NTT PARAVITA 猪原祥博|NTTグループとパラマウントベッドのICT技術を活かし「睡眠」で日本を健康に

創業手帳

増え続ける介護医療費の問題解決のために病気にさせない「未病ケア社会」を実現させたい

日本の介護医療費は年々増え続け、2025年からは「年間約2兆円ずつ増える」と財務省が発表しています。この予測は日本人としても日本経済としても改善すべき課題だと捉え、ICT技術を使って病気にさせない「未病ケア社会」の実現に挑戦しているのがNTT PARAVITAの猪原さんです。

そこで今回の記事では、猪原さんが力を入れている「睡眠」の重要性や、社内起業を何度も経験しているからこそ得た学びについて創業手帳の大久保が聞きました。

猪原 祥博(いのはら よしひろ)
NTT PARAVITA株式会社 マーケティング部長
NTT西日本の新規事業の創出組織に所属し、複数領域で戦略的子会社を3社連続して立ち上げ。数年かけて業界シェアNO.1に育て上げ、本社に舞い戻るというキャリアを21年間継続している。孤軍奮闘する社内起業家を応援し、社内ベンチャーを推進するシリアルイノベーターコミュニティー「スイミーズ」を立ち上げ、社内起業家の輩出もライフワークにしている。12/17 著書「会社員3.0」を発売

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計200万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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病気にさせない「未病ケア社会」を創るために「NTT PARAVITA」を創業

大久保:スリープテックの分野で新規事業の立ち上げや、社内起業するまでの経緯を教えていただけますか?

猪原:今でも「医療介護費」は日本の財政をひっ迫させる大きな要因ですが、2025年からはさらに年間約2兆円ずつ増え続ける見込みです。毎年消費税を1%上げて、約2.3兆円の税金を確保しなければならないようなものだと、財務省が発表しました。

今の状態で、現状維持を目指すたけではサスティナブルとは言えないため、未病状態で気づき病気にさせない「未病ケア社会」創っていくことは、これからのトレンドとして出てくると考えました。

そこで、NTTグループの「ICT技術」とパラマウンドベッド社の「睡眠のノウハウ」を集結し、病気にさせない「未病ケア社会」の実現させたいと考えております。そのために、「ICT×睡眠」を大きな柱として、NTT PARAVITA株式会社を設立しました。

NTT PARAVITAは、睡眠の改善サービスを提供しており、サービス利用者が増えると、収集できるデータ数も増えます。そこにデータを解析し予測できるAI技術を活用することで、睡眠から疾病予防に繋がる社会が創れると考えています。

睡眠不足は「5大疾病」の発症リスクを高める

大久保:睡眠による健康被害はどのようなものがありますか?

猪原睡眠不足が継続的に続くと、5大疾病と言われている癌、糖尿病、心疾患、脳疾患、精神疾患の発症リスクが高まるというエビデンスが出ています。

そもそも日本の教育において、どのような睡眠が良いのか教えてくれませんし、日本人の特性上、仕事が忙しくなったら睡眠時間を削る、という人が多いです。

その行動がいかにパフォーマンスを下げ、病気にかかるリスクを上げていることに繋がっているか、理解を深めていかなければなりません。

大久保:自分では平気だと思っていても、実は頭が働いていないということもありますよね。

猪原:おっしゃる通り、寝不足によって頭が働かなくなることは、本人は慣れてしまって気づいていないケースが多々あります。

全米自動車協会交通安全財団が発表したデータによると、睡眠時間が4時間と8時間の人をそれぞれ比較すると、前者は注意力が低下し、交通事故の確率が約11倍に跳ね上がり、6時間睡眠を2週間ほど続けると、徹夜をした人と同じくらいに注意力が低くなる、といったエビデンスが記されています。

大久保:Amazonのジェフベゾス氏が「睡眠不足で働くのは、酔っ払い運転しているのと同じだ」と言っていたのを聞いたことがあります。

スタートアップの方は経営者も社員も睡眠不足になりがちですが、それは最適な解ではないということですね。

猪原:睡眠不足は創造性が失われてしまいます。それはスタートアップにとっては、大問題だと思いますので、避けたほうが良いと思います。

慶應大学の先生が「睡眠時間と企業の利益率は相関がある」と研究発表しました。

つまり、睡眠時間を削って働くことで「得られるもの」より「失うもの」の方が多いため、スタートアップで働く方もしっかりと睡眠時間を確保すべきだと思います。

睡眠の質の改善には「認知行動療法」が効果的

大久保:やることが多くて寝る時間がないという起業家が多いですが、このような場合、どのように改善していくべきなのでしょうか?

猪原仕事の量をコントロールして、睡眠時間を確保するしかないと思います。

利益率や感情のコントロールという観点で考えても、十分な睡眠を取る方が圧倒的に生産性を高められます。社員のためにも社長が率先して「定時で帰る」「土日はしっかり休む」と行動で示すことが大事です。

大久保:寝ようとしているのに、寝付けないという人はどうしたら良いのでしょうか?

猪原「認知行動療法」という心理療法の考え方を一部取り入れて、改善を試みることが効果的です。

弊社では、まず睡眠衛生指導という形でセミナーを行い、シート型の睡眠センサーでどのような睡眠を行っているのかをデータ化し、自分自身の「睡眠状態」について認知してもらいます。

その後、オンライン面談でパーソナルトレーナーが個々の睡眠を分析し、行動変容を促し改善させていきます。

ICT技術で「眠れない原因」を特定し本人に認知させることが重要

大久保:痩せたい人がパーソナルジムに通うように「睡眠分野のパーソナルトレーニング」のようなイメージでしょうか?

猪原:そうですね。パーソナルトレーニングでイメージしていただければわかりやすいと思います。

太ってしまった人は「我慢できず過食をしてしまう」「運動が継続できない」などが原因であることが多く、痩せるためにはこれらの原因を改善する必要があります。

このように、ねむりに悪い影響を与えている習慣を本人に理解していただいた上で、やれるところから改善していただくというのが弊社のやり方です。

太っていることに関しては、ご自身が太っていることやそれを通じた課題を認識することは簡単なのですが、睡眠に関しては目に見えないものなので、ICTの技術を使って可視化することが重要だと考えています。

大久保:体重計に乗れば痩せたいという気持ちが芽生えるように、睡眠の質を可視化することで、問題意識が芽生え、強制力が働くのでしょうか?

猪原:そう簡単にはいきません。

NTT PARAVITAのサービスを開始して1年半ほど経ちますが、睡眠の質を見える化するだけでは改善が見られず、専門のトレーナーが問題に介入して行う「認知行動療法を参考にしたアプローチ」を実施しなければ、結果が出にくいとわかりました。

睡眠の認知行動療法は、睡眠薬より先に処方されるほどイギリスやアメリカでは重要視されています。

メラトニン分泌を管理することで「眠りやすい生活リズム」を作る

大久保:睡眠を改善するプログラムは具体的にどのようなことを実施しますか?

猪原睡眠の改善をするためには、起きた時にしっかりと朝日を浴びることがとても大事です。

「光」は人間にとって一番強い刺激です。朝起きてカーテンを開けずに光を浴びない時間を過ごし、家を出たタイミングで体内時計がリセットされると、夜に眠たくなる時間が遅くなってしまいます。

目の奥の「視交叉上核(しこうさじょうかく)」に光を感じさせることで、体内時計がリセットされ、その14〜16時間後くらいに「メラトニン」が分泌されます。人間を眠たくさせるには、このメラトニンを正常に分泌させる必要があるのです。

その他にも、寝る時は部屋を暗くしてメラトニンを分泌させる、メラトニンが分泌しにくくなるカフェインは寝る前には摂らない、ということも大事です。

精度97.5%のシート型睡眠センサーにより正確なデータ収集を実現

大久保:「ICT×睡眠」ということでしたが、どのようにICTを活用しているのでしょうか?

猪原NTT PARAVITAは「NTT西日本」と医療・介護ベッド及びシート型睡眠センサーで国内トップシェアを誇る「パラマウントベッド」さんの合弁会社です。

パラマウントベッドさんのシート型睡眠センサーを、普段眠っているマットレスの下に入れて眠るだけで、睡眠に関する情報が収集できます。

この情報を弊社が分析することで、具体的な対策や改善策を考えています。

大久保:睡眠センサーは腕につけるタイプのものもあると思いますが、シート型の睡眠センサーの方が効率的に情報収集ができるのでしょうか?

猪原:指輪や腕時計型など様々な睡眠センサーがありますが、シート型のセンサーが最も睡眠を阻害しないのです。

パラマウントベッドさんの睡眠センサーは、97.5%という高い精度で測ることができ、医療用センサーと比べても遜色ありません。

この高精度なセンサーで得られた「睡眠の習慣」と「睡眠の質」を使うことにより、睡眠の課題を抱えている多くの方々をより効果的に改善に導くことができます。

大人だけでなく子供も「質の高い睡眠」をとることで効率が上がる

大久保:プロダクトを作る過程で、どのようなことに苦労しましたか?

猪原:今でも決して満足はしていませんが、会社を立ち上げる時期が一番苦労しました。

創業当時、睡眠の状態を可視化して、AI技術で予測したリスクを示せば、価値を認めてもらえると思っていましたが、想定以上に行動変容がなく、測る意味がないとお客様に言われたこともあります。

どうすれば行動変容するのかを深掘りをして考え直し、トレーナーによる睡眠改善を付加価値として組み込むことで、利用いただけるユーザー数が増えました。

大久保:最近は「お金の知識」を基礎教育に入れるべきという意見も出ていますが「睡眠の知識」も入れるべきですね。

猪原:おっしゃる通りです。

私には子供が3人いますが、睡眠時間と学業の成績は相関があると言われています。我々も小中学校への出張授業などを実施していきたいと考えています。

特に多くのことを学ばなければならない子供たちにとって、睡眠の質が低ければ、その日に学んだことが記憶に定着しづらい、という研究結果も有名です。

記憶と睡眠の関係が深いため、多くのことを記憶する必要のある子どもは、10時間程は寝た方が良いと言われています。

大久保:起きている時間の脳の活性度だけでなく、脳に入れた情報を記憶として定着させるためにも睡眠が大切なんですね。

寝る前の飲酒は「百害あって一利なし」

大久保:睡眠の質を下げる行動としては、どういったものがありますか?

猪原:PCやスマホなどを多く使うデジタル時代ですが、「ブルーライト」は睡眠の質に悪影響を与えます。ブルーライトを夜に多く浴びることで、眠くなる時間が後ろにずれてしまうのです。

理想としては、17時くらいにはブルーライトを遮断した方が良いと言われています。

そして「運動不足」も睡眠の質を低下させます。運動は抗不安薬にもなると言われているほど睡眠に影響するため、意識的に運動するようにと指導するようにしましょう。

大久保:一般的には寝る前に多少のアルコールを飲むと、よく眠れると考えている方が多いと思いますが、この点はいかがでしょうか?

猪原寝る前の飲酒は「百害あって一利なし」です。

お酒を飲んだ直後は、頭がぼーっとして眠りやすくなりますが、利尿作用によって眠りから覚めてしまいます。

さらに、お酒には覚醒作用もあるため、利尿作用で目が覚め、覚醒作用でさらに眠れなくなるのです。

大久保:世間のイメージとは真逆なんですね。

猪原対処方法としては、お酒を飲む時は水も一緒に飲むことで、お酒を飲む量も減らせる上に、体内のアルコール濃度も薄くなるため、ぜひ実践してみてください。

日本人の睡眠改善により「健康」と「経済」を回復させる

大久保:これからのビジョンを改めて伺えますでしょうか?

猪原未病ケア社会を作るために会社を立ち上げたので、日本人の睡眠をより良いものにしていくために、やることは何でもやっていきたいです。

そうすることで、様々な疾患にかかるリスクを下げられるだけでなく、仕事の生産性も上がるため、人口が減ってもGDPも下げないことに繋がると考えています。

大久保:読者へのメッセージをお願いします。

猪原現在、先着100社限定で無料オンライン睡眠セミナーを開催中です。

「アテネ不眠尺度」というWHO基準のオンライン検査に関する知識をつけていただくことで、社員の睡眠状態を可視化できるようになります。

社員の「睡眠」や「健康」に関する問題は、外見に出ないこともあり、気づけずに大きな問題に発展してしまうリスクも十分に考えられます。

オンライン睡眠セミナーは無料で受講していただけるので、まずは睡眠について知ることから初めていただきたいです。

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(取材協力: NTT PARAVITA株式会社 マーケティング部長 猪原 祥博
(編集: 創業手帳編集部)

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