個人事業主は事業内容を複数持てる?決算書・確定申告の作成ポイントなども解説

創業手帳

個人事業主でも法人同様、複数のビジネスを同時に展開することは可能


個人事業主は、ひとつの事業に専念して規模を拡大することを目指すのが基本です。
しかし、別の新しい事業にチャレンジしてみたいと考える人もいるかもしれません。個人事業主は法人と同様に、複数のビジネスを同時に展開することが可能です。

今回は、個人事業主が事業内容を複数持つことで得られるメリット・デメリットや、決算書・確定申告の作成ポイントについて紹介します。

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個人事業主は事業内容を複数持つことは可能?


個人事業主は、法人と同様に複数の事業内容を同時に持つことが可能です。
例えば、飲食店のオーナーとして事業を展開していながら、所有する不動産を貸し出している場合、飲食店運営(事業所得)と賃貸経営(不動産所得)の2つの事業を展開していることになります。
また、プログラミングの講師でありながら、フリーランスのシステムエンジニアとして案件を受注する場合はいずれも事業所得に該当します。

ただし、複数の事業を持つ場合には、事業ごとに収入・経費を正確に分けて管理しなければなりません。
ある事業の収益をもうひとつの事業経費に充てる行為はNGです。それぞれの事業で独立した会計帳簿を作成し収支を記録すると、税務上のトラブルを回避できます。

個人事業主が事業内容を複数持つメリット


ここからは、個人事業主が事業内容を複数持つメリットについて解説します。

収入源のリスクを回避できる

複数の事業を持つとその分収入源が増え、安定した収入を得られるようになります。
ひとつの事業だけを展開していると、その事業が何らかの理由で低迷してしまった場合に、収入が減少してしまう可能性が高いです。
そうなれば生活が不安定になり、「早く収入を戻したい」と焦ってしまうことで精神的な負担も増えてしまいます。

しかし、複数の事業を持っていれば、ひとつの事業の収入が減ってしまったとしても、もう一方の事業の収入でカバーすることが可能です。
また、景気の低迷が影響して収入が落ち込んでしまう場合もありますが、生活できる収入をカバーしやすくなります。

柔軟に事業を展開できる

複数の事業を持っていると、柔軟に事業を展開できることもメリットになります。事業の幅が広がれば、新しいビジネスチャンスもつかみやすくなるはずです。
例えば、動画編集の事業と記事作成の事業を組み合わせることで、SNSなどで2つを両立して作成・投稿できる人材として活躍できます。
ひとつの事業に特化しているだけだと難しいサービスも、複数の事業をうまく組み合わせることで提供できる場合もあります。

他業種のノウハウを別の事業に活かせる

事業を複数持つことで、それぞれの業種ごとに異なるノウハウを習得でき、そのノウハウを別の事業に活かすことも可能です。
専門性の高さはもちろん大切ですが、ノウハウを別の事業に活かすことで、これまでになかった発想やアイデアが生まれる場合もあります。
例えば、アプリ開発で培ったプログラミングスキルを活かせば、事務作業の効率化につながるツール開発ができます。
ノウハウを別の事業に活かせば、より効率的なやり方が生まれることもあるかもしれません。

個人事業主が事業内容を複数持つデメリット


個人事業主は事業内容を複数持つことで様々なメリットを得られますが、その一方でデメリットがあるのも事実です。具体的にどのようなデメリットがあるのか解説します。

ひとつの事業に集中できなくなる

複数の事業を展開することによって、各事業に使える時間と労力が減ってしまいます。その結果、いずれの事業も中途半端な状態になってしまう可能性が高いです。
中途半端に事業を展開していると、売上げや評判が落ちてしまうことも考えられます。

また、幅広い事業を展開することでノウハウを習得できたとしても、十分な実績がなければ別の事業に活かせない可能性もあります。

事業計画・資金計画が複雑になりやすい

複数の事業を展開する場合、事業ごとに事業計画や資金計画を考える必要があるため、複雑になりやすいというデメリットもあります。
法人でなかったとしても、事業計画・資金計画を慎重に検討しなくてはなりません。

例えば、個人事業主が複数の事業内容を持っていた場合でも、財布はひとつだけという感覚に陥ってしまうものです。
しかし、このような考え方だと、どの事業でどれくらいの利益があったのか把握しづらくなってしまいます。
また、事業所得以外に雑所得や不動産所得といった別の所得も含まれる場合、確定申告をする時はそれぞれ別に計算しなくてはならないため、その分手間もかかってしまいます。

さらに事業計画や資金計画が複雑になることで、ミスを招いてしまう恐れもあります。事業にも影響する可能性があるため、注意が必要です。

事業ごとに別の屋号を使用することもできる


複数の事業を持つ場合、「屋号」がどうなるのか気になる人もいるかもしれません。
屋号とは、個人事業主が事業を展開する際に使用する名前で、店舗名や事業所名などが用いられます。

複数の事業を持っている場合、それぞれの事業に対して屋号をつけて使用することが可能です。
すべての事業を同じ屋号で行うのであれば、特に手続きをする必要はありません。
しかし、事業ごとに別の屋号を登録して使用したい場合は、開業届を提出することになります。

個人事業主は屋号を登録しなくても問題ない

屋号を登録しなくても複数の事業を展開することは可能ですが、屋号の登録によって様々なメリットが得られます。
例えば、屋号を一目見ただけでどのような事業を行っているかわかりやすくできたり、事業ごとに口座やクレジットカードを屋号で作成できたりするため、資金管理がしやすくります。
複数の事業を持ちたいと考えている人は、事業ごとに屋号をつけることも検討してみてください。

事業を複数持つ場合の決算書の作成方法


個人事業主が事業内容を複数持っている場合の、決算書の作成方法について解説します。

所得区分がすべて「事業所得」に該当する場合

複数の事業を持っていて、その所得区分がすべて「事業所得」に該当する場合は、決算書を分ける必要はありません。
つまり、すべての事業内容をまとめて記載した決算書を1部作成するということです。
たとえ業種が異なっていたとしても、所得区分が同じであればひとつの決算書にまとめられます。

ただし、あくまでも個人事業として経営している場合に限られます。
いずれかの事業を法人化している場合、法人税を申告する必要があるため、ひとつにまとめられません。
また、各事業の中には税率が異なっている場合もあります。税率が異なっていても決算書はまとめられるものの、それぞれの所得がわかりにくくなってしまうので注意が必要です。

事業所得以外の所得がある場合

複数の事業を持つ中で、事業所得以外の所得もある場合、それぞれ個別に決算書を作成する必要があります。これは、事業所得ごとに決算書の様式が異なっているためです。
事業所得は「一般用」の様式が用いられますが、不動産所得の場合は「不動産所得用」の様式を使います。
また、山林所得には「農業所得用」の様式が用いられるため、個別に決算書を作らなくてはいけません。

事業所得以外の所得分類

事業所得以外の所得は全部で9種類が存在します。

所得の種類 特徴
不動産所得 不動産や土地に関する権利、船舶、航空機の貸付などで生じる所得
給与所得 企業に在籍して得た給料、賞与などの所得
利子所得 公社債・預貯金などの利子、貸付信託・公社債投信の収益分配などで生じる所得
配当所得 株式配当や証券投資信託の収益分配、出資の余剰金分配などで生じる所得
退職所得 退職によって受けられる所得
山林所得 5年以上所有していた山林を伐採して売却したり、立木のまま売ったりした場合に生じる所得
譲渡所得 事業用固定資産や家庭用資産を売った際の所得
一時所得 イベントでの賞金や満期保険金などの所得
雑所得 年金や恩給などの公的年金や非営業用貸金による利子、原稿料・印税、講演料など、他の所得に該当しない所得

事業所得以外の所得がある場合は、個別に決算書を作成してください。

事業を複数持つ場合の確定申告の作成方法


個人事業主が事業内容を複数持つ場合の、確定申告の作成方法を解説していきます。

所得区分がすべて「事業所得」に該当する場合

所得区分がすべて「事業所得」に該当する場合の確定申告は、決算書と同様に1部にまとめて作成することが可能です。
飲食店経営とWebサイト制作の2つを事業として展開していた場合、各事業で得た収入と経費をまとめ、ひとつの事業所得として申告できます。
所得税は対象の所得をすべて合計し、総所得金額を計算してその金額に対して所得税を計算する「総合課税」を原則としていることが理由です。

事業所得以外の所得がある場合

事業所得以外の所得がある場合、総合課税の対象であれば区分が異なっていても確定申告書にまとめて記載することが可能です。
総合課税の対象になる所得の種類は以下のとおりです。

  • 利子所得
  • 配当所得(一部申告分離課税あり)
  • 不動産所得
  • 事業所得(株式などの譲渡による事業所得は除く)
  • 給与所得
  • 譲渡所得(一部申告分離課税あり)
  • 一時所得
  • 雑所得(一部申告分離税あり)

ただし、配当所得や譲渡所得、雑所得などは一部総合課税ではなく申告分離税に該当する場合もあるため、確認が必要です。申告分離税に該当する所得は以下の種類になります。

  • 譲渡所得(株式や土地・建物の譲渡など)
  • 配当所得
  • 雑所得(FX取引など)
  • 山林所得
  • 退職所得
  • 利子所得

これらに該当する所得は、それぞれ個別に申告を済ませなくてはなりません。

複数事業で損益通算を行うことが可能

複数の事業を持つ中で、いずれかの事業が赤字になってしまう場合もあります。
そのようなケースでは損益通算を行うことも可能です。損益通算が可能な所得は以下の種類になります。

  • 事業所得
  • 不動産所得(土地・建物の貸付など)
  • 総合課税に該当する譲渡所得
  • 山林所得

これらの所得で赤字が生じてしまった際には、黒字が出ている事業と相殺させることが可能です。
赤字分を相殺できるだけでなく、相殺によって黒字の事業に生じる税金額を減らせるため、節税にも役立ちます。

複数事業を持った際の会計管理をラクにする方法


複数事業を持つと、どうしても会計管理が複雑になりがちです。少しでも会計管理をラクにするために、以下の方法を取り入れてみてください。

事業ごとに口座を分ける

簡単な方法として、事業ごとに口座を分けるのがおすすめです。収支の流れをわかりやすくするためにも、事業ごとに口座を分けることでスムーズな会計管理が行えます。

事業所の家賃など、複数の事業で共通する経費はどちらか一方の口座で決済し、決算処理を行う際に使用割合に応じて按分することが可能です。
事業ごとに屋号を登録しておき、屋号付きの口座をそれぞれ持っておけば、口座がどの事業によるものか一目で確認できるため、屋号付きの口座を開設しておくと便利です。

会計ソフトを活用する

複数の事業を持つ際には、口座を分けるだけでなく会計ソフトを活用するのもおすすめです。
会計ソフトを活用することで、事業ごとに収益をまとめられたり、キャッシュフローの管理がしやすくなったりします。
また、会計ソフトを使って日頃の経費や収益を管理することで、確定申告の際に必要なデータを抽出して、効率的に申告書を作成できます。

個人事業主が会計ソフトを活用するなら、法人向けではなく個人向けのソフトを選ぶのがおすすめです。
個人向けの場合、青色申告・白色申告などに役立つ機能が備わっている場合もあります。

まとめ・事業内容を複数持って新しい事業にチャレンジしてみよう

個人事業主は、事業内容を複数持つことが可能です。収入減のリスクを減らせたり他業種のノウハウを別の事業に活かしたりできるなど、様々なメリットが得られます。
決算書や確定申告は対象となる所得区分によって若干異なってくるため、事前に確認しておくと安心です。
個人事業主で新たな起業アイデアを思いついた人は、事業内容を複数持ってチャレンジしてみてください。

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(編集:創業手帳編集部)

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