孫子流、先回り営業術って!?「孫子の兵法 経営戦略」の著者直伝、 勝ち続けるスタートアップを作るための”起業家兵法”
NIコンサルティングの代表取締役・長尾一洋氏インタビュー(第二回)
(2016/11/17更新)
「孫子の兵法経営戦略」の著者で(株)NIコンサルティングの代表取締役・長尾一洋氏に、スタートアップを成功させる孫子の知恵を取材しました。
第二回は、「スタートアップが勝つ体制を作る方法」「変化に強い経営戦略」についてお伺いしました。
1965年生まれ。横浜市立大学商学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。中小企業の経営指導に取り組み、課長職を経て1991年に(株)NIコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。ローコストで経営コンサルティングを実現する仕組みづくりに取り組んでおり、自社開発の経営支援ソフト「可視化経営システム」は累計4200社に導入されている。著書「営業の強化書」「小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法経営戦略」他多数。
”積水の計”ベンチャー流顧客”リスト活用術
長尾:お客さんの情報が増えるということが大切なんです。今風に言うと「ビックデータ」みたいなもので、貯まれば貯まるほど、それを使ってお客さんを獲得することができます。これを、僕は意識的にやったわけです。弊社も顧客情報をかなり貯めていますよ。
長尾:そうですね。よく人脈が大切と言いますが、薄い人脈を作るより、お客さんの情報をいかに収集するかが重要だと思います。
長尾:話もしていない、単に名刺を交換しただけという「薄っぺらい関係」がいくらあっても、実際には役に立ちません。
長尾:はい。お客さんをいかによく知るかが重要です。あと、特に協力関係を築きたいときに大切なのは、自分の価値をしっかりアピールすること。魅力があれば、力がある人も協力してくれますから。逆に、「偉い人を紹介してくれ」ってお願いしに行っても、相手にはされませんよ。
長尾:ビジョンかもしれませんね。「とにかく協力して欲しい」ではなくて、「人の役に立ちたいというミッションがある」という主旨を伝えること。「お役に立ちますよ」という気持ちで行くから、相手にも話を聞いてもらえるんです。
長尾:今は、クラウドのCRM(顧客関係管理システム)やSFA(営業支援システム)と呼ばれるものを使っています。顧客管理ツールですね。
長尾:こういったツールを使うと、対応の抜け漏れが防げますね。「行く予定だったのにまだ行ってないだろ」「そろそろだよ」「クレームが発生しているから気をつけろ」といったことを教えてくれます。
”勝ってから戦いに行く”営業前ミーティングの技術
長尾:営業に行く前にミーティングを行うということです。
長尾:ミーティングをして「これは良いな」と言えるようになってから行きなさいということですね。ミーティングではなくても、「明日行くお客さんとは、こんな話になるだろうな」と考えて準備して行く必要があります。
長尾:営業のストーリーを考えたら、「じゃあ、この資料を持っていったほうがいいな」とか気づけますよね。これをする人としない人とでは、結果が変わっています。
”将に五危あり”ダメな経営者5つのパターン
長尾:はい。駄目な経営者のパターンとして、孫子は「必死」「必生」「忿速」「廉潔」「愛民」を挙げています。特に「愛民」が分かりやすいですね。
将の五危とは
- 必死:必死になりすぎる→敵の詭計にハマりやすくなる
- 必生:生に執着しすぎて逃げる→捕虜になりやすくなる
- 忿速:すぐにカッとなる→敵の挑発に乗りやすく、軽率な判断をしがちになる
- 廉潔:潔癖すぎる→恥をおそれ、敵の罠に陥りやすくなる
- 愛民:人に厳しくできない→優柔不断になりやすくなる
長尾:部下には優しくていい人なんだけど…という上司は役に立たないからです。
長尾:みんな必死ですからね。気合と根性で突っ込む経営者は多い気がします。
長尾:長所も出すぎると短所になりますから、バランス感覚が大切かもしれませんね。
長尾:どうでしょう。「愛民」かなあ。ついつい、人間心理として「嫌われたくない」と思ってしまいますから。
長尾:そっちのほうがいい会社になる気がするんでしょうけど、結局ぬるい会社になるだけ。会社が負けちゃって、潰れないようにするためには、五危に陥らずにしっかり判断ができないと。
「いい人になりたい」という状況は、特に管理職や経営者の経験がない、普通の人が起業するときに陥りがちそうですね。でも、経営者としては一番戒めるべきところかもしれません。
”人に責(もと)めず”属人化を脱出する考え方
長尾:属人化した組織には、限界があるということですね。10人の壁とか、30人の壁とかが必ずあります。10~20人くらいまでであれば、なんとか社長1人でも面倒を見ることができますが、それを超えると組織としての考え方を変えないと難しいんじゃないかな。
長尾:仕事ができる人がいると助かるけれど、そこがボトルネックになってしまったり、辞められたらアウトになったり、という問題はありますね。
長尾:はい。会社の状況に合わせて、人材を変えていいと思います。組織を変えられる人が、大きくしていける人だと思います。
長尾:そうですね、属人的な業務を仕組み化することでしょうか。ITツールを使おうという話になることが多いです。業務の組織化みたいなワークフローは、全部ITになりますから。「可視化経営」ともいいますよ。
例えば、稟議制度とか。中小企業は「社長がウンと言ったらOK」みたいなところがありますが、そこはきちんと記録に残して稟議することが、組織としての決定には必要ですよね。そういったのは、今時紙を使わなくても、ITでかんたんに取り入れることができるんです。
”敵を知り己を知る”日報術
長尾:そうですね。経営指標なども、パッと見で分かるに越したことはありませんね。
長尾:財務資料なども大切なんですが、これはあくまで結果ですから。逆に、未来の話は経営の中心となっている人の中だけにありますから、そこの仕組み化も求められます。その先行指標の1つとして、「日報」もあると思います。
長尾:はい。お金が動くと、経理がその情報を補足できるんですけど、「ある社員がこんなことを考えていて…」というような情報は、お金が動かないから補足できません。
経営者の多くは、財務状況を見て経営の現状を把握しようとしているんですけど、それはあくまでも結果。社員が考えて、どう行動していくかというのは反映されていませんから、そこをつかめる先行指標が日報というわけです。
長尾:もちろん、財務状況の把握が経営の改善の役に立たないというわけではありませんが、遅いからやっぱり手が打ちにくいですよね。半年後に「あの時、こうしておけばよかった」と言っても、次には活かせるかもしれませんけど。
長尾:企画を出したか、という情報もデイリーにチェックできますから。「日報」というから堅いイメージかもしれませんが、要するに日々の社員さんの活動状況をモニタリングするということです。一人ひとりが現場で起こったこと、考えたことを報告することが、会社のセンサーになるんですよね。それを社長がパッと見られるというか。
長尾:考えていることは見えないかもしれませんが、だからこそ日報で報告してもらうんです。明日こうしようと思っていますとか、今日こんなことを感じたというのを書いてもらうことで見えてくるんですよ。
長尾:そうですね。意図的に情報を捉えていかないと、重要度が低い情報ばかり一生懸命見ていることになりますから。「何をどう書かせていくか」ということを考えて示して、意味のあることを書いてもらう必要があります。
長尾:経営において、お金の流れを「血液」と言いますが、情報=日報は「神経」だと思います。だから、デイリーに情報を把握するべきです。月に1度の会議で分かっても、仕方がありません。
長尾:日報で全てが分からなくても、大体の動きが分かれば話が早いですよね。「昨日のあの件どうなっている?」という取っ掛かりがなければ、「昨日どうだった?」というところから始まるじゃないですか。これは大きな差ですよね。
そして、日報情報はデジタルで残すべき。「あとで見ようと思ったら、全部出てくる」「特定のキーワードで検索できる」とう状況にしておくと、活用もしやすいです。紙に書いてしまうと、記録には残るけれど、見るのが大変ですから。
長尾:そうです。ITはもっとうまく活用していって欲しいですね。仕事の予定や買い替えの予定も全部ITに入れておけば、アラートが来て忘れません。ITに情報を集約すれば、あとで使えます。
長尾:情報は貯めれば貯めるほど価値が出てきます。紙は貯まったら見ませんから、真逆。孫子は「情報を大切にしろ」と言いましたが、現代に置き換えると、「データを蓄積して、それを読みこなす・使いこなせ」と翻訳して考えるべきでしょうね。
起業家へのメッセージ
長尾:孫子の言葉を借りれば「拙速を尊ぶ」でしょうか。どうしても考えてもわからないことはたくさんありますから、色々試行錯誤して、ダメならやり直すというのが大切だと思います。仮説検証をスピーディーに行うというか。PDCAをぐいぐい回せというか。
「拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり」という言葉があります。最初のうちは、上手くやろうと思って長引くよりは、さっさと取り組んで失敗したら直せというのが大事な気がします。
創業者には、思い込みが激しい人も多いですから、悪い点を見つめる冷静さも持って欲しいです。特に、飲食店は開店も多いけれど、こだわりが強すぎで失敗している人もおおいので。アイデアと経営は違いますから、そこを把握した上で進めてください。
(取材協力:(株)NIコンサルティング/長尾 一洋(ながお かずひろ))
(編集:創業手帳編集部)