ワカルク 石川沙絵子|職住一体を叶える組織づくり!雇用にこだわる理由とは
誰もが働きやすい社会をテーマに子育てしながらでも新しいことにチャレンジできる環境を
「働く、暮らす、学ぶ、遊ぶを自由にデザインできる社会」をビジョンに掲げる株式会社ワカルクには、職住一体を叶えたいというビジョンに共感した人たちが集まっています。
子育てをしながら働くという自身の実体験から、石川さんが理想とする組織づくりへのチャレンジが始まりました。
起業に至るまでの経緯や雇用へのこだわり、理想と現実のギャップに悩んだ創業時の話など、創業手帳代表の大久保がお話を伺いました。
明治大学法学部卒業後、株式会社クイックに入社。求人広告の法人営業、及び営業企画業務に従事。その後、採用コンサルティングのベンチャーに転職し、人材面から幅広く経営支援を行う。
2020年9月オンラインのオフィスワーク代行業、株式会社ワカルクを設立。アーリーステージのスタートアップから上場企業まで、全国のクライアントを対象に経理・労務などの守りの業務だけでなく、営業やマーケティングなどの攻めの業務、プロジェクトマネジメントまで、幅広くクライアントの事業推進をサポート。1男2女の母。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
※この記事を書いている「創業手帳」ではさらに充実した情報を分厚い「創業手帳・印刷版」でも解説しています。無料でもらえるので取り寄せしてみてください
この記事の目次
起業するきっかけは自身の成功体験から
大久保:起業に至るまでの経緯を教えていただけますか。
石川:大学在学中の就活のときから、人と組織の関係性に興味がありました。誰もが働きやすい社会になったらいいなという想いがあったので、それをテーマに仕事をしようと決めて就職し、キャリアを築いてきました。
起業したきっかけは、ベンチャー企業で得た成功体験です。小さな会社でしたが、プロジェクトに責任を持って取り組めるのであれば、働き方は自由に調整できました。
そのおかげで、出産・子育てをしながら時短で仕事をするというスタイルで働くことができました。さらに、私自身のキャリアにおける成長も感じることができたのです。
ところが、周りを見渡すとご主人の転勤やお子さんが体調を崩すなど、働きたくても働けない同僚や後輩がいたんですね。そして、その状況に対してどうしてだろうと強い疑問がありました。
大久保:具体的にはどのようなものですか。
石川:私自身が、祖母と母が商売をしているという職住一体型の環境で生まれ育ちました。祖母と母にとって仕事と暮らしはいつも一緒にあり、分離されていませんでした。けれども、社会に出て会社という組織に入ると仕事と暮らしが分離されるため、働きづらくなってしまう人がいます。
職住一体という祖母や母の時代にはできていたことが、なぜ現在の会社組織ではそれが難しいのでしょうか。そう考えたとき、職住一体を叶える環境がないならつくろうと思い「株式会社ワカルク」を立ち上げました。
雇用型にこだわる理由「ワカルク」に込めた想いとは
大久保:貴社のこだわりを教えていただけますか。
石川:当社の特徴は雇用型にこだわっているところだと思います。24名の社員のうち9割が子育て中の女性で、フルタイム勤務が8名、その他16名は、それぞれのライフスタイルに合わせて時短勤務をしているアルバイト社員です。
この業界では、固定費の負担が少ない業務委託をメインにしているところが多いのが現状です。経営的にはそのほうがいいかもしれませんが、働く側に立って考えた場合にはそうではないと思います。
何か新しくチャレンジするためには、安心できるプラットフォームが必要です。業務委託の場合は、その人の過去の実績を見て案件を割り振ることがほとんどです。雇用型であれば、これまで経験がないことで苦手だと思っていたメンバーに、継続的なコミュニケーションの中で新しいことにチャレンジすることをリクエストできます。
大久保:確かに、雇用型だからこそできることですね。
石川:そうなんです。メンバー同士で他の人のプロジェクトをみて、チャレンジしてみたいという気持ちが湧いてくることがあるようで、これは本当にうれしいことですね。
子どもがいるからチャレンジできないっていうメンバーにも、そうじゃないよって話しています。チャレンジの回数は少なくて規模も小さいかもしれないけど、いつでもチャレンジできるんだよということを言っています。
何歳からでも遅くない、自分の過去や価値観で自分の未来を決めない方がよいと伝えています。
掲げたビジョンまでのとてつもなく遠い道のり
大久保:起業してから何か困ったことなどはありましたか。
石川:雇用する立場が初めてだったので、全体像がわからず困ることが非常に多かったです。いろいろな働き方を許容している組織のため、労務などを決めていくときでも、誰にどのタイミングで何を相談していいのかわからず、決めることの苦しさを痛感しましたね。
創業約2年間は本当につらかったです。メンバーも少なく、納品も自分でしなければならなかったので、お客様のバックオフィスのお手伝いをしているけれど、自社のバックオフィスを整えることに時間を割けないというジレンマもありました。
ビジョンを綺麗に掲げていても、そこまでの道のりはとてつもなく遠かったですね。メンバーと衝突したことも一度や二度ではありません。やりたいことは明確にあるけれど、現実的に難しいのかなと毎日のように考えていました。
大久保:どのように切り抜けたのですか。
石川:お客様に提供しているサービス同様、メンバーが私のアシスタントとして前職での経験からアイデアをくれたり、わからないことは先回りして調べてくれたり、一緒に手を動かしながら1つ1つ体制を整えてくれました。私自身その進め方にすごく助けられて、非常に心強かったという経験があります。
ですので、全体像を理解しながら、一緒に手も動かしてやってくれる人がいることの重要性を、私自身の経験からも強く実感しています。
大久保:メンバーの方たちの様子はいかがでしたか。
石川:創業3ヶ月目に、大規模なプロジェクトのご依頼をいただいたことがありました。そのときは、時短で働いているメンバーの終業後は、必然的に残ったメンバーが全部やりきらなければならない状況でした。私を含めて残ったメンバーで深夜遅くまでかかってやることもたびたびありました。
目の前の仕事をこなして売上を出していかなければならないし、やりたいことと現実とのギャップをひしひしと感じながらやっていました。土日もSlackでやりとりしながら業務に追われ、メンバーが次々と体調を崩して倒れてしまい、私も瀕死の状態でやっていました。
ワカルクを運営する中で大切にしていること
大久保:大変な状況を乗り越えられて、現在はいかがですか。
石川:実は、今も業務量が非常に多くなってきていて、メンバーのみんなは現場で大丈夫かなとか、ひとりの人に案件が偏っていないか、働くことを楽しめているかなど日々気にかけています。
先日、広報の取り組みの一環でメンバーに働き方についてのアンケートを行ったのですが、その回答にすごく驚かされました。かつての職場で、妊娠の報告をしたときに罪悪感を感じた経験があるというのです。もしかしたら、世の中の女性たちの中にも同じように感じて、迷いながら妊娠・出産・子育てをしている人がいるのかなと思うと胸が痛みました。
安心していつ戻ってきてもいいよ、今はこの働き方でいいよって言えるような環境がもっと社会に広がっていくといいなと思います。そういう環境があれば、子育てにも前向きになれるし、仕事も自由に選べるのではないかということをひしひしと感じています。
大久保:オンラインで仕事をすることや、子育て中のメンバーさんが多いことで何か工夫していることがあれば教えてください。
石川:私自身も3人の子育てをしながら仕事をしていますが、子育てをしながら仕事をする中では、アクセルを踏めるときとブレーキを踏まなければならないときがあります。その中でどうやったらやりたい仕事ができるかということを、常に考えて試行錯誤する毎日です。
メンバーの目線を合わせるために必ず週に30分の全社定例ミーティングの時間をつくっています。その他には、基本はSlackでのコミュニケーションですが、女性はおしゃべりが好きなのでバーチャルオフィスを設けています。バーチャルオフィスでランチ会をするなど、在宅ワークをするメンバー同士の息抜きの場になっているようです。
また、バーチャルオフィスの管理人制度もつくり、背景画像を毎月変えたりBGMを流したりするなど、ちょっとした工夫も大事にしています。
それ以外では、メンバーの出産や介護などの大きなライフイベントに限らず、日常に起こる細かいこともメンバーには聞くように心がけています。特に子育てに関していえば、先月までは幼稚園に喜んで通園していたけど、急に行きたくないと言いだすことは子どもにはよくあることです。そのようなときにもメンバーへの配慮を大切にしています。
カルチャーショック!?子育てをしながら働くということ
大久保:子育てをしながら働くことは大変だと思いますがいかがですか。
石川:先ほどお話ししましたが、ベンチャー企業に勤務していたときは、子育てしながら時短で仕事をしていました。そのときの成功体験が起業につながっていますが、実はそれ以前の職場では苦労した面もあります。
その当時、同僚は8時間~10時間ぐらいがデフォルトの働き方でしたが、私は6時間の時短勤務です。そのため、時間内に仕事を終わらせることに必死でした。たとえば、18時以降に会議が設定されている場合もあり、参加しなければ状況がわからなくなってしまいますが、遅い時間だと時間的に参加が厳しいという状況がありました。
同じ部署で時短勤務は私だけだったのでしょうがないことではありましたが、子育てをしながら働くことの大変さにひどくカルチャーショックを受けた経験があります。
大久保:現在のワカルクの組織や働き方には、石川さん自身の経験が活かされているということですね。
石川:子どもの成長過程で起こる出来事に、私も常に揺さぶられているので、メンバーの置かれている状況に柔軟に対応できる組織でありたいと意識しています。また、メンバーには細く長く働きましょうということを伝えています。今の働き方はそれにフィットしているかとか、業務量がフィットしているかなど逐一確認するようにしていますね。
子育てをしながら仕事をするということは、本当にすごいことです。自分以外の人に時間を使えるというのは尊いことだと思います。当社のメンバーに対してはもちろんのこと、世の中のお母さん方をリスペクトしています。
組織の成長に欠かせない重要なこととは
大久保:現在組織として取り組んでいることがあれば教えてください。
石川:当たり前のことになるのですが、メンバーが増えて組織が大きくなってくるとある程度のルールを決めておく必要があります。どのように働いてもらいたいかなど一個一個丁寧にルールを決めたり、お客様に対するサービス基準を決めたりなど、いろいろなメンバーが増えてきているので、きちんとルール化して曖昧にしないようにしています。
その結果、私も楽になりましたし、メンバーも多少は楽になったのではと思っています。雰囲気で汲み取れるからいいよではなくて、やはり組織として同じ方向に向くためにルール化は重要なことです。ルールを決めておくことで余計な気を遣いすぎて疲れてしまう心配もありません。
また、メンバー全員がお客様の目線で自分ごととしてお客様の事業に携わっていけることが重要です。「ワカルク」のサービスに携わる者として、責任感を大切にしてほしいですね。
大久保:今後、どのように「ワカルク」を成長させていきたいですか。
石川:創業の想いとしては、誰でもどこでも働ける環境をつくることが目的です。まずはメンバーの数を30人、いずれは100人ぐらいまで増やしたいと考えています。
また、私自身もそうですが、メンバーの年齢が上がっていったときにもっと別の働き方も必要になってくると思います。その際には、働く人のライフステージに合わせて何か別の事業を展開していきたいという想いもあります。今はしっかりと足元を固めて、ベースが安定してきたら次に進みたいですね。
大久保:最後に、創業手帳の読者の方へのメッセージをお願いします。
石川:自分は何のために起業したのかとか、何がしたいのかという原点を、毎日問い続ける必要があると思っています。ビジョンを明確にすることでメンバーが集まり、お客様がお客様を呼ぶ状態をつくると思います。
「ワカルク」も、いろいろな形で誰もが働きやすい社会をつくるためのお手伝いができたらいいなと思っています。
創業手帳は、起業の成功率を上げる経営ガイドブックとして、毎月アップデートをし、今知っておいてほしい情報を起業家・経営者の方々にお届けしています。無料でお取り寄せ可能です。
(取材協力:
株式会社ワカルク 代表取締役CEO 石川沙絵子)
(編集: 創業手帳編集部)