HOKUTO 五十嵐 北斗|医師特化型の検索エンジン「HOKUTO」で情報アクセスをよりスピーティーに

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年07月に行われた取材時点のものです。

医療現場でのスマホ普及率の増加に合わせて医師に最適化したスマホサービスを開発

以前は「病院内では携帯電話を使ってはいけない」というのが常識でしたが、今は技術の進歩に伴い、医療現場でのスマホ利用も増えています。

しかし、医療現場ではパソコンに特化したITサービスが多いことに着目し、医師がスマホで使いやすく、医療現場に最適化した情報に素早くアクセスできる検索エンジン「HOKUTO」を開発・運営しているのが五十嵐さんです。

医療現場にスマホサービスを普及させる工夫や、医療現場の課題をITサービスで解決する挑戦について、創業手帳代表の大久保が聞きました。

五十嵐 北斗(いがらし ほくと)
株式会社HOKUTO 代表取締役
1994年生まれ。2018年中央大学商学部卒業。2016年に創業し、「より良いアウトカムを求める世界の医療従事者のために」をミッションに、医学生向けの国内最大の研修病院口コミメディア「HOKUTO resident」、医師向けの臨床支援アプリ「HOKUTO」を運営。「正確な医療情報にたどり着くのが大変」と感じる医師の方へ、ITを活用した業務の効率化、患者への迅速な対応をかなえる仕組みづくりを行っている。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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母校の教授やChatwork山本氏の後押しを受け「HOKUTO」を創業

大久保:起業までの経緯を教えてください。

五十嵐:起業のきっかけは私が大学3年生の時に、私が通っていた中央大学の教授に「将来は経営者になりたい」と話したことです。

教授からは経営者になりたいのであればすぐ会社を作った方が良いとアドバイスをいただき、学生起業を本格的に考え始めました。

しかし、その翌週に教授にお会いした時に「まだ起業していないのか?すぐに行動しない奴は一生成功しない。」と言われ悔しくなり、その後すぐに起業したんです。

起業して最初に行った事業は、大学生向けのインターン支援事業でした。この事業のユーザーの大半が同学年の友人であったこともあり、私の学生生活が終わる1年後には事業展開が難しくなりました。

その頃、起業を後押ししてくれた教授にシリコンバレーツアーへ推薦していただき、大学4年の夏にシリコンバレーに行きました。そこで、Chatworkの創業者である山本敏行前社長と出会いました。

山本社長は中央大学のご出身で、学生起業した私を応援してくださり、「世界に挑戦するITサービスを作りなさい」とアドバイスをいただきました。

どのようなITサービスを作るべきかと大学の友人に相談している中で、ペットを飼っている友人とペットトリマーの出張サービスを考えました。事業内容を山本社長に相談したところ、出資をしていただくことになり、友人と2人で2つ目の事業を開始しました。

結果的にはこの事業もうまくいかず、一緒に事業をやっていた友人も辞めてしまいました。

このような学生時代の起業経験から、自分が関心のある領域で自分がやりたい事業を10年かけてやらないと大きな事業は作れないと思いました。

そこで、私の家族に医療従事者が多いこともあり、医療の領域だと私の強みが生かせると思い、「HOKUTO」を立ち上げました。

医療現場に特化した検索エンジン「HOKUTO」とは

大久保:HOKUTOの主要サービスについて教えてください。

五十嵐:今は「医師向け臨床支援サービス HOKUTO」がメイン事業です。HOKUTOのイメージは医師に特化したGoogleです。「HOKUTO resident」という医学生が研修にいく病院の口コミがあるプラットフォームも運営はしていますが、「HOKUTO」に繋がる入り口という位置付けです。

大久保:医師向け臨床支援サービス「HOKUTO」はどのようなシステムですか?

五十嵐HOKUTOは医師が欲しい情報だけが出てくる検索エンジンです。

医師が求めるのは、病気の治療方法や最新の論文、薬やワクチンの効用など専門的な情報です。Googleなどの一般的な検索エンジンは一般向けに最適化されているので、余計な情報が多く医師が求める情報に辿り着くまでに時間がかかります。

一方で、HOKUTOは医師が欲しい情報まで最短で辿り着けることが1番の特徴です。

医師が求める情報の95%くらいが過去に見た事例で、忘れてしまっているものなんです。初めての疾患の情報を調べるというより、一度見たことのある情報に最短で辿り着かせることがHOKUTOのミッションです。

一般的な検索エンジンの利用方法は、知らないことを調べるほうが多いと思いますが、既に見たものをもう1度調べ直す、というニーズに応える工夫をしています。

医療現場でのスマホ利用の増加を見越してサービスを開発

大久保:検索エンジンは競合他社も多い世界だと思いますが、HOKUTOが成長できた理由は何ですか?

五十嵐スマホが病院内で使用できるようになったことが大きいです。これまでこの業界で市場シェアを取っていたサービスは、パソコン向けサービスが主流でした。

携帯電話はペースメーカーへの悪影響から、少し前まで病院内での使用が禁止されていました。今でも病院内でスマホを使うことに抵抗がある医師もいますが、ここ数年でスマホがないと仕事にならないという認識に変わってきました。この流れに乗って、HOKUTOは医師の業務ツールとしての利用が増えています。

大久保:病院内でスマホが許容されるようになることはHOKUTOを開発する前から想定していましたか?

五十嵐:医学生の就活サイトも運営しているのですが、その中で医学生や研修医が実習でスマホを使う機会が増えていることがユーザーヒアリングで分かってきたので、病院内でスマホが普及することは想定していました。

海外ではスマホを使って仕事をしている医師が多いので、日本でもスマホが普及することは、ある程度確信を持って事業に取り組みました。

大久保:医師がスマホですぐに情報を調べられるのはありがたいんでしょうね。

五十嵐:医師にとって、必要な情報をすぐに調べられることはありがたいと思います。昔は何かを調べる時、情報収集の手段は紙でした。紙のやりとりでは追いつかない業務量なので、HOKUTOのサービスは役立っていると思います。

日本にある全82の医学部を訪問し医師や医学生にヒアリングを実施

大久保:家族に医療従事者がいたことで、HOKUTOのユーザーイメージは持ちやすかったですか?

五十嵐:父は開業医ではなかったので、父が医療現場で働く姿を直接見たことはありませんでしたが、子どもながらに父はいつも忙しいと感じていました。

また、私の従兄弟や同級生が、医師2年目や医学部5〜6年生だったので、彼らとの関わりの中からも医療現場の課題を感じることができました。

大久保:HOKUTOを利用してもらうのはハードルが高かったと思いますが、うまくいった要因は何ですか?

五十嵐:私自身は医者ではありません。専門用語や医師の普段の様子が全くわからなかったので、全国の医学部を全て回り、日本や海外の病院にも行き、医師や医学部生にたくさんヒアリングをしました。

ヒアリングを通して、医師が日々使うものが肌感覚でわかるようになったので、プロダクトに落とし込みました。

大久保:まずは一通りユーザーの状況をリサーチしたんですね。

五十嵐初めは医学生向けの就活サイトを作り、それを軸に医師向けのサイトを作りました。どちらのサービスもユーザーヒアリングの対象は同じでした。

医学生達が研修医、医師になるので、医師が求めるものを徹底的に聞き続けた結果が今に繋がっています。

HOKUTOの最大の強みは医師が欲しい情報へ辿り着くスピード

大久保:会社の規模を教えてください。

五十嵐:正社員は20名弱です。業務委託やアルバイトなどを含めると70名程度です。

大久保:組織としての特色を教えてください。

五十嵐:HOKUTOは目的志向性の高い組織だと思っています。
「とりあえずやれることは全てやってみよう!」というアプローチではなく、「今、本当に達成すべき目的は何か?」「その目的を達成するには何をすべきか?」についての仮説を立ててから行動し、その結果を素早く学習し目的を再設計するというアプローチをとっています。
自分がやっている仕事の目的を第三者に説明できないうちは手を動かしてはいけないというのはHOKUTOの特徴で、カルチャーです。

大久保:HOKUTOのマネタイズポイントはどこですか?

五十嵐製薬企業の医薬品マーケティング支援です。
HOKUTOを活用すれば医師の情報ニーズに合わせて医薬品情報を提供することが可能であり、ここが既存の医師向け広告メディアとの差別化ポイントになっています。

大久保:HOKUTOの強みは検索エンジンですか?データベースですか?

五十嵐:それらの掛け合わせだと考えています。
データベースが不十分でも、検索エンジンが不十分でも我々の提供したい価値は成り立たないので、日々両方の質の向上に取り組んでいますし、それが強みになっていると思います。

スマホネイティブ世代の若い医師を中心に全国の病院へ普及

大久保:HOKUTOのゴールはどこですか?

五十嵐:臨床現場に立つすべての医師にとって、なくてはならないプロダクトとなることです。そのためにも、普及率を上げることが大切だと思っています。

大久保:どのように医師の中で広まったのでしょうか?

五十嵐スマホネイティブ世代の新しい医師や既存ユーザーが、異動で新しい病院に行くことで、様々な病院でHOKUTOが広まっています。
狙ったわけではありませんが、全国の医学生と関わっていたので、新しい医師の誕生とともにサービスが広まって、様々な病院でHOKUTOが広まる構造ができました。

医学生をターゲットにしたサービスは収益化が難しく、競合大手も攻めてきません。
社会人が起業していたら私のような戦略は取らなかったと思います。学生だからこそバーンレート(※)が1万円でも生きていけるという戦い方で、多くの医学生と繋がることができました。サービス開発を始めた当時は失うものもなく、たくさん時間をかけたことが今に繋がっています。

※ バーンレート…資金燃焼率。会社経営において、1ヶ月あたりに消費するコストのこと

起業家は信念を持って取り組める分野を見つけることが大切

大久保:創業して大変だった時期はありますか?

五十嵐:一緒にやっていた友人がいなくなった時期も大変でしたが、HOKUTO以前の事業をしている時に、成長が見込めないマーケットだと気づいた時がとても辛かったです。その経験から次は大きなマーケットでチャレンジしようと決めて、HOKUTOの開発に着手しました。

大久保:新しいマーケットに挑戦するのも大変ですよね?

五十嵐医学生の就活サイトはマーケットがすごく小さかったので、1年でシェアの20〜30%くらいを取ることができました。ある程度の成果を出せたタイミングで、私は次のチャレンジをすぐに想像できたので良かったのですが、起業家は常に新規事業の種を探し続けなければならず、この点は共通した悩みだと思いますね。
初めから大きなマーケットにチャレンジするのは難しいですが、最初に着手する分野が小さくても、いずれ大きなマーケットに繋がる分野でないと、先が見えなくなり本当に苦しいと思います。

大久保:今いるマーケットの見極めは大切ですね。

五十嵐:そうですね。ただマーケットを見つけるのも難しいと思います。世の中の動きを捉え、この分野の社会課題を解決したいという信念が重要だと個人的には考えています。
それが多くの人に共感するものであればマーケットはある程度大きかったりするので、そういうものを常に探しています。

大久保:世の中の流れを読むことが大切なんですね。

五十嵐:パソコンに慣れている医師に、パソコンで検索するサービスを提供することはすでにマーケットがあるので簡単ですが、スマホで情報に素早くアクセスできることが世の中を前に進めるものだと思いました。

スマホにこだわることで遠隔診療など様々なビジネスに繋がると思っています。
世の中の流れを読みつつ、その中で自分が取り組みたい分野を見つけて、信念を持って取り組むことが大切だと思います。

大久保:信念が原動力になったんですね。

五十嵐:「競合他社に絶対勝てない」「医学生向けのサイトはニーズがない」「既にGoogleがあるでしょう」と散々言われてきました。ですが結局使われるサービスを作れているのは「医師が医療現場で使っている検索エンジンがGoogleで、一般の患者さんと同じものを使って時間がかかるのはおかしい」という自分の信念があったからです。

こうあるべきだという異常な執着は、面白いプロダクトを作ると思います。

大久保:サービスの海外進出は考えていますか?

五十嵐:いずれ海外に進出したいと思っています。ですが、医療制度が国によって全く違うので、国ごとにサービスを最適化し届けなければいけません。日本でやったことが海外に通用するとは限らないので、サービスを吟味する必要があります。

大久保:これからのHOKUTOの展望を教えてください。

五十嵐:元々母体が医学生の就活サービスだったのでHOKUTOを利用しているのは、若い世代の医師が多いです。これから幅広い世代の医師に利用してほしいと思っていますが、そこには苦労しています。

医師の年齢が上がると専門性が高くなり、必要な情報がより細分化されたり、そもそもスマホの利用自体が不慣れな方もいます。難易度は上がりますが、スマホで情報収集する流れは変わらないと思っているので、この分野で挑戦し続けたいと思っています。

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(取材協力: 株式会社HOKUTO 代表取締役 五十嵐 北斗
(編集: 創業手帳編集部)



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