開業の準備にかかった費用は経費にできる?計上方法などを詳しく解説!
開業準備にかかった費用は経費計上も可能!
自分がやりたい仕事で開業する際、準備の段階で様々な費用が発生します。
事業に関係する支出は経費に計上でき、実は開業前の準備にかかった費用も経費として扱うことが可能です。ただし、経費に扱えない費用もあるので注意が必要です。
今回は開業準備の費用で経費にできるものや、償却・仕訳の方法などについて解説します。独立・開業を目指している方は、ぜひ参考にしてください。
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この記事の目次
開業準備にかかった費用=開業費
開業の準備で発生する費用は、開業費と呼ばれます。まずは、開業費の扱いや経理上での処理方法についてご紹介します。
開業のための支出は開業費に含まれる
個人で開業しようと思った時には、様々な準備が必要です。
例えば、開業のためのノウハウや専門知識を付けるためのセミナーへの参加、事業で使用するためのPC・機器・備品の購入、事業の需要を把握するための市場調査などで、様々な支出が発生します。
これらの開業の準備段階で発生する費用は、開業費となります。
いつまでの準備資金を開業費にできるかどうかは、明確なルールがありません。
そのため、開業の準備にかかった費用を証明できれば、理論上は数年前の支出も開業費にすることが可能です。
ただし、あくまでも理論上となるため、一般的には半年から長くても1年以内にかかった費用を開業費と扱うのが妥当とされています。
たとえ開業準備のための資金であったとしても、数年前の費用に関しては明確な証拠がないと認められないので注意してください。
繰延資産として償却できる
開業費は初年度に全額を経費に計上できますが、繰延資産として数年間に繰り延べて費用化することも可能です。
会計や税務上、開業費は正確にいうと経費ではなく、購入したものやサービスなどの効果が1年以上に及ぶ資産を指す繰越資産になります。
開業費となるものは、事業を営む上で長きにわたって効果が発揮されるものが該当します。例えば、通常PC・デスク・チェアなどは長期間にわたって事業で使用するものです。
また、開業前に参加したセミナーで得た知識は、将来の経営に役立つもととなります。このように、効果が長く続くことから、繰延資産として償却できます。
開業した時点では、思うように利益が出ないケースも少なくありません。
そのため、利益が少ない初年度に開業費の全額を経費に計上するのではなく、数年にかけて少しずつ無理なく経費として償却できます。
開業費として認められるものについて
開業費にできる費用は多岐にわたるため、どこまで認められるのか範囲に悩む方も多いのではないでしょうか。ここで、具体的に開業費と認められるものについてご紹介します。
開業届を提出、もしくは登記する前日までにかかった費用
税務署に開業届を提出、または会社の登記をする前日までにかかった準備費用は開業費にできます。
開業届の提出日や登記日の日付は、控えや証明書などで確認できるので、その日以降に支払った費用は開業費扱いにならないので注意してください。
具体的に開業費に認められる費用の例は、以下のとおりです。
-
- セミナーの参加や打合わせにかかった費用
- 事業に必要な免許・資格の取得費用
- パソコンや事務用品などの設備・備品の購入・リース費
- 開業資金の借入金の返済にかかった利息
- 書類・情報収集のための通信費
- 市場調査のためのガソリン代や公共交通機関の運賃
- 宣伝のための広告費
など
事業年度内なら処理し忘れたものも追加計上できる
決算の際に明細書や領収書が後から出てきて処理し忘れた開業費が出てきた場合、事業年度内であれば追加で計上することは可能です。
ただし、処理し忘れた開業費が翌事業年度に発覚した場合は注意が必要です。開業費を計上する期限は、理論上ありません。
しかし、会計や税法では常識的な判断基準が存在するので、翌事業年度以降に前年で処理し忘れた開業費やそのほかの経費を計上するのは難しいと考えられます。
その理由は、翌事業年度以降に前年度以前の開業費などを計上することを認めてしまうと、様々な経費が増え続けてしまうためです。
なお、処理し忘れた開業費を事業年度内に計上するためには、れっきとした開業費であることを証明しなければなりません。
領収書や明細書を用意するほか、事業での用途などを説明できる状態にしておいてください。
開業費として認められないものも把握しよう
開業の準備のために支払ったものでも開業費として認められないケースもあるので、事前に把握しておくことが大切です。
具体的にどのような費用が開業費に認められないのかをご紹介します。
10万円を超える固定資産
原則、10万円以上かかる設備消耗品は、資産で計上します。
例えば、IT分野で使用する専門的なソフトウェアは数百万円にも及ぶこともあり、その場合は準備期間に購入したものでも資産で計上しなければなりません。
パソコンや応接セットなどの高価な有形固定資産は、減価償却する必要があります。
減価償却の場合、資産ごとの法定耐用年数に応じて購入費を数年に分けて経費に計上することになります。
資産取得にかかった費用
事業を営むために、店舗や事務所の契約、電気・水道・ガスの契約、商品や材料の仕入れなどが必要となります。
これらは事業における資産となり、資産の取得にかかった費用は開業前であっても開業費として認められません。
具体的に、開業費に計上できない資産取得にかかる費用は以下のとおりです。
-
- 店舗・事務所などの契約で支払う敷金や礼金
- 材料や販売する商品の仕入代金
- 水道光熱費
- 従業員の給料
など
領収書が残っていないもの
領収書や明細書などが残っていない場合も、開業費にできないので注意してください。
領収書や明細書がないといつ購入や支払いが行われたか明確にできず、開業のための支出であったのか証明できないため、開業費として認められません。
開業費として計上するためにも、購入時や支払いの際は領収書・明細書を受け取り、紛失しないようにしっかり管理してください。
また、法人の設立のために現物出資を行った場合も、開業費にはならないので要注意です。
開業準備にかかった費用の償却と仕訳の方法
開業準備にかかった費用の償却期間は、会計上と税制上で少し異なります。どちらの基準で償却すれば良いのかは悩みどころでしょう。
それぞれの違いを知ることが大切であり、以下には開業費の償却期間と仕訳の方法について解説します。
償却の考え方は会計上と税制上の2つ
開業費は繰越資産として、数年かけて償却できます。何年で償却するかは、会計上の考えと税法上の考え方の2つがあります。
-
- 会計上:5年の均等償却
- 税法上:60カ月(5年)の均等償却、または任意償却
均等償却とは、一定の年数にわたって均等に償却方法です。開業費の償却では、会計上と税法上どちらも5年間となっています。
税務上では、任意償却を選択することも可能です。任意償却は、その年に経費計上する金額をゼロから全額までの範囲で自由に決定し、償却できる方法を指します。
例えば、今年は確率が高いと予測される年は、開業費の償却はゼロ円や少額にしたり、逆に黒字となったので全額計上したりすることが可能です。
任意償却の選択肢があることから、実務上では税法を基準に処理するケースが多くみられます。
表計算ソフトで集計する場合の仕訳方法
開業準備にかかる費用は多岐にわたるため、明細ごとにひとつずつ分けて帳簿を付けるのが望ましいものです。
開業費の詳細を表計算ソフトでまとめて集計する場合は、まとめて帳簿付けをしても問題ないとされています。
別途まとめている資料と一緒に、開業費を証明できる領収書・明細書などの保管しておいてください。
また、開業前の資料と領収書は、開業後のものと分けて保管するようおすすめします。
表計算ソフトで開業費の詳細を集計する際は、償却費の仕訳は一括で処理できます。
例えば、開業前の10月5日に事務用の文房具とデスク・チェアを購入して、55,000円の開業費が発生した場合の仕訳例は以下のとおりです。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
開業費 | 55,000円 | 元入金 | 55,000円 | 10/5 文房具、デスク・チェア 別紙明細 |
事業を始める前の段階は事業用資金がないため、貸方勘定科目は「元入金」を使います。
また、仕訳の登録日は開業日で入力するので、摘要部分にいつ購入や支払いをしたのかわかるように日付を記録しておきます。
開業費を償却する際のポイント3つ
開業準備にかかった費用を償却する際に押さえておきたいポイントは、4つあります。その4つのポイントは以下のとおりです。
1.領収書はなくさず保管する
正しく帳簿を付けるためには、証拠が必要です。
購入や支払いの時に交付される領収書やレシートなどは開業費の裏付けとなるので、必ず受け取ってなくさないように保管してください。
バスや近距離の電車などの交通費、接待交通費の割り勘、慶弔費用など一部の費用で領収書を交付できない場合は、自ら出金伝票を書いて保存しても問題ありません。
その場合、支払いが発生した理由を記録しておくと信頼性の高い資料となる上に、後から見返した時にいつの支出だったのか一目でわかります。
2.管理は仕訳帳を活用する
開業費の合計が10万円以上になる場合は、仕訳帳を使って管理することをおすすめします。仕訳帳は、すべての取引きを日付順に記録した帳簿です。
複式簿記では、総勘定元帳などと併せて必ず作成する帳簿のひとつです。
仕訳の際は、資産の科目を「開業費」、経費の科目は「開業償却費」や「繰延資産償却」などを用いて仕訳帳に入力してください。
ここで、開業日が4月1日、開業費30万円を5年で償却するケースの仕訳例をご紹介します。
借方 | 金額 | 貸方 | 金額 | 摘要 |
開業償却費 | 45,000円 | 開業費 | 45,000円 | 償却費 |
年度ごとの償却金額は、「開業費の全額÷5年×当該年度の月数÷12カ月」で算出可能です。
上記の例では、初年度の償却費は「30万円÷5年×9カ月÷12カ月=45,000円」となったので、借方・貸方の金額は45,000円と記入します。
また、経費科目となるので、借方勘定科目は「開業償却費」、借方勘定科目は「開業費」となっています。
なお、開業費の合計が10万円未満であれば、通常の経費計上の仕訳記入で問題ありません。
例えば、交通費5,000円を現金で支払っただけであれば、借方勘定科目は「旅費交通費」、貸方勘定科目は「現金」と記入し、それぞれの金額に5,000円と記入してください。
開業前の支出なので、一般的に仕訳の登録日は開業日になります。
3.任意償却の場合は費用を自由に設定可能
開業費の償却期間は5年という考え方がありますが、必ず均等償却しなければならないルールはなく、任意償却によって償却額を自由に設定することが可能です。
黒字経営で初年度に全額償却できれば、事業での課税所得を大幅に減らせるメリットがあります。
しかし、開業後、数年の時点では売上げが伸びずに赤字が続いた場合は、5年で均等償却するのが難しいこともあるかもしれません。
任意償却で設定できる金額の範囲は、0円から前末期までの未償却残高までであれば自由に設定できるので、開業費を無理なく経費計上するには、任意償却が最適です。
また、均等償却のように5年間という期間の制限もありません。任意償却であれば、開業から5年以上経過していても未償却残高を経費に計上することが可能です。
4.減価償却資産台帳は必ず記入する
10万円以上の開業費を申告する際は、減価償却資産台帳の記入も必須です。減価償却資産台帳は、固有資産ごとに取得時の状況や減価償却の履歴を記入する台帳です。
開業費用は繰延資産に該当します。繰延資産は取得情報から減価償却・売却・除去などすべての経緯を減価償却資産台帳に記録し、管理しなければなりません。
そのため、開業費の申告でも減価償却資産台帳に記入が必要となります。
開業費の修正が必要になった時は、仕訳帳と減価償却資産台帳の両方で修正しなければなりません。その際は、片方に修正漏れが生じないように注意してください。
まとめ
事業でかかった費用は、経費に計上することで事業所得を減らせるため、法人税や個人の所得税などの節税につながります。
開業の準備で発生した費用も開業費として経費に計上可能です。
そのため、開業費は正しく帳簿付けと資料・領収書などの保管を行い、しっかり経費計上できるようにしておきましょう。
また、10万円以上の固定資産や資産取得のための支出は開業費と認められない点にも注意してください。