PFU 清水 康也|顧客要望の裏に潜む本質ニーズの探求
世界シェアNo.1業務用スキャナー「 fiシリーズ」などを製造するPFUにインタビュー
日本にはグローバルニッチトップ企業が多数存在していますが、その多くは知られていません。確かなエンジニアリング技術と、日本人ならではの「調整力」で、グローバルでも通用する高付加価値マシンが日々創り出されています。
その中の一つが、石川県かほく市に本社を置く株式会社PFUです。個人向けスキャナー「ScanSnap(スキャンスナップ)」と世界シェアNo.1(※)の業務用スキャナー「fiシリーズ」の2つの人気商品を中心に事業展開されています。
今回は、執行役員ドキュメントイメージング事業本部長の清水康也氏に、地方にいながらにしてグローバルニッチトップを取るための戦略や、日本の起業家にチャンスのあるデジタルとアナログの架け橋の領域などについて、創業手帳の大久保が伺いました。
(※)…ドキュメントスキャナーを対象とする。日本・北米はKEYPOINT INTELLIGENCE社(InfoTrends)により集計(2021年実績)。ドキュメントスキャナー集計よりMobile/Microを除く6セグメントの合計マーケットシェア(主に8ppm以上のドキュメントスキャナー全体)。欧州はinfoSource社(2021年実績)の集計に基づき、西欧地区(トルコとギリシャを含む)におけるシェア。
株式会社PFU 執行役員 ドキュメントイメージング事業本部長
1992年PFU入社。入社以来30年にわたりスキャナー製品の設計、企画、販売に従事。特に合計15年の海外駐在を通じ、海外チャネルビジネスを長く経験。2017年にPFUの執行役員に就任。2018年には米国販売責任者としてPFUグループ米国販売会社の社長を兼任。現在PFUイメージビジネスの国内海外含めた総責任者に就任。
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら
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この記事の目次
プリンタ・スキャナーの企画・製造にノウハウを持つPFU
大久保:清水さんはPFUでどのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか。
清水:約30年前にエンジニアとして入社しました。そこでどんなものが顧客の役に立つのか市場調査をしたり、製品企画をしたりと、さまざまなことに携わってきました。
北米、欧州といったマーケットで弊社の製品がいちばん使われているため、アメリカ、イギリスの2ヶ国に出向いて直接現地の顧客に話をしながら、現地での需要創出やマーケティングなどをしてきた、という経緯です。
大久保:PFUは、コンピューターの周辺機器の製造を幅広く手がけられてきたのですよね。
清水:そうですね。パソコンがある前からコンピューターの周辺機器製造をやってきて、プリンタ・スキャナーの企画設計を行ってきました。
弊社は企画力に強みがあると自負しており、自動で紙を読み込むスキャナー製品で世界シェアダントツNo.1にまで成長させてきています。
紙利用は減るもDX需要でスキャナー事業が伸びている
大久保:製品について、より詳しくお話いただけますか。
清水:イメージスキャナーの「ScanSnap(スキャンスナップ)」と「fiシリーズ」は、複数の紙を自動的に瞬時に読み込みます。50〜100枚などの書類を一気に電子化可能です。全世界累計出荷台数1,400 万台を突破(※2022年2⽉)し、世界シェアはPFUがトップです。
コロナ禍の影響もあって、世の中のプリント需要は減ってきています。しかし、現状ある紙の書類を電子化するDX需要は逆に増えつつあって、それを受けてスキャナーの販売台数も好調です。
大久保:「ScanSnap」と「fiシリーズ」はそれぞれ個人用、業務用ですよね。
清水:「ScanSnap」は個人事業主や士業の方などによくお使いいただいています。難しい専門用語などを使わずとも、名刺や契約書などのさまざまな紙を全自動に近い状態でスキャンできます。
一方、「fiシリーズ」は業務用なので、よりスピーディーになっています。経理ソフトやドキュメント管理ソフトなどとも連携して利用できます。
大久保:紙のサイズはさまざまなんですね。
清水:そうですね。基本的にA4サイズまでに対応しており、名刺やレシートなど小さな紙でも問題なく読み込めます。また、折りたたんだA3サイズの紙をソフトウェアの機能で合成し、1枚のPDFとして出力することもできます
大久保:さまざまなソフトと連携できる点も魅力的です。
清水:特にScanSnapは「ScanSnap Cloud」というサービスもあって、それは写真や名刺、レシートなど、あらゆるタイプのスキャンされた文書をタイプ別に識別して、それに関連するクラウドサービスに直接スキャンデータを送付できます。例えば請求書だったら会計ソフトに飛ばすなどといったことですね。
名刺については、Sansanと連携したソリューションを提供しています。名刺をスキャンするとSansanに自動登録される、というものです。
大久保:ちなみに余談ですが、Sansanの創業メンバーが創業したばかりの頃に、「ScanSnap」を担いで営業されていたという話を聞いたことがあります。先ほど話がありましたが、請求書をスキャンして経理ソフトに飛ばすことができるのであれば、電帳法への対応にも活用できそうですね。
清水:「ScanSnap」も「fiシリーズ」ともにそれぞれ電帳法のスキャナ保存に対応した「e文書モード」があり、面倒な設定は不要です。証憑の電子化は弊社製品であれば画質要件を満たしたスキャンができます。
ScanSnapは、電帳法やインボイス制度に対応した著名な会計ソフトと連携していますので、これらと併せてご利用頂くことで、さらに経理業務を効率化できます。
また、弊社からは、電帳法対応に必要となるすべてをトータルにご提供できるファイリングサービス「あんしんエビデンス管理」という商品もご提供しています。
大久保:紙の書類よりも、スキャンして電子で保管した方がセキュリティも高まりそうです。
清水:実際に、海外の会計事務所などでは、会計士が会社に「ScanSnap」を持って乗り込んで、そこで一気に書類をスキャンして帰っていく、なんて使い方もされています。機密書類を帰りの車でなくしてしまった、なんてことがあれば大変ですから。
泥臭い「アナログ×デジタル」分野は世界的にも日本が強い
大久保:世界シェアNo.1ということですが、それはスキャナー作りのノウハウで他社製品と差別化できているからなのでしょうか。
清水:製品の品質で差別化できていると弊社は自負しております。
例えば、スキャナーはどんな紙であっても、抜け漏れなく高速に読み取らなければなりません。少し折れ曲がっている紙があったからといって、1枚でも「読み取れなかった」となれば困ってしまいます。100枚入れて、100枚確実に読み取らなければなりません。その点、弊社製品はご安心してお使いいただけます。スキャナー設計のノウハウこそが一番の強みです。
大久保:Googleのように完全なデジタル技術ではなく、PFUのようにデジタルとアナログをすり合わせる分野の技術については、日本に強みがありそうですね。
清水:その通りです。実際に、スキャナー・プリンタの分野では圧倒的に日本のメーカーが強いです。
地味で泥臭い世界ですが、シミュレーションを何度もして、製品の品質を上げていく。こうした領域では日本人は強いかもしれません。
大久保:スキャナー需要は増えていく一方で、プリンタ需要は今後も減っていきそうですね。
清水:紙需要は減りはしますが、なくなるまでにはいきません。例えばアメリカでは昔、小切手がたくさん使われていました。最初に 駐在したときはスーパーなどでの支払いでも小切手の利用は一般的でしたが今ではほぼ見かけません。ですが、いまだに一定量、BtoBの世界では小切手が使われているため、なくなってはいません。
投票用紙やアンケートなどの分野も同じです。アンケートは紙で印刷するからこそ、集計しやすいという面があります。名刺も紙であるからこそ利便性が高いですよね。
このように、紙需要は減少しても必ず残る紙があると思っています。
顧客要望の裏に潜む本質ニーズの探求
大久保:企画力に強みがあるということですが、貴社の企画方針について教えてください。
清水:我々は顧客の要望を聞きません。「本当に顧客に役に立つために必要なことは何か」という観点で、世界にいる調査員が徹底的に調査します。顧客が気づいていない困りごとなども吸い上げて、新製品を企画しています。だからこそ、潜在需要にミートできていると自負しております。
大久保:Appleのような企画方法ですね。
清水:もちろん、顧客の要望を完全に聞かないというわけではありませんが、原則として、そこを起点に企画しているわけではない、ということです。
大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。
清水:PFUも起業家の方々と同じく、世の中にない付加価値を技術で提供したいと考えております。ぜひPFU製品を活用して業務を効率化していただき、本質的な価値貢献をして頂ければ幸いです。
(取材協力:
株式会社PFU 執行役員 ドキュメントイメージング事業本部長 清水康也)
(編集: 創業手帳編集部)