雛形でチェックする雇用契約書作成のポイント
雛形で学ぶ!雇用契約書入門
(2015/08/24更新)
昨今、後を絶たない労務トラブル。
ブラック企業や、雇用形態、賃金・給与に関してなどのニュースが世間を騒がせていていますが、労務トラブルはそれだけではありません。
「払われるはずの手当が払われていない」「採用時の取り決めになかったので、転勤の命令には従えない」など、意外と身近で起こっています。
そんな労働トラブルが発生した場合に、その記載内容が最も証拠能力の強い解決基準となる、雇用契約書。そのため、雇用契約書を作成するときには、細心の注意を払う必要があります。
今回は、雇用契約書に必要な項目を、絶対的明示事項と相対的明示事項にわけ、具体的にどのようなことに気を付けなければならないかを、社会保険労務士の榊先生に解説していただきます。
以下、実際に雛形として使用しているサンプルを見ながら、確認していきましょう。
※下記リンクから雇用契約書の雛形をダウンロードしてください。
この記事の目次
雇用契約書はなぜ必要?何を書くべき?
従業員を採用する際には、勤務時間や賃金など、主要な労働条件を書面で明示しなければならないことが労働基準法上のルールとなっています。
書面で明示するに当たっては、「労働条件通知書」を会社から従業員に交付すれば、最低限の法律上の要件はクリアします。
しかしながら、労務管理の実務上は、後日労働トラブルが発生した場合に備え、その労働条件で双方が合意をしたことを証するために「雇用契約書」を二部作成し、労使双方が署名または記名押印の上、一部ずつを保管することが望ましいとされています。
雇用契約書の記載事項には、絶対的明示事項と相対的明示事項があります。
絶対的明示事項は、雇用契約書に記載が必須の項目である一方、相対的明示事項は、当該条件を定めた場合に明示しなければならない項目で、法律上は口頭による明示でも足りますが、実務上は書面で明示するのが一般的です。
絶対的明示事項
まず、絶対的明示事項として、雇用契約書に必ず記載しなければならないのは、以下6項目です。それぞれ注意すべき点とともに、確認しましょう。
(1)労働契約の期間に関する事項
1.雇用期間
1. 期間の定めなし
➁. 期間の定めあり
平成27年9月1日 から 平成28年8月31日 まで
試用期間 ( 平成27年9月1日 から 平成27年11月30日 まで)
期間の定めがある場合は契約期間を必ず記載しましょう。また、試用期間を設ける場合は、その期間を記載します。
11.契約更新基準
(期間の定めありの場合) 次の基準により契約を更新する場合がある。
・従事する業務の量が契約当初とくらべ大幅に減っていないこと
・業務遂行能力、業務成績、勤務態度が良好であること
・会社の経営状況が良好であること
期間の定めのある雇用契約の更新基準を定める必要があります。なお、正社員など無期契約の社員との雇用契約書の場合は省略可能です。
(2)期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を更新する場合の基準に関する事項
2.就業場所
本社内(ただし、当社支社等へ転勤を命じる場合がある)
転勤の可能性がある場合は、その旨も記載しましょう。
(3)就業の場所、従事すべき業務に関する事項
3.業務内容
経理事務全般(ただし、会社の事業状況や乙の適性を踏まえ、 配置転換を命じる場合がある)
配置転換の可能性がある場合は、その旨も記載しましょう。
(4)始業・就業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換に関する事項
4.就業時間
9時00分 から 18時00分 まで 休憩時間 12:00~13:00
・業務の都合上、時間外労働および休日労働を命じる場合がある。
・業務の都合上 就業時間・休憩時間を変更する場合がある。
1日の就業時間は8時間以内が原則です。
5.休日
土・日曜日及び祝祭日、年末年始、夏期休暇
但し、業務の都合により上記休日を変更させ就業する場合がある。
労働基準法は、週に1回または4週4回の法定休日を与えれば足りるとしていますが、1週間の法定労移動時間は40時間までという枠も考慮した上で休日設定をしましょう。(1日の労働時間を短くすれば、週休1日制も可能です)
(5)賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金締切り及び支払時期
6.給料
基本給 月給 200,000円 ※試用期間中は 180,000円とする。
住宅手当 5,000円
通勤手当 実費割増賃金
イ 所定外 a 法定超 ( 125% ) b 所定超 ( 100% )
ロ 休日 a 法定 ( 135% ) b 法定外 ( 125% )
ハ 深夜 ( 25% )締切日、支払日・ 毎月20日締め翌月25日(銀行が休日のときはその前日)支払
給料の額、割増賃金率、締日、支払日を記載しましょう。
通勤手当に関しては「実費」と記載すれば足ります。ただし、通勤手当の上限を超える遠方からの通勤者の場合は、上限額の金額を記載しましょう。
試用期間中の給料が異なる場合は、その旨も記載しましょう。
7.昇給
年1回 ( 4月 )
但し会社の業績 または個人の成績により改定しない場合がある。
※昇給に関する事項は、口頭で明示すれば法律上は足りますが、賃金に関する事項の中で雇用契約書に記載して明示することが実務上は一般的です。
(6)退職に関する事項(解雇の事由を含む)
10.退職に関する事項
期間の定めなし 定年 60歳の誕生日の翌日
期間の定めあり 期日到来日
・最大65歳までの継続雇用制度あり
・自己都合退職の場合は退職を希望する日の30日前までに申し出ること
・普通解雇、懲戒解雇の事由は就業規則による
退職に関する事項を網羅する必要があります。法律上、65歳までの継続雇用制度の設置が必須です。
普通解雇や懲戒解雇の基準は就業規則に委ねるのが一般的ですが、就業規則のない会社の場合は、雇用契約書に具体的に網羅する必要があります。
相対的明示事項
当該条件を定めた場合には明示しなければならない相対的明示事項は次の(7)~(14)です。相対的明示事項は、法律上は口頭による明示でも足りるとされていますが、実務上は書面により明示することが一般的です。
(7)臨時に支払われる賃金、賞与等、最低賃金に関する事項
8.賞与
年2回 ( 6月 と 12月 )
会社業績により支払日の変更または支給しないことがある。額は本人の成績勤務態度、能力等を勘案して定める。
支払が不定期の場合は、項目自体をなくすか、「業績を勘案し支給する場合がある」などの記載にしましょう。また、支払月が決まっている場合でも「会社業績により支払わない場合がある」という文言は必ず入れておきましょう。
9.支払方法
現金による手渡し、または乙の同意がある場合は乙の指定する口座へ振込
乙の同意が既にとれている場合は「乙の指定する口座へ振込」のみでも差し支えありません。
その他の相対的明示項目
以下は、サンプルには記載されていませんが、明示しておいた方がよい項目です。業種・業態などによってカスタマイズする必要があるので、専門家に相談することをお勧めします。
(8)退職手当
(9)労働者に負担させる食費、作業用品等に関する事項
(10)安全及び衛生に関する事項
(11)職業訓練に関する事項
(12)災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
(13)表彰及び制裁に関する事項
(14)休職に関する事項
まとめ
雇用契約書はA4用紙にして1枚ないし2枚の分量ではありますが、法的な観点に気を付けながら、様々な労働条件を記載していかなければならないものです。
また、就業規則と雇用契約書の連携も非常に重要になってきます。
12.就業規則
その他 勤務上の詳細な規程は就業規則よる。
解雇事由を含め、詳細な労働条件を雇用契約書に網羅するのは事実上困難なので、1人でも従業員を雇用したら就業規則を作成することをお勧めします。
雇用契約書では基本的な労働条件や、その人だけに適用される特別な労働条件を定め、全般的かつ詳細な労働条件は就業規則に委ねるという役割分担を持たせることが、会社における労働条件の管理手法としては、最も合理的であると考えられます。
雇用契約書の整備を考える際は、是非、合わせて就業規則の作成や見直しも検討してみてください。
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(監修:あおいヒューマンリソースコンサルティング 代表 榊 裕葵)
(編集:創業手帳編集部)
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