繁盛洋菓子店のオーナーに聞く、経営に一点集中するための「時間の使い方」

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年12月に行われた取材時点のものです。

8歳からの夢を叶え、独立へ。菓子屋カランドリエ オーナーシェフ・指田洋史氏インタビュー(前編)

(2016/11/28更新)

バター、牛乳、クリーム、チョコレート……数℃の温度差でも仕上がりが変わる、繊細なパティシエの世界。そのため、ケーキ屋を創業するとなると、通常の飲食店経営とは異なる点がいくつもあります。中心地や駅前やデパートでなければ、個人店の展開が多いケーキ業界。その中で、地域に密着し、街の人たちに愛されるケーキ屋にするためのノウハウや、少ない人員・時間という中での時間の使い方について取材しました。
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指田洋史
1981年生まれ。辻製菓専門カレッジを卒業後、大泉学園「ナカタヤ」「パティスリープラネッツ」、江古田の「アンデルセン」、 練馬春日町「パティスリー ラ ブティック ジョンヌ」で修業し、2016年6月、地元の上井草に「菓子屋カランドリエ」をオープン。オーナーシェフパティシエとして数々のケーキを製造している。

8歳の頃からの夢、「パティシエ」

ーもともと起業したいと思っていたのですか?

指田:パティシエとして働き始め、20代半ばから本格的に考えるようになりました。それまでは、小さな頃からの夢だったケーキ屋さんになりたいなと漠然と考えていただけだったんです。

8歳の時、授業で親と一緒に作ったパンに感動したことが始まりでした。あの日は雨で寒かったんですが、せっかく作ったパンを食べるのがもったいなくて、家に帰る道すがらパンの温かさをチビチビと味わいながら帰った記憶が今も残っています。おじいちゃんやおばあちゃんにも食べて欲しくて、母親に「パンの本を買って」とねだった時に買ってくれたのが『パンとケーキの本』でした。家でパンを作るのは難しかったので、ケーキを作るようになって、家族の誕生日とクリスマスは全部手作り。それからどんどん「もっと多くの人に手作りの幸せの味を食べて欲しい」という思いが膨らんで、母のPTAの集まりにチョコレートケーキを作ったりもするようになりました。

母とは「こんなケーキ屋さんになりたい」と夢を語り合っていましたが、高校卒業の時、父からは「大学へ行け」と言われました。けれども「親だから応援してくれ」「いつか自慢させてやるから、やらせてくれ」と父を説得し、国立の辻製菓専門カレッジへ進学して以来、ずっとパティシエとして働いていました。

ー自分のお店を持つきっかけは?

指田:パティシエとして15年ほど、都内5店舗を渡り歩いて修行をしていました。20代後半にさしかかった頃、「ずっと職人では自分のやりたいようにできない、経営者にならないと」と思い、『パティシエ塾』という日本初のパティシエ専門塾に入ります。そこでの講習で、時間とお金が見合うための店舗経営や、お店でやるべきこと、専門家に任せていいものの選び方などを学びました。

その後、パティシエ塾の講師の方から紹介いただき、経営を重視しているお店で働くことにします。パティシエとしてケーキを作りながら、ギフトの品揃え方法などを実践で勉強しました。そして、一番最初に働いたお店に戻り、「3年間で売り上げを上げたら辞めます」という条件で、シェフとして企画などを任せてもらえるようになりました。そして日本テレビの『スッキリ!!』では、披露した黒トリュフの塩を使ったプリンはブランド化されるなど、少しずつ成果を重ねていきました。このプリンは、今の自分のお店でさらに改良を重ねて、“蜜色シリーズ”という蜂蜜プリンとして販売しています。

image2(蜜色プリンの写真)

経営に集中するための時間の使い方

ー具体的な創業準備にとりかかったのはいつだったんですか?

指田:約束の3年間でお店の売り上げを上げることができたので、2015年の夏には社長に「2016年3月に辞めます」と伝えました。はっきりと日付を区切らないと、ダラダラと続けてしまいそうでしたから。

その時点では、自己資金だけで開業できるのか、どれだけ融資が受けられるのか分からなかったので、専門家に聞きたくてネットで税理士事務所を探し、8月には連絡しました。

指田:家族からは、専門家はお金を取られる、といったイメージがあったそうなのですが、自分で経理などについて勉強をするならその時間を他の事に使いたかった。自分は自分の専門であるケーキの商品開発などに力をいれて、お金についてはプロにお任せした方が絶対に効率がいいと思ったんです。

ー税理士事務所に相談していかがでしたか?

指田:結果的に、とても良かったですね。創業にあたってもっともやっておいて正解だったことが、専門家への依頼です。プロに頼んだ方が圧倒的に早いし、自分の時間が持てました。創業にあたっての商品開発や、今後の予定を考えられただけでなく、家族との時間も大事にすることができました。創業に集中するあまり家族と揉めてしまうケースもよくありますから……。

資金の使い方についても、妻を説得するのに尽力していただきました。家族の理解なし数千万単位の融資を受けることはできません。けれども、僕がいくら調べて妻に説明しても安心しないでしょうから、専門の方に「こうすれば大丈夫」と言ってもらえて、妻も首を縦に振りました。結果、専門家支援付き融資(日本政策金融公庫の中小企業経営力強化資金)を受け、無担保・無保証2000万の枠の満額で申請しました。この金額の融資は自分だけでは受けられなかったもの。専門家の方がいなければ、内装ももっと満足のいかないものでしたでしょうし、欲しかった機材も購入できませんでした。

ー物件はどのように決めたのですか?

指田:もともと地元である上井草でオープンしたいと思っていました。競合店調査もし、この町にはケーキ屋がまったく無いこともわかっていました。さらに、「この町ならどれほどの値段設定だろうか」「住宅が多いからバースデーケーキも将来的に認知されればどれほどの売り上げが見込めるか」など、いろいろ考えた上で上井草なら可能性があるかな、と決めました。

物件については、税理士さんに相談した8月には、すでに今の場所を見つけていたんです。ただし、まだ未契約でした。契約のタイミングと内装屋さんについては税理士さんに相談し、経営の五カ年計画を一緒に作って、どれくらいまで不動産と内装に投資できるかを何度も打合せ、不動産契約に臨みました。

実は、他に「すぐにでも物件を契約したい」という方がいたんです。一方、僕は「2~3ヶ月契約を延ばして、家賃も下げて欲しい」という交渉をしていました。こちらにとって分が悪い条件だったので、大家さんに「自分はこういうお店をやりたい」と資料を作ってアピールしたんです。すると大家さんは「この町にケーキ屋さんがあったら嬉しい」と応援してくれました。結局、2月から契約スタートです。本格的に内装の工事が始まるのが4月だったので、そこまでの賃料はかかってしまいましたが、家賃も下げてもらえました。

image4(菓子屋カランドリエの入口)

内装は、経営のアドバイスもしてくれる専門業者へ

ー内装業者で、最大のトラブルがあったそうですね

指田:はい。ネットで飲食店専門の内装業者を探したのですが、そこが失敗でした。広告でよく見る業者でしたし、見積りやレイアウト案は無料だと書いてあったのでお願いしたんです。しかしまず、デザインに要望が反映されないから、結局こちらがすべて指定していく。なによりも、かかる費用が200~300万とどんどん高くなっていくんです。気付かない所で金額が上乗せされていて、調べてみると「これは必要ないのでは?」というものに5万円かかっていたりする。知人に予算書を見てもらったり、自分でネットで調べたりして、おかしな項目を指摘すると外してもらうというやりとりが続きました。

どうにも信頼できないので、知り合いの業者さんに相談して、ケーキ屋とパン屋専門の内装業者さんを紹介していただいたんです。そこで図面や見積もりを見てもらうと、「この内装ではマズイ」と言われました。エアコンの容量が足りないとか、排気と吸気のバランスが悪いとか、バターやクリームに悪影響のある内装だったのです。それから、ケーキ屋専門の内装業者だからこそわかる動線や必要な機材などについて、具体的にアドバイスをいただきました。

ー飲食店専門の内装と、ケーキ専門の内装は違うんですね

指田:そうなんです。内装業者さんによっては「カフェ専門なのでケーキ屋の内装もできます」と言うところもあるのですが、カフェとケーキ屋もまったく動線が違う。温度管理や設備など、ケーキ屋なりの特徴があるんです。

そこで、やっぱり内装業者を変えようと、それまで打合せしていた会社に断りの電話をしました。すると、「法的処置を取らせていただきます」と怒られて70万円ほど請求されたんです。弁護士さんに相談して「対応しなくていいです」と教えていただき、返答を保留して以降、もう連絡はありません。

結果的に、内装費は予定よりかなり増えてしまいました。けれども、ケーキ屋専門の内装業者さんであれば、改善した方がいい理由と提案を具体的に説明してくれるので、こちらも納得してお支払いできます。さらにケーキ屋の経営のことも理解されていて、節約するためのアドバイスなどもくださるので、特化した専門業者の方にお願いできてよかったです。

ー創業においてもっとも大変だったのは、内装業者のトラブルでしょうか?

指田:それもですが、内装費が増えたことによってどこを削減するかという資金の調整ですね。最初に公庫に提出した事業計画書と内装会社が変ってしまったので、投資計画をやり直したんです。結果、予定していたクッキー成形機を導入しなかったり、機材を購入ではなくリースに変更したりしました。この時、リース審査に受かったのは幸いでした。

内装工事のスタートが押してしまったので、5月オープンの目標が伸び、6月18日の開店となりました。

image5(ショーケースのケーキたち)
日本政策金融公庫の統計からわかる飲食店が用意すべき開業資金/運転資金の安全ライン
飲食店開業をするとき、開業資金/運転資金はいくら用意したらいい?

(取材協力:菓子屋カランドリエ/指田洋史)
(編集:創業手帳編集部)

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