Yondemy 笹沼 颯太 |学生起業家が開発した習い事アプリ。読書しない子どもが月平均25冊の本を読むように

創業手帳
※このインタビュー内容は2025年04月に行われた取材時点のものです。

子どもを読書好きにする仕掛けは、レベルに合わせた選書にあった


株式会社Yondemyは、子どもが読書にハマるオンライン習い事「ヨンデミー」を開発・運営しています。同社の代表である笹沼さんは、自身がバイト先で感じた「子どもが本を読まない」という課題を解決しようと、東京大学在学中に起業しました。

「ヨンデミー」を利用すると、読書をしなかった子どもが、平均で月に25.6冊もの本を読むように。その秘密は、子ども一人ひとりの好みや読書レベルに合わせた選書や、ゲーム要素を取り入れたやる気を引き出す仕組みにあるといいます。

そこで今回は、創業手帳代表の大久保が、起業の経緯やアプリ開発の方法、他業種との協業について笹沼さんに伺いました。

笹沼 颯太(ささぬま そうた)
株式会社Yondemy 代表取締役 / CEO
1999年生まれ。千葉県出身。2018年に筑波大学附属駒場中高を卒業後、東京大学文科二類に入学。
2020年に東京大学経済学部経営学科に進学するとともに、株式会社Yondemyを設立。
ヨンデミーの開発・運営を行う他、「おうち読書のミカタラジオ」も運営し、Podcast子育てカテゴリ1位を獲得。
2024年5月に『東大発!1万人の子どもが変わった ハマるおうち読書』を発売、
2024年度の青少年読書感想文コンクールでは課題図書の紹介動画を制作・提供するなど、子どもの読書体験を支える活動を幅広く展開している。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大久保:東京大学に在学中に起業をされたのですよね。もともと起業しようとお考えだったのでしょうか?

笹沼:いいえ、起業するつもりはまったくありませんでした。会社を立ち上げたのは大学3年生のときなのですが、それまでは就活をするつもりで、公認会計士の試験勉強もしていました。

大久保:では、この事業を始めるきっかけがあったのですか?

笹沼:家庭教師のバイトがきっかけになりました。生徒の保護者から「先生は、小さい頃どんな本を読んでいたのですか?」「どうやって本を好きになったんですか?」と聞かれることがたびたびあったんです。

「どうしてそんなことを聞くのかな」と思っていたら、子どもが本を読まないことに悩んでいると。国語はもちろん算数や理科・社会でも、文章問題が解けないために、勉強を苦手だと感じている子どもが多いのだと知りました。

ちょうどそのころ、僕は英語多読の塾で読書指導をしていたので、自分が解決できる課題ではないかと考えて起業しました。

大久保:現場で課題を見つけたのですね。

笹沼:実は、僕自身は子どもの頃から本をたくさん読んでいたので、勉強で苦労したことはありませんでした。だからこそ、「こんなに本を読まないんだ」と、自分とのギャップに驚きましたし、僕にできることがあるならやってみようと思いました。

大久保:動画を見るのとは違って、読書にはある程度の訓練が必要ですよね。

笹沼:動画は視覚的に情報が入ってきますが、「読む」という行為は、文字を通して想像しなければなりません。それが子どもたちにとって、大きな負担になるんですよね。

でも、それができないと、その先の学習にも影響が出てしまいます。昔から「読み書きそろばん」と言うように、「読み」は学ぶ力の土台ですから。

大久保:情報を読み取る力は、大人になっても日常生活や仕事のベースになっていますよね。

笹沼:おっしゃる通りだと思います。僕は起業するつもりではなかったので、起業の知識をつけようとインターンをしたことも、会社で働いた経験もありません。ですから、起業についての基礎知識は、経営者の方が書いた本をたくさん読んで身につけました。

多くの子どもに届けるために、塾ではなくアプリを選択


大久保:子どもに読書をさせたいのであれば、まずは塾の立ち上げを思いつきそうですが、なぜアプリを展開したのでしょうか?

笹沼:先ほどお伝えした通り、僕は英語多読の塾で読書指導をしていたのですが、それは専門性が高いので指導できる人が限られるんです。

大久保:読書の指導は難しいのですね。

笹沼:アメリカでは、大きな成果を出した多読の指導でさえも広まりませんでした。なぜかというと、指導していた先生があまりにも優秀だったため、誰も真似できなかったからです。だから、日本でも先生を増やすのは難しいなと。

一方で、「本を読んだ方がいい」というのは、子どもたち全員に共通して言えることです。それだけの需要があるのに、限られた人数でやっていても仕方がありませんよね。多くの子どもたちに届けるためにはアプリとAIを活用するしかないと、最初から考えていました。

大久保:提供されている「ヨンデミー」は、英語の学習アプリのようなイメージなのでしょうか?

笹沼:英語の学習アプリとは違って、子どもの「習い事」として提供しています。子どもたちの成長をしっかりとサポートするために、一人ひとりに対して「ヨンデミー先生」というAIの先生がついて、読書の家庭教師をするようなイメージです。

大久保:「本を読みたくならない」子どもたちに、アプリでどのように読書をさせるのでしょうか?

笹沼:読書体験自体を、広い意味でゲームにしています。ステージごとに読む本を並べてあげることで、適切なタイミングで適切なレベルの本にチャレンジをさせているんです。

そもそも子どもたちは、自分のレベルに合った本でなければ楽しめません。知らない漢字や難しい表現が多すぎると、集中力が続かないからです。ゲームのような仕掛けと、その子に合った本選びで、楽しく読書ができる仕組みを作っています。

大久保:本の難易度も大切なんですね。易しすぎても、難しすぎてもいけないと。

笹沼:例えば、YouTubeやTikTokなど、子どもたちの周りには楽しめるコンテンツがあふれています。でも、楽しいだけでは教育として成り立ちません。子どもたちに適切な負荷をかけて成長を促すことができる点は、ヨンデミーの大きな強みですね。

読書習慣はなるべく低学年のうちに

大久保:ヨンデミーの対象年齢は何歳なのでしょうか?

笹沼:下は5〜6歳から、上は15歳ぐらいまでのユーザーさんがいます。自分で本を読むようになるタイミングから、ハリー・ポッターぐらいの分厚い本が読めるようになるまでを想定しているので、小学生の子どもが多いですね。

大久保:ヨンデミーを始めるのは、なるべく早い年齢の方がいいのでしょうか?

笹沼:小学校高学年にもなると部活や習い事で忙しくなるので、時間のある低学年のうちから始める方がいいのではないかと思います。

長期的に積み重ねて力を発揮する「複利の効果」がある一方で、即効性はありません。ですから早めに取り組むことが望ましいかもしれませんね。

大久保:今アプリのユーザー数はどれくらいですか?

笹沼:無料版と有料版の両方を含めた数で、2万人近くになります。そして、受講生の平均の読書冊数は、ひと月あたり25.6冊。つまり、ほぼ毎日読んでいる計算です。

小学生の全国平均は、ひと月あたり3冊ほどで、10冊以上は7〜8%しかいないことからも、ヨンデミーの平均読書冊数はかなり多いとわかります。しかも、もともとは「本を読まなくて困っている子どもたち」なので、驚くべき数字だと思います。

大久保:提供しているのはアプリですが、読んでもらうのは電子ではなく「紙の本」なのが面白いなと思いました。

笹沼:読書習慣のない子どもにフォーカスしているからこそ、紙の本であることが重要だと考えています。これは心理学の話にもなるのですが、例えばハリーポッターの本が側においてあると、「読んでみようかな」という気持ちも起きやすいんです。

大久保:本を読むのは、動画を見たりゲームをしたりするよりも、孤独を感じやすい行為のような気がします。しかも今は、周りに本を読んでいる子が少ないのも、子どもが読書を敬遠する理由の1つだと思うのですが。

笹沼:その点も、ヨンデミーでは子どもたちが本を通じてつながれる場を作っています。

おっしゃる通り、本を読む子どもの数が減っているので、リアルで読書好きな友達を見つけるのは難しいですよね。

でもヨンデミーのアプリには、本好きの仲間がたくさんいて、さらに本を読んだ仲間の感想もSNSのように流れてきます。それを見ることで励みになったり、「自分も読んでみようかな」と刺激をもらえたりするわけです。

他には、リアルでも読書好きな子どもたちのコミュニティづくりをサポートしようと、書店さんとの取り組みを進めているところです。

VCと共に仮説検証を進め、資金調達もスムーズに

大久保:学生で起業されていますが、アプリ開発はどのように進めましたか?

笹沼起業前後のタイミングでは、LINEとGoogleフォームで仮説検証しました。

具体的には「読書記録」のスプレッドシートを提供していました。Googleフォームに読んだ本を登録すると、シートに転記されます。これを、定型文のメッセージとおすすめの本の画像と一緒に送付するだけです。

そんな簡易的な作りでも、「子どもが本を好きになった」「続けてくれるなら月3,000円払う」という声を多数いただきました。「それならアプリを作ろう」と決めて、ファイナンスをしたという流れです。

月1回の検証を3ヶ月ほどした時点で事業が成り立つことがわかり、2020年の1月に会社設立の準備を始めて、実際に立ち上げたのが4月でした。その年の夏には調達をして、次のファイナンスも1年以内で実施しました。特に初期は、テンポよく進められたと思います。

大久保:先にお金をもらえる価値があることを証明して、それからアプリを作ったと。ユーザーニーズを先に拾ってから、スモールスタートをされたわけですね。

笹沼:ただ、VCには起業する前からコンタクトを取っていました。起業のことを何も知らなかったので、とりあえずプロに話を聞こうと思ったんです。そこでVCから「仮説検証をちゃんとしよう」と教わりました。

実際に仮説検証をしながらVCとの信頼関係を構築できたので、アプリ開発のために資金が必要になったときには、「用意はできてるよ」と言っていただきました。

大久保:仮説検証して、目の前に「困っている人がいる」と証明できれば心強いですよね。

笹沼:そうですね。仮説検証もそうですが、その前から「これを届けたら、きっと喜ぶ子どもたちがいる」とわかっていました。だから、保護者よりも子ども目線でサービスを作ってきた自負があります。

大久保:教育系のビジネスは、狙うターゲットのパターンが2つあると思っています。1つ目は利用する子どもで、2つ目はお金を出してくれる保護者です。笹沼さんは、子どもをターゲットにされたのですね。

笹沼:最初から子どもをターゲットにしていました。例えば、子どもが「やりたくない」と言っている勉強を親のためにさせる。そのような構造だと、子どもも親も幸せにはなりにくいですよね。

僕たちは逆に、子どもたちが楽しみながら成長してくれる様子を見たら、保護者も買ってくれるはずだと考えていました。

ですので、子どもが楽しく本を読んでくれるプロダクトができてきた今、ようやく保護者へのマーケティング活動を本格的にスタートしています。

大久保:最近まで学生だったことも、ユーザーの目線に近い理由かもしれませんね。

笹沼:そうですね。僕自身も2年前までは学生でしたし、メンバーには19歳で在学中の人もいますから、限りなくユーザーの視点に近いところにいると思います。

大久保:先ほどの塾の話でふと疑問に感じたのですが、人は「やらなきゃいけないから勉強する」のがいいのか、「楽しいから勉強する」のがいいのか、どちらなのでしょうか?

笹沼:確実に「楽しい」方が伸びると思います。大人なら「必要だから」と勉強することもできますが、子どもたちにとって「楽しいこと」以外はそれほど大切ではありません。しかも楽しいと、必要になったときにもハードルが下がりますから。

書店や出版社、塾との協業もスタート


大久保:ヨンデミーには、2万人の読書データが蓄積されていますよね。これを活用するとサービスの幅が広がりそうです。

笹沼:実際に、出版社さんや塾から「協業したい」というお話もいただいています。

大久保:確かに出版社さんは、子どもたちの感想データを本作りの参考に活用できそうですが、塾も協業したいと?

笹沼:国語は本を読まない限りなかなか伸びません。ですから、本を読んでない子よりも、すでに本をたくさん読んでいる子どもをターゲットにして、算数を重点的に教える方が受験の対策もさせやすいんです。そういう意味で、塾との協業の話も出ていますね。

実は、教育業界も出版業界も、もちろん親御さんも、国までも、子どもたちには本を読んでほしいと思っています。でもこれまでは、子どもに本を読ませる手段が何もなかったわけです。

大久保:今後は、BtoBtoC展開も見据えているのですね。

笹沼:その他には、サービスの拡張も進めています。今までは「習い事」というくくりで、読書家を増やすことにフォーカスしていました。これからは増えた読書家を、より幸せにすることにも焦点を当てたいと考えています。

具体的には、読んでもらう本を作ることもそうですし、読むことだけでなく「書く能力」も伸ばすような開発にも取り組んでいます。

ChatGPTなどの生成AIも、上手く使いこなすためには、指示をする言語能力が必須です。読むだけでなく書くことも含めて、言葉を武器にできる子どもたちを増やす教育と、子どもたちが楽しめる本を作ること。この両輪を回していきたいと思っています。

大久保:最後に、読者へのメッセージをお願いします。

笹沼:起業当初から、「読むことを教えよう」という大きなテーマは持っていましたが、スタートしてから初めてわかったことがかなり多かったんです。

書店さんや出版社さんとの取り組みも、最近の漢検さんや日本郵便さんからのお引き合いも、やってみたからできた事業展開でした。ですので、まずは試してみること、始めてみることが大切ではないかと思います。

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(取材協力: 株式会社Yondemy 代表取締役 / CEO 笹沼 颯太
(編集: 創業手帳編集部)



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