広報のプロに聞く!スタートアップがメディアで注目されるための効果的な広報戦略

広報手帳

情報に敏感な人だけが知っている「メディアの本質」を紐解く


広報・PRの重要性がますます高まる現代、スタートアップ企業にとって効果的なPR戦略は不可欠です。

『広報のプロが教えるメディアのトリセツー取材獲得への5ステップ』の著者であり、キャリア40年のベテラン広報パーソンである三上さんに、広報・PR活動の基本から成功事例、デジタルメディアの活用法まで、実践的なノウハウを伺いました。

時代の変化に伴う広報・PRの役割や、スタートアップが直面する課題への具体的なアドバイスも含め、ぜひ読んでいただきたい内容です。

企業の成功率UPのためのガイドブックを発行する創業手帳では、広報ノウハウを集めた広報手帳も作成しています。少人数、低予算でも実現できる広報のコツを知りたい方は併せてご覧ください。

三上 毅一

三上 毅一(みかみ きいち)
株式会社ベンチャー広報CKO。最高知識責任者/シニアPRコンサルタント・マネージャー/広報・PRトレーナー/書籍プロデューサー。ゼロイチ広報代表コンサル。学校法人事業構想大学院大学ゲスト講師(青山忠靖特任教授ゼミ)。
長野県松本市出身。大学時代から広報・PR業界に入り、キャリアは40年。上場企業から中堅・ベンチャー企業までの広報コンサルティングを手掛け、これまでに500社以上の実績を持つ。また、民間企業のほかにも、自治体、大学、政党とあらゆる組織広報の経験を持つ。現在は、BtoBからBtoC企業を幅広く担当したキャリアの中で培った豊富なマスコミ人脈を活かし、広報・PRの指南役としてマネジメントも担当。また、生涯現役を掲げ、自身でもクライアントを持ち、現在も広報業務を行っている。ベテラン広報パーソン。
9月より『MIKAMI広報アカデミー』の代表コンサルに就任。これまでの経験を活かし、個別指導により、広報知識から広報実践に関するスキルを身につけ、内製化を目指します。

アルバイトから広報プロの礎を築き、メディア視点での書籍を出版

アルバイトから広報プロの礎を築き、メディア視点での書籍を出版

ー三上さんのこれまでのご経歴を教えてください。

三上:大学時代に先輩の紹介で、電通と関係があったPRエージェンシーにアルバイトとして入りました。当時は広告の全盛期であり、コピーライターが憧れの職業で、私も広告代理店志望でした。その足掛かりを目的にPRの世界に入り、アルバイトを経て正社員になりました。

その会社は昭和40年代に設立した独立系のPR会社で、上場企業や著名企業のクライアントを持っており、様々な企業を担当することができました。ここの経験が私の広報プロとして礎となりました。

その後ご縁があり、ベンチャー・スタートアップ企業の広報支援を行う株式会社ベンチャー広報に入社しました。

現在は自身でもクライアントを担当し、広報・PRトレーナーや書籍プロデューサー、広報パーソンのスキルアップを目的としたオンラインサロン・ゼロイチ広報代表コンサルとしても活動しています。加えて、学校法人事業構想大学院大学ゲスト講師(青山忠靖特任教授ゼミ)として、“事業構想と広報”について院生の方に教えています。

ー今回ご出版された『広報のプロが教えるメディアのトリセツー取材獲得への5ステップ』を執筆するに至ったきっかけや背景について教えてください。

三上:3年間ほど担当していた教育系企業で、メディア取材として社長インビューの機会が多くありました。そのときに「この社長なら出版できる」と思った人がいたので、ダイヤモンド社で多くの出版を手掛けていた知人に相談し、直ぐに企画提案して頂いて出版となりました。その本は重版となりアジア圏でも刊行されるまでになりました。

その知人から「三上さんも広報歴が長いから、これまで培ってきたPRスキルや経験をnoteでもいいからまとめておいて、できたら本にした方がいいよ」と、アドバイスを頂きました。

私はこれまでクライアントの書籍刊行のプロデュースにも携わっていて、“世の中の課題解消のために伝えられるコンテンツ”があれば書籍化できる経験値を持っていました。現職でも、広報パーソンや事業構想大学院大学の院生向けに多くの教育コンテンツを提供していたので、これを基に40年の総括としてまとめてみました。

特にコロナ禍以降はメディア環境も激変し、多くの広報パーソンがメディアとのコミュニケーションに課題を抱えていることも痛いほど理解していたので、メディアの視点で本が出せたらと考えていました。

またこれもラッキーでしたが、NHK時代からお世話になっていたジャーナリストの池上彰さんと交流があり、「メディアの視点から広報についてのコンテンツを紹介したい」と相談したところ、快諾頂きました。ここで書籍化しようと決心し、くだんの知人に相談しました。

広報は恋愛に似ている。人を知り重んじることが正しい広報への近道

広報は恋愛に似ている。人を知り重んじることが正しい広報への近道

ー三上さんが考える「広報」とは何ですか?また、広報・PR活動を正しく理解するために必要な事は何だと思いますか?

三上:情報は“”が介在します。情報の送り手である企業や組織も“”の集まりです。また、情報の受け手側であるメディア=記者も“”の集まりです。

私が提唱している取材獲得の5つのステップは戦術です。とかく「上手なプレスリリースをつくりたい」「うまくメディアにコンタクトできる話術を修得したい」といったテクニックに偏りがちになります。

もちろん、広報の知識やメディア・記者の特性を理解することは必要ですが、記者の立場に立ってコミュニケーションをとることが重要です。相手の事に関心を持ち、相手を尊重し、相手に嫌われないようにする……これは恋愛に似ています

広報・PR活動を正しく理解するためには、広報の専門書やメディアを知ることも必要です。

私がお勧めしたいのは、記者から学ぶことです。初対面ではなかなか難しいですが、何度か接していると、相性が良かったり、親切だったりする記者ともめぐり会います。

単に自社の情報提供だけでなく、所属している媒体や担当セクション、関心の分野や業界、広報全体の印象や広報がうまい企業についてなどを逆にリサーチすると、大変勉強になります。

ーこれまでのキャリアの中で特に印象に残っている広報・PR活動やエピソードは何ですか?

三上:う~ん。ありすぎてこまりますね(笑)。強いていえば、玩具メーカーB社とゲーム機メーカーS社との合併でしょうか。

その年の1月に発表してから4カ月後の5月に合併は解消され、両社は別々の道を歩むことになりました。当時B社を担当していましたが、様々な憶測情報が飛び交い、その火消役として貴重な体験をしたことで、いかに広報の存在が大切かを痛感しました。また、記者の夜討ち朝駆けなどの取材行動や思考回路も学ぶことができました。

もう一つは、私が入社して初めて担当した着物の着付け学院ですね。夏のゆかたやお正月の着物など、該当シーズンは広報活動も重点テーマとなります。ある全国紙の家庭面記者にお正月の着物シーズンの対策企画を提案し、取材が決まりました。

紙面に飾るメイン写真としてペアでの着物モデルカットを撮る予定でしたが、たまたま日程が合わずモデルがセッティングできなかったのです。

事情を記者に報告したところ「三上さんと学院の方で撮影されて下さい」と提案があって。取材獲得は嬉しかったのですが、まさか自分がモデルになるとは……。内心恥ずかしい気持ちでしたが、広報パーソンは身を粉にする職業だと自覚しました。

効果的に自社をPRするなら「広告」と「広報」の違いを知るべし

効果的に自社をPRするなら「広告」と「広報」の違いを知るべし

ー広報支援をしている中で、よく質問されることやその解決方法を教えてください。

三上:弊社クライアントはベンチャー・スタートアップ企業がもっとも多く、企業規模も数人から数十人となります。

経営者の方で「広告」と「広報」の違いを理解されている方は少ない印象です。世の中に会社や事業の情報を知らしめたいけれど広告費を捻出する余力もなく、広報を初めて知って相談や質問にこられます。広報は即効性があってお金がかからない魔法の手法と、期待を大きく持たれる方もいます。

広報と広告の違いを理解頂き、特にメディア=記者との関係性や付き合い方も事前にご説明します。その会社の業界での立ち位置やメディアサイドから見た事業内容の関心度など、客観的な広報戦略を提案しています。

すぐに大手メディアやテレビで紹介されたいとリクエストされますが、業種・業態や企業規模によって攻め方も千差万別です。この点を理解頂き、地道な広報活動、等身大の情報発信をお勧めしています。

ースタートアップやベンチャー企業など、なかなか広報にリソースがかけられない場合はどのようなことから始めるべきでしょうか。三上さんが考える、これをした方がいいという優先順位などがあれば教えてください。

三上:先ほどの質問でも触れましたが、まずは広報と広告の違いや、メディアとはどのような特性や特徴があるのかを知ってほしいです。

私がコンサルをしているゼロイチ広報の会員の大半は一人広報で、マーケティングと兼務されている方もいます。こちらの方にもお伝えしていますが、1日の業務時間は限られています。この中でいかに効率よく広報活動を進めていくのかがポイントになります。

私も新人時代に先輩から「情報のアンテナを持ちなさい」と言われました。これは“情報に敏感になる”ことを意味します。広報の世界は、いかに世の中の情報を知っているかで差がでます。

今はスマホでも情報がチェックができるので、移動中にメディアリサーチをする。テレビは必要な番組を録画して、見られる時にまとめてチェックする。また街を歩いていると、多くの広告や店の情報も発信ネタのヒントになります。

これを意識しているか、いないかで、1年、数年経つと大きな差が生まれます。

ープレスリリースを配信してもなかなか良いリアクションがない場合、どのような点に気を付けるべきでしょうか?例えばタイトルの付け方など、何かコツがあれば教えてください。

三上:こちらもよく質問されます。プレスリリースで反応がないので、リリースタイトルが問題なのではと多くの方が悩まれています。

広報・PRの専門家と称して「ゼロ円で広報はできる」とか「プレスリリースの書き方重要説」をうたう人たちに惑わされないで欲しいです。その一面も確かにありますが、もっとメディアの本質を理解頂きたいと。

最も重要なのは「メディアサイドに求められている情報なのか」「受け入れてもらえる情報なのか」を、リリースを書く前に自問自答することです。

極端な話ですと、プレスリリースを書かなくても、メールメッセージや記者への口頭レクチャーだけで取材がくるケースも多くあります。

メディアが求めている情報は、日々のメディアリサーチがしっかりできる人はきっと分かってきますので、ぜひ参考にして下さい。

資金や人材の獲得にも「広報」という相棒が不可欠

資金や人材の獲得にも広報という相棒が不可欠

ーテレビや新聞、Webメディアなどに自社を取り上げてもらいたい場合、どのような戦略が効果的でしょうか?自社を売り込むときの注意すべきポイントを教えてください。

三上各媒体の特性をよく理解することかと思います。

新聞やネットメディアはデイリーでの速報性を重視されます。その時の話題や関心事などを意識して企画や情報発信をするのです。

雑誌は週刊や月刊といった形で、速報性よりも情報の深掘りをします。特集企画やコラムやコーナーも充実しています。

これらの報道傾向を把握し、情報発信を意識して下さい。

テレビはどんな関心のある情報でも、絵=映像が撮れないと報道できません。情報を提供するとどんな映像が撮れるのか、どんなスポットや人が撮れるのかを意識されると良いかと思います。

ーメディア側が本当に求めている情報とはどんなことでしょうか?

三上関心があれば、どのような形でも報道されます。冒頭にお話ししました通り、日々メディアリサーチしていれば、メディアが知りたい傾向は掴めます。

スクープ記事・報道を目にした事がありますよね。他の媒体よりもいち早く、話題となるようなニュースを報道することを指します。これを毎日追い求めているのが記者の取材活動です。

ー自社の社長を取材してほしい場合、どのようなルートや方法で売り込むのが効率的でしょうか?

三上:こちらも大変多くの経営者や広報パーソンから相談があります。

本にも書いていますが、いきなりテレビのWBSに出たいというのは難しい印象です。まずは、自社の業界をウォッチしている専門業界の媒体へアプローチすることをお勧めします。

知名度ゼロでも、その業界で面白いビジネスモデルで起業されたり、業界内でヒットした製品やサービスについて情報発信されれば、社長インタビューの確率は高くなります。

業界内で知名度が高くなれば、次はマスメディアでもアプローチが可能になっていきます。その媒体に編集部の問い合わせ先があれば、直接情報提供もできます。

ー最後に、創業手帳の読者に向けてメッセージをお願いします。

三上:私は、事業構想大学大学院の院生にも広報の重要性を解説しています。

私の新人時代、起業する時はまずメインバンクからの融資や公庫からの資金調達が主流でした。現在は、会社のビジョンモデルが有益で将来性が高ければ、投資家、ベンチャーキャピタル、クラウドファンディングなど調達方法が多岐にわたります。

このように企業を取り巻くステークホルダーは多様化しています。

世の中に自社や製品・サービスなどを訴求させていくことで、様々なステークホルダーに対し理解・認知され、ファンの増加にもつながります。こうした広報が、潤滑な資金調達や優秀な人材を採用する目的にも通じ、きっと経営の後押しにもなります。

会社は“社員や顧客を守り、存続すること”が、社長の最大の任務です。広報はきっと経営者にとって力強い相棒になります。


『広報のプロが教えるメディアのトリセツー取材獲得への5ステップ』三上毅一 ㈱中央経済社

著者は、大学時代から広報・PR業界に入り、キャリア40年。これまで500社以上の広報コンサルティングの実績も持つ著者が、取材獲得への5つのステップを解説しています。

新聞社、テレビ局、雑誌社、ネットメディアへのコンタクトから取材獲得までの効果的なアプローチ方法を詳しく解説。また、ジャーナリスト・池上彰氏をはじめ、第一線で活躍されてるメディア関係者へのインタビューも紹介しています。初心者広報パーソンから、ベンチャー・スタートアップ企業などの経営者が広報導入に向けてのヒントが網羅しています。

これまでの広報書籍と違い、メディア視点で情報の受発信のリアルが正しく理解できる1冊です。

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(取材協力: 株式会社ベンチャー広報 CKO 三上毅一
(編集: 創業手帳編集部)

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