創業支援で第一勧信が大変身&大躍進!その秘密とは?新田信行 理事長に直撃取材(インタビュー前編)
事業を見て貸すのが本当の金融
(2017/10/18更新)
第一勧業信用組合の業績をV字回復に導き、新著「よみがえる金融 協同組織金融機関の未来」ではコミュニティ金融のあるべき姿を説く新田 信行理事長。コミュニティに根差した斬新な無担保無保証ローンや創業支援ファンドの設立などの取り組みは金融界のみならず起業家からも熱い視線を集めています。今回は新田理事長が目指す未来志向の金融、そして創業支援にかける思いを伺いました。前後編2回に分けてお送りします。
1956年千葉県出身、一橋大学法学部卒。1981年第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。みずほ銀行常務執行役員を経て、2013年第一勧業信用組合理事長に就任。2016年黄綬褒章受章。
一番大事なのは信頼関係。格付けや担保はテクニックでしかない
新田:ありがとうございます。実は書店に行っても信用組合の本ってあまりないんですよ。私がみずほ銀行から第一勧信へ移る時に信用組合について勉強したいと思ったけど全然無くて、しょうがないから自分で書こうかということで、執筆しました。
例えば信用金庫と信用組合の違いは?と聞かれて答えられる人って少ないと思います。行政も地銀、信金、信組を「地域金融機関」と一括りにしていますが、株式会社の銀行と協同組織金融機関の信金、信組では企業経営の仕組みもまったく違います。そもそもメガバンクと地域金融機関っていう分け方がおかしいと思っているんです。
日本が高度成長時代から成熟社会に環境が変わっていくなか、金融機関の中で協同組織金融機関のあり方に疑問を感じていました。アメリカやフランス、ドイツなど先進国ほど協同組織金融機関ってきっちりできているのに、日本でこのままどんどん信金、信組がなくなってしまうんじゃないか?という問題意識から「協同組織金融機関の未来」っていう副題をつけました。
新田:そうですね。僕がやっていることは、僕らの年代の人にとってみればむしろ懐かしい話です。
日本がそんなに裕福じゃなかった昭和40〜50年代の金融機関にファンドや格付はありませんでした。もっとさかのぼると、明治時代に産業を作った人たちとか、戦後の廃墟から立ち上がってきた人たちは起業家ですし、それを支える金融がありました。例えば信用金庫は昭和26年にできて、戦後の復興の中で果たした役割がありました。だから僕がやっていることは、昔からやってきた協同組織金融の王道だと言い切っています。
新田:僕は信用供与、信用創造の原点は人と人との信頼関係だと思いますし、事業は人が作るものだと思うんです。それなのに今は格付や担保といったテクニックの話になってしまっています。
そうじゃなくて、社長がどういった事業やりたいのか、それを一緒に語り合いながら育てていくようなところが金融の一つの姿だったんじゃないのか、と思うんです。
新田:人はすべてオンリーワンの存在なので、それを符号化することは人格の冒涜のようにも思えます。会社も同じで「格付D」とか、「その他卸売業」といった日銀のコードやランクで理解するものではありません。
今の世の中は、それぞれのオンリーワンのものを出さないと生き残れません。普通の業界なら当たり前ですよね。そう考えるとやっぱり事業と人、そこに回帰せざるを得ないんです。
※都内の花街で働く芸者さんが独立して自分の店を持つ場合などに利用できる無担保無保証のローン。芸者さんの人となりを知る料亭組合の代表者の「推薦」を得て融資されるコミュニティローン。第一勧信ではほかに「のれん分けローン」「商店街ローン」など約300種のコミュニティローンを設定している。
「世の中が求めていること」を金融機関がやっていなかった
新田:そうですね。人はすべてがオンリーワンなので、ひとりひとりの趣味嗜好も違います。
そういう考え方に対応できる金融が必要だと考えると、金融業界の中では大きな株式会社の銀行よりも、協同組織金融機関のほうが対応しやすいんです。
なぜなら、僕らは人とコミュニティの金融なので、外国人投資家などの視線を気にしなくても良いですし、転勤もあまり無いのでずっとその地域に関わることができるからです。
今の金融の主流は大きく分けて2つあります。1つは格付金融。簡単に言うと「格付のいい企業にお金を貸しますよ」というもので、証券の世界に近いと思います。ですが、格付のいい企業は自己資本が厚く借金をしていないところが多いので、資金需要があまりありません。
もう1つはノンバンク金融。これは担保金融と呼ばれるもので、簡単に言うと「質屋の金融」です。宝石とか着物といった「モノ」があれば、誰にでも貸してくれます。ですが、そもそも担保を用意できるのは資産を持っている人です。しかも、資産を持っている人はたいがいキャッシュも持っていますので、これまた資金需要があまりありません。
もちろん、こういう金融は必要ですが、日本の金融はこの2つだけでは成り立ちません。「資金需要が全然無い」と金融機関が嘆いているのは、格付のいい企業と資産を持っている人しか相手にしなかったからです。
むしろ資金需要は、「こういう事業をやりたい」、「こういう未来を創りたい」といった創業の分野にあります。ですが、彼らには3期分の決算書や担保もありません。だから未来志向の金融が必要だ、という単純な理屈なんです。
今は起業家たちに「チャンスだよ!」と言える環境
新田:そういう背景があって始めた創業支援や地方創生が伸びた理由も、この分野が金融業界におけるブルーオーシャンだったからです。
今の時代は均一性から多様性の時代になってきて、社会がどんどん変わっています。そんな中で、周りが昔ながらのことをやっていると、空白がたくさんできます。すると、「世の中が求めていて誰もやってないこと」という分野が必ず出てくるので、起業家たちにとって今はチャンスなんです。
(取材協力:第一勧業信用組合理事長/新田信行)
(編集:創業手帳編集部)