クーポン戦国時代にトップ3社が話したこととは

飲食開業手帳
※このインタビュー内容は2021年07月に行われた取材時点のものです。

リクルートVS外資大手VSベンチャー。経営者と投資家の違いとM&Aタイミング

かつてクーポンの市場がブームになっていた時代がありました。グルーポン、ポンパレ(リクルート)などが覇権を争っていた時代です。その後、「実際に届いたおせちが見本の写真と全く違った」というおせち問題などでブームは収束しました。ブームの狂騒の中で、最終的にプレイヤーはどうなっていたのかを分析し、起業家の今後の戦略に役立てるシリーズ記事。第1回は、クーポン市場でポンパレ・グルーポンについで、一時3位につけていたシェアリー田中社長(現在SBIでキャピタリスト)が当時を振り返ります。当時莫大な金額でM&Aのチャンスもあったといいます。その時社長はどういう決断をし、どう起業家に活かせるのかを創業手帳の大久保が聞きました。

田中正人(たなか まさと)
SBIインベストメント投資部 部長
2007年法政大学卒業後、SBIインベストメント入社。ベンチャー投資歴12年の中で数々のIPO企業を輩出してきただけでなく、投資先企業2社で社長、CFOとしてベンチャー経営に参画し、M&Aによるエグジットを実現した経験も有する。Forbes JAPANの日本版Midas List(最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)では2018年版8位、2019年版5位、 2020年版4位に選出された。twitter→@masato611

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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白熱したクーポン市場


50万会員まで成長しバイアウトしたシェアリー

グルーポン、ポンパレ、シェアリーの3社がトップスリー

大久保:当時のクーポン市場はどういう状況だったんでしょうか?

田中:当時はアメリカのグルーポンが「世界最速の成長企業」として注目を浴びており、利益率も大きく市場も大きいとされていたので、各社がこぞって参入していました。日本ではリクルートのポンパレがありました。自分はその時に業界3位のシェアリーの社長をしています。シェアリーはSBIと光通信の資本が入った会社です。上位2社は毎月4~5億円も広告予算を使って莫大な赤字になっても事業を拡大していました。また注目市場ということで、200社ぐらい参入していました。

大久保:CMもたくさん打っていましたよね。

田中:はい。一時、テレビCMの広告日本のトップランクにクーポン2社が入るという異常に加熱した状況でした。シェアリーは最終的に約50万人の会員で月額売上高は約1億9000万円まで成長しましたが、大手2社が強すぎ、かつ業界的に赤字の構造でした。

ブームより価値提供を考えよう

大久保:結局のところ、クーポンは何がまずかったんでしょうか。

田中:ご存じの方も多いと思いますが、急拡大したひずみで「おせち問題」など消費者からの不満も出ていました。もちろんそういう面もありますが、あまり語られていないですが、自分は「飲食オーナーさんに価値提供を十分にできない構造だった」ことが大きな原因だったのではないかと思います。ここは起業家の方に今後のビジネスでぜひ考えていただきたい部分です。

上場している大物飲食経営者のHさんに直接言われたのですが、「クーポンを配布するというのは結局リピーターにつながらない。飲食店はリピーターのビジネスである」と。大流行して社会現象にもなりましたが、飲食店の成功の法則に、クーポンビジネス自体が必ずしも合致していなかったんですよね。思えば、大物と言われる経営者の参加は鈍かったと言えます。

大久保:なるほど。クーポンでは、安さを求めた1回きりの来店、つまり一見客になりがちということですね。

市場が大波か小波か考えよう

大久保:田中さんが今注目している市場というのはありますか。

田中:クーポンは市場自体が思ったほどは大きくなりませんでしたが、自分は市場には大波・小波があると思っています。ビッグウェーブは、10年に1回あるかないか。携帯、ネット、AI、EVなどがそれで業界を大きく変えて兆単位で市場ができていきます。

自分自身がクーポン業界のビジネスにいたからこそですが、この波に乗れるかどうか、波が大きいかどうか、あるいは収束してしまうただのブームなのか、そして競合がいる中での自社の位置などを、起業家は見極めて欲しいと思います。例えば今だと自分はEV業界に注目しています。自動車の巨大産業が変わる節目ではいろいろなチャンスがあります。

クーポン大手3社トップが集まって話したこととは

大久保:クーポン業界の横のつながりはあったんですか。

田中:2011年に各社が大赤字を出しながらしのぎを削っていたグルーポン市場の上位3社が六本木で会食したことがあります。業界も課題があったので色々話し合うということでしたが、グルーポンの小林雅さんとリクルートのポンパレの出木場さん、そして業界3位のシェアリーの社長の自分でしたが、印象が強烈で今でも覚えています。各社業績は急拡大してましたが、各社とも大赤字。でも毎月広告費だけで5億前前後も資金を投下しているので、腹の探り合いでした。

出木場さんが「ホットペッパーのときもだけど、うちは競合が全社潰れるまでやり続けるんだよな、困ったな」とか、雅さんが「うちはロシアの大投資家がついてるから資金はいくらでもある。田中くんはそろそろ諦めたらどう?」なんていう会話もありました。海外の大物投資家や本気のリクルートを相手に戦ってはいけない、ということを学びました(笑)。

この2社は圧倒的な強者でした。強者と言っても赤字だったんですが、採算度外視で勝負しているのでまともに戦えない。トップ企業が強すぎる場合は連合を組む、というのも手です。自分はこのままではヤバいと思い、第3極を作れないかGMO(くまポン)、ルクサ(ビズリーチ南さん)などにも連携を持ちかけたりしました。生き残るのに必死でしたね。

大久保:巨大な大手に消耗戦を挑むのは難しいでしょうね。情勢を見極めることが求められると言えそうです。

会社のM&Aも戦略や準備が大事

M&Aにもタイミングがある

田中:そんなことをしている間に、海外の友人経由でリビングソーシャル社からの巨額のM&Aの話がありました。電話会議で話をしてトントン拍子にM&Aの話がまとまったんです。でも結局こちらが蹴ってしまうんですが、今から思うと乗っておけば良かったと思います。M&Aのタイミングも難しいですよね。まだまだいけると欲張って、一番良いタイミングを逃してしまうこともある。当時は市場が盛り上がっており、買い手もお金がありました。社長である自分は、戦局が見えていたので格好のオファーだと思いましたが、一部の大株主からすると盛り上がっているクーポン市場だしまだまだいけるのではないか、ということで内部で反対され、結局流れてしまいました。

最後の最後まで粘ってしまい、他の会社でエグジットはできましたが金額は大幅に下がりました。期を逸したということです。M&Aはタイミングが大事です。

大久保:タイミングを見極めてここだと思っても、株主の反対は手ごわいでしょうね。

エグジットの作戦を立てる

田中:リビングソーシャル社のM&Aは流れましたが、その後も巨大なリクルートと外資のグルーポン2社の消耗戦に突き合わされて、もう難しいという状態になってきました。最終的に2012年に楽天に買ってもらうんですが、1年ぐらいかけて作戦を立て、買ってもらえるように準備しました。そういう意味では営業みたいですよね。

大久保:そうだったんですね。エグジットにも作戦や準備が大事ですね。

起業家と投資家は思考や成功のゴールが違う、ということを理解しよう

大久保:経営者と投資家は違うと思いますか。

田中株主と経営者はやはりものの見方が違いますね。経営者は自分のビジネスを肌感で知っていまず。純粋に金融畑で投資家出身の人はファイナンスを知っているのですが、事業を知らないケースもあります。また、オーナー経営者で投資をしているタイプの人は、物の見方はシビアですがアドバイスは役立つものが多いと思います。

ただオーナー経営者でも、自分の業界はよく知っているけれど投資先までは肌感や事業構造がわからないというケースもあります。だから経営者と株主で意見が衝突したりということもありますね。なるべく事業経験があって、その事業をちゃんと理解してくれる投資家と付き合えるといいですね。

また、起業家自身も経営者としての面と、株主としての面があります。例えば経営としては成功しませんでしたが、バイアウトで巨額の利益を手に入れたというケースもあり、クーポン市場で同業他社でそういうパターンのところもありました。

大久保:最後に起業家に向けてメッセージをお願いします。

田中:起業家の方に伝えたいことは3つあります。

  • 1つ目は自分が乗っている市場が大きくなるかどうか。これは企業努力ではない面もあり、見極めが大事です。
  • 2つ目は顧客価値。どんなにブームでも顧客価値やビジネスの原則に沿っていないと最終的に成功できません。
  • 3つ目は株主と経営者の違い。株主は起業家と微妙に観点が違う。それが決断に大きな影響を与えることがあります。

この3つを頭に入れつつ事業の成功に向かって頑張ってください。
これが自分がレッドオーシャンのクーポン市場で戦ってエグジットした中で得たことで起業家の皆様にお伝えしたいことです。

大久保:本日はためになるお話をありがとうございました。
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(取材協力: SBIインベストメント投資部 部長 田中正人)
(編集: 創業手帳編集部)



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