ハルモニア 松村 大貴|プライシングの適正化で「企業の成功」と「環境負荷の低減」を同時に実現

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年06月に行われた取材時点のものです。

プライシングのダイナミック化を起点に、地球のサステナビリティを向上させる

多くの日本企業が苦手とする「価格決定」を適正化する支援を行うことで、顧客のビジネスに大きな変革をもたらしつつ、地球のサステナビリティの向上に貢献しているのが、ハルモニアの松村さんです。

そこで今回の記事では、ハルモニアを創業する前までの経緯や、プライステック(※1)領域に注目した背景について、創業手帳の大久保が聞きました。

※1:プライステック・・・価格に関連する技術やソリューションのこと

松村 大貴(まつむら たいき)
ハルモニア株式会社 代表取締役 CEO
ヤフーで米国企業との事業開発やブランディング、東日本大震災の復興支援等に携わった後、2015年にハルモニア株式会社を創業。インターネット広告の仕組みから着想を得てプライシング変革支援サービスを立ち上げ、企業へのコンサルティング、ビジョンメイキングを行っている。
著書『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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ヤフーを経て「ハルモニア」を創業

大久保:これまでのご経歴と、ハルモニア設立までのストーリーを教えてください。

松村小さい頃から、社長になるのが夢で、「会社に勤める」という選択肢より、世の中に広く影響を与えるような仕事を、自分主体でやっていきたいと思っていました。

大学生の時に「ソーシャルネットワーク」という映画を観て、「テクノロジーで世界を変える」「スタートアップの面白さ」という点で、すごくワクワクしました。

その流れで、大学の時から、友人とWebアプリを作るプロジェクトを立ち上げたり、大学生向けの起業支援プログラムに参加したり、テクノロジー領域での起業を目標に動いていました。

大久保:学生時代から精力的に行動されていたのですね。

松村大学の卒業旅行として、シリコンバレーに1人で行きました。現地では、あちらの起業家やスタンフォード大学の学生と話したのですが、彼ら彼女らは、本気で自分たちの努力とテクノロジーで世界を良い方向に変えていけると、当然の様に思っていました。その話を聞き、自分も同じように生きよう、と思ったのが原体験としてあります。

本来はそのまま学生起業が実現できればよかったのですが、マネタイズができるビジネスを立ち上げることができず、日本のテクノロジー企業に入っておこうと思い、ヤフーに入社しました。

その後、2015年に「ハルモニア」を起業したという流れになります。

過去や経歴よりも「今起こせるアクション」が重要

大久保:学生起業と、社会人を経験してからの起業では、周りからの見られ方は変わりますか?

松村:解決したい問題によって、起業するタイミングや方法が変わってきます。

今、ハルモニアが注目しているのは、気候変動に関する課題です。この課題のデッドが2030年、2040年と時間が迫っているものになるため、3年学んでから起業する、といった考えだと時間がもったいないです。

起業することで、学びの効率が上がる場合もありますので、先に起業しても良いと思っています。

私の場合、自分の限られた時間を使って、人類の役に立ちたいという気持ちはあったものの、学生当時はテーマが決まっておらず、手段を見定められていませんでした。

大久保:学生起業家は社会的信用が低いということはありますか?

松村:社会的信用に関しては、変わりません。

過去や経歴は関係なく「今、何ができるのか?」ということが重視される世界です。

大久保:一昔前は、これまでのキャリアを問われることが多かったのですが、今では、現在と未来を問われる時代になりましたよね。

松村ハルモニアは少数精鋭の企業であるものの、協業先や資本提携先は超大企業です。

会社としての与信ではなく、私自身やメンバーのことを見てくれる時代になったと感じています。

ハルモニアが成長段階で直面した「3つの課題」

大久保:ハルモニアの成長過程についても伺わせてください。

松村:立ち上げフェーズでは、プライステックという価格最適化技術がそれぞれの業界になく、伸び代がある領域だと考えていて、どの業界にハマるか探索していました。

結果的に、ホテル業界が一番ニーズが顕在化していて、確立された仕組みもなく、スタートアップとして参入するのに最適だと思いました。

最初の拡大期は創業2〜3年目で、TechCrunch Tokyoで最優秀賞を受賞し、かなり注目度が上がりました。素晴らしいメンバーも集まり、素敵なVCさんにも参画いただきました。

大久保:最初からかなり順調だったのですね。

松村:最初は順調だったのですが、ずっとポジティブなまま続くことはなく、コロナの影響を受けて、ハルモニアが提供していたホテル向けのサービスが岐路に立たされました。

ハルモニアのサービスを応援してくれているお客様もいらっしゃったのですが、ホテルが次々と閉館してしまい、事業を続けていくことが非常に難しくなりました。

そして、ハルモニアにとってのピボット期(※2)は2020〜2022年です。

コロナ禍でも変わらずに高いニーズがある業界は、モビリティ業界と小売業界でした。

今はこの分野で、東芝テックさまやカインズさまとの資本提携をしながら、小売業界の価格戦略支援およびソフトウェア開発を走らせています。

そして2023年からは、それらが形になってきていて、プライステック事業で実績を作ってきましたが、自分の中でサステナビリティや気候変動に対する課題の危機意識が強くなりました。

※2:ピボット期・・・事業や経済の転機や変革の時期

日本企業は価格決定力が低いと言われる2つの理由

大久保:ハルモニアでは、どのようにして価格設定を決めていくのでしょうか?

松村:ハルモニアは、パートナー企業さまの価格設定を定めるフレームを持っていて、それに基づいて価格を決めています。

ビジネスモデルとしては、コンサルティングプロジェクトでの費用をいただくのと、ソフトウェアの提供でのサブスクリプションの二段構えとなっています。費用については、パートナー企業さんに提供できるバリューやインパクトに応じて、見込まれる収益をベースに、金額を決めて相談しています。

大久保:プライシングは日本を救う1つの領域として可能性がありますよね。

デフレ期だけでなくても、貴社のようなプライシング企業が適正価格を出してあげることが重要のように思えます。

松村:そこに関しては、大袈裟ではなく「病巣」だと思っています。

日本は物価が上がりにくく、賃金も上がらない、国際的競争力が下がっていっている状態。物事が変わっていかないことに対しての閉塞感や、つまらないと感じていることの根底にあるのは「価格決定力が低い」という点にあります。

価格決定力には2つの面があります。

1つ目は、上手い下手の話です。価格を高くしても良いものを安売りしている、安くしないと売れないのに高い価格のまま放置している、といった値付けのスマートさが足りないことです。

2つ目は、そもそも商品の価値や競争力がない、独自性がないという点です。リスクを負ってでも差別化できるものを作ることに挑戦できていません。

そして、今求められているサステナブルなビジネスへの変革は、デジタル化よりもさらに大きな動きが必要となります。

大久保:具体的にはどういうことでしょうか?

松村:アパレル企業であれば、今までであれば、世界中から安くTシャツを作ってくれるところを探して、日本で売ることだけを考えれば良かったのが、現在は、製造にかかる資源、使う水の量、排出する温室効果ガス量、国際輸送する際のエネルギーなどを考慮して製造する必要があるので、大きくビジネスモデルを変えないといけません。

しかしこれでは、儲からないならサステナブルに変えない、ということになってしまいがちなので、ハルモニアのコンセプトとしては、企業の収益性を高めることを大事なターニングポイントだと捉えています。

正しい価格設定により、サステナビリティへのコミットメントも可能になる上、賃金も上げることができるので、日本全体で価格設定力を底上げしたいと思っています。

スタートアップの価格設定

大久保:スタートアップという世の中にない商品を生み出す人たちの値決めは、特に難しいと思いますが、どのように考えるべきなのでしょうか?

松村プライシングのフレームを作り、価格設定に関して考慮すべき項目で漏れがないようにしています。

新商品でも、既存商品でも、検証しなければいけない項目がいくつかあり、新商品では仮説を立てることで、大きく外さないプライシングができるような仕組みにしています。

間違いの例としては、製造にかかるコストだけで価格を決めてしまうことです。

商品側に価値が決まっているわけではなく、買う側がどれくらいの評価をするかというところに価値があるので、買う側・使う側視点で価格を考えていく必要があります。

大久保:具体的な価格決めの進め方についても、ご教示いただけますか?

松村価格設定は、仮説検証と適正化が大事です。

誰にもぶつけず、エクセル上だけで考えても意味がなく「我々のサービスはこのくらいの価値があるのではないか」というのが分かれば、まず売りにいくのが一番良いです。

そこで売れれば、十分かもっと値上げして良い。売れなかったら、高すぎたということがわかります。

こうやって、本気で売りにいくことで、値付けに対してのフィードバックが返ってきて、改善が回っていきます。そうすることで、その会社の価値にあった価格設定ができるようになるはずです。

我々はそのサポートはできますが、実際に磨き上げていくのは、サービスを持っている企業になるので、サイクルを回していきましょう。

プライシングを適正化することで環境負荷の低減にも繋がる

大久保:プライシングは価格設定だけでなく、無駄をなくすことに直結することにもなりますよね。

松村:やっていることはダイナミックプライシングだけではありません。

本質的な役割や価値は、世の中の資源の有効活用です。

高速バスなどで例えると、あまり人が乗っていなくても、ガソリンを使い、炭素排出しながら走らなければいけません。できる限り効率よくたくさん乗ってくれた方が、世の中の移動したいというニーズに対して使うエネルギーが減っていきます。

つまり、儲かると同時に、環境にも良いことが両立します。

これを広告や増産で売上を向上しようとすると、その分多くの商品を作り、運び、販売しなければいけない分、環境負荷が高くなります。

数を売ることと、価格を高くして得ることでは、後者の方が、よりクリーンで社会に良い方法となります。

そのため、高付加価値で適正価格で限りある資源を有効活用することは、企業として責任があると思います。

価格というレバーを使ってこなかったのであれば、伸び代が大いにあるので、チャンスだと思います。

プライシングを成功させるコツ

大久保:プライシングのよくある間違いについて教えていただけますか?

松村サービスをリリースする際に、自信がなくて、安く設定しすぎてしまうことです。

利益の設定によって、商品以外のサポートや一歩踏み込んだ取り組みができるかという点が変わってきます。

提供できるバリューから算出して、十分な価格として設定しなければいけません。

逆に、最初に頑張って考えて、固定しようとしすぎることもあります。

まずはこれくらいだろうというところでスタートさせ、そこから営業や販売結果を見ながら、チューニングするというサイクルとして捉えておくべきです。

ある意味、プライシングについて毎日考えるというのも、良いと思います。

大久保:最後に読者の方へメッセージをお願いします。

松村:世の中には様々なビジネスチャンスがありますが、それよりも、一度限りの人生で、大きな課題解決にチャレンジして、充足した人生だと感じることが大事だと思っています。

自分の生き方を考えると、自然と人生をより良いものにしたい、多くの人のために尽くしたいと思います。そこから、地球規模、人類規模で役に立ちたいという考え方に変わり、日常の小さなことががどうでも良くなるくらい、強いエネルギーが沸いてきました。

このように自らに問いかけ、現代での最も困難な課題が気候変動だと確信し、100年後の世界のことを考え、今こそ動くべきだと思いました。

自分の人生を何に使うかを、ぜひ自分に問いかけてみてください。

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(取材協力: ハルモニア株式会社 代表取締役 CEO 松村 大貴
(編集: 創業手帳編集部)



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