ミチビク 中村 竜典|高卒会計士が取締役会DXツール「ミチビク」で日本と企業を変える
取締役会のPDCAを加速!「報告や稟議」だけでなく「成長のための意思決定」ができる環境を整える
工業高校を卒業後、自動車部品の製造工場で勤務。その後、公認会計士を取得し、今ではスタートアップ企業の経営者として、日本を変える挑戦をしているのがミチビクの中村さんです。
今回は、日本を支える企業の司令塔である「取締役会」のDX化を推進し、成長のための意思決定ができる環境を整える「michibiku」の話に加えて、起業するまでの経緯や、日本の取締役会の現状と課題、解決策などを、創業手帳の大久保が聞きました。
ミチビク株式会社 代表取締役CEO/公認会計士
愛知県出身。高校卒業後にトヨタ系企業に入社し、ライン作業に従事。退職後、1年半の勉強期間を経て公認会計士試験に合格。2013年にPwCあらた有限責任監査法人に入所し、東証一部上場企業を中心に、インチャージとして財務諸表監査、内部統制監査業務等に携わる。その後OKANに入社、コーポレート責任者を経て、2018年に独立。2021年4月にミチビクを創業。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
高卒で工場勤務から公認会計士に合格。監査法人を経て「ミチビク」を創業
大久保:起業するまでの経緯を教えてください。
中村:私は中学生の時から「将来は社長になる、いつか起業する」と漠然と考えていました。
当然、すぐに起業することはできないため、工業高校を卒業後、トヨタ系の自動車部品の製造工場に就職しました。
しかし、このままでは起業という目標に近づけないと思い、受験費用と一年分の生活費、あとは車のローンの貯金をして、工場を退職しました。退職してすぐに資格の専門学校に通い「公認会計士試験」に挑戦しました。受験期間はものすごく勉強をしたのと、運も味方して、初めてのチャレンジで合格できました。
公認会計士試験に合格し、「PwCあらた有限責任監査法人」に入所しました。PwCあらた有限責任監査法人では、自動車系のビッグクライアントを中心に担当させていただき、法定監査やアドバイザリーなどの業務に従事しました。
大久保:公認会計士試験に合格したとはいえ、工場勤務から監査法人への転職は大変でしたよね?
中村:PCの操作もろくにできない状況だったため、基礎的なことから学び直しました。今思うと、一番働いた時期だったと感じます。
仕事をする中で「もっと感謝される仕事がしたい!裁量があってスピードを持って意思決定できる環境に身をおくことで成長に繋げたい!」と考えるようになり、スタートアップに転職しました。
スタートアップでコーポレート業務をメインに幅広く経験し、その経歴を経て、IPO支援で独立。IPO支援の中で取締役会の課題に気付き、「ミチビク」を起業したという流れです。
スタートアップでの経験が「ミチビク」の創業につながる
大久保:どのようなスタートアップに転職しましたか?
中村:創業手帳にもインタビュー記事が出ている、株式会社OKANに転職しました。オフィスに24時間つかえる食事の環境を作るサービス「オフィスおかん」を提供しています。
OKANでは会計士の経験を生かして、コーポレート責任者として従事しました。
コーポレート部門とはいえスタートアップ企業です。少数人数での対応になるため、会計だけに取り組めばよいわけではなく、管理業務全般に対応しなくてはいけませんでした。
この経験からコーポレート領域で課題を感じ、現在提供しているmichibikuのアイデアが生まれました。
※関連記事:OKAN 沢木恵太|置き型社食「オフィスおかん」で働く人のライフスタイルを豊かにする
会社の意思決定をする上で最も重要な「取締役会」の効率化に着手
大久保:プロダクトの開発背景を教えてください。
中村:ミチビクを創業した当時は、業務のデジタル化に主眼を置いてビジネスをスタートしました。
取締役会のデジタル化を提案していく中で、会社の中で最も重要な位置付けの、取締役会自体のPDCAが回っていないことに気がつきました。
多くの企業が、報告や稟議に多く時間を割いており、会社の成長のための意思決定に時間を使えていませんでした。そして、それが日本の成長を鈍化させている要因になっているのではと考えたのです。
大久保:「取締役会を効率化する」という取り組みはあまり聞きませんもんね。
中村:セールスやマーケティング、組織運営のあらゆるところで、成長を目的としてPDCAを回しているのに対し、取締役会ではできていないことに疑問を持ちました。
この改善を実現するものとして、取締役会の効率化ツール「michibiku」を開発し、取締役会におけるワークフローをデジタル化できるようにしました。
デジタル化をすることで、データを蓄積する基盤を整え、会議データを使い、会議分析やフィードバックができるところまでトータルでカバー。単なるフィードバックだけでなく、取締役会実効性評価の制度対応ができるようになっています。
大久保:ミチビクはコロナ禍に創業されていると思いますが、何か影響はありましたか?
中村:大きく影響を受けました。弊社に関わる一番の変化は、世の中のデジタルシフトが急速に進んだことです。
コーポレート領域だと、会計、人事労務、法務など広い領域で既にデジタル化されていましたが、コロナ禍で働き方が変わっても重要会議自体については、従来と変わらず「紙」でのアナログ運用を強いられていました。
日本以外の国、特に欧米ではボードポータルと呼ばれるサービスが普及し、デジタルシフトが進んでいるのに対し、日本では法規制で、取締役会議事録への署名・押印をデジタルで行うことができませんでした。
しかし、コロナ禍をきっかけに、取締役会議事録への電子署名ができるよう法務省が見解を出したことで、弊社のサービスもようやく加速させられるようになりました。
スタートアップが大企業の信頼を勝ち取った「2つの要因」
大久保:大変だった点を挙げるとすれば、どこでしょうか?
中村:スタートアップには、会社の看板や実績など、企業として信頼してもらうための要素が圧倒的に足りません。
特に、私たちのお客様になっていただく企業は「上場している」もしくは「上場を目指している」ことが多いため、サービススタート直後で信頼を得ていない状態のサービスを導入いただくことが簡単ではありませんでした。とくに、取締役会の情報を取り扱うとなると、なおのことです。
大久保:その壁はどのように乗り越えられたのでしょうか?
中村:コミュニケーション面、技術面の2つの要因で乗り越えることができました。
コミュニケーション面として顧客ファーストを意識しました。スタートアップということもあり、知名度が低いため、どうしてもサービスを拡大解釈し、導入いただくことを優先しやすくなってしまいます。私たちは、現時点で対応できないことはその旨をお伝えし、背伸びせず真摯に対応してきました。
ただし、できないと断るだけでなく、課題に感じられているポイントは別の方法で解消できるように提案し、信頼関係の構築に繋げていました。
技術的な面としては、取り扱う情報の秘匿性から、セキュリティの堅牢性が強固に求められる領域であるため、セキュリティの構築を最重要課題として力を入れてきました。
この点に関しては、目に見えてプロダクトの進化を感じることができないため、初期のスタートアップとしてはもどかしかったのですが、一度のミスで会社存続の危機に陥ってしまうことは絶対に避けたいと考えていたため、セキュリティは優先的に取り組むと決めて、実行しました。
取締役会を効果的かつ効率的に進める「4つのコツ」
大久保:取締役や、取締役会というものについて、改めてご説明いただいてもよろしいでしょうか?
中村:「取締役」とは、会社の未来の姿を考え、その実現に向けて適切に資源を配分し、執行責任を負う役割だと考えています。
しかし、取締役だとしても、一人では対応できることに限界があるのは当たり前です。そのため、取締役がチームとなり、取締役一人一人が持ち寄ったことを議論する。この、会社の未来を意思決定する場が「取締役会」です。
大久保:取締役会をうまく進めるコツや、失敗事例などがあれば教えていただけますでしょうか?
中村:取締役会をうまく進めるコツは、大きく分けて4つあります。
1つ目のコツは、取締役会で議論すべきことについて、事前に役員同士でしっかりと認識合わせすることです。
これが出来ていない企業は非常に多く、結果として、現場から上がってくる手続き関連などの目の前の議案が多くなってしまい、中長期で会社の成長に寄与するであろう議案について議論ができなくなってしまいます。
時には、正解がないことを話し合う場になることもあります。社外役員も含めて、参加役員に事前に情報を伝えることで、その場の目的を明確にすることができます。
2つ目のコツは、取締役会の事務局には優秀なメンバーを配置することです。
現場情報と経営情報の両面から、どのような議論をすると会社全体が良くなるか?未来の会社を変えていくことができるか?を、考えることが求められます。とくに、経営者目線で考える必要があるため、優秀な人材を配置しましょう。
3つ目のコツは、取締役会の事務局メンバーのリソースを、雑務でいっぱいにしない。そのために、できる限りデジタル化を推進することです。
取締役会運営は細かな調整ごとが多いため、対応に多くの時間を要します。可能な限りデジタル化し、無駄な雑務を失くすことが会議自体を良くすることに繋がります。
例えば、デジタルの活用に難色を示す役員の方々をお見かけすることもありますが、資料の印刷、押印の手配などを、デジタル化することに役員も協力すべきだと考えています。
そして、4つ目のコツは、参加役員全員が、未来の会社のためにしっかりと議論をする姿勢を取ることです。
任期があと◯◯年だから波風立てないようにしよう、この発言をすると社長からの評価が下がる、などの忖度が発生すると機能しなくなります。
会社が良くなる方法を第一に考え、活動する意識を役員全員がもつことが重要です。
- ココ重要!取締役会をうまく進める「4つのコツ」
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- コツ1:全役員が議論内容を事前に把握する
- コツ2:取締役会の事務局には優秀な人材をアサインする
- コツ3:取締役会のデジタル化を進める
- コツ4:取締役全員が会社の未来のために考える姿勢を取る
DX推進を阻む要因は「デジタルリテラシーの低さ」と「現状維持マインド」
大久保:昨今、DX化に注目が集まっていますが、DX推進が進まない理由は何でしょうか?
中村:そもそもDXとは、「デジタル技術を活用して、業務プロセスを改善していくだけでなく、製品やサービス、ビジネスモデルそのものを変革するとともに、組織、企業文化、風土をも改革し、競争上の優位性を確立すること。」です。
DX化が進まない企業の中には、デジタル化によるメリットをイメージしきれていない企業や、新しいツールの導入にハードルを感じている企業が多くいらっしゃいます。
大久保:では、DXを推進するにはどうしたら良いと考えていますか?
中村:DXを推進するコツとしては、DXに関する実務担当者の業務改善に充てられる時間をを捻出する必要があります。そのために、まずは局所的な部分からでもシステムを導入して、ルーティン業務の負担を減らすことが効果的です。
そして、その空いたリソースで新しい取り組みとして、DXを推進することが重要です。
また、担当者を選ぶ際には、デジタルリテラシーが高いメンバーを配置した方が、DXへの推進力は高まると考えています。
会社の成長のために忖度なく誰もが発言しやすい環境を整えることが重要
大久保:ミチビクの取締役会では、どのような工夫をされているのでしょうか?
中村:弊社のサービス「michibiku」を使って、必要な情報を集約し、スムーズにデータが見れるようにしており、各所で無駄なコストがかからないように効率化しています。
また、議論する時は「今一番に取り組むべき課題」を明確にしておきます。
「これに取り組めば会社の成長に繋がる」という共通認識を持って、同じ方向を向いて議論を進めることが重要です。
大久保:最後に読者へのメッセージをお願いします。
中村:「忖度」は会社の成長を阻害します。
これをやれば会社が成長するという選択肢を持っているにもかかわらず、その選択肢を取ることなく、終わるのはとても勿体無いです。
「自分が良いと思っていることを、アウトプットして実現させる」という点で、遠慮せずやっていくことが大事ですので、ぜひチャレンジしてください。
大久保の感想
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(取材協力:
ミチビク株式会社 代表取締役CEO 中村 竜典)
(編集: 創業手帳編集部)
まず一つ目で驚いたのは色々な公認会計士の方に取材したが、一流大学卒業の人が多かった。地方の工場勤務、高卒から公認会計士というキャリアは失礼ながら初めて見た。
予備校の多い東京などと違い、受験環境という意味では現実的にハンディがそれなりにある。逆に一般的な会計士でないからこそ、普通に会計士としての道を進むというよりは、今の取締役会DXのような変わった視点、チャレンジの背景になったのではないかと思った。
通常、会計士であれば、取締役会捺印の電子化という技術と法律の環境変化は「対応せざるえない事」だが、そこから更に進んでチャンスとして捉えてプロダクトを作ってしまったのは機動力の高さだ。
もう一つが巷でDXと盛んに叫ばれているが、重要なのはデジタル技術そのもの、デジタルツールばかりに目が行きがちだが、重要なのはDXのXの部分、つまり会社を変えるということだ。
中村さんの取材で繰り返しワードで出てきたのは「取締役会は未来を作るもの」ということだ。
会社の取締役会は、馴れ合い的なものになっているケースも珍しくはない。
取締役会は会社の司令塔であり日本中の会社の取締役が変われば日本は変わるかもしれない。
今の取締役会をデジタルで変えていこうという気概があふれているように感じた。
技術をどう活用していこうかというテック系の起業家と、少し雰囲気の違う、取締役会の現場の課題に直面して会社をどうにかしたいという熱意を感じた。
通常は顧客の要望をそのままかなえるのがビジネス、商売としては一般的だ。
しかし、ミチビクはその名の通り、顧客の要望を一歩超えて、取締役会の合理化から一歩進んだありかた、未来をつくる、という事を提案しようとしている。
デジタル技術は道具でしかないが、デジタルツールを通じて、取締役会などの仕事を上手く導く(ミチビク)ことは可能かもしれない。
ただし、取締役会の意思決定やあるいは取締役のモチベーションのような領域は想像以上に複雑なものだ。このプロダクトがどれだけ進化していくか今後の開発と進化が問われる部分であり注目だ。