テープス 田渕健悟|煩雑なEC業界のバックヤード業務をノーコードツールで自動化

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年02月に行われた取材時点のものです。

サービス化されないニッチな業務をどう効率化するか?

インターネットで物を買うという行動がどんどん身近になり、近年ますます存在感を増しているEC(電子商取引)業界。しかし、商品が売れたら発送せねばならないし、在庫管理や顧客対応など細かな業務が常につきまとい、楽天やAmazonなど複数のモールに出店している場合はさらに業務が煩雑になります。

このような課題を解決したいと立ち上がったのが田渕さんです。ECの自動出荷サービスであるシッピーノ、またノーコードツールを用いたバックヤード業務の自動化サービスであるテープスを次々に創業。

サービスの概要や、EC業界の今後について創業手帳代表の大久保がお聞きしました。

田渕 健悟(たぶち けんご)
シッピーノ株式会社 取締役
テープス株式会社 代表取締役
2003年に関西学院大学を卒業し、株式会社 CSK (現 SCSK 株式会社)に入社。新卒時代の仕事をプログラミングし業務時間を短縮。空いた時間に上司や先輩から仕事を学び、同期約200人の中で、最も自分の裁量が大きい小規模の案件を扱う部署に配属希望を出し、その部署で独立のための知識を習得。その後、2005年に株式会社ブルトアを同期と共に立ち上げ、取締役に就任。2008年個人事業主で屋号「Webの匠」をスタートし、2010年に株式会社WEBの匠(現シッピーノ株式会社)を代表取締役として起業。2022年4月シッピーノ株式会社よりTēPs(テープス)事業を分社化し、新たにテープス株式会社を設立。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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EC業界の煩雑なバックヤード業務を自動化

大久保:現在の事業で起業は3社目だそうですね。ここに至るまでの経緯を教えていただけますか。

田渕:大学を卒業して新卒でSEとして働き始め、同期とライターのクラウドソーシングの会社を立ち上げました。その後、独立して1人で起業したいという思いがあり、後にシッピーノとなるECの自動出荷サービス事業で起業しました。

2年前にフィードフォースグループとM&Aし、ECに特化したノーコードツールであるTēPs事業を分社化し、テープス株式会社として設立しました。

大久保:M&Aの理由は何だったのでしょうか。

田渕:フィードフォースグループは今後ショッピファイを用いたECのコンサルに力を入れていくとのことだったので、TēPsとシナジーが出ることもメリットでしたし、自分はTēPsの方に注力したかったのでシッピーノを引っ張っていく人が必要でした。

大久保:現在の事業であるTēPsは、どのように思いつかれたのですか。

田渕:ECの受注と発送周りの業務を自動化するシッピーノを経営しているときに、いろいろな事業者さんのバックヤード業務を実際に見せていただき、バックヤードの仕事に詳しくなったんです。

現場の煩雑さを目の当たりにし、なんとか自分の力で解決できないかという思いがありました。要望が多いものはSaaSやアプリになったりしますが、要望が少なく自社独自のニッチな業務はサービス化されません。

1社1社に合わせたオリジナルシステムを作るしかないけれど、1社1社プログラムを書いていたら大きな価値を生み出せない。これはノーコードツールを使って、事業者の皆さんが自分で解決できるようになるしかないと考えました。

大久保:SaaSのように多くの人間が使うサービスでもなく、1社1社に合わせてプログラムを書くサービスでもなく、真ん中という感じですよね。ノーコードのいいところは何ですか?

田渕:Amazonや楽天市場、ショッピファイなどさまざまなECプラットフォームと連携しています。ブロックを組み合わせることで、さまざまな業務を自動化することができます。

具体的には、楽天市場の売上げをGoogleスプレッドシートに書き出す、1万円以上購入したお客さんにだけオリジナルのメールを送る、在庫がいくつかの値を下回ったら社内にチャットワークまたはラインで通知する、物流に出庫の指示を出すなど、各事業者の独自の業務フローにフィットするように細かくカスタマイズすることが可能です。

大久保:業務を知っていれば組み合わせができるんですね。想像以上に簡単そうですね。

田渕:巷のノーコードツールは意外とエンジニア向けの物も多いんですが、これは現場で使われることを意識しているので、エンジニアではない方たちにもスムーズに使っていただけると思います。

また、よくある業務フローに関してはテンプレートを現時点で100種類以上用意していますので、ゼロから作らなくてもいいところも好評です。

例えば「在庫数がゼロになったら商品をアーカイブする」「Googleスプレッドシートを元に商品情報を更新する」などのテンプレートがあり、対応する中身を入れていけば自動化が完了します。

大久保:利用シーンとしてはどういう業務が多いのでしょうか。

田渕:解決しようとしているところはバックヤードがメインですので、受注をどのように処理するか、在庫管理、顧客対応業務などが多いですね。

起業には下地作りが大事


TēPsが接続しているサービス一覧。Amazonや楽天からLINE、Googleなど多岐に渡る

大久保:田渕さんの経歴でいうと共同創業、1人で起業、事業の1つを分社化と3パターンの起業をされているわけですが、振り返って見ていかがですか。

田渕:テープスで起業するまではわりといきあたりばったりでしたね。走りながらいろんなことを考えて模索してというのが1社目2社目でした。

それに比べて3社目のテープスは、現場のニーズを汲み取って、過去の経験からこういうサービスを作れば需要があるという確信があって起業したので、下地作りが大事だということは実感していますね。

1社目の共同創業は、社会人経験2年目でしたから(笑)今思うとよくやったなと思います。

大久保:3社目は顧客とのつながりがあり、課題感をつかんだうえで起業したわけですね。起業することに関しても、経験を積めば上達するということなんでしょうね。

田渕:企業に勤めるということは、経験にしろ顧客とのつながりにしろある程度のメリットがあると思います。会社の資産をうまく取り入れるということは、自分はあまり達成できなかったことではありますが、もしできていたら少しショートカットできたかなと過去を振り返ると感じますね。

大久保:TēPsの開発は大変でしたか。

田渕:ノーコードツールというのは、APIを解して通信をするという仕組みになっています。楽天やAmazonといった大きなプラットフォームはAPIの仕様書を公開していて、その通りに作ると簡単なのですが、そのままだと業務にはまらないというケースが多いんですね。

マニアックな業務まで細かく対応するというサービスなので妥協できない部分が多く、接続先のAPIごとに社内で試して解決策を考え、対応するというのがとにかく大変でした。

大久保:テープス社のオフィスからは海が見えるとうかがいました。

田渕:そうなんです。サーフィンが好きで、茅ヶ崎に移住したのもそれが理由ですね。IT企業は都心にあるというイメージだと思いますが、茅ヶ崎にオフィスがあることで自然が豊かな環境で仕事ができるのもメリットですし、都心とはまた違った人材を採用できている実感があります。

日本のEC業界はまだまだ伸びる


TēPsでできることの一部

大久保:シッピーノをスタートされた2010年頃は、EC市場がすごく伸びてましたよね。

田渕:そうですね。当時は​​腕を磨きつつ、ニーズをつかむために、まだ受託開発をやっていました。ECの事業者の方のシステムを作ることも多くて、そこからシッピーノにつながったという形です。

受託も悪くはないですが、個々の顧客の願いを叶えるってすごくいいなと思う反面、うまく折り合わないときには迷惑かけたり不具合を出してしまうこともあるし、大きな価値を提供し続けられているという実感はありませんでした。

大久保:これからのEC業界についてはどのようにお考えですか。

田渕BtoCの物販系分野全体のEC化率(すべての商取引においてECが占める割合を示す数値)は日本は約9%ですが、世界だと約19%です。そこに追いついていくと思うと、市場としてはまだまだチャンスがあると思います。

日本のECはモールの力が強く、楽天、Amazon、Yahooだけでも軽く半分以上のシェアがあります。今ECをやろうとしたら、出店するメリットが大きいので複数のモールに出店するケースがほとんどです。

BtoCで自分たちの販路だけで勝負できるところが増えたらいいなと思っていますが、現実はそうもいかないので複数のところに出店せざるを得ません。ですから業務が煩雑になってしまうんです。

はじめの段階からどう効率化できるかを設計するべきで、そのためにぜひTēPsを利用していただきたいですね。

若い人たちは自動化ありき、API連携ありきで、少人数ながら多くの業務を回すことを前提で事業を始めているというケースが増えていると感じます。

大久保:プラットフォームの穴にビジネスチャンスがあるということかもしれません。

田渕:そうですね。EC事業をやろうと思うと、現状さまざまなプラットフォームやサービスを使わなくてはいけないのですが、正直それらの間には多くの穴が存在すると思っています。そこを埋めていくのがTēPsです。

ブロックを組み合わせることで簡単に自動化ができるとはいえ、やはりプログラミング的な思考も必要です。今後はサービスの認知度をあげて、利用者を増やし、プログラミング的な思考ができる人をどんどん増やしていきたいと思っています。

大久保の感想

大久保写真
テープスの事例で面白いと思ったのは、このサービス自体は色々なamazonや楽天など巨大プラットフォームなどのツールの間をつなぐポジションに位置していることだ。
こうしたgoogleやamazonのような巨大なプラットフォーム企業はなんでもできるかのように錯覚するが、巨大であるがゆえに細かいニーズに手が届かない所が発生する。ユーザー数が膨大であるがゆえに、最大公約数のニーズを満たすものを作る必要があるからだ。
ここに起業家のチャンスが有る。
必ずしもアマゾンやgoogleのようにならなくても(目指しても良いが)、巨大なプラットフォームは巨大であるがゆえに、カバーできないひずみや影の部分もまた巨大である。そこを満たす需要は常にある。
いわゆるサードパーティと言われるポジションだが、実はプラットフォーム側も、細かい部分を穴埋めしてくれるので、API(データの受け渡し口)のような形で便宜を図っているケースが多く、競争ではなく補完、共存関係にある。

特に在庫・物流のような現場に直面し、かつ日本の独自の事情や仕様がある領域は海外の巨大な事業者が手を出しにくいので日本のスタートアップにもチャンスがある領域だ。

また、在庫・物流のような領域は無駄が発生しやすい割に、地味なので人目につきにくいが、人件費などお金に直結するので改善の効果が大きい
こうしたバックヤード系の改善は地味に経営の足腰となって後で効いてくる。

また、ツールの性質という観点でいうと、ノーコード系のツールの中でもエンジニアが作業をらくにするタイプのものと、現場の普通の人が使えるタイプのものがあるが、テープスが提供するのは後者の方で、業務をフローを書いていくイメージで操作できる。

今後、こうしたツールが増えてくると業務が楽になってくる
ツール同士の連携、例えばアマゾンで売れた商品データをグーグルやサイボウズの管理システムに移すなどだが、SaaS系のシステムはどの会社でも基本構造はほぼ同じなので、いったん連携の開発ができるとその後もずっと連携できる事になる。

しかしスクラッチで独自に構築している仕組みだと、独自の接続の開発が必要になってくるのでこれが、独自開発の見えないデメリットであり、SaaSの見えにくいメリットだ。

こうしたシステム間の接続系のサービスの存在もあり、普及度の高いSaaSを利用するメリットは、システム同士の連携がしやすい、わざわざ対応の開発をしなくて良いので最新のツールにキャッチアップできるということがある。

SaaSと、またそのサードパーティ系のサービスの普及は進む事はあっても減ることはないので、今後、SaaS系のサービスはスクラッチ開発に対して、ますます優位性が増していくだろう。

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(取材協力: テープス株式会社 代表取締役 田渕健悟
(編集: 創業手帳編集部)



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