ちょっと待った!当事者間M&Aを行うときに注意すべき 3つのポイント
M&A(買収)で重要な「方法」・「金額」・「調整」
開業を考えていた時期に、ちょうど仲の良いお店のオーナーさんから、「お店を譲りたい」とお話をいただいた。ぜひやらせてください!と言いたいところだけど、本当に大丈夫だろうか?判断基準は?一体どうやって進めたら…?
初めての経験で不安いっぱいな、事業承継しての開業。今回は、出来れば自分たちで手続きをしたいと思っている方へ、「中小企業の当事者間でのM&Aでここだけは注意しておきたい」という3つのポイントをご紹介します。
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この記事の目次
当事者間でのM&Aで重要な3つのポイント
M&Aを行う際にはM&AアドバイザーやM&Aが得意な会計士や税理士等を介した方が望ましいですが、当事者間でM&Aを行う事も可能です。
その際に当事者が最も注意しておきたいポイントが大きく分けて3つあります。
それは、「方法」・「金額」・「調整」です。
今回は、この3つのポイントについて、解説します。
1. 株式譲渡と事業譲渡はどちらが良い?M&Aの方法
M&Aの方法とは、いわゆる「スキーム」と呼ばれるものです。
スキームには合併、会社分割等の組織再編などがありますが、中小企業の場合は、ほとんどが「株式譲渡」か「事業譲渡」の方法になります。そのため、今回はこの2つのスキームについて解説します。
株式譲渡とは
「株式譲渡」とはその名の通り、発行している株式を金銭でもって対価を支払い、経営に関する一切を譲り受け、オーナーチェンジをする方法です。
株式譲渡のメリット
- 全ての経営に関する資産、許認可等を引き受ける事が出来る
- 手続が比較的簡単 (株主総会、債権者保護手続等が不要)
- 行政上の許認可や取引上の契約が原則、承継される
株式譲渡のデメリット
- 不必要な債務・簿外債務を引き受けなければならない
事業譲渡とは
「事業譲渡」とは対象会社の個別資産ごと(例えば、什器や設備)に譲り受けて、金銭でもって支払い指定した部分を入手する方法です。
事業譲渡のメリット
- 簿外債務等のリスクが少ない
- 必要な資産・負債だけを選択出来る
事業譲渡のデメリット
- 契約更改等、譲渡対象資産の引き継ぎ手続きが煩雑
- 行政上の許認可や取引上の契約が承継されない。再契約の必要がある
売り手・買い手双方の意向を汲んで、どちらにするか選びましょう。
M&Aのスキームによって変わる従業員雇用
また、重要な点としては、従業員の雇用の継続です。株式譲渡の場合は、雇用契約が継続されますが、事業譲渡の場合は再契約となります。いずれの場合においても従業員は働きたい場所や会社を選択する権利がありますので、前オーナーの時と同様、もしくはそれ以上の待遇や働きやすさ等を説明し理解頂く必要があります。そうでないと他社への転職等への引き金になりかねません。
売上予測が立てやすく従業員の引き継ぎが見込めるM&Aは起業の有効な手段のひとつといえますが、従業員はモノではありませんので、譲受側の経営者には、譲渡側の会社の従業員目線に立って考え、行動することが求められます。
2. いくらで買う?M&A価格の決め方
この3つのポイントのなかでも、一番多くの方を悩ませているのがM&Aの金額に関してだと思います。
一般的には、「時価純資産法」、「DCF法」、「類似上場会社比較法」と呼ばれる3つの方法を利用して、総合的な判断を持って売却価格とします。
それぞれの方法においてメリット、デメリットがありますが、今回は一番使いやすくて客観的な「時価純資産法」を例に、概要を解説します。
時価純資産法とは
時価純資産法とは、例えば設備や土地などの保有資産の時価評価を行い、「のれん代」を加味して金額を算出する方法です。
「のれん代」とは、企業の買収で支払った金額と買収先の純資産の差額のことで、※実質経常利益×3~5年で決められます。(年数は業種により変わりますが、飲食店等は3年で見られる事が多いです。)
※実質経常利益・・・企業会計における現実の経常利益のこと。
時価純資産法の計算式としては、下記のようになります。
事業価値(買収/売却価格) = 時価純資産 + (実質経常利益×3~5)
この計算式を利用して基準となる金額を決め、あとは諸々の調整を行ったうえで合意に向けてお話をすすめれば良いかと思います。
もちろん売り手が早く売却したい等の事情があれば、実質経常利益の3年等にこだわらなくても大丈夫です。
なぜDCF法と類似上場会社比較法は小規模企業に向かない?
参考までにですが、DCF法や類似上場会社比較法が中小企業、特に小規模企業に向かない理由はいくつかあります。
DCF法は将来のキャッシュフローを現在価値に割り引き、投資効果を見るものですが、小規模企業等は将来の事業計画を作成していなかったり、精度に問題があったりします。
また計算する際のパラメータを設定しなければなりませんが、これも当事者が恣意的に決められるものなので、客観性を担保しにくくなってしまいます。
類似上場会社比較法は、その名の通り上場会社で事業が類似している会社の株式指標を参考にするものですが、そもそも上場会社で類似している事業を特定する事が困難な場合があります。(もちろん、類似している会社が特定できれば利用できます)
3. スケジュールや諸条件の調整
基本的には、誠心誠意、スピード感をもって条件のすり合わせを行う事が重要です。
M&Aはよく「ご縁」と言われますが、タイミングを逃さず、スピード感を持って合意形成を図っていかなければ、相手方のモチベーションが下がり不調和に終わります。
本当にこの人に譲って大丈夫だろうか?と不安に思われないよう、誠実な対応を心がけましょう。
デューデリジェンスでリスク管理も忘れずに
ある程度は当事者間でも手続きができるM&Aですが、通常は、デューデリジェンスと呼ばれる企業や不動産・金融商品などの資産の最終審査を行った後に最終契約を行います。
このデューデリジェンスは、買収先の資産価値やリスクなどを調査する目的で行われ、税理士や会計士等の専門家にお願いするのが一般的です。もし依頼する際には、監査費用を抑えるためにも、財務や法務、人事に関するもののみなど、監査をする範囲をある程度限定しておくと良いでしょう。
仲の良い人だから大丈夫、と安易に事業を譲り受けてしまっては危険な場合もありますので、M&Aでの開業は、事前の準備と調査をしっかり行うことを心がけましょう。
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(監修:株式会社ビズ・ミディエーション 代表取締役 芝田幸司)
(執筆:創業手帳編集部)