【イベントレポート】投資家アニス・ウッザマン氏の提唱する『CVC4.0』とは?

ペガサス・テック・ベンチャーズの代表パートナー兼CEOのアニス・ウッザマンは、シリコンバレーを中心に世界投資を行っている。日本の大学を卒業し、世界で活躍するアニス氏は、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の新しい手法の、「CVC4.0」を提唱しています。

6月18日に、都内で「企業イノベーションを促進する『CVC4.0』の基本コンセプトと応用方法について 〜『CVC4.0』を活用する日本大手企業の生の声〜」と題して、アニス氏の講演の他、一橋大学名誉教授の米倉誠一郎氏によるオープニングスピーチ、CVC関係者によるパネルディスカッションが行われた。当日はCVCに興味のある数百名の大企業の提携・投資担当者や、投資家・金融機関、起業家、メディアなどが詰めかけました。
当日の模様をアニス・ウッザマン氏と親交のある創業手帳の創業者の大久保幸世が会場からお届けします。

米倉教授「日本は20年間停滞。これからはオープンに」


(以下、米倉教授)
自分は、今までのCVCは駄目だと言っていました。
ただ、もうそうとも言ってられない状況に日本は来ています。
それはなぜか。この20年間、韓国やアメリカは伸びています。一方で、日本は2000年台に3位だった一人当りのGDPが、今は20位まで下がってしまった。
つまり、この20年間、我々は付加価値を作っていないということです。20回留年・浪人しているようなものですよね(笑。

時価総額で圧倒される日本。理由はAIとビッグデータ。

例えば、ソニーは昨期、調子が良いと言われていて、営業利益8300億円で20年ぶりの最高益です。(サムソンは5兆4200億円の利益が出ています。)
そして時価総額上位は、未だに国営企業の民営化事業が並んでいる状況です。海外のように、「新しい会社が出てきているわけではない」という問題があります。

時価総額では、アメリカ系のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)+マイクロソフト、中国系のテンセント・アリババのセブンシスターズの合計は545兆円
日本のトヨタ、通信系、東京三菱銀行など、上位5社を全部足しても62兆円。全く及ばないわけです。

成功している会社のポイントに、「AIとビッグデータを組み合わせている」ということが挙げられます。

例えばトヨタとソフトバンクは連携しています。トヨタからしたら、どんなに素晴らしい車を作っても、車を売ったらそれっきりです。誰がどのようにローンを組んでいるのか。どんな乗り物に乗っているのか。そういうおカネに基づいたビッグデータが大事なのです。だから、 MaaS(Mobility as a Service。サービスとしての移動)で、定額制の車をトヨタが売り出しているのは、そういう事情があります。

続いてドイツのケーザー(KAESAR)は、コンプレッサー、つまり工場で使う圧縮空気のハードの会社ですが、ケーザーはSAPと組んでいる。圧縮空気のデータを握るということは、工場の状態がわかるということで、実は凄いデータなんです。こういったベンチャーが、オールドビジネスのコアな技術と結びつくと大きな変化が起こります。どうやって技術をデジタルトランスフォーメーション、データ化してオープンなプラットフォームの乗せるのかが重要です。

会社が肥大化する理由

会社の組織は、どのようにして大きくなるのでしょう?
このことについて、ロナルド・コースというノーベル経済学賞を受賞した経済学者が「The Nature of the Firm」という著書の中で、面白いことを言っています。

組織が大きくなる要素を突き詰めると

・内部管理コスト

・外部取引トランザクション

との差分になるそうです。

例えば、以前自分のいる一橋大学の組織で、守衛さんを警備会社に移管したことがあります。アウトソーシングですね。
一部をアウトソーシングすることで組織は小さくなりましたが、結果として利益は良くなったんですね。

最近は技術やアウトソーシングが進んできていますから、すべての外部取引コストが激減している状況があります。つまり外に出るメリットが従来より大きくなってきている。組織を大きくするには、どうやって外の力を使うかが大事で、それがスピードを生みます。

なぜ外部と組むとよいかというと、3つあります。


1.顧客により安く早く届けることができる
2.早く出すことで開発コストを半分に出せる。
3.早く出すことで(他社にとって)参入障壁を上げることができる

これは「早さのトリプルメリット」です。
今は世の中の進歩が早くなって、新商品導入の初期しかマージョンが取れない状況です。開発期間が短ければコストが削減されます。そして、早い算入は高い参入障壁を築くことにつながるのです。そのため、今の時代は、スピードを上げるために、いかに外部の力を使うのかが大事なのです。

「情報が蓄積された内輪のコミュニティに入る」ことの大事さ

そして、情報が蓄積されている内輪のコミュニティ、サークルに参加することが成功の前提条件です。

逆に、例えばインドネシアの会社が日本に進出する際には、東京なりに来て、インナーサークルに入りますよね。
日本から海外へ行くときもそうです。日本も海外の、一番情報が集まるところに行くべきです。
つまりシリコンバレーであったり、世界最先端の場所にアンテナをはっておくことが大事です。

令和の新しい時代です。大企業も、一人一人がベンチャーキャピタリスト、投資家のような観点で動かないといけない時代になってきていると思います。

アニス・ウッザマン「日本との縁、CVCでイノベーションを起こしたい」

(以下、アニス氏)
最初の仕事はIBMで投資を経験していました。
今はペガサスで日本と世界をつなぐ、投資の仕事をしています。
自分はかつて東工大で日本の税金、日本人のおカネで学ばさせてもらいました。そのため日本に恩返ししたいという気持ちがあります。

我々のやっている投資はCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)の仕事で、これでイノベーションを起こしたいと思っています。

CVCは事業会社の自己資金で組成されていますが、CVCも進化しています。
ここでCVCがどのように変化してきたかを解説します。

CVC1.0から4.0までを解説!

最初に生まれたCVCを、第1世代として

CVC1.0

と名付けました。
新日鉄住金、富士通が先鞭をつけています。
弱点で言うと、複数社が同じファンドに投資をしている。
GP(取りまとめの投資家)が意思決定するので、LP(おカネの出し手。大企業)の意見は尊重されにくいという面があります。

、競合になる複数の投資家がいるので協業が上手く進まない面もあります。
また、キャピタリストが、財務的リターンを追求するので、お金の出し手である事業会社が、本来やりたい戦略的なリターンは期待しにくいという面がありました。

そこで生まれたのが

CVC2.0

です。

富士通、伊藤忠、日立などが代表的ですね。
事業会社自体が単独でファンドを組成して、ファンドを子会社にすることで自由度を上げて投資できるようにした。

事業会社が自由に意思決定できるというのが強みです。
一方で、事業会社の色が強くなりすぎるという問題がありました。

また、社内の人材はベンチャーに詳しくないので案件発掘や、スタートアップの知識に限界がある。資金調達、事業提携、M&Aのアドバイスができないのです。さらに、大企業には毎年人事異動があるので、継続的なサポートをしにくいという面がありました。

そこで生まれたのが

CVC3.0

2010年初頭ごろからできてきました。NEC、オムロン、パナソニックなどが代表的です。

外部からファンドに詳しい人を雇って、ファンドを運用してもらうということです。外部から人を連れてきて社内で、運用するという形式です。

ただし、これも問題があり、スタートアップからすると、本命の大きな会社はアイディアを取られてしまうリスクも有るため、逆にスタートアップが警戒して近寄らない。初期で資本を入れられてしまうと、身動きが取れなくなってしまうということです。そのため、本当に良いベンチャーは避けてしまいます。

そこで今、提唱しているのが

CVC4.0

です。

アイシン、双日、サニーヘルスなどが取り組みを始めています。

大企業が出資する外部のファンドで、外部のエキスパートがファンドマネージャーがGPとして運営します。
プロが運営しながら、大企業の意思決定の元、ファンドを運営しているので、活動の幅が広がり、事業提携にも最適な構成であると考えています。

投資の目的は、大まかに分けると4つほどあります。

・財務的な目的で投資をしたい
・代理店をやりたい
・自分たちのプロダクトに組み込みたい
・場合によっては買収したい

例えばペガサスでは、世界で年間8000件の案件を扱っています。
事業会社からすると、結構なアイディア数になり、トレンドを知ることができます。

デューデリなどの審査は、ペガサスがやり、事業会社は、お互いを見てパートナーシップを組んでいきます。
そして、世界中の投資家のネットワークがあるため、資金調達をしながらエグジットできるようにしていきます。

大企業の場合、意思決定が海外のスピードに間に合わないというケースが多いです。
1週間以内の投資決定が求められるようなケースが普通にあります。
そのため、3000万円未満であれば1週間以内に決定できるなど、明確な基準を決めています。

唐揚げをつまめるAI付きのロボットアーム!?

世界中で数多くの投資をしてきた感想でいうと、2019年の流行りは、製造現場のAI付きロボットです。

意思決定をロボットにさせる自律型のロボットアームのOSAROは注目です。
イノテックが10億円のシード投資をしています。

自分が学んでいた東工大では、僕が生きている間は実用的な自律的ロボットはできないと言っていました。
日本では不可能と言われましたが、サンフランシスコ初のスタートアップ「OSARO」に「AIのロボットアームで、弁当の唐揚げを掴ませて、弁当を作るというトライをやって実用性をテストしてみたい」、とオファーしてみたところ「6ヶ月後にできる」と返信が来て、実際に出来上がりました。国際食品展示会でブースに出してデモをして、大変な反響、騒ぎになりました。大手からも注文が入りました。

日本と世界の差で言うと、US、イスラエルは教育機関が揃っていて、投資家に至ってはシリコンバレーだけで700人います。
世界の主要な投資家の90%がシリコンバレーにいるわけです。
そのため、アイディアとお金の両方がある

実は先程のロボットのOSARUの競合は、日本にもありました。ただし、おカネの面で、海外が進んでしまったという結果になりました。

今後は日本も、お金の面、アイディアの面で遅れを取らないようにしないといけません
海外の技術、イノベーションに参加する手段として、ペガサスのCVC4.0が役に立てば、と思っています。

最後にアニス・ウッザマン氏から創業手帳読者にメッセージ
創業手帳を見ている起業家の皆さん、今は世界はどんどん変化しています。
日本のやる気のある起業家の方がチャレンジできるイベントを整えています。
今年もスタートアップワールドカップをやります。一緒に世界を変えていきましょう!

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セミナー概要
日時:2019年6月18日(火) 14:45開場、15:00開演、17:00懇親会、18:00終了  
会場:TKP東京駅大手町カンファレンスセンター
住所:〒100-0004 東京都千代田区大手町1-8-1 KDDI大手町ビル 22F
対象:日本企業のイノベーション創出関連部署に所属する方 (日本企業の経営企画部、新規事業部など)
主催:Pegasus Tech Ventures

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(編集)創業手帳・創業者 大久保幸世

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