マクアケ 中山 亮太郎|スタートアップのための「クラウドファンディング活用法」
株式会社マクアケ 代表取締役社長 中山 亮太郎氏インタビュー
(2015/07/13更新)
実現したいアイデアやプロジェクトに対し、インターネット上で不特定多数の人から資金を集めるクラウドファンディング。
クラウドファンディングと聞くと、このような資金集めのためのサービスという認識を持っている人が多いのではないでしょうか。ところが最近では、このクラウドファンディングを新製品のお披露目の場として活用するなど、プロモーションの一環として利用する例が増えてきています。
そこで、クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」を運営する株式会社サイバーエージェント・クラウドファンディングの代表取締役社長・中山亮太郎氏に、スタートアップのクラウドファンディング活用法について話を伺いました。
慶應義塾大学法学部卒業後、サイバーエージェントに入社。社長室事業戦略部を経て、グループ内のベンチャーキャピタルであるサイバーエージェント・ベンチャーズでベトナム投資を担当。約2年間のベトナム赴任を経て、2013年株式会社マクアケの代表取締役社長に就任。同年8月よりクラウドファンディングサイト「Makuake」を運営している。
新しい物作りのプラットフォーム目指して
中山:ようやく思い描いていたことができてきたという感じがあります。立ち上げ当初はなかなか上手くいかず、「日本には面白いメーカーがないのかもしれない、日本では無理かも」と途方に暮れそうになる時もありました。Makuakeを新しい何かが生まれるプラットフォームにしたかったのですが、新しく何かを生み出したいという人になかなか出会えなかったのです。
でもそれは単純に僕らの営業不足でした。オープンして半年くらい経ち、今まで声を掛けていた人たちの準備が整い、その辺りから面白いプロダクトやお店がサイトに載り始めるようになりました。
中山:クラウドファンディング自体が出てきたばかりで業界もそれほど大きくなかったので、差別化はあまり考えていませんでした。それよりも、クラウドファンディングがアメリカやイギリスにあるのに日本には根付かないということに危機感を感じていました。
日本はここ数年、何かの真似をしたような商品ばかりで新しい物が生まれなくなってしまっていた。世界で一番売れている携帯電話を作っているのはアメリカの会社ですが、その部品の大部分が日本で作られているということに、僕自身とても悔しさを感じていました。世界を驚かせるプロダクトが、日本のブランドネームじゃなかったことが悔しかったんです。
次第に新しい物を思い切って世に出していけるようなインフラが日本にないことへの危機感が大きくなり、「もうやるしかない」という思いになりました。日本は世界で一番物作りの能力があるのだから、一歩前に踏み出すだけで劇的に変わる。そう考え、日本で新しいことにチャレンジしようとしている人たちのためのプラットフォームを作ろうと思いました。
中山:物産展やギフトショーのような、新しい物を発表するイベントには頻繁に出向くようにしました。今でこそ「クラウドファンディング=新しくて面白い物が生まれる場」というイメージが形成されつつありますが、当時はクラウドファンディング自体知られていなかったんです。プロダクトメーカーに話しても理解してもらえず、なかなか自分たちが使えるものだと思ってもらえませんでした。
それと同時に、ちょうど東日本大震災の後でクラウドファンディングのチャリティー的な面が注目を集めていたので、知っている方に対してはそのイメージをシフトするのが大変でした。そのうち感度の良いアーリーアダプタのユーザーの方たちが実績を出してきたので、ようやく「なるほど、そういう使い方なのか」と分かってもらえるようになったんです。
中山:ソニーさんがMakuakeを使ってくださった瞬間は来たなと思いました。クラウドファンディングは資金集めのために利用するプラットフォームではなく、新商品発売のブースト装置にもなるという手応えを感じた瞬間でしたね。
ちょうど同時期に大企業や中小ベンチャーも使ってくださっていたので、規模に関係なく面白い新商品を作る人のサポートになる、Makuakeはそういうツールなんだという手応えを感じました。ここまで来るのに苦労しましたが、それ以降は一気に伸びてきたという感じです。
コンセプトとストーリーで物が売れる
中山:今僕がしているこの時計は、Makuakeを使って製造されたKnotという時計会社の製品ですが、Makuakeで売れたことによって先にキャッシュインし、銀行から初期の製造費用を借りずに済みました。さらにそれが成功のエビデンス(根拠)となって大手の販路が一気に決まり、さらにそのことがエビデンスとなって銀行がこぞって融資を申し出てくる状況になったのです。そのため、運転資金や生産ラインの増強のための資金調達もスムーズに行えました。
時計会社はもともと資金調達のためにMakuakeを使いましたが、賛同者側からすれば気に入った時計の先行予約販売に申し込んだようなもので、それがクラウドファンディングという言葉に置き換わっただけなのです。
実はこのクラウドファンディングの仕組みは、少額の資金を集められるということ以上に大きな革命を起こしています。今までは、商品の在庫がある店頭で実物を見て物を買っていましたよね。その次のステップとしてeコマースが出てきて、eコマースの普及によって実物が手元になくても人は物を買うようになりました。
今はクラウドファンディングによってその次のステップに来ていると思います。これからは、在庫を持たずにコンセプトとストーリーを掲げるだけで物が売れるようになる。反響の度合いによって在庫をコントロールし、生産体制を構築できるようになるのです。そこが、クラウドファンディングという仕組みによってできた大きなソリューションだと思っています。
中山:そうです。Makuakeでは必ずプロジェクトごとにストーリーがあるので、皆さんそこに魅力を感じるようです。例えば男性はあまり流行を気にせず、自分らしさや他の人が持っていない物を好みます。さらに賛同するプロジェクトに何か人に話せる魅力的なストーリーがあれば、それだけで1万円分ぐらいの価値がありますよね。
Makuakeで新商品をブーストさせる
中山:物を作っていない段階でクラウドファンディングを通すことで、ユーザーの反応を見ることができるのです。つまりクラウドファンディングでは、テストマーケティングとしてユーザー分析をすることもできてしまう。どのくらいの年齢層、性別、地域に売れるのか、どのような職業の人が購入するのかということが分かります。ユーザーからのコメントも残るので、マーケットとのズレを最小限に抑えることができるのです。
これによって、今までリスクがあって実現できなかった新しいプロダクトや新しいお店のアイデア、新しいコンテンツのアイデアも前に進められるようになりました。スタートのリスクを大きく下げられたことによって、お蔵入りなっていたけれど実はヒットしていたかもしれないというような物が、次々と世の中に引っ張り出されてくる状況に変わってきたと言えます。
それから、クラウドファンディングは「絶対にヒットする」というエビデンス(根拠)を付けるためにもよく使ってもらっています。お披露目の場としてMakuakeを使っていただき、それを欲っする人がお金を出す。そして製品ができたらあげるという仕組みなので、資金が潤沢にあろうがなかろうが、新商品をブーストさせていきたいという時はクラウドファンディングを使ったほうが絶対にいいと思います。
特にベンチャー企業は1、2年で成長を見せなければいけないので、ちまちまと草の根マーケティング活動をするのではなく、クラウドファンディングで一気にプロモーションしてファンを獲得し、実績を作っていくのが良いのではないでしょうか。
中山:プロダクトやウェアラブルであれば、ある程度のプロトタイプをいくつか重ねて、量産の目処がついたタイミングで使っていただくというのが一番ですね。あとは、本当にお蔵入りになりそうなくらい面白くて新しい物のほうがクラウドファンディングでは受けています。
中山:BtoCのプロダクト、コンテンツ、お店ですね。お金を出すユーザーのモチベーションは、自分が儲かるかどうかではなく、でき上がった物が欲しい、そのお店に行きたい、それが見たい、それで遊びたいというものです。BtoBのビジネスは、応援する側がユーザーになれないのでなかなか難しいですね。
逆に言うと、BtoCで新しい物を作ろうとしている人は、ほぼすべての人がクラウドファンディングを使うことができます。Makuakeでは過去に30万円くらいの3Dプリンタが3,000万円近く売れたこともあるので、高額商品でもいけますし、安い物でももちろんいけます。
一般のスーパーに売っていそうな物で新しいコンセプトの物は、まずクラウドファンディングを使ってテストマーケティングをし、商品自体の話題を作ったりファンを作ったりしてブーストさせていくともっと売れるのではないでしょうか。
狙ったターゲットに刺さるPR戦略
中山:アメーバのトップページや、アメーバが抱えているニュースメディアからユーザーをどんどん流してもらい、主に集客をしてもらっています。普通はゼロからユーザーを集めなければいけませんが、アメーバのおかげで一気にユーザーが来てくれたので、そこは非常に強みになっていますね。今後もいろいろなタイミングで連携をしていきたいと思っています。
中山:弊社のPRチームが、総力をあげてそれぞれのプロジェクトをPRしています。それぞれのコンセプトが魅力だと感じるターゲットをしっかり絞って、合いそうなメディアに情報を提供するサポートをしたりもします。
中山:さすがに何十億もかけて大量のテレビCMを打つことはできないので、ターゲットを絞り、切り口も絞ります。プロダクトに対する切り口だけでなく、例えばそのプロダクトを作った人の起業ストーリーが面白ければ、そこを切り口にしてビジネス系のメディアに刺さるんじゃないかと考えたり。Makuakeのスタッフと利用者が一緒になって、ターゲットに合った魅力的なPR戦略を練っています。
結局そのプロダクトが目立つと、お金だけに限らずいろいろなチャンスが巡って来ます。販路の側から商品を取り扱わせて欲しいと言われたり、ベンチャーキャピタルが投資を申し入れてきたり、銀行が融資を持ちかけることもあります。あるいは製造パートナーがコラボレーションを申し出ることもあったりと、いろいろなチャンスが広がります。そこも含めて自分たちのサービスなのかなと思ってやっています。
中山:基本的にはどんどん使ってもらいたくて作ったプラットフォームなので、特にジャンルは決めていません。面白い物や店、コンテンツが次々と出て行って欲しいと思っているので、新しい物をお披露目する場としてのベストツールを目指しています。
ですから、その点においていろいろな機能を追加しています。例えば最近では、どういった層にニーズがあるのかを知りたいという声が多く寄せられているので、つい最近、男女別や地域、職業などを分析してレポートするような機能を追加しました。
中山:日本の物やコンテンツは世界的に偏差値が高いと思っています。特にアニメやハードウェアプロダクト、食料品は何もプロモーションをしなくても勝手に海外から情報を取りに来てニュースに取り上げてもらえる。物によっては、海外からのアクセスが多いケースもあったりするんです。
もともと日本から新しい物がどんどん生まれて、それが世界の隅々にも使われて欲しいという思いがあったので、そこに一歩でも近づくために今後は海外の人も使いやすい機能を強化して、合わせて海外でのPRも強化していく予定です。
中山:「我こそは新しくて面白いものを作るぞ」と思っている人は、ぜひ一度Makuakeを利用していただき、一緒に事業を成長させるパートナーになりましょう。新アイデアのブースト装置として必ずMakuakeが役に立てると思っています。
(編集:創業手帳編集部)
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