BIJIN&Co. 田中慎也|エンタメ業界をアップデート!「クラウドキャスティング」で実現する未来のキャスティングビジネス
「美人時計」買収で一躍話題に。キャスティング・オファー・システムでさらなる高評価を得た舞台裏に迫る
コロナ禍により多方面でDXが加速するなか、そのひとつとして注目を集めているエンターテインメント業界。これまでアナログかつ属人化の傾向が強かったエンタメ領域が、コロナショックを経て少しずつ変わろうとしています。
こうした状況下でひときわ高い評価を受けたのが、オンライン上でのオファーからキャスティング、それらに伴うあらゆる事務処理まで可能にしたキャスティング・オファー・システム「クラウドキャスティング」です。新たに業界初の機能「キャスティング報酬シミュレーター」を搭載し、エンタメ業界をアップデートする動きに期待が寄せられています。
同サービスを生み出したのは、BIJIN&Co.(ビジンアンドカンパニー)の田中さん。
多角的な事業展開で成功を収めたビーコミュニケーションズの代表として、インフルエンサーの先駆けとも呼べる多くの女性が出演し話題をさらった「美人時計」を運営していた株式会社美人時計の株式を取得。代表取締役に就任後、「クラウドキャスティング」を世に送り出しました。
今回は田中さんの代表就任までの経緯や、「クラウドキャスティング」の魅力と強みについて、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。
BIJIN&Co.株式会社 代表取締役
1977年北海道生まれ。1999年に株式会社ビーコミュニケーションズを設立。2010年、美人時計の事業を買収し現職。2017年、エンタメ業界に特化したデジタル・キャスティングサービス「CLOUDCASTING」をリリース。これまで属人的だった業務をシステム化することでキャスティングにイノベーションを起こすべく、全国のキャスト(タレント・インフルエンサー・実演家等)には“活躍の機会”を、依頼者となるクライアントには“新たな才能との出会いと付加価値”を提供。エンタメ業界で活躍する個人事業主や芸能プロダクションに対してマッチングの効率化、報酬の最適化等を図っている。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
「宇宙のまち」大樹町に生まれ、札幌にてキャリアショップ事業など多角展開で成功
大久保:田中さんは学生時代から起業することを夢見ていたそうですね。
田中:中学校の卒業文集に「社長になりたい」と書いていました(笑)。「将来的に起業する」という希望を抱いて過ごしていましたね。
大久保:実際に独立されたのも非常に早いと伺っています。
田中:ちょうど19歳だった1996年に札幌で起業しました。
私が生まれたのは「宇宙のまちづくり」を標榜する北海道広尾郡大樹町で、航空や宇宙分野での実験や飛行試験を積極的に誘致しています。JAXAや大学などの研究機関が実験を行っており、最近では堀江貴文さんのロケット事業で有名になりました。
中学校までは大樹町、高校は帯広にある帯広工業高校の建築科に進学。卒業後に札幌のナカ工業に入社し、自社工場にて溶接工として1年ほど働いていました。
当時は「携帯電話を1人1台持つ時代がすぐそこまでやって来ている」といわれた大きな転換期で、携帯電話ショップが飛躍的に売上を伸ばしていたんですね。
このキャリアショップ事業に目をつけ、ナカ工業を退職後、携帯電話ショップのアルバイトとしてノウハウを学びながら経験を積みました。
それから独立してビーコミュニケーションズを創業。翌1997年に有限会社化し、1999年9月には株式会社化しています。
大久保:早い段階で学生時代からの夢を実現されたんですね。当初はキャリアショップ事業を展開されていたということでしょうか?
田中:はい、Jフォンショップの運営からスタートしています。Jフォンからボーダフォン、ソフトバンクと、キャリア側の変遷に並走しながら事業を継続してきました。
その後、札幌を起点にビューティーサロンの経営や広告代理業、出版事業など、多角的な展開で事業拡大に成功しました。現在では創業者かつファウンダーとして関わっていますが、後任にすべて引き継いでまかせています。
テレビ局の紹介で携わった「北海道版美人時計」に手応え。株式取得を経て東京進出
大久保:「美人時計」を運営していた株式会社美人時計の株式取得に至ったきっかけについてお聞かせください。
田中:懇意にしていた北海道のテレビ局の上長から「北海道版美人時計を手掛けてみないか?」とお声がけいただいたことが発端です。
当時の美人時計代表取締役が、大阪版に続いて北海道版を展開するにあたって、現地のパートナーを探していました。
そこで幅広く事業を行っていたことや、テレビ局に対して「新たに事業を推進する際にはパートナーとして参加させてほしい」と営業をかけていたことから、私を紹介してくださったんです。
実際にフランチャイズとして「bijin-tokei ver.HOKKAIDO」の運営を始めてみると「やはりこのサービスは優れている」と実感する毎日でした。
サービスの認知度が高く、出演したい女性も多い。今で言うインフルエンサーのはしりで、現在のインスタグラマーや読者モデルの活動によく似ているなと。たくさんの女性が「自分を表現する場」として「美人時計」に参加してくださっていたんです。
大久保:のちに芸能活動を始めた方々もいらっしゃいましたし、「美人時計」への出演がステイタスになっていたところがありますよね。
田中:おっしゃる通り、「美人時計」で注目されて芸能界デビューを果たした方や、キー局のアナウンサーになった方々など、多彩な顔ぶれが揃っていましたね。
大久保:「女性は消費全体に大きな影響を及ぼす」といわれていますし、そのあたりがM&Aの直接的な動機になったのでしょうか?
田中:その要素は非常に大きかったです。もともとキャリアショップ事業やビューティーサロン経営を行っていましたので、常に市場における女性のパワーを注視していました。
それからもうひとつの要因として関係しているのは、私自身が東京進出を狙っていたことです。
当時30代前半の経営者が、札幌から上京して事業展開するだけでは誰からも注目してもらえないだろうと考えていました。そんなときに知名度抜群の「美人時計」を手掛ける機会をいただけたことで「このサービスとともに勝負をかければいけるのではないか?」と成功のイメージが重なったんです。
こうした経緯で2010年5月7日、美人時計の株式を所得。2014年1月1日にBIJIN&Co.(ビジンアンドカンパニー)へと商号を変更しました。
検索から、発注・契約・支払までワンストップの「クラウドキャスティング」
大久保:現在では「美人時計」から新たなサービスへと事業の軸を移し、さらに成功されていますよね。
田中:ありがとうございます。2015年6月にリリースした「クラウドキャスティング」は、大手プロダクションや広告代理店をはじめ、あらゆる企業や団体との連携を深めながら成長しています。
大久保:ローンチ時から画期的なサービスとして注目を集めましたよね。サービス内容についてお聞かせいただけますか。
田中:「クラウドキャスティング」は「キャスティングを、圧倒的に、スマートに。」をコンセプトに展開しているキャスティング・オファー・システムです。
「美人時計」のコンテンツ提供などを通じて蓄積した、国内最大級で弊社独自の“BIJINデータベース”と、「美人時計」の運用ノウハウをもとに開発を進め、コマーシャルやイベントキャスト、特別講師など、多種多様な出演オファーができるオンラインマッチングサービスとしてローンチしました。
本システムと、全国各地に広がる弊社のパートナーネットワークにより、“地域を盛り上げたい団体”と”地域や地元に貢献したい人”をマッチングすることができます。
現在の登録キャストは3万6千人以上。タレント・芸能人やスポーツ選手、インスタグラマー、YouTuberなど、さまざまな才能をもつ方々にご登録いただいています。
大久保:源泉徴収などの面倒な事務処理も必要ないので本当に便利ですね。
田中:煩雑な作業から解放されることも「クラウドキャスティング」の強みなんですよ。検索から発注・契約・支払まで、すべてワンストップでご提供しています。
大久保:「キャスティング報酬シミュレーター」という新機能も話題になっていますね。詳しくお教えください。
田中:2023年6月にリリースした「キャスティング報酬シミュレーター」は、タレントやインフルエンサーのキャスティング報酬の相場を瞬時に把握できる、業界初の新サービスです。依頼主と依頼される側のよりスムーズな合意形成のサポートを目的に開発しました。
これまでエンタメ業界における出演オファーで、最もミスマッチが発生していた要因がギャランティです。特にプロダクション側が「タレントのギャラを公表したくない」というスタンスだったため、長年報酬面はブラックボックスと化していたんですね。
弊社ではこうした慣習に対し、「このままでは依頼主にとっても依頼される側にとっても、機会損失を招くだけだ」との危惧の念を抱いていました。
そこで”依頼したい人”とその人に”どのような仕事を依頼したいか”を入力するだけで、わずか3分程度で相場のシミュレーションが可能な追加機能の開発に着手。こうした経緯で「キャスティング報酬シミュレーター」の提供を開始しました。
大久保:「クラウドキャスティング」の登録キャスト以外の相場算出もできるそうですね。非常に斬新な機能だなと驚きました。
田中:Wikipediaに掲載されている方であれば、どなたでも検索できる仕組みになっています。
報酬相場は「インターネット上に一般公開されているデータ」と年間1万件を超える「クラウドキャスティングでの取引実績データ」を参考に算出され、データの更新とともに結果が変動することも特長のひとつです。
アナログ・属人化の傾向が強いエンタメ業界を、DX推進によりアップデート
大久保:「美人時計」が大ヒットしていたなかで「クラウドキャスティング」に事業の軸を移した先見の明に感服しています。美人時計社の株式を取得した当時から「クラウドキャスティング」の構想があったのでしょうか?
田中:細部まで考えていたわけではないのですが、「美人時計」の運営を通して蓄積された“BIJINデータベース”を活用した新規事業の立ち上げと、おおまかなビジネスモデルのイメージは最初から描いていました。
具体的な構想のトリガーとなったのは「自社内の生産性向上を目的に社内ツールを開発したほうがいい」と決断したことです。
私が代表取締役として運営の舵取りをするようになってから気づいたのが、各企業から入ってくる「美人時計」出演者へのイベントやコラボレーションのオファーへの対応と、そうした案件で業務にあたる各出演者への連絡や報酬支払い手続きといった作業の煩雑さでした。そのためだけに10人程度のスタッフを確保して、すべて手作業で行っていたんです。
「あまりにも貴重なリソースを無駄遣いしている」と痛感しました。
加えて、先ほど申し上げましたが、当初から「美人時計のデータベースを活用し、より効果的にクライアントとマッチングさせるシステム」というビジネスモデルのイメージを描いていたんですね。
そこで「社内の生産性向上」+「マッチングシステム」から着想を得て、詳細を詰めながらサービス構築に着手しました。その結果として誕生したのが「クラウドキャスティング」です。
大久保:もともと御社が「クライアントとキャストへの対応」でお困りだったからこそ、解像度の高いシステムを完成させることができたんですね。これまでアナログかつ属人化の傾向が強かったエンタメ業界に浸透した結果にも納得しました。
田中:特にコロナ禍に突入してから爆発的に普及しました。
実はおっしゃる通り、コロナ前までは従来の商慣習が非常に強く、どこのプロダクションからも「この業界は人と人との取引でやってきているから」とお断りされたり敬遠されることが多かったんですね。
ところがコロナによりエンタメ市場の仕事が激減し、サービスのオンライン化やバックオフィスの効率化などDXが加速したことで、弊社サービスの導入も飛躍的に増加しました。
大久保:これまで頑なだったエンタメ業界も変わらざるを得なくなったわけですね。御社では同業界のさらなる発展を願っていると伺っています。
田中:弊社では「エンタメ業界をアップデートしたい」と考えており、これまでアナログだったこの領域にテクノロジーを掛け合わせ、人の持つコンテンツとしての価値を可視化させながら効率的なマッチングの実現を目指しています。
キャスティングの進化を通じて、エンタメ業界の可能性を広げていく。そのためにも「クラウドキャスティング」のさらなる認知度向上に取り組んでいます。
私たちは“エンタメ・テクノロジーカンパニー”として、これからも新たなチャレンジを続けていきたいです。
起業家に伝えたい「いきなりメジャーリーガーではなく、まずは地方予選優勝から」
大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。
田中:最近では「グローバルを目指そう」、あるいは「日本一の企業になろう」といった目標を掲げる起業家が多いですよね。
私の場合、大樹町生まれで札幌から上京というバックグラウンドが関係しているかもしれないのですが、実は真逆の考え方なんです。
小さな都市でもエリアでもいいので「圧倒的なナンバーワンになる」。その結果として、会社は急速に成長しながら進んでいくと思っています。
起業当初からあまりにも大きな目標を掲げるのは、高校球児がいきなり「メジャーリーガーになりたい」と宣言しているのと同じことではないかなと。それよりもまずは地方予選で優勝しなければ始まりませんよね。
それと同じように、しっかりと地に足をつけながら、実直に事業を推進していく。そうすれば自然と世界が広がっていくのではないでしょうか。
起業家の方々には、ぜひその気持ちを忘れずに会社運営を行っていただけたらと願っています。どんなことでもいいので、とにかく一番になることを目指していただきたいですね。
大久保の感想
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(取材協力:
BIJIN&Co.株式会社 代表取締役 田中 慎也 )
(編集: 創業手帳編集部)
面白いのが単にネットワークだけでなく、価格や条件を最適化する仕組みを備えているということです。
こうしたアナログな交渉の自動化は今後、他の分野でもチャンスがあると思います。