、今の自分があります。
「ありのままで本気で思っていることを相手に伝えることが、一番相手の心に届く」ということを知っていただきたくて、この本を執筆しました。
勝:ノウハウも大事ですが、ノウハウに頼ってしまうと「うわべだけのもの」になってしまいます。もっと人の奥底にある人間性を高めていかないと、いつかは自分がやっていることと本来の自分とのギャップが生まれてきて、自分自身が苦しみます。やりたいこともやりたいようにやらなければ、やりたいことじゃなくなっちゃうんです。
もちろん、「好きなことを好き勝手にガンガン言う」というわけじゃありません。大事なのは「自分に嘘をつかない」ということです。
人はそれぞれの価値観や考え方を持って生きています。
だから、人の反応を気にして自分の態度を変えるとか、自分が相手に本気で伝えたいことを曲げてしまう、といったことはしないで良いんじゃないかと思います。
「相手がなりたい自分になるためのサポート」が私の仕事
勝:思い返すと、もともと私は正直者だったんだと思います。
そんな私が、この仕事をやっていく中で「自分が思っていること、やりたいことを通じて、相手がどうなってもらうことが幸せなのか?」ということを知ることができたんです。
それまでは「ファッションが好き」という気持ちで動いていましたが、実は目の前の人の役に立つこと、自分がした仕事で相手が理想の姿に近づいていくことに対して、幸せとやりがいを感じている、ということに気付けました。
つまり、私の仕事は「モノを売る」ことではなくて、「相手がなりたい自分になるためのサポートをする」ことなんです。そのためには、無理矢理スーツを買わせようといった策略はいらなくて、「あなたのために何ができるだろう?」、「私はこうした方が絶対良いと思うの!」という、相手への愛情から出てくるお節介のようなスタイルになったんだと思います。
私だけじゃなく、皆さんも子供の頃は正直な気持ちを持っていたはずです。それが大人になるにしたがって、立場とか周りの人の声を気にするあまり、自分の中にある大事にしているものが見えなくなってきているから、本音が言えなくなってしまうんですね。
なので、営業に関して悩まれている方は、「自分が大事にしているもの」をまず見つけてあげるといいと思います。それが見つかったら、何に対して「素直に」「正直に」なればいいのかが分かってきます。
何よりも大事なのは「自分の心」
勝:お金は無いし、知名度も無いし、お客様もいない。価格に関しても、他社が安い価格帯で勝負している中で、私たちはオーダーメイドのスーツを販売しています。そうなると、起業してからは大変なことしかなかったですね。
開店のための資金は、前職のときに遭った交通事故の保険金として下りた380万円。
物件は淀屋橋のオフィス街の一角でした。ショッピングを楽しむ人などほとんどいない、ひっそりとした小さなビルの3階です。
なぜオフィス街?と言われることも多かったのですが、物件を見たときに「どうしてもここで働きたい!」という直感のようなものが働いたからというのが正直なところです。
店舗の場所は決まったものの、内装やインテリアなど、普通のやり方をしていては内装だけでも資金が底をついてしまうので、知り合いのツテで自分も手伝うことを条件に半額近い価格で工事を請け負ってもらったり、家具は自分でアンティークショップを回り、どうしても店内におきたかったチェスターフィールドのソファだけは奮発して購入するなど、工夫を重ねてなんとかオープンにこぎつけました。
開店後は集客営業に力を入れたのですが、お客様がゼロの状態から始めたので、不動産会社の社長から営業目的で出入りする業者まで、入店する人すべてにスーツを勧めました。
オーダーメイドスーツの業界に不信感や違和感を抱いていて、そこに風穴を開けたいと思っていること、ひとりひとりがこれからどうなりたいかという想いを聞いて、その人に合ったスーツを作りたいことなどの正直な気持ちを語ると、私の理念に賛同し、スーツを作ってくださる方が増えていきました。
ですが、一番大変だったのは、自分の心が折れそうになったときでした。
オープンして1ヶ月くらい経ったとき、これまで大変だった毎日に追い討ちをかけるような出来事がありました。お店の中で気を失ってしまうほど追い詰められたことを憶えています。
ですが、その時に「自分が何か優れたものを持っていたわけじゃなくて、一個ずつ必死にもがいて掴み取ってきたからこそ今がある。元々は何も持っていなかったんだ」ということに気づいたんです。
それから、「何も持ってないんだったら失うものも無い」というふうに考え方を切り替えることができました。
もしかしたら、この出来事が起こるまでは、心のどこかで「自分は優れている」って思っていたかもしれません。ファッション業界に入って、トップセールスを記録して、たくさんの顧客を抱えて、お店を回していけるようになって、その集大成として起業したわけですから。ですが、それが1ヶ月で存続の危機を迎えたわけですから、ショッキングでもあり、印象的な出来事でしたね。
逆に言えば、お客様が少ない・お金が少ないといった外的要因ではなく、自分の心をしっかり持つことができたら、大変なことも乗り越えられると思います。
心が折れてしまったら、今の状況を改善するためのアイディアも出てきませんから。
勝:オーダーメイドスーツは、一度買ってくださったお客様が毎月のように買ってくださる商品ではありません。
速いペースの方でも半年に一度、たいていは年に一度購入してくださるお客様がほとんどです。最初の1~2か月はよかったのですが、それ以降は新たなお客様を開拓しなければと思い、お客様から紹介してもらった異業種交流会に参加しました。そこで交換した100人分の名刺を握りしめ、1日10人に電話をすることにしたんです。
100人に電話をして、話を聞いてくださった人は2〜3人。ただ、話さえ聞いてもらえたら、会ってもらえることには自信がありましたから、お店に来てくださるように約束を取りつけていきました。
勝:相手と会うために、少々強引になることですね。当時、会社としての知名度も実績もゼロに近い状態でしたから、強引に食い下がらなければ会ってもらえないだろうと考えました。
電話で相手と話すことができたら、必ず会うための約束をその場で取り付けようと決めていました。「イエス」なのか「ノー」なのか、相手に断られるのが怖くて遠慮していては、何も前に進めませんから。
また、日程を決めるところまで誘導できたら、こちらから少なくとも10候補ぐらいの日時を提案することも意識していました。その際、なるべく朝、昼、夜のさまざまなバリエーションを作っておくことがコツです。
最初はアポイントの電話は正直苦手だったのですが、素直に会いたい気持ちを伝え、返事をその場でもらうようになってからは、アポイントを取ることへの苦手意識を感じたり、億劫だと感じたりすることはなくなりました。
(取材協力:株式会社muse/勝友美)
(編集:創業手帳編集部)