美容室開業から、たった半年で無借金を実現した理由とは?

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年12月に行われた取材時点のものです。

美容業界の未来を見据える、上杉優明氏にインタビュー!

(2015/11/30更新)

美容業界では、開業数も廃業数も年間10,000件前後と言われている。そんな激しい競争のなかで、3年計画だった開業資金返済をたった半年で完済。その事実を、創業者の上杉氏は「たまたまです。これからが大変ですよ」と笑う。今インタビューでは、上杉氏が半年で無借金を達成した理由はなにか、そして美容業界の今後をどう見ているのか、お話を伺いました。

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上杉優明(うえすぎ まさあき)
1979年生まれ、千葉県八千代市出身。東京文化美容専門学校通信化を卒業後、美容師として渋谷の店舗で働く。その後、2件の美容店舗立ち上げに関わり、2015年に南浦和にhair room『mavie』を開業、同年9月1日に法人化。その経営・接客スタイルについて、「前社で一緒に働かせていただいたT社長代行が恩師であり、後にも先にも、この方以上の影響を受ける事はないと確信しています」と強い感謝の気持ちをあらわしている。

開業は、石橋を叩いて

ーずっと美容室を開業したかったのですか?

上杉:自分の店を持とうとまでは思っていなかったのですが、経営にはずっと興味がありました。

美容師として働いていた時は、既存のお客様のパーマやカラーの数や単価については仲間と話していましたが、もっと多くのお客様に来ていただくためには、より声を出して笑顔で接客をしているだけではダメだと思っていたんです。

絶対に何かほかの方法があるはずだと、20代半ばくらいからずっと考えていました。

だから渋谷で働いていた12年間に、何度か本部側に入れないのかと交渉しました。

そのうちに知り合いが、「経営に興味があるなら、プレイヤーとして働きながら経営にも携わってほしい」とヘッドハンティングしてくれたんです。

そこで、オープンからお店を立ち上げるという経験を2店舗させてもらいました。その後、また渋谷の会社に戻って、自分が経営に携わった経験がどのように反映できるのか取り組むことができました。

それが結果として、自分の店を立ち上げる予行練習になりましたね。

ー開業のための下地があったんですね。

上杉:運良くそんな経験を積ませていただくなかで、ある程度結果が出て自信がついてきました。

立ち上げの経験をしたことで、開業するならどこから手をつければよいか、なんとなく見えていたのも安心でした。

目先の売り上げを計算し、開業しても大丈夫だろうなと思ったので踏み切れたんです。

ですから行き当たりばったりの起業ではなく、かなり石橋を叩いてからスタートしたんですよ。

業者さんとの打ち合わせは入念に
〜専門家の知恵を借りるべし!〜

ーでは、開業までは大きな困難はなかったんですか?

上杉:そうですね。新規立ち上げの経験もありましたし、信頼できる美容専門の内装業者さんにお願いしていたので、アドバイスもいただきました。

その方との打合せをとにかく念入りにしましたね。僕の方からどんどん突っ込んで聞きましたよ。

「これはどこに置けばいいですか?」「こういう時はどうすればいいですか?」「こういうシーンを想定した場合、どこをどうしたら導線が繋がるんですか?」と、自分から積極的に質問をすることで、業者さんからノウハウを聞き、実践していきました。

ー美容室開業時には、内装業者さん以外にどのような方に協力してもらうのですか?

上杉:テナントを紹介してくださった不動産の仲介業者さんに依頼して、税理士さんを紹介していただきました。

僕らのような中小企業は、自分がプレイヤーとしても現場に立たなければいけません。

美容師と経営者を兼任するには意図的に時間をつくる必要があるので、なるべく税理士さんや社労士さんなど専門家の方に力を貸していただきながら運営しています。
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お店のコンセプトと立地調査
〜なぜ“東”でも“西”でもなく“南”浦和?〜

ー南浦和で開業したのは、なぜですか?

上杉:最後にいた支店が浦和だったので、自分のお客様達を困らせたくなくて、近くにしました。

なかでも南浦和駅は、武蔵野線と京浜東北線のターミナル駅なので交通の便もよく住んでいる人も多かったんです。

それに、地域の学校の数や位置、どんな構成の世帯が多いかを調べたりと、潜在顧客数の予想も立てました。

渋谷で働いていた時はOLさんや一見さんが多かったのですが、埼玉ではお客様は近所の方ばかりで、「もう15年通っているのよ」なんて方が半数以上いらっしゃるんですよ。

だから地域のなかで近い存在でいたいという思いをこめて『mavie(マービー)』という店名をつけました。

ー『mavie』とはどういう意味ですか?

上杉:フランス語で “私の暮らし”という隠語なんです。

家の近所って、スーパーならここ、八百屋さんならここ、銀行ならここ……とだいたい決まっていますよね?

その暮らしの一部として「私の暮らしの中で髪を切るんだったらあそこ」という、生活の一部を支える美容室になれればという思いでした。

ロゴが自転車なのも、気軽に自転車で来てくださいね、という意味合いなんですよ。

そんな僕が思い描いているようなお店が近くに一軒もないというのも、勝負し甲斐があるなと感じましたね。

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開業前にはメンバーの意見を取り入れる
〜スタッフが望む環境を!〜

ー創業メンバーは、なぜmavieに来てくれたのでしょう?

上杉:mavieを立ち上げる時に、一人一人に聞いてまわったんです。

「こういうお店作ったらどう思う?」「こういうシステムだったらどう?」と、まずみんなが何をしたいのか、どんな美容室を思い描いているのかを聞いて、次に「じゃあ、こんなお店にしようと思うんだけどどう?」と提案しました。

スタッフの意見を重視したうえで、資金面など経営的な事には触れさせずに、とにかく元気に仲良く楽しく頑張ろうというモチベーションです。

6人でスタートしたお店も、今は9人になりました。

ー人を雇うなかで気を付けている事はなんですか?

上杉:とにかくコミュニケーション力です。

日本社会は上下関係・年功序列が強過ぎるんですよ、古き良きものだとは思うんですが……。

僕ら美容師は全員下積みがあって、「自分はこう思うのになぜあの先輩はああなのかな?」と思った事があるはずなんです。

そこで、こうしたらもっと良くなるんじゃないかと思って意見を言っても、「生意気なのよ」となりますよ。

でも、うちの店では上下関係ないんだよと常々伝えています。ありきたりな言葉ですけど、『One for all. All for one.』を実践してみたらという考えです。

あとは、なるべくスタッフ全員でどこかに出かけるようにしています。ご飯にもよく行きますし、来週も全員でディズニーシーに遊びに行きますよ。

LINEグループでくだらない写真を誰か送ってそれにみんなでツッコんだり、ハロウィンは全員仮装して接客したり。月イチで決起会も開いていますし、現場ではOJTに力を入れています。

もちろん、お客様に見えないようにですよ。

不安を感じたら、すぐに対策を
〜早めの一手で「もしも」の時に備える!〜

ーご自身は経営者に向いていると思いますか?

上杉:むしろ向いていないなとよく思います……ちょっとした変化に敏感になってしまうんですよ。

ちょっと売上が下がったとか、ちょっと客数が減ったとか……税理士の先生に言わせると「気にするな」と言われるほどの変化なんですよ、きっと(笑)

それは昔からそうなんです。たとえば、二十歳くらいの当時お付き合いをしていた彼女が、いつもすぐにメールの返信をくれるのですが、ある日10時間も返信がなくて……もう不安でしょうがない!

そうなるとすぐに、「欲しいって言ってたプレゼント買っといたよ」とか「どこどこ行きたいって言ってたから今度行こうね」とか次の対策に走っちゃう。

ーリスクヘッジするんですね

上杉:保守的なんですよね。

それでも経営者として今ここにいられるのは、期待してくださる方が近くにいてくれたり、守るべきものがいっぱいあるからですよ。

どんな職業にしても、100%自分に合っているということは、なかなかないでしょう? 

みんな「どうやったら楽しめるかなぁ」「どうやって克服できるかなぁ」と順応するために歯を食いしばっている。

その努力はみんな対等なんです。僕は決して強くないですし、立派な人間でもないから、みんなと対等に頑張ろうという、ただただ、その思いだけですよ。

美容開業後3ヶ月はうまくいくはず
〜その後が肝心〜

ー創業半年で借金完済は、驚くべき速さですね。どうやって実現したんですか?

上杉:本当にたまたまです。最初の予定では3・4年後が返済終了でした。

それが半年で回収できたのは、スタッフの売り上げが予想より大きかったというのと、広告による最初の集客が予想よりかなり多くあったからです。

広告は、周辺の他の美容室にはないものを心がけてドンと出したのが良かったんでしょう。

しかし、僕は運良く開業の経験がありましたが、1軒の立ち上げも役職も経験せずに成功している方もたくさんいらっしゃいます。

開業自体は作業なので、はじめにきちんと計画を立てれば、最初の3か月はほぼうまくいくはずなんですよ。

ーなぜ3ヶ月が目安なんですか?

上杉:髪の毛のサイクルが平均70〜90日なんです。たとえば11月に来てくれた方は、遅くても次は2月に来る。ですから、既存のお客様のいるスタッフさんであれば、3か月は売り上げの見込みが立てられるんじゃないかな。

ーリピートしてくれるかは別の話ですね。

上杉:そうなんですよ。

そこから先は、0から1ではなく1から2へのコンサルタントになってきます。

ビジネスって本当に生ものなので、2〜3年でコロコロ状況が変わるから、長続きしないんです。mavieも、ここからが地獄の始まりですよ(笑)

リピート率をあげるには?
〜変わっていく業界の動向を追う〜

ー開業してからが、一番大変?

上杉:ええ。“見えない明日”が一番苦戦しますよね。

明日お客様が一人も来なくてもおかしくないですから。今は売り上げの予測をたてるために、事前予約の特典を増やしたりしています。

mavieも今回はなんとかスタートダッシュが取れましたが、その後お店が1年保つか3年保つか5年保つかはまだ未知の世界。

3年後はどういう美容業界になっているのかは、やっぱり“見えない明日”なんです。

数年前はガラス張りで真っ白でキレイな美容室が人気で「カリスマ」と騒がれていた時代が、今や「ガラス張りは外から見えるから嫌だ」というお客様の方が圧倒的に多い。

3〜4年前調べなのですが、美容室はだいたい年間1万4000件ほどできて1万5000件ほど潰れているんです。潰れている方が上回ってきてしまっている。

5年前や10年前なら成功できたとしても、今はもう違うということを痛感しなければいけません。

職人肌ではなく、もう少し経済的な事を見据えた上で歩まれた方がいいのではないかなとは、痛感します。

ー経済ニュースに気を配るとか?

上杉:そうです。たとえば2025年問題にしても、美容室に70代前後の方が来てくれるシステムを作ることができれば一番良い。

でも美容室に訪れるメインの世代は20〜40代。簡単に高齢の方が来られるようにはできません。

じゃあサロンをバリアフリーに変えるのかとか、車イスの方は半額にしたほうがいいのかなんて、僕もまだ勉強不足なので分からないんですよ。

ほかにも、消費税が10%になるとどうなるのか、マイナンバー制度がどこまで有効的に実施されるのか、国債の価値がどれだけキープされるのか、2020年のオリンピックが終わった後のバブルの弾け方はどうなのか、世界事情だって……とすごく不安な事がいっぱいあります。

なにがどうなるのか分からないから、経営をしていくうえで日本の経済がどういうふうに動いているのか勉強していかないと置いていかれるでしょうね。

「職人じゃない、経営なんだ」ということを心に刻んでおいた方がいいのではないかなと思います。

今後のために、今、武器をふやす

ー経営の三要素は「ヒト・モノ・カネ」といわれます。
すでにスタッフさんも、店舗も、無借金も実現できているように見えますが、
今後はどこを優先していかれますか?

上杉:この先もしうちのスタッフが「自分の店を持ちたい」と言うことがあれば、フランチャイズもしてみたいんです。
そうなると、キャッシュがないと次には進められないです。世の中って夢を買うにもお金が必要です。

ただ「これくらいの売上げがあれば先行投資できるかな」とか、税理士の先生にも相談しながら計画的に進めていけば、可能だと思っているんですよ。

ー今後の計画は?

上杉:2店舗目3店舗目の計画も考えてはいます。

ただ、いろんな事をやってみたいので……美容開業のコンサルタントサポートもやってみたいな。

「開業するならここをもうちょっと準備した方が良いね」というノウハウはありますから。現場経験のない美容コンサルタントの方も多いですが、美容師の経験を元にしたナマの声の方が信頼してもらえると思いますし。

ただ、本格的にやるとなると、今の店をどうするのか考えなければいけないので、まだ具体的ではないですけどね。

今はとにかくいろんな可能性を自分の中に溜めておいて、いざ戦場に出た時にどの武器が使えるのかと考えています。備えあれば憂いなしですからね。

税理士から見た、上杉経営の成功の秘訣とは?

税理士 武渕将弘 ×経営者 上杉優明

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ーどのタイミングで、武渕先生が経営サポートに入られたんですか?

上杉:初めてコンタクトをとったのは、2014年12月……創業融資の申し込み手続きを終えた後の、結果待ちの時ですね。「今ここまでやっていて……」と相談して「ではもう大丈夫ですね」とお墨付きをいただきました。

武渕:上杉さんはしっかりと計画を立てられていたので、開業についてはほぼ改善点はなかったんです。その後、法人にするタイミングはアドバイスさせていただきました。

上杉:先生に提案をいただき、2015年の9月に法人化しました。

ー美容室は個人でもできるのに、法人をお勧めしたのはなぜですか?

武渕:法人化にはいろんなポイントがあるんです。

対外的な信用度やリスクの範囲などのビジネス的な部分から、金融機関対策、社会保険、税金などの財務的な分野など。

上杉さんの場合もこれらを総合的に判断した上で、「このままこの利益を出すんだったら今がいいですよ」とご提案させていただきました。

今回は消費税や、利益に対してかかる税金などの財務的な部分の影響も大きかったです。

これは、上杉さんのお店の数値を毎月確認させて頂けるからこそ提案できることです。

仮に年一回だけの数値確認の場合には、このタイミングでの提案は不可能ですし、タイミングを間違えると、数百万円単位で損することも普通にありますので。

ー打合せの頻度はどれくらいですか?

武渕:電話やチャットなどで常に連絡を取っています。何か少しでも気になることがある場合には、いつでも相談してもらっています。

上杉:先生は本当に親身になってくれて、いろんな話を聞いてくれるんですよ。

僕がくだらない話を始めると最後まで聞いてくれるので、話が止まらない(笑) かなり細かいところまで報告しています。

税金のことはまったく土俵が違うので分からない事だらけですから、プロである先生に色々相談していますね。

ー武渕先生から見た、経営者・上杉さんの特徴は?

武渕:本当に色々なことを深く考えていると思います。

経営者に必要な能力の一つでもあると思いますが、リスクを把握する力がすごいんですよ。

それだけではなく、そのリスクに対して色々な手段を事前に用意しておく。この力はとても素晴らしいと思います。

そしてなによりも一番の特徴は、開業のスタートダッシュの売上げが半端なく高かった。開業のノウハウとなる武器をいっぱい持っているんです。

上杉:本当にたまたまですよ!

たまたまが重なって、武器が増えていっただけです。たまたまいつも歩かない裏道を歩いたら500円拾ったラッキーって感じなんですよ。

でもいい結果が得られても慢心・過信ほど怖い事はありませんから。まだまだだなぁとは、いつも思うんですよ。

(取材協力:「理・美容室の創業融資・開業支援に強い税理士事務所」
ライズサポート税理士事務所
武渕将弘 税理士)
(編集:創業手帳編集部)

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