孫子流、先回り営業術って!?「孫子の兵法 経営戦略」の著者直伝、 勝ち続けるスタートアップを作るための”起業家兵法”

創業手帳
※このインタビュー内容は2016年12月に行われた取材時点のものです。

NIコンサルティングの代表取締役・長尾一洋氏インタビュー(第二回)

(2016/11/17更新)

「孫子の兵法経営戦略」の著者で(株)NIコンサルティングの代表取締役・長尾一洋氏に、スタートアップを成功させる孫子の知恵を取材しました。

第二回は、「スタートアップが勝つ体制を作る方法」「変化に強い経営戦略」についてお伺いしました。

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長尾 一洋(ながお かずひろ)
1965年生まれ。横浜市立大学商学部を卒業後、経営コンサルティング会社に入社。中小企業の経営指導に取り組み、課長職を経て1991年に(株)NIコンサルティングを設立し、代表取締役に就任。ローコストで経営コンサルティングを実現する仕組みづくりに取り組んでおり、自社開発の経営支援ソフト「可視化経営システム」は累計4200社に導入されている。著書「営業の強化書」「小さな会社こそが勝ち続ける 孫子の兵法経営戦略」他多数。

”積水の計”ベンチャー流顧客”リスト活用術

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ー続いて、「積水の計」についてのお話をお聞かせください。「経営に勢いをつけるためには、”顧客のダム”が必要」ということですが、これはどうしてですか。

長尾お客さんの情報が増えるということが大切なんです。今風に言うと「ビックデータ」みたいなもので、貯まれば貯まるほど、それを使ってお客さんを獲得することができます。これを、僕は意識的にやったわけです。弊社も顧客情報をかなり貯めていますよ。

ー特に起業家は、水が溜まっていない状態ですから、積水=顧客の情報を貯めるところからということですね。

長尾:そうですね。よく人脈が大切と言いますが、薄い人脈を作るより、お客さんの情報をいかに収集するかが重要だと思います。

ー「お客さんの情報」というと、単に交流会で名刺を集めるというだけではいけないのでしょうか。

長尾話もしていない、単に名刺を交換しただけという「薄っぺらい関係」がいくらあっても、実際には役に立ちません。

ーなるほど!今風に言うと「CRM(顧客関係管理システム)」ということですね。お客さんを深く知ることが大切と。

長尾:はい。お客さんをいかによく知るかが重要です。あと、特に協力関係を築きたいときに大切なのは、自分の価値をしっかりアピールすること。魅力があれば、力がある人も協力してくれますから。逆に、「偉い人を紹介してくれ」ってお願いしに行っても、相手にはされませんよ。

ーでは、ベンチャー企業など、まだ実力がないときに、雲の上のような存在の人に協力を仰ぐ場合、どうすればいいと思いますか?

長尾:ビジョンかもしれませんね。「とにかく協力して欲しい」ではなくて、「人の役に立ちたいというミッションがある」という主旨を伝えること。「お役に立ちますよ」という気持ちで行くから、相手にも話を聞いてもらえるんです。

ーこれも「相手の立場に立つ」というところにつながるかもしれませんね。ちなみに、顧客情報を管理するために使っているツールなどはありますか?

長尾:今は、クラウドのCRM(顧客関係管理システム)やSFA(営業支援システム)と呼ばれるものを使っています。顧客管理ツールですね。

ー今までエクセルなどで単純に貯めて管理していたものを、そういったツールで管理するメリットは何でしょうか。

長尾:こういったツールを使うと、対応の抜け漏れが防げますね。「行く予定だったのにまだ行ってないだろ」「そろそろだよ」「クレームが発生しているから気をつけろ」といったことを教えてくれます。

”勝ってから戦いに行く”営業前ミーティングの技術

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ー「勝ってから戦う」というのはどういうことですか?

長尾営業に行く前にミーティングを行うということです。

ー営業後にミーティングをするのが当たり前だと思っていたので、目からウロコでした。

長尾:ミーティングをして「これは良いな」と言えるようになってから行きなさいということですね。ミーティングではなくても、「明日行くお客さんとは、こんな話になるだろうな」と考えて準備して行く必要があります。

ーなるほど。自分だけでも、「1人ミーティング」を行えば良いんですね。

長尾:営業のストーリーを考えたら、「じゃあ、この資料を持っていったほうがいいな」とか気づけますよね。これをする人としない人とでは、結果が変わっています。

ーそうでしょうね。やはり「とにかく買ってください」とやみくもにお願いするより、お客さんのツボを付いた提案のほうがよっぽど心に響きますし、売上にも繋がりそうです。

”将に五危あり”ダメな経営者5つのパターン

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ー次に、「ダメな経営者」について教えてください。これも、孫子が5つのパターンに分けて言葉を残しているんですね。

長尾:はい。駄目な経営者のパターンとして、孫子は「必死」「必生」「忿速」「廉潔」「愛民」を挙げています。特に「愛民」が分かりやすいですね。

将の五危とは

  • 必死:必死になりすぎる→敵の詭計にハマりやすくなる
  • 必生:生に執着しすぎて逃げる→捕虜になりやすくなる
  • 忿速:すぐにカッとなる→敵の挑発に乗りやすく、軽率な判断をしがちになる
  • 廉潔:潔癖すぎる→恥をおそれ、敵の罠に陥りやすくなる
  • 愛民:人に厳しくできない→優柔不断になりやすくなる
ー言葉からするとポジティブなイメージですが、どうしていけないのですか。

長尾部下には優しくていい人なんだけど…という上司は役に立たないからです。

ーあと、「必死」というのは起業家にはありがちかもしれませんね。

長尾:みんな必死ですからね。気合と根性で突っ込む経営者は多い気がします。

ー逆に、逃げ腰すぎる人もいますよね。

長尾:長所も出すぎると短所になりますから、バランス感覚が大切かもしれませんね。

ー社長はご自身だと、どんなタイプですか。「五危」で言うとどれに気をつけていますか。

長尾:どうでしょう。「愛民」かなあ。ついつい、人間心理として「嫌われたくない」と思ってしまいますから。

ーいい人になるというのは、ある種逃げとも言えるかもしれませんね。

長尾:そっちのほうがいい会社になる気がするんでしょうけど、結局ぬるい会社になるだけ会社が負けちゃって、潰れないようにするためには、五危に陥らずにしっかり判断ができないと。

「いい人になりたい」という状況は、特に管理職や経営者の経験がない、普通の人が起業するときに陥りがちそうですね。でも、経営者としては一番戒めるべきところかもしれません。

ーGEのジャック・ウェルチは「リーダーはエッジが必要」だと言いますが、それにも通じますね。

”人に責(もと)めず”属人化を脱出する考え方

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ー小さい会社だと、結局すぐ人に求めがちなんですが、それとは正反対のことを孫子は言っています。これは、属人化しないほうが会社として伸びるということでしょうか。

長尾属人化した組織には、限界があるということですね。10人の壁とか、30人の壁とかが必ずあります。10~20人くらいまでであれば、なんとか社長1人でも面倒を見ることができますが、それを超えると組織としての考え方を変えないと難しいんじゃないかな。

ー確かに、会社の売上が上がって組織が大きくなると、人に頼っていた部分がボトルネックになることがベンチャー企業では多い気がします。

長尾:仕事ができる人がいると助かるけれど、そこがボトルネックになってしまったり、辞められたらアウトになったり、という問題はありますね。

ー特に、創業期のメンバーは何でもできるタイプの人材だけれど、チームワークに欠けるということもありますよね。組織が大きくなると、協調性が大切になりますから、それぞれのステージで合った人を見つけることが重要ですね。

長尾:はい。会社の状況に合わせて、人材を変えていいと思います。組織を変えられる人が、大きくしていける人だと思います。

ーいろいろな会社のコンサルをされる中で、「人に求める」状態になっている会社には、どういう指導をされていますか。例えば、「この人に聞かないと業務が進まない」状態になっている場合とか。

長尾:そうですね、属人的な業務を仕組み化することでしょうか。ITツールを使おうという話になることが多いです。業務の組織化みたいなワークフローは、全部ITになりますから。「可視化経営」ともいいますよ。

例えば、稟議制度とか。中小企業は「社長がウンと言ったらOK」みたいなところがありますが、そこはきちんと記録に残して稟議することが、組織としての決定には必要ですよね。そういったのは、今時紙を使わなくても、ITでかんたんに取り入れることができるんです。

”敵を知り己を知る”日報術

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ー「経営の見える化」というのは、組織を作る上で重要なファクターになりそうですね。

長尾:そうですね。経営指標なども、パッと見で分かるに越したことはありませんね。

ーあとは、経営の判断材料となる「先行指標」も見える化が大切ですね。

長尾:財務資料なども大切なんですが、これはあくまで結果ですから。逆に、未来の話は経営の中心となっている人の中だけにありますから、そこの仕組み化も求められます。その先行指標の1つとして、「日報」もあると思います。

ーなるほど、社員の日報を先行指標として活用すると。

長尾:はい。お金が動くと、経理がその情報を補足できるんですけど、「ある社員がこんなことを考えていて…」というような情報は、お金が動かないから補足できません。

経営者の多くは、財務状況を見て経営の現状を把握しようとしているんですけど、それはあくまでも結果。社員が考えて、どう行動していくかというのは反映されていませんから、そこをつかめる先行指標が日報というわけです。

ー確かに、営業マンが企画して、お客さんに持ちこんで…という情報は、下手したら結果が分かるのは半年後とかですもんね。経営に反映させるには、お金だけ見ていては遅いというのがよくわかります。

長尾:もちろん、財務状況の把握が経営の改善の役に立たないというわけではありませんが、遅いからやっぱり手が打ちにくいですよね。半年後に「あの時、こうしておけばよかった」と言っても、次には活かせるかもしれませんけど。

ー先行指標というと、営業に当てはめると分かりやすいですね。客先への訪問数や、企画やアイデアとか。

長尾:企画を出したか、という情報もデイリーにチェックできますから。「日報」というから堅いイメージかもしれませんが、要するに日々の社員さんの活動状況をモニタリングするということです。一人ひとりが現場で起こったこと、考えたことを報告することが、会社のセンサーになるんですよね。それを社長がパッと見られるというか。

ー行動は日報で管理できそうですが、「社員に考えて行動してもらう」という部分は難しいのではないですか?

長尾:考えていることは見えないかもしれませんが、だからこそ日報で報告してもらうんです。明日こうしようと思っていますとか、今日こんなことを感じたというのを書いてもらうことで見えてくるんですよ。

ー社員の思考も見える化するということですね。これは、経営者側にも読み取る力が必要そうです。「大変です」という日報だけをみて”愛民”に走ってしまうと、ダメな経営者になってしまいますし。

長尾:そうですね。意図的に情報を捉えていかないと、重要度が低い情報ばかり一生懸命見ていることになりますから。「何をどう書かせていくか」ということを考えて示して、意味のあることを書いてもらう必要があります。

ー会社が大きくなってくると、その分全体の把握が難しくなります。上手く会社の全体最適を選ぶためにも、情報の把握は重要ですよね。

長尾:経営において、お金の流れを「血液」と言いますが、情報=日報は「神経」だと思います。だから、デイリーに情報を把握するべきです。月に1度の会議で分かっても、仕方がありません。

ー確かに、日々日報に触れていると、背景情報がなんとなく共有化されるというのもいいですよね。

長尾日報で全てが分からなくても、大体の動きが分かれば話が早いですよね。「昨日のあの件どうなっている?」という取っ掛かりがなければ、「昨日どうだった?」というところから始まるじゃないですか。これは大きな差ですよね。

そして、日報情報はデジタルで残すべき「あとで見ようと思ったら、全部出てくる」「特定のキーワードで検索できる」とう状況にしておくと、活用もしやすいです。紙に書いてしまうと、記録には残るけれど、見るのが大変ですから。

ー紙だと、社員側も「やってられない」と思いそうです。

長尾:そうです。ITはもっとうまく活用していって欲しいですね。仕事の予定や買い替えの予定も全部ITに入れておけば、アラートが来て忘れません。ITに情報を集約すれば、あとで使えます。

ーそう考えると、IT化はペーパレスで紙代を節約するというだけでなくて、情報活用という面のメリットもありますね。

長尾情報は貯めれば貯めるほど価値が出てきます。紙は貯まったら見ませんから、真逆。孫子は「情報を大切にしろ」と言いましたが、現代に置き換えると、「データを蓄積して、それを読みこなす・使いこなせ」と翻訳して考えるべきでしょうね。

起業家へのメッセージ

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ー最後に、起業家へのメッセージをいただけますか。

長尾:孫子の言葉を借りれば「拙速を尊ぶ」でしょうか。どうしても考えてもわからないことはたくさんありますから、色々試行錯誤して、ダメならやり直すというのが大切だと思います。仮説検証をスピーディーに行うというか。PDCAをぐいぐい回せというか。

「拙速を聞くも、未だ巧久なるを賭ざるなり」という言葉があります。最初のうちは、上手くやろうと思って長引くよりは、さっさと取り組んで失敗したら直せというのが大事な気がします。

創業者には、思い込みが激しい人も多いですから、悪い点を見つめる冷静さも持って欲しいです。特に、飲食店は開店も多いけれど、こだわりが強すぎで失敗している人もおおいので。アイデアと経営は違いますから、そこを把握した上で進めてください。

NIコンサルティングの代表取締役・長尾一洋氏インタビュー(第一回)
孫子は高速PDCAを唱えていた!? 「孫子の兵法 経営戦略」の著者直伝、勝ち続けるスタートアップを作るための”起業家兵法”

(取材協力:(株)NIコンサルティング/長尾 一洋(ながお かずひろ))
(編集:創業手帳編集部)

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