業務委託は雇用保険に入れない?入るための条件やおすすめの制度を紹介
雇用保険には入れないが他にリスク対策はできる
働き方が多様化し、業務委託として働く道を選ぶ人も増えています。
しかし、業務委託では雇用保険に入れないことや、雇用契約と業務委託の違いについて理解できている人は少ないかもしれません。
この記事では、業務委託と雇用契約の違いや、業務委託でもできるリスク対策についてまとめました。自分らしい働き方を考えるための参考にしてみてください。
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
業務委託は雇用保険に入れない
業務委託は、特定の業務を社外の会社や個人に任せる契約のことをいいます。つまり、業務委託は社員として雇用されていない相手と結ぶ請負契約です。
業務契約はあくまで請負の契約なので、契約者同士が使用者と労働者になるような関係は発生しません。
雇用保険に入るには雇用される労働者でなければいけない
雇用保険は、労働者が失業や休業で働けない時の生活の安定や、再就職促進をサポートするための保険です。
雇用保険の給付金を受け取れば、生活の建て直しや、資格を取得して再就職できます。
雇用保険の保険料は、労働者と事業主の双方負担です。対象になる労働者を雇用する事業者に強制的に適用されます。
雇用保険の被保険者になる条件は以下の2つです。
-
- 1週間の所定労働時間が 20 時間以上である
- 雇用されてから31 日以上働く見込みがある
上記の条件を満たせば、パートやアルバイトであっても雇用保険の加入対象になります。
なお、雇用保険はあくまで労働者を対象にした保険であり、雇用関係がない業務委託は雇用保険の対象ではありません。
ただし、労働者として雇用関係相当の実態があれば雇用保険への加入が認められます。
雇用契約と判断されれば雇用保険に入れる可能性がある
業務委託であっても、一定の条件を満たせば雇用保険の対象になります。業務委託契約は、民法上の契約として明確に定められているわけではありません。
業務委託契約か雇用契約かは、実際の労働環境や主従関係の有無によって判断されます。
業務委託契約を結んでいたとしても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断されれば、雇用保険の対象になるケースもあります。
ただし、労働者と判断されると、社会保険への加入が必要になるかもしれません。結果として、希望する働き方ではなくなることに注意が必要です。
業務委託契約と雇用契約の違い
雇用契約と業務契約はそれぞれ異なる契約であり、適用される法令も異なります。違いを理解せずに契約すると、あとでトラブルに発展するかもしれません。
以下では、業務委託契約と雇用契約のそれぞれの違いをまとめました。
業務委託契約
業務委託契約は、業務の委託に関わる契約。雇用契約のように労働に対する契約ではなく、あくまで成果に関する契約です。
民法で業務委託は明確には規定されておらず、民法632条の請負契約または、委任契約の要素に当たります。
請負契約とは、発注者に依頼された仕事の完成、成果物を目的にした契約です。
また、委任契約とは、依頼された業務の提供や提供したことによる成果を目的とした契約のことをいいます。
業務委託契約は、会社や個人事業主間での契約であり、労働関係法令は適用されないこととなっています。
成果に対する報酬となり、労働時間や残業といった制約も存在しません。
雇用契約
雇用契約は、使用者と労働者との労働契約の基づいた契約です。労働の対価に関する契約で民法623条により定義されている労働供給契約のひとつです。
使用者である会社は、労働者に対する労働条件通知の明示など、労働基準法に基づいた法令順守が求められます。
また、労災保険と条件を満たせば雇用保険や健康保険、厚生年金保険の加入も必要です。
有給休暇の取得や使用者からの一方的な解雇の禁止など、労働者は労働法による保護を受けられます。
業務委託が加入できない保険・加入が必要な保険
業務委託は、より専門性を高めて高収入を目指せる働き方である一方で、労働基準法が適用されない点に注意してください。
例えば、雇用保険で働いていれば最低賃金に関する定めがありますが、業務委託にはそのような定めはなく、最低賃金に満たない可能性もあります。
また、業務委託では加入できない保険がある点もデメリットです。
ここからは、業務委託が加入できない保険と加入できる保険を紹介します。
加入できない保険
業務委託が加入できない保険を、以下から紹介します。どのような保険があるかを知って、自身で備えるようにしてください。
厚生年金保険
厚生年金は、年金制度の二階部分、国民年金の上乗せになる保険です。
雇用契約であれば厚生年金保険に加入でき、老齢年金を受給する時に国民年金である基礎年金に加えて厚生年金も受給できます。
厚生年金は労使折半で、雇用主が半分を支払ってくれる仕組みです。
支払ってきた保険料から年金の受取額が決まるため、個人の負担が少なくなる厚生年金は労働者に有利な制度です。
ただし、業務委託は厚生年金保険に加入できないため、受け取れる年金額が少なくなってしまうことがあります。
少ない部分を補うためには、事前に老後資金を準備しておかなければいけません。
労災保険
労災保険は、仕事中や通勤中に負ったケガや病気、障害、死亡に備える保険です。休業補償や療養補償、遺族補償のように様々な制度が用意されています。
労災保険は、正社員や契約社員をはじめ、パートやアルバイトも大正です。労災保険の保険料は全額を雇用主が負担します。
従来、業務委託契約は労災保険に加入できず、万が一の時のリスク管理を自分で行っていました。
しかし、2024年からはフリーランスが任意で労災保険の特別加入できるようになりました。対象は、特定受託事業やそれと同種である特定フリーランス事業です。
労災保険の特別加入は、多様な働き方を選ぶ人にとって支えになる制度です。より安心して働くための環境作りに活用できます。
加入が必要な保険
業務委託では、加入が必要となる保険があります。どのような保険に加入しなければいけないのか確認してみてください。
国民年金保険
国民年金は、日本国内に住む20歳以上60歳未満の人すべてが加入する保険です。国民年金保険は基礎年金であり、年金制度の1階部分に当たります。
会社員や公務員は第二号被保険者であり、2階建て部分である厚生年金に加入するため、2つの年金制度に加入していることになります。
自営業者やフリーランスは第1号被保険者に該当し、国民年金保険の加入対象です。
ただし、国民年金保険だけでは、厚生年金を受け取っている会社員よりも受給額が低くなってしまいます。
自分で老後資金を用意しておくか、iDeCo(個人型確定拠出年金)や国民年金基金、付加年金などの制度を活用してください。
国民健康保険
国民健康保険は、すべての日本人および、居住者に加入が義務付けられた健康保険制度です。
ただし、職場の健康保険の加入者や75歳以上など後期高齢者医療制度の加入者、および生活保護を受けている人は除外されています。
一定の金額を納めることで健康保険証が発行され、医療費を支払う時には一定割合を国民健康保険が負担してくれます。
フリーランスや個人事業主などが加入できる制度
業務委託で働く人は、なんらかの事情で働けなくなった時に収入が途絶えてしまい、退職金も受け取れません。
そのため、個人事業主やフリーランスが加入できる制度も多く用意されています。
ここでは、公的機関が運営しているフリーランスや個人事業主が加入できる制度を紹介します。
共済制度
共済制度は、組合員がお互いに助け合うことを目的とした制度です。多くの種類の共済制度から自身に合ったものに加入できます。
以下では、個人事業主やフリーランス向けの共済制度をまとめました。
小規模企業共済
小規模企業救済制度は、国の機関である中小機構が運営しています。個人事業主のほか、小規模企業の経営者や役員などを対象にした退職金制度です。
小規模企業共済では、月々の掛金は1,000~70,000円まで500円単位で自由に設定でき、加入後も掛金を変更できます。
また、掛金の範囲内で事業資金の貸付制度を利用できるので、低金利で資金調達したいと考えている人にもおすすめです。
経営セーフティ共済
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)は、取引先事業者が倒産した時に必要な資金を借入れできる制度です。
個人事業主や中小企業は、取引先が倒産することによって経営難に陥ることも珍しくありません。
無担保・無保証人ですぐに利用できて掛金の最高10倍(上限8,000万円)まで借入れが可能です。なお、2024年10月からの改正で、掛金の損金算入に制限がかかります。
年金制度
業務委託で働く場合には、老後の生活を考える必要があります。どのような年金制度があるのか、以下で紹介します。
iDeCo(個人型確定拠出年金)
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、公的年金に上乗せする私的年金制度です。月額5,000円以上1,000円単位で掛金を選択でき、受け取り方も一括受取と基本有期年金があります。
金融機関や商品を自分で選んで運用することになるため、運用成績次第で給付額が変動します。
また、小規模企業共済等掛金控除として掛金の全額が所得控除対象になりますが、国民年金とは異なり配偶者の掛金負担は控除できません。
なお、配偶者の掛金を負担する時には、国民年金基金のほうがより多くの所得控除が受けられる可能性があります。シミュレーションしてから申し込みをしてください。
国民年金付加年金
国民年金付加年金は、国民年金保険料に加えて毎月400円を付加保険料として納めておいて将来の年金額を増やせる制度です。
上乗せして受給できる付加年金額は、200円×付加保険料納付月数です。
例えば、20歳から60歳までの40年間付加保険料を納めると、年額で96,000円が老齢基礎年金に上乗せされます。
付加保険料は全額社会保険料控除として所得控除可能です。保険料負担も少なく2年以上受け取ると、納めた付加保険料以上の年金を受け取れます。
国民年金基金
国民年金基金は、個人事業主やフリーランスといった人のための公的な上乗せ年金です。
国民年金保険とセットで、第1号被保険者の老後の所得保障の役割を担う制度となります。
掛金は全額社会保険料控除として所得控除になり、掛金上限は月額68,000円です。タイプを組み合わせて選べて、加入口数や毎月の掛金により将来の年金額が変わります。
雇用保険の代わりに入れる民間保険
雇用契約ではなく業務委託で働いている人は会社員よりも社会保障が手薄であるため、ケガや病気のように仕事が続けられなくなった時の備えが必要です。
会社員の健康保険には、病気やケガで働けない時には最大16カ月、最大で給与の約2/3を受け取れる疾病手当金があります。
一方、個人事業主やフリーランスは、短期的に働けなくなった時の収入をカバーするための就業不能保険や所得補償保険の利用が可能です。
また、医療保険や個人年金保険も病気や老後の備えとして活用されています。
住まいを店舗にしている場合や在庫を保管している場合には、火災保険や地震保険に加入してリスク回避してください。
事業の内容や家族のことを考えて、どの部分を補わなければならないかを検討し、自身に合う保険への加入が必要です。
まとめ・業務委託では雇用保険に入れないためリスク管理をしよう
会社と会社員は雇用保険で結ばれており、雇用主と労働者の関係です。会社員として働くことで制限を受けることもありますが、手厚い保証が受けられます。
一方で業務委託は、自分のスキルや専門性を活かして高い報酬を手に入れられる働き方です。
業務委託は自由に働けるものの、雇用保険や社会保険に加入できません。働き方や家族構成からどのような保障が必要なのかを確認し、リスクに備えるようにしてください。
創業手帳(冊子版)は、社会保険や会計に関する情報を多数掲載しています。業務委託として働く人のサポートとして創業手帳をお役立てください。
(編集:創業手帳編集部)