産後ケアは母親だけの問題ではない。日本初の「自宅訪問型産後ケアサービス」はこうして生まれた
産後ヘルパー株式会社 代表取締役 明 素延インタビュー
(2018/09/30更新)
妊娠や出産は、女性にとって大きな出来事の一つです。
ですが、実は今の日本において、出産後の母親の身体をケアするサービスはそれほど多くありません。
そんな「産後ケア」の分野で起業したのが、産後ヘルパー株式会社 代表取締役の明 素延(みょん そよん)さん。自身も二人の息子を持つ母親です。
出産後は、周りに頼れる友人・知人がおらず、産後うつの症状まで出てしまったという明さん。そんな明さんの起業までの経緯を取材した際に見えたのは、「産後ケアの文化を広めていく」という強い決意でした。
産後ヘルパー株式会社 代表取締役
韓国での出産後、慶應義塾大学産業研究所共同研究員に復帰。慶應義塾大学の博士課程の単位取得退学の後は「少子化と経済-産後ケア」を研究テーマとする研究を進める。自分の出産時の経験から産後の母親をケアする必要があると考え、2014年2月産後ヘルパー株式会社を設立。現在に至る。
産後の辛い経験から生まれた「日本初のサービス」
明:日本初の「自宅訪問型産後ケアサービス」です。専任の女性産後ヘルパーが母親と赤ちゃんをサポートする訪問ケアサービスとなります。
出産から8週くらいまでの「産じょく期」は、母親が出産で変化した身体を元に戻す大切な時期です。この時期は心身ともに不安定になりやすく、何らかのサポートが必要だといわれています。
そこで、出産で疲労した母親の精神と身体をケアする「母親ケア」、授乳サポートやオムツ交換といった赤ちゃんをケアする「新生児ケア」、母親に変わって家族の家事をケアする「家事ケア」のサービスをできるようにしました。
最近では、日本でも産後ケアの重要性が浸透しつつあり、多くの会社が参入してきました。その中でも当社は、「母親ケアが充実していること」、「外国人対応の実績が多いこと」、「しっかりとしたヘルパー教育を行っていること」、「搾乳器や座浴器といった産後機器6種類の無料レンタルを行っていること」で差別化を図っています。
本社は横浜ですが、お客様の都内の方が多いですね。千葉県や埼玉県の方もいらっしゃいます。現在は、ニーズや問い合わせが多い大阪での事業展開もスタートしています。
明:私は、第一子を両親のいる韓国で出産しました。韓国では少子化対策として産後ヘルパーの制度が充実しています。宿泊施設にも産後ケア専門のサポートがあり、施設をうまく利用すれば2ヵ月近く身体を休ませることもできます。その時期に無理をして家事や育児を行うことは、将来年を重ねたときに関節炎や膀胱炎、冷え性などの発症する可能性があるといわれているからです。
韓国での産後ケアを利用した後に、夫が待つ日本に帰ってきました。しかし、ベビーシッターはあるものの、母親の身体をケアするためのサービスは見当たりません。夫は仕事で帰宅は遅いですし、親戚も近くにはいない。そうこうしているうちに子供を保育園に預けて職場に復帰するのですが、長時間母乳を与えてないことで乳腺炎になってしまいました。寝不足や疲労も重なり、次第に「産後うつ」の症状が出てきて、精神的なバランスも崩れていました。
こうした経験があって、数年後に第二子を授かりました。そのときに、自分が経験した産後の辛い経験を活かせないか、「女性が働きやすい環境」や「赤ちゃんを産みやすい社会」を実現できないか?と考えました。それから韓国で産後管理士の資格を取得して、産後ヘルパー株式会社を設立しました。
しかし、実績不足ということで一般のオフィス物件を借りることができませんでした。そこで、インキュベーションセンター(※1)が充実している横浜市でオフィスを探すことにしたのです。
幸い、横浜市は夫の転勤予定先であり、私も大学時代に過ごした場所。なじみのある都市です。すぐにインキュベーションセンターに入居するための事業計画書を提出しました。その後、入居審査を通過し、補助金をいただくこともできました。2014年2月のことです。
※1
インキュベーションセンター:事業を志す人に、事業開始から成長へ向けて支援を行う施設のこと。
産後ケアは母親だけのものではない
明:経済活動人口減少や労働生産性向上は、産後ケアと大きく関わっています。「産後うつ」は決して女性だけの問題ではありません。
最近では、慣れない家事、赤ちゃんの夜泣きによる寝不足、それによって起こる会社での集中力低下など男性にも大きく影響を及ぼしているようです。だからこそ、企業の福利厚生に加える必要があると思っています。将来的には母親だけではなく、父親を対象にした産後ケアのセミナーや講演会を開催したいですね。
産後ケアは、心身ともに病気にならないように予防するためのもの。しかし多くの人が重要なのは出産までと考えています。なぜなら、産後の重要さを知る機会がないからです。
まずは知ってもらう。結果的に当社を選んでもらえなかったとしても、少しでも多くの方に産後ケアの重要さを知る機会を与えたいと思っています。
無難な道ばかりでは成長はない
明:私が妊娠して起業を考え始めたときに、「会社を創業するだけでもパワーがいるのに、妊娠した体でできるわけがない」と、多くの人たちに笑われました。
確かに、起業するということは覚悟が必要で、苦労することがたくさんあります。実際、ピンチの連続でした。しかし、私はピンチのたびに、「このピンチを乗り越えれば成功の道が待っている」と思ってこれまでやってきました。チャレンジすることもなく無難な道ばかりを選んでいたら会社に成長はないと思っています。
また、成長するためには優しい言葉だけではなく、時には辛辣な意見も必要です。それをふまえてたくさんの方とお付き合いしていくのがいいと思います。
(取材協力:産後ヘルパー株式会社/明 素延(みょん そよん))
(取材協力:三幸エステート株式会社)
(編集:創業手帳編集部)