ZVC JAPAN 下垣典弘|「Zoom」が目指す理想の未来。ITの領域を超え、世界中の生活を支えるプラットフォームへ

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年06月に行われた取材時点のものです。

多くのテクノロジー企業の経営を改革したプロフェッショナル経営者が語る、「Zoom」で実現する最先端のインフラ


コロナ禍の影響で急速に浸透したオンラインコミュニケーションツール。リモートワークの環境下でも顔をあわせながらミーティングや商談が可能になるなど、これまでのビジネスの在り方まで大きく変えることになりました。

なかでも「Zoom」は、世界中の企業や個人から信頼を得ているコラボレーションプラットフォームです。

2022年4月1日、「Zoom」のコミュニケーションソリューションを提供するZoom Video Communications(以下ZVC)の日本法人であるZVC JAPANの代表取締役会長に就任した下垣さんは、同社のカルチャー「Delivering happiness(すべての人に幸せを届ける)」をもとに「ITの領域を超え、世界中の生活を支えるプラットフォームへと進化した」と語ります。

今回は下垣さんの代表に就任するまでの経緯をはじめ、ZVCのカルチャーや「Zoom」が目指す世界観について、創業手帳代表の大久保がインタビューしました。

下垣 典弘(しもがき のりひろ)
ZVC JAPAN株式会社 代表取締役会長兼社長
2023年3月、ZVC JAPAN株式会社 (Zoom Video Communications, Inc.の日本法人) の代表取締役会長兼社長に就任。2022年の入社以来、Zoomの日本展開におけるさらなる成長と戦略をリードし、Zoomの日本におけるビジネス全般を取りまとめている。ZVC JAPANへの入社以前は、AI検索のクラウドプラットフォーム Yextで社長兼COOとして、過去2年間の間、日本市場向けの新しいテクノロジーの発展と、ビジネス拡大に貢献。またそれ以前には、Amazon Web Servicesにてエンタープライズ・セールス部門のディレクターとして、クラウド技術によるクライアントのビジネス変革を先導。日本オラクルで専務執行役員を6年間、IBMにてインフォメーションマネジメント事業やIBMビジネスコンサルティングサービスで執行役員パートナーを歴任して24年間勤めた。かねてから、スタートアップ企業育成に情熱を持ち、一般社団法人日本スタートアップ支援協会の顧問としても活動する。明治大学卒業、出身地岐阜県。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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IT業界の勃興とともに活躍を続けた“業界の生き字引”。多彩な実績を活かしZVC JAPANに参画


大久保:下垣さんは明治大学をご卒業以来、長年IT産業において多大な貢献をされてこられました。もともとIT業界にご興味があったのでしょうか?

下垣:学生時代は「雑誌やドラマをつくる仕事がしたい」と考えていましたので、正直に申し上げると「IT産業とはなにか?」すら理解しておらず、まさか30年以上もテクノロジー企業の経営に携わる人生を歩むなんて想像もしていませんでした(笑)。

大久保:IT業界での輝かしいご経歴からすると、ものすごく意外な学生時代だったんですね(笑)。ファーストキャリアは日本アイ・ビー・エムで、現場でのご経験を経てインフォメーションマネジメント事業やIBMビジネスコンサルティング事業で執行役員パートナーを歴任しながら24年間勤めていらっしゃいますね。

下垣:私の入社は1986年で、ちょうど前年から大量採用が始まった時期でした。採用してくれた会社に貢献しよう!という決意で邁進した新人時代でしたね。

IBMでは長く電力事業を担当したのですが、入社した当時は新規顧客開拓に携わっていて、その頃はパソコンもなく、企業名と代表者が記載された帳票のような大量の書類をもとに営業活動をして新規獲得を行っていました。

パッケージソフトウェアが市場に登場するずっと前、「ソフトウェアは開発してお客様にご提案するもの」との概念が当然とされていた時代で、一言で言うと「お客様の業務を整理する」というのが大きな役割でした。

この時期の経験が、私のキャリアに好影響を与えてくれています。案件を通じて出会った多くの経営者の方々から教えを授けていただいたり、サービス展開する過程で経理から財務、売上、生産管理に至るまで、会社という組織における主な領域を深く勉強することができました。

大久保:まさに「IT産業はこれから主要ビジネスになる」という時代から携わってこられた生き字引のような存在ですね。IBMを退社された後、オラクルやAmazon Web Services、Yextに参画されていますよね。

下垣オラクルではGroup Vice Presidentを6年間務めています。創業者のラリー・エリソンマーク・ハードが直接的にコーチを行いながら非常に懇意にしてくれたおかげで、ダイナミズムあふれる経験を得ることができました。

Amazon Web Servicesではエンタープライズ・セールス・ディレクターとして、クラウド技術によるクライアントのビジネス変革を牽引。その後、IBMの大先輩である宇陀栄次さんからお声がけいただき、Yextの社長兼COOに就任しています。

そして2022年4月1日にZVC JAPANの代表取締役会長に就任しました。

大久保:本当に素晴らしいご経歴ですね。日本スタートアップ支援協会の顧問も長く務めていらっしゃいますが、これからの時代を支える起業家を支援したいというお気持ちがあってのご決断だったのでしょうか?

下垣:はい。新経済連盟の立ち上げをオラクルのラリー・エリソンが支援していたことや、私自身が交流していた方から代表理事の岡隆宏さんをご紹介いただいたことが同協会の顧問を務めるに至ったきっかけです。岡さんの「自分の経験や失敗を役立てていきたい」という想いに強く共感しました。

やはり私自身、これまで諸先輩方からサポートをいただき成功することができたという感謝が常にありますので、未来を担う起業家の方々をバックアップしたい気持ちをずっと持ち続けています。岡さんとはすでに10数年にわたってご一緒していますね。

創業者兼CEO エリック・ユアンによる「Delivering happiness(すべての人に幸せを届ける)」


大久保:「Zoom」というサービスは、創業者のエリック・ユアンさんが学生時代に体験した困りごとの解決から発想を広げてビジネスモデルを構築したプラットフォームだそうですね。

下垣:中国の大学生だったエリックと、現在の奥様でもある当時の彼女が電車で片道10数時間離れた遠距離でお付き合いをしていて、毎週のように彼女のもとへ会いに行っていた熱心な彼が「もっと気軽にコミュニケーションを取れる手段はないだろうか?」という想いからサービスの着想を得たのが「Zoom」です。

弊社のカルチャーは「Delivering happiness(すべての人に幸せを届ける)」。「新しいテクノロジープラットフォームを活用し、多くの人の悩みや困りごとを解決して幸せをお届けしよう」という理念で運営しています。

弊社は「競合他社との競争に勝つために製品開発を行っている」というより「本当に良いものをいち早く取り入れ、製品化し、お客様の声に耳を傾けながらさらなる改善を行う」を実践している会社です。

大久保:エリックさんご自身の原点を忘れずに、世界中の人々を幸せにしたいという純粋な熱意が原動力なんですね。

下垣:おっしゃる通りです。エリックの才覚や実績はもちろんですが、彼の豊かな人間性が企業カルチャーに大きく影響しています。

とにかく常にカジュアルでフレンドリー、そして優しく謙虚です。世界的な大成功を収めた経営者のひとりですが、移動の社用車ではいつも助手席に座りますし、会食の際も相手をホテルまで送り届けるなど、本当に誰もが驚くようなエピソードに事欠かない人物なんですよ(笑)。

そして事業推進を行ううえで彼が最も大切にしているのが「お客様の声を重視し、真摯に向き合う」ということ。

ポジショントークとして「カスタマーボイスを大事にしないといけない」と提唱する経営者は少なくありませんが、彼は昔から常に実践してきました。事実、昨年お客様からいただいたフィードバックに基づいて2,000件以上の機能改善を実施しています。

エリック自身が「良いものをつくれば、必ずマーケットが応えてくれる」と信じていますので、当然のことながら弊社にはその姿勢が浸透しています。私自身、彼の考え方や生き方に共感して参画しました。

私は経歴上、さまざまな素晴らしい経営者とあらゆる仕事をたくさん経験してきましたし、お会いする機会も多かったですが、彼はこれまで会ったことがない類稀なるタイプのリーダーですね。

そしてこの「Delivering happiness(すべての人に幸せを届ける)」というカルチャーが、ZVCの日本法人であるZVC JAPANの従業員一人ひとりから感じられることを、心から誇りに思っています。

強固なインフラを目指す。地震大国を支え、少子高齢化の課題まで解決するZVCの挑戦


大久保:すでに「Zoom」は世界中で利用されていますが、ITサービスというより、多くの人の生活に根ざした唯一無二のプラットフォームという印象があります。

下垣:ありがとうございます。弊社ではITの領域を超え、国や地域を問わず世界中の方々の生活を支えるプラットフォームへと進化したという自負があり、従業員にとってもものすごく大きな力になっています。

そしてそのご期待に常に応え続けていく使命があると考えているんですね。「すべての生活者・国民にとっての、ラストワンマイルのプラットフォーマーであり続けたい」という強い想いを抱いています。

大久保:日本国内でも政府や省庁、各自治体と連携しながら、未来のインフラづくりのためにご尽力されているそうですね。

下垣:日本は今後、人口減少がさらなる課題となってきますので、地方にお住まいの高齢者を中心に新たなコミュニケーション手段を確立する必要に迫られています。

そこで弊社では、これはあくまでも一例ですが、テレビを活用し災害時の安否確認や情報伝達にも役立つインフラ設計など、あらゆる角度から支援を提案しているところです。

なぜテレビなのか?というと、携帯電話を使うことができない高齢者が少なくないからです。特にその年代は「テレビは日常的に見る」という方々が多いので、馴染みのあるテレビという媒体を利用したサービスが地域社会を支える手段になると考えています。

大久保:地震大国の日本にとって、災害時の強固なインフラは命綱になりますよね。

下垣:はい。東日本大震災発生時、固定電話線が壊滅した一方で、インターネット網が生きていたという事例がありますので、弊社としては喫緊の課題として取り組んでいます。

Webミーティング機能にとどまらず、包括的なサービスを提供する「Zoom」の強み


大久保:Zoom Meetingsを「Zoom」のイメージとして捉えている方々にとって、先ほどお話しいただいた地域社会を支えるインフラ構築をはじめとする活動は新鮮な驚きを覚えるかもしれませんね。

下垣:確かに一般的に最も活用されている機能が、Web会議ができる「Zoom Meetings」ですからね。

大久保:現在、そして今後ユーザーが利用することができる「Zoom」のサービス内容についてお聞かせいただけますか。

下垣:弊社では「ZoomのUCaaS(Unified Communications as a Service)プラットフォーム」として、包括的なコラボレーションのためのサービスを提供しています。

一番メジャーな「Zoom Meetings」をはじめ、「Zooom Webiners」「Zoom Phone」「ZoomTeamChat」「メール」「カレンダー」など多彩な機能を搭載。これらに加え、さらに新たな機能が日本のユーザーにも順次ご利用いただけるようになります。

たとえば「10名でミーティングを実施する」となったときに、それぞれが異なるスケジューラーを利用しているとセッティングまでの調整がものすごく大変ですよね。そこで「Zoom Meetings」と「カレンダー」を連携してお使いいただくと、参加者10名の空き時間を即座に確認してオファーすることができます。すべて「Zoom」が自動で行いますので非常に便利です。

それから「Zoom Meetings」「Zoom Webiners」は画面の録画が可能ですが、録画した画像をカテゴリーやトピックスごとにAIが自動的に整理するという機能もご用意しています。

ユニークなのが「ZoomIQ for Sales」です。主にセールス担当者の技能向上を目的としたAIを活用した新たな機能で、たとえば「Zoom Meetings」を使った取引先との商談を録画すると「アイスブレイキングが足りなかった」「◯◯に関する質問が少なかった」というように、あとでAIが分析してセルフコーチしてくれるんですね。こうした分析は、今後の日本におけるリスキリングを成功させるうえで欠かせないと考えています。

大久保:どの機能もものすごく便利ですね。

下垣:まだ日本ではリリースされていない機能もありますが、ひとつずつ日本語化しながらご提供しているところです。いずれは「ひとつのプラットフォームとして集約していく」という方向性でプロダクト開発を続けています。

豊かな世界の実現のために、情熱や大志を抱く起業家と“面白いこと”をやっていきたい

大久保:最後に、起業家に向けてメッセージをいただけますか。

下垣:個人的に私は「なにを目的として、それをやるのか?」ということがものすごく重要だと考えています。

もちろん「お金のため」もありますが、それでは息切れしてしまって続きません。

世の中をより良く変えていくためには、情熱や大志を抱くことが大切です。そういう人間たちがより良い社会を実現しますし、私自身も常にそうありたいと思っています。

ただし、日本に限定した視野や価値観では通用しません。「日本をグローバル化しながら成長させていく」という強い意思を持つ必要があります。

そしてその仲間が集まり、力をあわせることで、豊かな世界ができていくのではないかなと。

今年で還暦を迎える私の年代になってくると「あと何回、夏休みを過ごすことができるだろうか?」と思い巡らす瞬間が増えるんですね。だからこそ常に「誰と、どう過ごすのか?」に重きを置いています。

お互い刺激を与え合いながら、“面白いこと”をやっていきたい。やっぱり人生にとって、それが最高なのかなと思うんですよ。

先ほどお話ししましたが、私は長年日本スタートアップ支援協会の顧問を務めておりますので、ぜひ多くの起業家の方々と一緒に“面白いこと”ができたらと考えています。お互いに最高の人生にしていきたいですね。

創業手帳(冊子版)では、さまざまな起業家のインタビューを掲載しています。無料での配布になりますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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(取材協力: ZVC JAPAN株式会社 代表取締役会長兼社長 下垣 典弘
(編集: 創業手帳編集部)



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