「種類株式」はどんな時に発行する? 柔軟な資金調達・経営戦略のために知っておきたいポイント

資金調達手帳

種類株式の概要をまとめました

(2020/01/29更新)

株式会社が発行する株式には、「普通株式」と「種類株式」の2種類あります。種類株式とは、株主の権利について、特別な条件を持たせた株式のことです。

これまで、立ち上げたばかりの会社は普通株式のみを発行する場合が多く、事業の最初から種類株式の活用を考える会社は多くありませんでしたが、最近では、急激な成長を目指すスタートアップなど、創業時から戦略的に種類株式を発行して資金調達ケースも徐々に増えつつあります。また、将来的にM&Aや事業承継を考えている場合は、種類株式の発行によって資金調達や経営の選択肢が変わってきます。種類株式の概要と、事業においてどんなケースで活用されるのかを解説します。

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普通株式と種類株式

普通株式は、株主の権利に差を設けない株式のことを指します。

これに対して、種類株式は、株主の権利について、特別な条件を持つ株式を指します。種類株式には9種類あり、それぞれ一定の事項について、普通株式よりも優先的な取り扱い、または劣後した取り扱いを受けるなど、細かく性格が異なります。

種類株式を発行する意味

会社にとっては、株主によって権利の異なる種類株式を発行することで、株主の意向で事業が意図せぬ方向に進まないよう議決権をコントロールしたり、事業の実情に合わせた資金調達をしやすくしたり、敵対的買収を防ぐなど、経営をより柔軟に進めやすくなるメリットがあります。

投資家にとっては「会社の経営に関わらず、配当だけを貰えればOK」と考える場合や、株式を持つメリットをより高めたい、投資リスクをコントロールしながら投資したい、といった細かなニーズを満たすことができます。

種類株式の発行方法

新規の発行

種類株式を新たに発行する場合は、定款を変更して、発行する種類株式の内容と発行可能種類株式総数を記載しなければなりません。

既存の普通株式を種類株式にする場合

既に発行している普通株式の一部を種類株式に転換することもできます。その場合は、まず株主総会の特別決議によって定款を変更し、次に種類株主への変更を希望する株主全員と会社の合意を取ります。あわせて、普通株式に留まる株主全員の同意を得る必要があります。

また、種類株式を発行する場合は、通常の株主総会のほかに、種類株主だけが出席する種類株主総会を開催しなければならないことも抑えておきましょう。

9種類の概要

9種類それぞれの株式の概要と特徴を解説します。

剰余金の配当株式、残余財産の分配株式

まず、剰余金の配当株式と残余財産の分配株式です。まずこの2つの種類株式には

  • 優先株式=剰余金や残余財産の配当について、普通株式より優先的な権利を持つ株式
  • 劣後株式=剰余金や残余財産の配当について、普通株式に劣る権利をもつ株式

の2種類あることを抑えておきましょう。

剰余金の配当株式は、剰余金の配当について優先もしくは劣後する株式です。通常、優先株式として発行されることが多いようです。株主に対して、普通株式よりも有利な内容で配当を受けられる優先株式にすることで、株価が高くなり、普通株式と比較して少ない発行数で多くの出資を得られるメリットがあります。

残余財産の分配株式は、残余財産分配請求権=(会社が解散する時、債務を弁済したあとに残る分配を請求することができる権利)に関わる種類株式です。こちらも剰余金の配当株式と同じように、優先株式と劣後株式がありますが、優先株式として発行されるケースが多いです。

会社が解散する際は、残余財産を普通株主に優先して分配することで、株主が投資した額を少しでも多く回収できるようにする意味があります。

また会社が解散する場合だけでなく、M&Aなどのイグジットで、株主により多くの利益を残すためにも使われます。スタートアップが、イグジットしたタイミングで、会社が解散したときと同じように株主に優先した配当を渡すことを「みなし精算」と言いますが、残余財産の分配株式で定めた分配率が、みなし精算の基準になります。つまり、この株式の優先株式を持つ株主は、キャピタルゲインを得やすくなるのです。

議決権制限株式

株主総会での議決権を制限する株式です。ある事項について議決権を持たないように一部制限する場合と、一切の議決権を与えない無議決権株式があります。

事業に関わる”特定の事項”については自社だけで決定したい場合や、株主に一切口出しされない自由な経営を求める場合などに発行されます。

議決権制限株式の数は、株式の譲渡制限を設けていない「公開会社」の場合、株式総数の2分の1以下にしなければなりません。一方、すべての株式に譲渡制限をつけている「非公開会社」は発行可能総数の制限がありません。

株式の譲渡制限についてはこちらの記事で解説しています。

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やさしく解説!定款の記載事項

投資家には、会社の経営権にはあまり関心がなく、配当収入など利益を主に求める人もいます。議決権制限株式は、例えば配当優先株式と組み合わせて、「議決権はないものの、優先的に配当を受けられるようにする」など、投資家のニーズに合わせた使い方をすることが多いです。

譲渡制限株式

すべての株式、もしくは一部の種類株式について、他者への譲渡が制限されている株式です。株主が譲渡する際は、会社の承認を得る必要があります。

すべての株式に譲渡制限をつけている会社を「非公開会社」と言います。予期せぬ人物が株主になることを防いだり、自由に譲渡できないようにすることで株式の分散を防ぎやすくなることから、多くの中小企業では譲渡制限株式を発行しています

【コラム】 譲渡制限株式は普通株式でもある?
譲渡制限株式は、今回種類株式の一種として取り上げていますが、普通株式にもなりえます。そもそも種類株式は「2種類以上の株式を発行した場合」に初めて生じる概念です。そのため、創業期に全ての株式を譲渡制限株式で発行している場合(株式の種類が1種類しかない場合)は、譲渡制限つきであっても普通株式の扱いとなるのです。

取得請求権付種類株式

株主が会社に対し、所有している株式を買い取るよう請求できる株式です。

会社は対価として現金、普通株式、社債、新株予約権など、あらかじめ決められた財産を株主に交付します。なお、会社側は請求を拒否することが出来ません

会社が決めた対価で買取りを保証することで、出資のリスクを減らすことができるので、積極的な投資に繋がりやすくなります。

取得請求権付株式を発行する際は、会社に対して株式の買取りを請求できること、対価、取得期間などを定款で定める必要があります。

取得条項付種類株式

定款で定めた一定の事由が生じたとき、株主が所有している株式を、会社側が株主の同意なしで強制的に買い取ることができる株式です。

一定の事由とは、例えば「株式公開が決まった時」、「新株を発行する際」、「会社が定めた日が到来した」など、定款である程度幅広く定めることができます。こちらも、株主への対価について金銭や社債、新株予約権、新株予約権付社債や種類株式など、定款に定めておく必要があります。

例えば事業承継を考えている企業が、一定の事由を「後継者が確定したタイミング」と定め、承継のタイミングで既存株主から株式を買い取り、後継者に新株を与えられるようにする、といった使い方が考えられます。

一方で、発行のためには株主全員の同意が必要であることに注意しましょう。

全部取得条項付種類株式

株主が持っている全ての株式を、株主総会の特別決議で買い取ることができる種類株式のこと。

特別決議が実行された場合、株主は株主としての地位を失うことになります。一方、株主を保護するため、買取価格が不当な場合は、裁判所に対して異議申し立てする権利を株主側に認めています。

例えば事業承継にあたって、少数株主の反対で株式の買取りが出来ず、経営権に影響が生じることを防ぐために全部取得条項付種類株式を発行し、承継のタイミングで株式を買い取れるようにする、といった使い方ができるのです。

全部取得条項付種類株式の扱いは、会社法上の規制があったりと複雑です。発行を検討する際には、税理士など専門家に相談するとよいでしょう。

拒否権付種類株式(黄金株)

株主総会の決議に拒否権が規定されている株式です。いわゆる「黄金株」と言われており、1株でも持っていれば、株主総会の議案に拒否権を発動できるという大きな影響力を持った株です。

例えば、経営者の交代にあたって、元経営者が黄金株を持ったまま引退することで、承継後のしばらくは、会社の重要事項に関して元経営者に発言権を残す、という使い方ができます。

影響力の強い株式なので、発行にあたっては専門家に相談するなどしつつ、慎重に行う必要があります。

取締役・監査役の選任についての種類株式

取締役と監査役を選任・解任する権利を付与した株式。この株式を発行すると、この株式を持つ株主による種類株主総会だけで役員を選任します。

こちらも黄金株同様、1株でも持っていれば役員を選任・解任することができる強い力を持った株式です。

例えば、経営者が1株だけこの株式を持っていれば、それ以外のすべての普通株式を後継者に譲渡した場合でも、取締役の決定権は経営者に残ります。会社にとって、意図せぬ取締役・監査役が選ばれるのを防ぐといった使い方が考えられます。

日本企業でも種類株式を活用するケースが増えそう

複数の種類株式を発行し、組み合わせや使い分けをすることで、株主との関係や事業の権利、資金調達方法などついて柔軟な対応が可能となります。日本の中小企業ではまだ、種類株式の発行による資金調達は認知度が高くありませんが、米国などでは、VCによるベンチャー投資に種類株式を活用するケースが一般化しており、今後日本でも増えていくことが見込まれます。

今は発行を考えていない経営者の方も、事業の選択肢を増やす手段として情報を知っておき、いざという時に備えましょう。

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(編集:創業手帳編集部)

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