個人事業主の納税地はどこになる?確認方法や気になる疑問を解説
個人事業主で開業する前に納税地の定義や場所を確認しよう
個人事業主として開業した場合、年度末には必ず確定申告を税務署へ提出することになります。
ただし、税務署にも管轄する地域が決まっており、どこに提出しても良いわけではありません。
そこで今回は、個人事業主の納税地を確認する方法や気になる疑問について解説します。
納税地がどこになるのかわからない方や判断が難しい方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
開業前に知っておきたい納税地とは?
まずは納税地について、基本的な情報を紹介します。納税地とは、確定申告を行ったり納税したりする場所のことです。
個人事業主が開業すると1年ごとに確定申告書を税務署へ提出しますが、主に納税地を管轄している税務署へ提出することになります。
確定申告を提出する納税地は、状況にあわせて以下の3つに分けられます。
1.日本国内に住所がある場合、その住所地が納税地となる
2.国内に住所はないが居所がある場合、居所地が納税地となる
3.死亡した人の確定申告(準確定申告)を行う場合は、死亡した本人が死亡時に住民登録していた住所が納税地となる
1の住所とは、生活の本拠を指しますが、生活の本拠に該当するかどうかは客観的に見て判断されるため、単純に住民票のある住所が納税地になるとは限りません。
また、2の居所とは、相当期間継続して住んでいるものの結びつきは住所ほどのつながりがない場所を指します。
個人事業主の納税地はどこ?
納税地について理解したところで、個人事業主の納税地はどこになるのかを解説します。
現住所が納税地にならないケースもご紹介するので、自身に当てはまるかどうかを確認してください。
原則は個人事業主の住所地
個人事業主の納税地は、原則住民票のある住所地になります。特に自宅で仕事をしている場合は、住所地で問題ありません。
しかし、中には自宅以外の場所で開業し、仕事をしている方もいます。また、自宅や事業所の引越しを行ったことで納税地が変更となる場合もあります。
このような場合には、旧納税地の税務署へ届け出の提出が必要です。
現住所が納税地にならないケース
個人事業主の現住所が納税地にならないケースもあります。
例えば、住民票上の住所と現住所が異なる場合、原則に従って住民票のある住所地を管轄する税務署への提出が必要です。
ただし、税務署へ「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」を事前に提出しておくと、現住所や事業所の住所を管轄する税務署への提出が可能となります。
なお、異動・変更の届け出は提出期限が特に設けられていません。
また、提出する場所は、以前まで変更前後の税務署(2カ所)へ提出する必要がありましたが、2017年4月以降は変更前の納税地にある税務署だけで良いことになっています。
法人の納税地との違いは?
個人事業主の納税地は住民票のある住所が原則となっていますが、法人の納税地とどのような違いがあるのでしょうか。
法人の場合、納税地は「法人設立届出書」の項目にある「本店又は主たる事務所の所在地」に書いた住所になります。
この欄にレンタルオフィスなどの住所を記載した場合も納税地として登録することが可能です。
本店所在地は法人設立を行う際に「定款」で認証を受けなくてはなりません。そのため、定款を作成する時点でどこに設定するのかを決めることになります。
なお、法人でも自宅を納税地に設定することは可能です。納税地を自宅に指定すると、確定申告などの手続きもすべて自宅の住所地を管轄する税務署へ提出することになります。
納税地の所轄税務署の確認方法
2023年1月時点で、全国には12の国税局と524の税務署が存在しています。この中から納税地を管轄する税務署を確認しておく必要があります。
どの税務署に確定申告書を提出すればいいのかと迷わないためにも、事前に確認しておくことが必要です。
納税地は少し複雑
市区町村ごとに設置された役所とは異なり、税務署が管轄するエリアは少々複雑です。
例えば、千葉市には3つの税務署(千葉東・千葉西・千葉南)が設置されており、それぞれ管轄エリアが異なります。
また、千葉市の中でも花見川区・稲毛区・中央区・美浜区はさらに細かくエリアが分かれています。
ほかにも、横浜市内には7つの税務署が設置されており、区ごとに所轄税務署は異なっているので注意が必要です。
このように、市内に複数の税務署があったり、同じ区内でも地域で管轄が異なったりする場合もあるため、事前に納税地を確認しておくことが大切です。
国税庁のホームページから検索可能
自身の納税地を管轄する税務署を簡単に調べたい場合は、国税庁のホームページを利用してみてください。
国税庁のホームページから納税地の郵便番号や住所で検索をかけると、その地域を管轄する税務署が見つかります。
また、郵便番号や住所以外にも地図から各国税局や都道府県の所轄税務署の一覧を表示できたり、国税局・都道府県名から税務署を調べたりすることも可能です。
開業届には納税地の記入が必要
個人事業主が事業を開始する際に、開業届の提出が必要です。開業届には「納税地」の項目があり、経費を計上する住所として登録しておかなければなりません。
納税地は住所地・居所地・事業所の3つから当てはまるものを選び、住所と電話番号を記入していきます。
もし納税地以外にも住所地や事業所などがある場合は、「上記以外の住所地・事業所等」の項目へ記入してください。
例えば、事業所を持っているものの納税地を自宅に設定したい場合、「納税地」に自宅の住所を、「上記以外の住所地・事業所等」には事業所の住所を記載します。
開業届を記入したら所轄税務署へ提出することになります。
ただし、所得税法上開業した日から1カ月以内に提出しなくてはいけないので、早めに準備を進めてください。
もし税務署に直接足を運んで提出することが難しければ、郵送やe-Taxを活用して提出することも可能です。
個人事業主の納税地に関する疑問
ここからは個人事業主の納税地で気になる疑問点を解説します。様々な例を挙げて紹介しているため、当てはまるものがあれば参考にしてみてください。
複数の事業所を持つ場合の納税地
個人事業主で複数の事業所を持っている場合、その中でも主たる事業所が納税地となります。
例えば、東京都と大阪府に2カ所の事業所を持っていたとします。
頻繁に利用するのが東京の事業所なら、東京の事業所を納税地に設定しておけば税務署からの連絡にも対応しやすく便利です。
また、複数の事業所を持っていた場合でも、納税地を住民票のある自宅住所に設定することも可能です。
日本国内に事業所だけある場合
日本国内には住所や居所が存在せず、事業所だけある場合の納税地についてです。
この場合、海外に移り住んでいたとしても国内に事業所などを保有しているのであれば、事業所のある場所が納税地として認められます。
仕事や家族の都合上、一時的に海外へ滞在している場合でも同様で、日本にある自宅・事業所などの住所を納税地として設定してください。
国内の自宅や事業所などをすべて処分している場合、直近の住所・居所が納税地です。
海外に事務所がある場合
海外に事務所を構えている場合、納税地はどこになるのでしょうか。日本の税法では、個人で納税の義務を持つ人は居住者と非居住者に分けています。
海外に事務所がある場合は非居住者になり、国内源泉所得に限り課税されることが決まっています。
つまり、海外に事務所を構えていて日本国内では所得が発生していない場合、所得税を納める必要はありません。
バーチャルオフィスの所在地を納税地にできる?
個人事業主の場合、自宅を事業所と兼ねて利用したり、レンタルオフィスやコワーキングスペースを借りて事業所に設定したりする場合が多くみられます。
そして、最近ではそれ以外にも「バーチャルオフィス」の利用が増えています。
バーチャルオフィスとは、物理的なスペースを借りるのではなく、郵便物の受取りや銀行口座の開設・登記を行う際に借りられる住所のことです。
住所のみの貸出しとなるため、別途仕事をするスペースは必要となります。
しかし、特定商取引法に基づく表記で自宅の住所を公開しなくても済み、初期費用を抑えることも可能です。
住所のみを貸出すバーチャルオフィスは、2023年1月時点では納税地として選択しても問題ありません。
ただし、許認可の関係上バーチャルオフィスの住所だと認められない業種などもあるため、注意が必要です。
引越しで納税地を変更する際の手続き
個人事業主が年度の途中で引越した場合、引越しした先の場所の住所を管轄する税務署へ確定申告書を提出する必要があります。
納税地を変更する際は、以下の書類を「引越し前」の住所を管轄する税務署へ提出します。
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- 「所得税・消費税の納税地の異動又は変更に関する届出書」
- 「個人事業の開廃業等届出書」(納税地に設定した事務所・店舗を移転する場合)
- 「給与支払事務所棟の開設・移転・廃止届出書」(雇用する従業員がいる場合)
また、個人事業主で労働保険や社会保険に加入している場合は、以下の書類も提出しなくてはなりません。
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- 「事業開始(廃止)等申告書」(都道府県税事務所への提出)
- 労働保険・健康保険・厚生年金の届け出(年金事務所への提出)
納税地の変更を怠った場合はどうなる?
万が一個人事業主が納税地を変更したにもかかわらず、変更手続きを怠った場合はどうなるのでしょうか。
納税地の変更手続きを怠った場合、一般的には変更前の所轄税務署が税務調査を行うことになります。
ただし、国税局・国税庁の権限によって納税地を変更することも可能です。
例えば、神奈川県横浜市から東京都渋谷区へ引越しを行ったとします。
神奈川県横浜市と東京都渋谷区はどちらも東京国税局の管轄であることから、東京国税局の権限によって納税地の変更が可能です。
しかし、神奈川県横浜市から愛知県名古屋市に本店所在地が変更された場合、愛知県を管轄するのは名古屋国税局になるため、管轄が異なってしまいます。
管轄する国税局が異なると納税地を変更する権限を持たないため、国税庁によって変更される仕組みです。
このように、変更手続きを怠った場合でも必ず国税局・国税庁によって現在の住民票がある住所または本店所在地へ納税地が移されます。
その間に納税の義務を怠った場合、追徴課税が発生する場合もあるため、必ず変更手続きは行うようにしてください。
振替納税を利用する時に必要な手続き
振替納税は、納税者名義の預貯金口座から引落としで国税を納付できるものです。
自動的に口座から引き落とされて納付できるため、期限を忘れてしまう心配もありません。
また、一度手続きをしてしまえば次回以降の納付もすべて自動的に口座振替となったり、納付期限を1カ月ほど延期されたりするなどのメリットもあります。
振替納税は最初の登録時に税務署や預貯金口座のある金融機関へ「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」の提出が必要です。この書類はe-Taxからも提出できます。
引越しをして納税地が変更となる場合、書類の再提出が必要です。再提出を行わず放置していると税金が未納となってしまうため、注意してください。
旧納税地の所轄税務署に確定申告を提出してしまった場合
引越しをしてから納税地の変更手続きを行った場合、新たに確定申告書を提出するのは納税地の変更を行った住所を管轄する税務署になります。
しかし、うっかりして変更手続きを行ったにもかかわらず、以前の税務署へ確定申告書を提出してしまった、ということもあるかもしれません。
この場合、申告書の提出期限に余裕があれば、税務署からの連絡と共に正しい納税地に書類を回付してもらえるので再提出の必要はありません。
ただし、申告期限が迫っているタイミングだと回付されるまでに時間がかかってしまい、提出が遅れてしまう恐れもあります。
まとめ
納税地は税金を納めるために、開業届などにも記入する必要がある重要な項目です。
万が一納税地として設定していた場所から移転した場合は、必ず変更手続きを行うようにしてください。
移転がともなう場合は、提出する書類やその提出先が異なるため、特に注意が必要です。
(編集:創業手帳編集部)