LITA 笹木 郁乃|浅田真央×エアウィーヴの影の立役者が伝授!お金をかけずに効果を生むPR方法【その1】

創業手帳
※このインタビュー内容は2020年03月に行われた取材時点のものです。

【PR全体編】すぐにできる!効果的なPRをするために知っておくべきポイント

(2020/03/24更新)

エアウィーヴといえば浅田真央さんを連想する方も多いのではないでしょうか。国民的アイドル浅田真央さんをイメージキャラクターにして、売り上げを大幅アップさせた影の立役者が、今回ご紹介する笹木郁乃氏です。

無名のベンチャーだったエアウィーヴを国民のほとんどが知る企業にまで導いた手法はどんなものなのでしょうか。このたび、創業手帳に向けてご自身の持つ広報のノウハウを語ってくれました。

第1回目はPR全体編です。PRが大事だとはわかっていても効果的な広報の方法となると悩んでしまうのではないでしょうか。自分のやっているPRに手ごたえを感じないならば、何かがずれているのかもしれません。ぜひ、笹木氏の視点を参考にしてみてください。

創業手帳の別冊版「広報手帳(無料)」では、広報の大まかな流れなど、販路拡大に必要なノウハウが掲載されています。あわせてご活用ください。

笹木郁乃

笹木郁乃(ささき いくの)株式会社LITA 代表取締役、PRプロデューサー

「PRをより身近に、PRの力で人生に感動を」を信念に活動を続ける。山形大学工学部機械システム工学科を首席で卒業後、「アイシン精機株式会社」に研究開発職として勤務。さらなる自分の可能性に挑戦するため寝具メーカー「株式会社エアウィーヴ」へ正社員1人目として転職し、営業・マーケティング・PRを兼務。社長と二人三脚でPRの力で年間売上1億円の会社を5年で115億円へと急成長させることに貢献。その後数社を経て現在は独立し、PR講師として3年で1200名の起業家・経営者に指導する実績を持つ。「0円PR」(日経BP社)が好評発売中。

※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください

浅田真央さんとエアウィーヴの出会いまでの長い道のり

ー浅田真央さん×エアウィーヴの成功事例は笹木さんも関わったそうですね。どういうきっかけでうまれた企画なのでしょうか

笹木:今ではエアウィーヴと浅田真央さんのイメージが皆さんに強く印象づいていると思いますが、最初から浅田真央さんに使っていただけるようになったわけではありません。そこに至るまでには階段を1段ずつ登ってきたという感じです。

最初のころ、エアウィーヴは、たとえ店頭に販売員が立ちお客様を一生懸命呼び込んだとしても、隣の有名なブランドには勝てないのが現状でした。まったくの無名メーカーですから当然とも言えます。

この時、私たちはエアウィーヴを有名にする必要性を強く感じました。

有名にするために最初にとった行動は広告を出すことです。しかし、やみくもに広告を出したところで、エアウィーヴに興味を持ってくださる方々はなかなかいませんでした。

一体エアウィーヴには何が足りないのか。商品力には絶対の自信がありました。そこで、「エアウィーヴというブランド価値を高める!」ということに行きついたのです。

ではどんなブランド価値にするかというと、「オリンピック選手が使っているのはエアウィーヴ」そんな価値を創り出そうとしました。

できるところから始めようとして着目したのは口コミです。そこで、オリンピックの選手とも関わりの深い、トレーナーの方に使用してもらおうと考えました。トレーナーに認めていただければ、選手の皆さんにも伝わるのではないか。そう思い、社長とともに地道にプレゼンをしていったのです。

そして1人ひとりに丁寧にエアウィーヴの特徴について説明していったところ、皆さんにとても気に入っていただけました。最終的にはトレーナーの方の間で口コミが広がり、ついに浅田真央さんが実際に使ってくださる、という結果にいきついたのです。

このように、少しずつ進んでいきました。最初から有名人と契約し、契約費用を払えるような大きな企業ではなかったのです。

この後は、浅田真央さんに使っていただいているということを、PR活動で積極的に伝えることで、メディアに紹介されエアウィーヴが認知され、現在のように多くの方にご購入いただけるようになりました。

ーエアウィーヴは浅田真央さん起用のPRで売上が115倍になったそうですね。エアウィーヴにおける広報の効果を時系列で教えてください。

笹木
2008年:北京オリンピックで競泳の北島康介さんや陸上の選手に使っていただく。
しかし、メディアPRを行なわなかったため、広がりを見せず。

2010年:浅田真央さんや上村愛子さんにご利用いただく。
その際はメディアPRを積極的に行い、売上が4倍となり、約4億になる。

2011年:航空会社のファーストクラスや旅館加賀屋で導入していただく。
このタイミングで浅田真央さんとの契約を結ぶことができ、このような実績がメディアでも話題になり、売上11億へ。

2012年:文科省から、ロンドンオリンピックでオリンピック選手を支える国指定マットレスとして認められる。
小さな愛知県の町工場が、日本のメダリストの眠りを支えるとメディアで話題になり、また話題になるようPR活動をしたことで年商54億円となる。

2013年、2014年: 実績作り✖PR✖広告 の作戦で、さらに売上は伸びる。

2013年:売上90億円。

2014年:売上115億円達成。

ー浅田真央さんのような有名人をベンチャーで起用するのは難しいです。ベンチャーができるPRはどこから始めればよいでしょうか。

笹木:まずは小さな実績をコツコツと丁寧に積み上げていくことが必要です。

どんな商品にも何かしら実績はあるはずです。これまで商品を買ってくれた顧客リストの中を見ていくことで答えはおのずと見えてくると思います。

例えば「隣町の町内会長さんがリピートしてくれているな」とか、「駅前のビジネスホテルが使ってくれているな」とか。それだけでも気づくのと気づかないのでは、大きな差が出てきます。そしてコツコツと積み上げていった実績をメディアにアピールすることからスタートするのが大事です。

私が主催しているPR塾でも必ずその部分を受講生の皆さんに伝えるようにしています。そして実践された方の中には、NHKなどに取り上げられ、講演会の依頼が来たり、事業拡大に繋がった卒業生も多数います。

笹木さん主催のPR塾の様子笹木さん主催のPR塾の様子

広報と広告の違いは、ベクトルの向きが多方向か一方通行かの違い

ー広報と広告の違いとは何ですか?

笹木:広報と広告の違いに関しては、どこに矢印が向いているのか、そこに違いがあります。

広報は第三者に「いいね!」と言ってもらえる口コミの連鎖を作る活動です。自分が知らないどこに住んでいるかも分からない不特定多数が「この商品、いいね」「この会社、いいね!」などと言ってくれる状況を作り出す活動のことを言います。そこには、基本的にはお金は介在しない。「いいね!」と思う気持ちと、人の心だけが介在します。

それに対し、広告というのは、会社が自分で広告料というお金を出す代わりに好きなように情報を伝えることができます。「うちの商品や会社はこう見えて欲しい!」という願望を、広告で表現するのです。売り手の会社が情報をすべてコントロールして発信することができますが、それはあくまで会社から個人への一方通行のコミュニケーションです。

このSNS時代において、信頼を積み重ねていく「広報」なのか、自分たちでコントロールする「広告」なのか。この差は大きくあると考えています。

現代にマッチしたマーケティング理論「AISAS(アイサス)」

出典:「0円PR」笹木郁乃著/出版:日経BP出典:「0円PR」笹木郁乃著(日経BP)より
ー著書の中で述べている「AIDMA(アイドマ)」と「セブンヒッツ理論」とは何ですか

笹木:「AIDMA」と「セブンヒッツ理論」はかつてマーケティング業界の教科書的な考え方の1つでした。

まず「AIDMA」は
A: Attention (注目)
I: Interest (興味)
D: Desire (欲求)
M: Memory (記憶)
A: Action (購入)
この頭文字です。

例えば、「笹木さんはペンを売っているんだ」と知ってもらうのが「Attention」。その次に、「笹木さんのペン、どういう機能があるのだろう」と「興味」を持ってもらうのが「Interest」。

さらに「このペン、ちょっと欲しいな」と、「欲求」を持ってもらうことが「Desire」。そうこうしている内にペンが頭に残りますよね。こうして「記憶」を持ってもらうのが「Memory」です。

そして、実際に「購入」という行動に至るのが「Action」。

これが「AIDMA」の理論と言われており、この理論に基づくものが「セブンヒッツ理論」です。

「セブンヒッツ理論」は、人は同じ商品の情報に7回接すると、購入の確率が格段に上がると言われるものです。

しかし、かつてはこの「AISMA」と「セブンヒッツ理論」の理屈が通っていたのですが、今では「特定商品の情報に何回接しようが、記憶に残らないものは残らない」となってきました。なぜなら情報過多の時代。身の回りの情報は10年で530倍にもなっていると言われています。

そこで新たに言われているのが「AISAS(アイサス)」という理論です。

A: Attention (注目)
I: Interest (興味)
S: Search (検索)
A: Action (購入)
S: Share (シェア)
と続きます。

今の消費者は、商品やサービスの興味を持ったら、まずネットで「検索」してみる。これが「Search」。例えば、Amazonでレビューを見て星が何個ついているかをチェックします。すでに興味がある状態で「検索」をかけているので、4・5といった高評価であればその星の数が後押しとなり購入(Action)する傾向にあります。

このように今は第三者の意見や口コミを非常に重視します。情報や選ぶ商品、サービスが多すぎて、自分の頭では処理しきれないのですね。だから、ネットに蓄積された「第三者の評価」というデータベースに基づき、購入(Action)します。そして、その商品を買ってみて使ってみてどうだったかということをSNSに書き込みます。これが「Share」です。

「この商品はよかったよ」ということはもちろん、「この商品はダメだった」といったことまでシェアされて、口コミされて、拡散されてしまうのが今の時代です。このSNS時代で重視する必要のある理論が「AISAS」ということです。

現代の情報が多い時代に意識していくのは「AISAS」理論。そこに基づき、PR活動を行うことが今の時代に適しているものです。

情報過多の今、PRの肝は口コミなどの「実績」にあり

ー記憶に残る商品紹介と記憶に残らないものの違いはどこにありますか

笹木:違いは、「実績」を伝えられているかどうかだと思います。

商品紹介の場となると、その商品の特徴をまず伝えなければ、と思うかもしれません。しかし、同じような特徴の商品というのは多数あるのではないでしょうか。そうなった時に、埋もれずにお客様に興味を持ってもらうためには、とにかく固有の「実績」を提示していくことが重要です。

売る本人ではない第三者が、いかにあなたの商品、サービスを評価しているのか、というのは「実績」であり、「最も信頼できる品質保証」となるのです。

実績を伝えることで、例えその商品名を聞いたことがなく、興味がなかったという人も「なんだろう?」と興味を示してくれるようになります。すでにその時には「実績」が「信頼できる品質保証」となっているので、お客様が次のアクションを起こしやすくなります。

記憶に残る商品紹介とは、人の次の行動を引き起こしてこそ、意味のあるものとなります。そのためには1に実績、2に実績。これが何より重要ということです。また、こうして実績を重ねてくと、商品やサービスはしっかりとしたファンを持ち、会社の土台は強くなっていきます。

ーPRで伝えるべきことはなんですか。情報をたくさん入れればいいですか

笹木:変化、景色、実績、ストーリー。PRにおいてはこの4つを伝えるべきだと考えています。

「変化」

まず、商品やサービスを購入する時、お客様は何を期待しているのか。それは「変化」です。商品を買ったことをきっかけに「自分自身がAという状態からBという状態へ変化する」ということを求めています。人が何かを欲しがる動機は基本的にすべて、この「変化したい」という感情に基づいています。「変化」によって得られるベネフィットが欲しい。だからこそ、必ず言語化してほしいポイントになります。

「景色」

さらに、変化したあかつきには、どんな「景色」が待っているのかもお客様にイメージできるようにしてもらいましょう。B地点から見える景色を言語化します。こうした「景色」は「変化」とは違って、お客様に対する「約束」ではありません。変化の先に待っているかもしれない「可能性」であり、その「可能性」を「景色」として見せてもらうと、お金をかけたいというワンランク上の欲求が生まれてきます。

「実績」

なんどもお伝えしているように「実績」も必ずPRでは伝えるべきポイントです。お客様に「変化」「景色」を見せられたことによって、あなたの商品、サービスが顧客に選ばれたなら、それは実績になります。さらに選んでくれた顧客に変化があればそれも実績。そこから見えた新しい景色も実績になります。

「ストーリー」

今までご紹介してきた3つのことに関しては、実のところ、競合他社も似たようなものを提供できる可能性が高いです。そこで「ストーリー」。このストーリーは、あなたの会社にしかない、唯一無二のものです。

ストーリーとは
・なぜその事業(商品やサービス)を始めたのか
・その事業に対する並々ならぬこだわり
・事業が成功する(軌道に乗る)までの苦労
・成功した実績(顧客の反応など)
・今後の夢
といった、あなたの商品、サービスにまつわる様々なドラマのことです。

商品そのものはまねできても、ストーリーはまねができません。そう考えれば、ストーリーは唯一無二のPRポイントになります。

ストーリーは多くの人の共感を呼ぶものですし、特にメディア向けのPRでは強いフックになるものです。雑誌や新聞、テレビなどのメディアはストーリーが大好き。それはストーリーがあると記事や番組のコンテンツが作りやすいからです。ストーリーがあるとメディアで取り上げられる確率もグンと上がります。

ただ情報をたくさんつたえるのではなく、「第1に変化。第2に景色。第3に実績。第4にストーリー」これが大切です。

次回は、プレスリリースがテーマです。

「冊子版 創業手帳」では、起業家のリアルな経験が読める記事を掲載しています。ご利用は無料です。

関連記事
ロンドンで活躍する起業家クラウリー利恵から学ぶ。プロモーションの重要性とは
ニュースキャスターが実践している広報のコツ

(取材協力: 株式会社LITA 代表取締役 笹木郁乃
(編集: 創業手帳編集部)



創業手帳
この記事に関連するタグ
創業時に役立つサービス特集
このカテゴリーでみんなが読んでいる記事
カテゴリーから記事を探す