個人事業主が廃業するために必要な手続きや費用とは?注意点なども合わせて
個人事業主の廃業には手続きが必要!いくらかかるかも要チェック
個人事業主として事業を開始する時と同様、廃業の際にも様々な手続きが必要です。
廃業する際に確認が必要なのは、従業員の有無や消費税の納付状況、青色申告の有無などで、手続きの内容も異なります。
そこで今回は、個人事業主が廃業するために必要な手続きや費用、注意点などについて解説します。
廃業における手続きに不安がある方や、どのようなことをすれば良いかわからない方は、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の目次
個人事業主が廃業する際の手続き方法とは
廃業する際の手続きとして、まず廃業届の提出を思い浮かべるのではないでしょうか。
個人で事業を運営していても、廃業したかどうかは廃業届の提出がなければ国や都道府県は廃業についての把握ができません。
廃業届を提出すれば、個人事業主がいつ事業を廃止したのかを認識できます。廃業の旨を届け出るタイミングとしては、廃業日から1カ月以内が適切です。
そもそも個人事業主は、所得税・消費税・個人事業税などの税金を納付しています。従業員がいる場合には、源泉所得税から納税しなければなりません。
廃業した時には、事業を廃業した事実を国や都道府県に届け出ることで、納税義務や徴収義務が失われるという旨を通知する必要があります。
廃業する際に必要となる書類
廃業する際、必要となる書類があります。書類の内容とその期限などを詳しく解説していきます。
個人事業の開業・廃業等届出書
まずは、一般的に開業届や廃業届と呼ばれる「個人事業の開業・廃業等届出書」です。
廃業日から1カ月以内に提出が必要ですが、提出期限が土日祝日に該当する場合、その翌日が期限となります。
廃業後は、支出があっても経費として認められないため、支出が見込まれる場合には廃業日の決定を急がず、慎重に判断しなければなりません。
廃業届を提出しなくても罰則があるわけではありません。しかし、税法上は提出が必要とされる手続きです。
納税書類や確定申告書などが継続して送られてくることにもつながるため、できる限り提出することをおすすめします。
確定申告書については、廃業年度に税額がある場合には申告が必要となるため、事前に確認が必要です。
事業廃止届出書
「事業廃止届出書」は、消費税を支払っていた課税事業者が提出する書類です。
提出期限は、廃業の事由が生じてから速やかにとされていますが、都道府県により期限は一律ではありません。東京都の場合は廃業の日から10日以内となっています。
課税事業者は、管轄の都道府県税事務所に提出しなければなりません。
税務署は土日祝日の受付けを行っていませんが、送付もしくは税務署の時間外収受箱に投函すれば、土日祝日でも提出が可能となっています。
書類には、納税地・代表者氏名・個人番号・事業廃止日などを記載します。提出期限までの短い期間でもすぐに記入できる書類なので、早急に提出してください。
また、廃業年分の事業税については、通例で納付が翌年となってしまうため、課税見込額を廃業年分の必要経費とすることが認められています。
所得税の青色申告の取りやめ届出書
確定申告で青色申告を行っていた個人事業主は、「所得税の青色申告の取りやめ届出書」の提出が必要です。
この届出書は、青色申告の取りやめをする年の翌年、3月15日までが提出期限となっています。
ただし、「個人事業の開業・廃業等届出書」と同時に税務署に提出するのが一般的な流れです。
書類には、青色印刻書提出の承認を受けていた年分の期間や、青色申告書を取りやめようとする理由などをできるだけ詳しく記入しなければなりません。
青色申告書の取りやめをするのは事業を廃業することが理由なので、その旨を詳しく記載します。
個人事業主の場合、提出しないとたとえ無申告であっても青色申告の効力が継続してしまうため、必ず提出してください。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
従業員や事業専従者を雇用して給与を支払っていた場合は、「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」の提出が必要です。
提出期限は、事業の廃止から1カ月以内とされています。期日を過ぎてしまうと、源泉所得税の納付に遅れが生じ、税金を多く支払うことになるため注意が必要です。
給与から徴収した源泉所得税については、廃業日の翌月10日までに納付しなければなりません。
これまでは半年にまとめて支払っていたという個人事業主でも、廃業の場合は翌月10日までに納付が必要です。
また、中には従業員に対し個人住民税を特別徴収していたという方もいるかもしれません。
住民税の特別徴収をしていた個人事業主は、市区町村に「異動届」などの提出が必要です。
所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
予定納税をしている個人事業主は、廃業することで所得税の見積額が予定納税基準額より少なくなる場合があります。
予定納税額が多すぎる可能性がある場合は、予定納税額の減額を申請できます。そのための書類が、「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」です。
減額を申請する場合には、この書類と申告納税見積額を計算するための基礎となる事実が記載された書類を添付する必要があります。
第1期分および第2期分の減額申請はその年の7月1日~7月15日までに、第2期分のみの減額申請を行う場合は、その年の11月1日~11月15日までに管轄の税務署に提出します。
提出期限が土日祝日に該当する時は、その日の翌日が期限です。
廃業届にかかる費用はどのくらい?
法人は登記を行っている関係上、廃業届の提出に費用がかかってしまいますが、個人事業主は廃業届提出の際に費用がかかることはありません。
ただし、廃業の手続きには設備の処分や店舗の原状回復、在庫処分などの費用がかかってきます。
廃業費用の内訳
2019年版中小企業白書によれば、個人事業主の廃業にかかる費用は総額で100万円以上という方が全体の36.2%いることがわかっています。
ここでは、廃業にかかる費用の内訳について詳しくご紹介します。
設備を処分する費用
どのような業種で事業規模がどのくらいなのかによっても、事業に必要とされる設備は異なります。
事業を進める上で必要だった設備は、廃業にともない処分しなければならないものも出てくるかもしれません。
まだきれいで中古品として売却することができれば問題ありませんが、処分するしかない状態であればその分の処分費用がかかってしまいます。
老朽化が進んでいる設備や用品は、トラック1台分でも数万円かかるといわれています。
店舗などの原状回復にかかる費用
店舗や工場など、物件を借りていた場合は、原状回復費用がかかります。
規模や場所などによって費用は異なりますが、借りる前のもとの状態に戻さなければならないため、かかる費用は1坪あたり数万円~数十万円が目安です。
物件の設備の場所を変えている場合は、その分割増しで費用が発生する場合もあります。
廃業にともなう費用としては、物件の原状回復に費用が最もかかるといわれています。費用を抑えるためにも、日頃からきれいな状態を維持しておくことが大切です。
在庫を処分するための費用
商品の販売を行っていた場合は、在庫が存在します。廃業の際には、在庫を処分したり、お買い得価格にして販売したりして処分しなければなりません。
ただし、大量の在庫を抱えている場合だとすべての在庫を売り切ることは難しいため、処分業者への依頼が必要となる場合もあります。
処分業者に依頼すればその費用もかかってしまうため、廃業を決断したら余剰が大きくならないよう、在庫をコントロールしておく必要があります。
従業員に支払う退職金
従業員を雇用していた場合は、退職金の支払いが必要になります。
退職金制度をどのように定めるかは個人事業主の判断に委ねられますが、退職金制度を設けたのであれば支払い義務が生じます。
退職金の用意に備え、事前に中小企業退職金共済制度に加入していたなら問題ありません。そうでなければ一気に費用がかかってしまうことになるため注意が必要です。
退職金は非課税の枠があり、高額になるケースもあります。
ただし、会社廃業の場合は従業員との雇用契約を解消し、解雇しなければなりません。その場合、解雇予告手当を支払うことになります。
解雇予告手当は退職金とは異なり、「1日の平均賃金」に「解雇日までの期間が30日に不足していた日数」を掛けて計算します。
個人事業主が廃業する際の注意点
最後に、個人事業主が廃業する際の注意点についてご紹介します。
廃業しても確定申告は必要!
個人事業主の場合、納税額を確定させるための確定申告を毎年行うことになりますが、廃業になっても確定申告が必要です。
毎年2月~3月に行っている確定申告とは、前年の所得に関わる手続きとなります。
つまり、前年に廃業した場合は、前年の1月1日~廃業日までの事業所得を申告する必要があるということです。
所得が20万円以下であれば確定申告の必要はありませんが、これまでに青色申告を行っていた場合は青色申告特別控除の関係上申告が必須となります。
青色申告の特別控除とは最大65万円の控除を受けられるもので、所得税の課税を抑えられるものです。
申告をしないと控除が受けられなくなるため、廃業後でも申告が必要になると考えてください。
廃業した後に発生した経費はどうなる?
確定申告では、収入はもちろん支出した必要経費を申告して所得を計算します。
廃業をして事業が終了した場合でも、設備の処分費用や原状回復費用など、経費が生じる場合があります。
しかし、廃業届に記載した廃業年月日以降は、事業を終了していることになるため経費として扱われません。
ただし、一部は「事業を廃止した場合の必要経費の特例」にともない、経費として認められるものがあります。
例えば、廃業するために発生した経費、事業で獲得した売上債権の貸倒損失、商品在庫の値引き販売や廃棄にともなう損失などが挙げられます。
経費として認められるかどうかは、税務署の判断となるため、基本的には事業を継続している時に必要経費を計上しておくことが大切です。
借入金が残っている場合について
廃業した段階で借入金が残っている場合は、個人の借金として抱えることになります。これまでの事業資産を売却することで返済しなければなりません。
しかし、事業資産の売却や個人の資産だけでは完済が困難な場合、債務整理を行う必要があります。
債務整理は、借入金が支払えなくなった場合に減額や支払えなくなったことを認めてもらう手続きです。
債務超過が少額か多額かで手続きは異なりますが、生活基盤を失ってしまう恐れもあります。
そのため、借入金の返済計画は事前に債権者とよく相談しておき、必要に応じて交渉しておくことが大切です。
廃業によって継続した収入源は失われます。借入金の返済ができないなら、担保を売却して早期解決を目指すことが大切です。
個人事業主が亡くなった場合も廃業手続きが必要
個人事業主が亡くなった場合には、相続人が廃業手続きを行わなければなりません。
相続人が廃業の手続きをする場合、管轄の税務署に「個人事業主の死亡届出書」を提出します。期限は速やかにとされているため、早めに提出する必要があります。
確定申告が必要な場合は、個人事業主の代わりに相続人が申告・納税するための「準確定申告」が必要です。
これは一般的な確定申告の提出期限とは異なり、個人事業主が亡くなって相続が開始された日の翌日から4カ月以内です。
相続人が事業を承継する場合には、開業届が必要になるため、個人事業主が亡くなった日から1カ月以内に提出します。
青色申告制度を利用する際は、亡くなった日によって提出期限が異なります。
まとめ
事業の継続が難しくなれば、廃業を決断せざるを得ない状況になってしまいますが、廃業するためには様々な手続きが必要です。
関係する書類も複数あることから、期限を守って提出することが大切です。
また、一部の場合を除き、廃業届に記載した廃業年月日以降は事業を終了していることになるため、経費として扱われない点にも注意してください。