セーフィー 佐渡島 隆平|店舗や現場の監督業務に活用!クラウド録画サービスで「映像から未来をつくる」
ロボットと人が共生できる社会のために、IoT社会のワクワクする未来のインフラをつくる
カメラとクラウド録画サービスの「セーフィー」で、家から街までの全てをデータ化する「リアル空間のデータ化」を実現し、人々の意思決定のアップデートに挑戦しているのがセーフィーの佐渡島さんです。
セーフィーが実現する未来やクラウド録画サービスの可能性について、創業手帳代表の大久保が聞きました。
セーフィー株式会社 代表取締役社長CEO
1979年兵庫県生まれ。甲南大学経済学部在学中の99年にDaigakunote.comを創業。2002年同大学卒業後、ソニーネットワークコミュニケーションズに入社。その後子会社のモーションポートレートで画像処理技術の開発に携わる。14年セーフィーを創業。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。
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この記事の目次
Sonyから出資を受けセーフィーを創業
大久保:起業までの流れを教えてください。
佐渡島:Sonyグループの研究所からカーブアウトした、モーションポートレートという顔認識技術の会社で働いていた3名で起業しました。
モーションポートレートは画像処理に特化した会社で、この技術を使って新しいことができないか?と考えている時に、ちょうど自宅を新築したんです。
その家に防犯カメラの設置検討をしたのですが、小さいカメラで「自動でアップデートされ、AIなどで賢くなるカメラ」が実現したら面白い社会になると思い、職場の2人を誘い起業しました。
大久保:Sonyグループは先進的な企業だと思うのですが、そのビジネスアイデアをSonyグループ社内で実行しなかったのは何故ですか?
佐渡島:このアイデアをSonyグループ社内で実行するという選択肢もあったのですが、よりスピーディーに、よりオープンなプラットフォームを作りたいという想いがあったため、SonyグループのSo-netから出資を受けて独立しました。
最初にSonyグループから出資を受けられたことが信頼感に繋がり、他にも何社か出資をしていただけることになりました。
大久保:Sonyグループという安定した大企業を退職して起業することに、不安を感じることはありませんでしたか?
佐渡島:私はほとんど不安を感じていませんでした。
何故なら私は学生の頃に起業していた経験があるのに加えて、私の実家も妻の実家も家業をやっていたので、「起業」に対する不安感は元々抱いていなかったですね。
しかし、他の創業メンバー2名はSonyグループを辞めることを躊躇っていたので、私が2人の背中を押して、3名で起業することになりました。
クラウド化の可能性を信じながらも苦労した創業初期
大久保:創業当初から事業はうまく行きましたか?
佐渡島:初めの3年半はほぼ売り上げがありませんでした。
莫大なデータシステムやハードウェアなども一から作っていく必要があったため、特に起業当初の3年半は資金も労力もかかりました。
大久保:創業当初の苦労の多い3年半をどのような想いで乗り切りましたか?
佐渡島:私は世の中にインターネットが普及する時代を経験していたので、文字データや音楽、映像など様々なデジタルデータがクラウド化される未来を信じていました。
起業当初の3年半はかなり苦労しましたが、5Gが普及した際には必ず自社のサービスの需要が高まると信じていたので、足元の売り上げを作りながら耐えていくだけでしたね。
さらに、熱狂的に使っていただけるお客様のフィードバックを参考にしつつ、製品やサービスの改良を繰り返しており、実際は思い悩む暇はなかったんです。
大久保:カメラがクラウド化する未来が楽しみで、目の前の仕事に熱中していたのでしょうか?
佐渡島:私自身がセーフィーの最初のユーザーだったので、家で使った時にとても感動しました。
月額1200円できれいな映像を撮れるカメラを設置できるというのは、世の中のあらゆる場所でニーズが高まると確信していたので、自社製品の品質には自信がありました。
セーフィーの「クラウド録画サービス」で様々な分野での生産性向上に貢献
大久保:例えば警備の面で、人が見て回るのは正確性や記録性、コスト面で割りに合わないと思いますが、それがクラウド化されることで、人が見て回るよりコストは下がり、品質は上がるということですか?
佐渡島:初めに興味を持っていただいたのはチェーン店の店舗を経営している会社や、多くの現場を抱える建設関係の会社でした。
それまでは本部の担当者がそれぞれの店舗や現場の監督業務のため現地に訪問していましたが、働き方改革の観点でクラウド録画サービスを活用した管理をし、DXを志向される企業が増えました。
コロナ禍に入り、この流れはさらに加速しました。
大久保:コロナ禍でクラウド録画サービスのニーズが加速した理由は何ですか?
佐渡島:建設業界では現場に行き、点検や測量する業務が今までの主流でしたが、政府の方針が急に変更になり、「遠隔臨場」という仕組みでリモートで点検や測量をすることが推奨されました。
実際に現場に足を運ぶ場合は1日2〜3現場しか点検ができなかったのが、この「遠隔臨場」を活用することで1日に40〜50現場の点検ができるようになったと、多くの建設会社の方々から感謝の声をいただきました。
また世の中の流れとして、コロナ禍でオンライン業務が当たり前になり労働生産人口が減る中でDXを志向する企業が多くなったのが追い風でしたね。
強固なセキュリティを担保するセーフィーのクラウドシステム
大久保:数年前に他社の防犯カメラがハッキングされる事件があったと思いますが、この事件はセーフィーにとって追い風でしたか?逆風でしたか?
佐渡島:セキュリティを第一にシステムを組んでいる私たちのセーフィークラウドシステムにとっては、IoTのセキュリティ意識向上が認識されて、かなりの追い風となりました。
セーフィーでは映像データを暗号化し、クラウドに送信する仕組みです。利用者がクラウドに保存した映像データを閲覧する際にも、暗号化したデータにアクセスする仕組みですので、安全を保てるシステムになっています。
また、カメラの中に組み込むセーフィーのソフトウェアをメーカー各社に無償で提供しているため、クラウドに直結する仕組みで初めから暗号化され、安全な状態を保つことができます。
インターネットが主体な世界になることを前提にセーフィーを作っているため、スマートフォンのAndroidの仕組みのように随時アップデートする仕組みになっています。
大久保:セーフィーには、デバイスとしてのカメラや映像のクラウド化、画像処理など様々な技術があると思いますが、ビジネスのコアはどの部分でしょうか?
佐渡島:セーフィーのビジネスのコアは「映像のクラウドプラットフォーム」のサーバーシステムです。
さらにハードウェアに入るコンポーネントやUIなど、全てのシステムをセーフィーが提供しており、クラウドで全て制御できる圧倒的に安全な仕組みが保たれています。
従来のスマートシステムにセーフィーを組み合わせることで、より強固な安全性を確立
大久保:セーフィーのカメラは現在、どのような使われ方をしていますか?
佐渡島:今実施されている使い方としては、店舗にカメラを設置して、そのお客様の来店回数や属性などの分析を自動で行っています。
他にも、顔認証と端末をセットにすることで、カードレスで入退場管理できる勤怠管理などもあります。
大久保:スマートフォンを活用したスマートロックの技術も普及していますが、そこにセーフィーのカメラを組み合わせることで、より強固なセキュリティが実現するということでしょうか?
佐渡島:カメラと顔認証を連携することで、一度のドアの開閉で2〜3人が同時に入った時に、自動的にアラートを流すようなこともできます。
つまり、警備員が目視で入退室を確認しているような警備体制を人手を割かずに築くことが可能ということです。
様々な分野のイノベーションを実現するセーフィーの可能性
大久保:テレビや洗濯機などの生活家電はこれ以上大きなイノベーションが起きないというくらいに成長が進んでいると思いますが、セーフィーが行っている領域はまだまだイノベーションを起こせる余地が十分にありそうですね。
佐渡島:「見る」「聞く」「記憶する」「話す」「考える」という人間が上半身でやっていることをアプリケーションでさらに進化させられる可能性があります。
デバイスとしてのカメラ自体のイノベーションはすでに技術として枯れ初めていますが、止まっていますが、カメラから取得した映像データの活用という切り口であれば、イノベーションの可能性はまだまだ広がっていくと考えています。
セーフィーは膨大な映像データを保有しているので、様々なAI技術やSaaSサービスと連携して、人が行っていた行為そのものをAIに置き換えることが可能になります。
META社が注力している「メタバース」はバーチャル空間に住めるという世界観を打ち出しています。しかし、その先の世界では、リアルな空間がインターネットと融合します。そこにリアルタイム映像データや衛星データはなくてはならない存在です。
そのため、セーフィーの技術は今後も様々なイノベーションに携われる可能性があるので楽しみです。
セーフィーによる「リアル空間のデータ化」の可能性
大久保:セーフィーの事業は参入障壁が高く、競合が簡単に入って来れない分野でしょうか?
佐渡島:近年急速に伸びているQRコード決済の分野で例えると、QRコード決済はステッカーを張り替えるだけで簡単に参入できます。
しかし、セーフィーが取り組む分野は、まずカメラの設置工事をしなければならないという参入障壁があります。
さらに各家庭や店舗や現場など、どこに設置するにしても、データ容量の問題もありこちらも参入障壁が高いです。
大久保:セーフィーを創業された8年前に「クラウド録画サービス」の必要性にいち早く気づいたからこそセーフィーがあると思いますが、佐渡島さんは次はどのような未来を想像していますか?
佐渡島:セーフィーがビジョンに掲げている「映像から未来をつくる」というのは、家から街までの全てをデータ化する「リアル空間のデータ化」です。この分野は今後も注目すべき分野だと思います。
「リアル空間のデータ化」が実現すると、人が感じる一歩前を想定して判断することができます。例えば、建設現場で資材を大量に注文をした際にも、在庫置き場に全て入り切らない場合は、置ける量だけ納品するように自動的に調整することもできるようになります。
他にも飲食店でお客様が多くなったら、自動的に商品の追加仕入れを行うことも可能です。
このように人が何かを考える前にAIが判断してくれて、その一歩前を映像が示唆してくれるのです。これは人々の意思決定の根本を大きく変える未来が近づいていることを意味しています。
この変革はすでに建設現場では徐々に起きています。例えば、重機が自動運転で作業をしていたり、遠隔地から操縦されていたりしながら、それらの機械と人がともにその建設現場で働いています。
遠隔操作するクレーンや重機やドローンや自動運転で動く機械と人が「共存している働く空間」ができつつあるということです。
今後は、社会全体にもロボティックスと人とが自然と融合していくでしょう。このロボットと人が共生できる社会のためには、リアルタイムの映像データが必要で、そのために「リアル空間のデータ化」が必要だと考えています。
リアルタイムの映像と過去データを分析することで未来を予測する
大久保:今までの分析サービスは過去のデータを元に様々な分析を行うことが一般的だと思います。しかし、セーフィーはリアルタイムの視覚情報なので、より解像度が高い情報からの分析が可能なサービスということでしょうか?
佐渡島:過去のデータとリアルタイムの映像を掛け算して分析を行うことでより解像度の高い未来が見えるようになります。
大久保:「セーフィーアプリポータルサービス」とはどういうものでしょうか?
佐渡島:「セーフィーアプリポータルサービス」は「リアル空間のデータ化」を進めるために、自社開発したアプリだけでなく、他社が開発したアプリを含めて簡単に利用できるアプリケーションマーケットの構築を目指しています。
「リアル空間のデータ化」をするためのインフラ開発を進めている分野ということです。
大久保:近年、Salesforceのサードパーティ企業が上場したりしていますが、セーフィーのカメラの部分やデータ管理の部分の一部をAPI連携を可能にすることで、新しいマーケットが生まれそうですね?
佐渡島:マーケットアプリのようなイメージで、セーフィーのプラットフォーム上に様々なAIベンチャー企業が世の中に新しい働き方を提案するサービスを開発できるような仕組みを作っていきたいと考えています。
大久保:このAPI連携を可能にしてサードパーティを絡めた動きというのは、創業当初から想定していましたか?それとも目の前の課題を解決していくうちに見えてきたことでしょうか?
佐渡島:映像を中心としたプラットフォームの構築は最初から作りたいと思っていました。そのため、API連携ができる仕組みも最初から計画に入れていました。
しかし、生み出す1つずつのプロダクトに関しては、お客様の課題にフォーカスしながら作っています。
最初はデバイスとしての防犯カメラがあり、その映像をクラウド化して、クラウド化した映像データをSaaSとしてサービス化します。その後、SaaSサービスから発展してPaaS(Platform as a Service)となり、アプリポータルサービスに繋がります。
この流れを考えると、目の前のことを一つ一つクリアしていく動きと、未来を見据えた設計の両輪で進めていると言えますね。
アイデアを形にする過程と結果を楽しむのが起業の醍醐味
大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。
佐渡島:セーフィーはリアルな世界をインターネット化していくビジネスを行っていますが、今の時代はアイデアから新しいビジネスを生み出しやすい環境が整っています。
1つのアイデアを仲間と形にしていくことは、まさに「起業」だと思います。
自分のアイデアが形になっていく過程と結果を楽しむことが「起業」の醍醐味だと思います。夢を持って、楽しみながら、事業を続けることが大切だと思います。
(取材協力:
セーフィー株式会社 代表取締役社長CEO 佐渡島 隆平)
(編集: 創業手帳編集部)