ゴトーラボ 後藤 洋平|プロジェクト管理のプロに聞いた、起業を成功させるコツ
プロマネという新事業を開拓した起業家に聞く、成功する起業としない起業
未知の領域を定めたゴールに向かって、軌道修正をしながらプロジェクトを成功させるためには、人の捉え方によって生じる言葉のズレや認識を一致させることが重要になります。
今回は、プロマネという新事業を開拓した株式会社ゴトーラボ 代表取締役 後藤洋平さんに取材をして、プロマネを通して起業を成功させるコツやおすすめのツールを伺いました。
1982年生まれ、大阪府出身。東京大学工学部 卒業後、(株)インクスでメーカー向け高速試作サービスの技術営業、(株)フューチャー・デザイン・ラボで新規事業開発責任者、ポーターズ(株)でカスタマーサクセス責任者などを務めた。リリース直後でクレームが頻発していたHRビジネス向けSaaSの導入コンサルティング機能を立ち上げ、国内シェアNo.1サービスにグロースさせる原動力となった。 2019年5月に株式会社ゴトーラボを設立。
著書に「予定通り進まないプロジェクトの進め方(宣伝会議)」など。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
プロマネとは何か
大久保:まず、プロマネ(プロジェクトマネジメント)とは、どのような仕事でしょうか。また、AIで自動化される可能性はありますか?
後藤:プロジェクトマネジメントは、企業や組織運営におけるプロジェクトを成功させるために、なくてはならない仕事です。そもそも「プロジェクトを始めたい」と思う動機は機械ならぬ人間が持つもので、成功か失敗かを決めるのも人間なので、AIで自動化されるのは一番最後だと思います。
大久保:起業家もプロマネの素養は必要でしょうか。
後藤:起業家にとってプロマネのスキルは必要なのかという視点から考えると、スキルが必要な人と、そうでない人で二分化されると考えています。
ビジネスチャンスを見つけ、そこにチャレンジできて、お金の流れを作れる起業家であれば、自然とプロマネのスキルがある人材が集まってきます。逆に、クライアントワークを中心とする、業務遂行能力の高さで勝負する起業家には、プロマネスキルは必須だと言えるでしょう。
大久保:プロマネは、どこにいるのでしょうか?
後藤:職業によって異なりますが、ITプロジェクトに関して言うと、一般的なIT企業であれば働いていますし、フリーランスとしても活動している方もいます。
人間の感覚に近いプロマネ管理ツール「プ譜」とは
大久保:プロマネ管理を行うのに適しているツールはありますか?
後藤:プロジェクトの規模によって変わってきます。4,5人ほどや10人以下の少人数で手掛ける短期間のプロジェクトであればエクセルやメールで管理できますが、10人~20人などのプロジェクトになると「Asana(アサナ)」や「ChatWork(チャットワーク)」など、Webベースのツールを導入したほうが効率的に回せると思います。
さらに大きな、例えば100人単位のような案件になると大規模プロジェクト用のツールが必須となります。
大久保:お気に入りのツールはありますか? そのツールの特徴も教えてください。
後藤:2021年1月に弊社がリリースした、プロマネをクラウド化しているツールの「キックプ譜」です。
上記の例とは少し切り口を変えたツールでして、プロジェクトの規模感としては、極論、100人でも1000人でもいいのですが、そのなかで、5~8人ぐらいの、本当に重要な意思決定をする人が、すばやく必要十分な意思疎通を行うのに主眼を置いたものになっています。
大久保:プ譜の発想の原点は? また、どうしてプ譜を作ろうと思ったのですか?
後藤:プロジェクトは通常、「計画通りに回すもの」というイメージがありますが、実際はそんなことは滅多にありません。
それはチームの資質や努力のせいではなく、「そもそも思い通りにならないようにできているのが、プロジェクトなのだ」と考えたのが、きっかけです。
そのアイデアのヒントとしては、将棋の羽生さんの言葉やクラウゼヴィッツの軍事理論などがありました。
彼らの言葉には意外なほど、「勝つための方法」は語られていないのです。
むしろ、「自力では勝てない」「相手のミスに助けられないと勝てない」というような、物事は思い通りには行かないという考えが前提にあります。
だとするならば、それを前提として、物事を「前進」させるツールが必要なのではないかと考えて、考案しました。
大久保:Asana(アサナ)と比較すると、プ譜は人間に近い感じがしますよね。
後藤:そうですね。一般的なプロジェクト管理ツールは、人間を歯車や機械のように捉えている感じがあります。
人間は「歯車にされたくない」と思うので、そのような世界観だと、どうしてもモチベーションが上がらなかったりすることもあります。
プ譜は発想を逆にしていて、人間中心で発想できる仕組みになっています。
大久保:プロジェクト管理において、よくある失敗パターンとそれに対する対策を教えてください。
後藤:ほとんどのプロジェクトは炎上して停滞するかなくなるかのどちらかですが、目標設定が間違っているので失敗してしまうんですよね。
「この成果物を作ればうまくいく」と思って始めるのですが、2手か3手ぐらい進めた時点で失敗だということに気がつくのが通常です。そこで軌道修正ができなければ、間違いなく失敗してしまう。
大きな企業同士の契約だと、すでに決まっている契約内容やお金、組織などの論理が原因で軌道修正が難しくなってくるのです。
大きなプロジェクトほど軌道修正までに時間がかかるので、失敗するまで突き進むか、プロマネが走り回ってどうにか落としどころを見つけて着地させるか、大体どちらかになります。
大久保:わかりやすく言うと、新幹線で札幌に行きたいのに博多まで走り始めてしまい途中下車できないといった感じでしょうか。
後藤:そうですね。世の中、本当に、そんなプロジェクトばかりです。
大久保:プ譜の構成要素のひとつにある廟算(びょうさん)8要素とは、孫子の言葉が起源ですか?
後藤:はい。孫子は「五事七計」と言っているのですが、現代のプロジェクトには過不足があるため、調整し、8要素にしました。
大久保:なるほど。この廟算(びょうさん)8要素が構成されているということは、プ譜には人間に近い判断要素が組み込まれていて、間違った方向に走っても軌道修正しやすいということですよね。
後藤:そうですね。プロジェクトは予想を超える外部要因に影響を受けてしまう。いわゆる未知の要素があるんです。例えば、一緒に働いている人のすべてを知っているかというと、そうではないですよね。
起業した人があるビジネスモデルを作りたいと思った時に、そのビジネスモデルについて熟知してるのかしてないのか、もしくは同じビジネスで成功している人はいるのかなど、未知の要素が多ければ多いほど、そのプロジェクトは危なくなります。
逆にすべての要素を熟知している場合は、そのビジネスはルーチンワークになるわけで、当たり前のように成功する。どれぐらい未知の要素があるのかを考えるのが、プ譜の8つの要素の本質になります。
大久保:人間って感じ方が人それぞれなので、同じ言葉でも誤差や定義のズレが出てしまうことがありますよね。
後藤:おっしゃる通りですね。例えば、「博多に行きたい」と言った時に、ただ遠くに行きたいのか、もしくは南に行きたいのか、天神のラーメンが食べたいのかで様々な捉え方がありますよね。
または、天神のラーメンでなくても、近場の美味しいラーメン屋で片付く場合もありますよね。いやそもそも食べたいのは、ラーメンじゃなくて、カレーライスかもしれない。そもそもなんでラーメンなのか。食べてどうなりたいのか。そういった言葉の認識を合わせていくのが、プ譜というツールです。
大久保:新幹線で博多に行く途中に危険だと感じたら、飛行機に変えることができるということですよね。
後藤:そうですね。本当にやりたいことが明確であれば、それを満たすための条件や方法は必ず見つかるはずです。ただ目的地が決まっているからといって、考えなしにそこに突き進もうとすると、必ず失敗します。
大久保:プロマネは、未知の要素が多いプロジェクトをどのようにマネジメントしていくのかという仕事なので、不確定要素をいかに減らすかがカギですよね。
後藤:そうですね。
大久保:既知の範囲を広げて打率を上げて行くようなものですかね。
後藤:おっしゃる通りです。それこそがプロマネにおける、最も大事な要素です。
最初から大成功を目指して空振りするのではなく、小さなミスと小さな得点を重ねて、未知を既知に変換し、最後に勝つ。
大久保:キックプ譜のサイトや著書でもプロジェクトチームについて触れていますが、チームを構成する上で一番大事なことは何でしょうか?
後藤:色々なプロジェクトの支援に携わっているのですが、皆さん本当に、「こんなに基本的なことで!?」と驚くような、言葉のズレがあるんです。
例えば、「ブロックチェーンを使った新しいセキュリティサービスを売り出したい」というプロジェクトがあったとして、その機能や部品の名前が独り歩きしてしまって、肝心な中身に関して認識のズレが生じていることもあるのです。
そのズレに気がつくということが、チームを構成する上で一番大切な要素になりますね。プ譜のワークショップを通して、そのズレに気づいていくことが多いです。
プ譜で根本にある問題を解決
大久保:プロマネはアメリカが発祥ですか?
後藤:いま日本で最も主流の方法論のひとつにPMBOK(ピンボック)というものがあり、これはアメリカのプロジェクトマネジメント協会が提唱しているものです。
かなり長期間の勉強と実務経験を踏まえて身につけていく、本格的なものです。
プ譜はそうしたものとは少し切り口を変えていて、より簡易に扱えるようにしているので、「今必要」という人に向いているツールですね。
大久保:今、炎上を何とかしたいという人向けですね。
後藤:まさに、その通りです。
大久保:ちなみに、炎上してしまった場合は、どのように対応したら良いのでしょうか?
後藤:炎上しているところに水をかけるのが一番良くないですね。
つまり、どちらが悪いのかについて白黒つけようとする、ということです。もめているときにそういうことをすると、さらに炎上してしまいます。
キャンプの焚き火や薪ストーブも同じなのですが、火を消すためには、酸素の供給を断つのが一番です。
大久保:「根本から問題を解決しよう」ということですね。
後藤:そうですね。炎上中は頭に血がのぼっている状態で、ミクロの視点で自分の都合ばかり考えてしまっている状態になっていることが多いです。その状態に留まっていると、永遠にダメになり続けてしまいます。
根本的な問題解決のために“見える化”する必要がありますね。
大久保:後藤さんは過去にプロマネで失敗した経験はありますか?
後藤:会社員時代は、クライアントワーク系のプロジェクトで、納期や品質の面で失敗をすることは、少なかったです。逆に、その面での失敗が少なかったということは、「完璧主義」に陥っていたところがあります。つまり、力技でなんとか着地させていたことが多かったですね。
クラシックのコンサートで例えると「独裁的な指揮者」のイメージです。主観的には、いつも成果物のレベルは80点ぐらいだなぁというモヤモヤした感じがありましたね。
指揮をしない指揮者、つまり直接手を下さなくてもひとつの目標に向かって、皆がやりたいように行動して噛み合っていくというのが最高のプロマネだと思います。起業してからは、そうなるように心がけていますが、ヒヤリ・ハットも多いですし、なかなか難しいですね。
後藤さんから起業家の方へのメッセージ
大久保:最後に、起業家の方に向けてメッセージをお願いします。
後藤:起業は人生最大のプロジェクトだと思います。自分の幸福論が社会の幸福論と接点を持つことは大事です。
自分のやりたいことと社会がやってほしいことが噛み合わないと幸せになれません。
この2つが合わさった上で、楽しくプロジェクトを進めていってください。
大久保:今日は貴重なお話をありがとうございました。
まとめ
新規のプロジェクトを立ち上げるということは、すでに成功しているルーティンとは異なり、必ず未知の要素が伴ってきます。
目標を設定して、ただそこに突き進むのではなく、途中で軌道修正しながら成功への近道を探るのがプロマネの仕事です。
今回の取材で紹介されていた、より人間の感覚に近いプロマネツール「プ譜」は、チームの中で生じた細かい言葉のズレや定義の相違などを洗い出し、チーム内で認識を一致させるというサポートを行います。
これから起業を考えている方、もしくは「すでに起業しているけど目標まで思うように辿り着けていない」という方は、ぜひ「キックプ譜」を利用してみてはいかがでしょうか。
(取材協力:
株式会社ゴトーラボ 代表取締役 後藤洋平)
(編集: 創業手帳編集部)