地方への本社移転は補助金を活用しよう!
コスト削減、税制優遇や労働環境の改善など本社移転のメリットは多い
新型コロナの感染拡大を契機に本社を地方に移転しようとする動きが増えています。テレワークを普及させれば、従来ほどアクセスのよさにこだわる必要がないため、固定費の削減や感染リスクの抑制などの観点から、地方の方が優位だと考える経営者が多いためです。
また、地方への本社移転に際して自治体から補助金・助成金が出る制度も。こうした制度を活かして本社移転を検討する企業もみられます。
この記事では本社移転のメリットと主な都市の補助金・助成金制度、そして移転の時に検討しておくべきポイントについて紹介します。
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この記事の目次
地方への本社移転を検討する企業が増えている
帝国データバンクの調査によると、2021年1-6月のうちに186の企業が首都圏から本社を移転。この調査において、移転社数が半年で150社を超えたのは過去10年間で初めてで、首都圏から本社移転を進める企業が急増している状況が浮き彫りになっています。通年では1994年の328社が最高ですが、2021年はこれを上回る可能性も考えられます。
背景には首都圏でとりわけ頻発・長期化した緊急事態宣言を受けて、本社機能が首都圏に集中することをリスクと考える企業が増えたことがあります。くわえて、テレワークにより好アクセスの都市部に本社を構える必要性が薄れたことも要因です。
なお、転出先は従来より大阪府がトップで、それは今年も変化ありませんでしたが、北海道や北関東なども上位に。また上位の社数が少ないのは、より各道府県に分散している影響が出ているものと考えられます。
参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000344.000043465.html
地方に本社移転をするメリット
コロナの感染リスクや緊急事態宣言による弊害の回避は、広く捉えればBCP(事業継続計画)強化の一貫といえます。実はそれ以外にも本社移転にはさまざまなメリットがあります。
コロナ禍を機にこうしたメリットを改めて精査した結果、本社移転に踏み出す企業が増えているのです。
地方拠点強化税制が受けられる
企業の本社機能の地方分散は、災害リスクの抑制や地方振興の意図から日本政府も積極的に推進しています。本社移転を促進すべく、整備された税制優遇制度が「地方拠点強化税制」です。具体的には、二つの減税制度があります。
一つはオフィス減税で、東京23区に本社を構える企業が本社機能を地方に移転させると、移転先施設の新設・増設に際する取得価格の25%の特別償却か、7%の税額控除を受けることができます。
もう一つが雇用促進税制で、本社移転後の数年間の雇用増加数に応じて税額控除が受けられます。ただし、次のような条件がつきます。
- 移転先の地方で人を雇った場合、または東京23区から従業員が地方に転勤した場合
- かつ、正規雇用の場合
初年度で雇用増加一人当たり「最大90万円」、3年間の適用期間において一人当たり「最大170万円」まで控除。また、最大額が一人当たり120万円になりますが、オフィス減税との併用もできます。
コスト削減
次のような項目のコストは、地方に本社移転をすることで下がるため、一般的に本社移転は企業のコスト削減に役立ちます。
- 家賃・土地代
- 人件費(パート・アルバイトの時給低下や都市調整手当などの削減)
- 通勤手当
通勤手当についてはイメージしにくいかもしれませんが、このあと紹介する通り、従業員の通勤時間は、都心よりも地方の方が平均的に短い傾向にあります。より近隣から通う傾向にあることを意味するため、通勤手当の削減につながるのです。
従業員の生活様式の改善
いくつかの点で従業員の生活改善にも役立ちます。一つは通勤時間の削減。次のように、一般的に通勤時間は都心部の方が平均的に長い傾向にあります。
- 神奈川県:1時間45分(最長)
- 千葉県:1時間42分
- 埼玉県:1時間36分
- 東京都:1時間34分
- 島根県:58分
- 大分県:57分(最短)
参考:http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/rank/index.html
地方移転により通勤時間が短縮すれば、従業員の通勤にかかる負担は減少します。また、より自然豊かな場所で働けるようになるうえ、従業員の生活コストや住宅の賃料・購入価格も引き下げられます。従業員にとっても本社移転は大きなメリットがあるのです。
ESGの側面もある
地方への本社移転はESGに貢献する取り組みでもあります。
E(環境)の観点からは、都心部から退くことで都心部の輸送やエネルギー消費の緩和に貢献することにつながります。またS(社会)の観点からは地域振興への貢献が挙げられます。最後にこの後紹介するBCPの強化や、従業員が働きやすい組織の整備などの観点からG(ガバナンス)に関する改善にも寄与するのです。
BCP(事業継続計画)の強化
BCPとは災害や今回のコロナ禍・緊急事態宣言などさまざまなリスク下においても事業を継続できる状態にしておくための計画や対策を指します。地方に本社移転をすることで、ビジネスが集中する都心で災害などが発生しても事業が継続しやすくなるため、BCP強化につながります。
なお、BCPをより盤石にするためには、単なる移転ではなく本社機能を「分散」させるとさらに効果的です。
本社移転に伴う補助金・助成金の一例
前の章で紹介したメリットの他に、移転先によっては補助金や助成金が受けられる点があります。ここでは名古屋・札幌・長野・岐阜・広島の各自治体の本社移転に伴い受けられる補助金・助成金を紹介します。
名古屋
名古屋市には、本社機能等立地促進補助金という制度があります。名古屋市に本社機能を移転する企業に補助金が支給されるものです。
大まかな補助金のスキーム
*いずれも所有型(オフィスを購入・建設して自社の資産として所有する場合)
次のような経費が補助対象で、それぞれ上限50%まで補助されます。
- 建物賃借料
- 建物建設工事費
- 建物取得費
- 機械設備等購入費
- 移転に係る運搬費
参考:https://nagoya-potential.jp/incentives/head/
札幌
札幌市には本社機能移転促進補助金という制度があります。なお、本社もしくは本社機能の一部を札幌市に移転する必要がありますが、そこに勤める従業員は札幌周辺の市町村から札幌に通う場合でも適用できます。
大まかな補助金のスキーム
参考:http://www2.city.sapporo.jp/invest/subsidy/relocation.php
なお、最低20人以上の正社員を雇用もしくは、異動させることが条件となっているので、注意が必要です。本社移転をおこない、かつ人件費を上限まで適用した場合は3年間合計で2.1億円の補助金を受けられる計算になります。
長野
長野については、長野市の制度は終了しましたが、長野県で本社等移転促進助成金を支給しています。長野市や松本市をはじめ、長野県内の市町村への移転で受けることができます。
本社ではなく「本社機能」の移転が認められれば、研究所や研修所、サテライトオフィスなどでも認められる点が特徴です。BCPで本社機能の分散を検討している企業も活用しやすい制度です。
助成限度額は3億円で、次のような項目に助成金が支給されます。
参考:https://ritchi.pref.nagano.lg.jp/supportsystem/view/8
岐阜
岐阜も県全体で「岐阜県本社機能移転促進事業補助金」という制度があります。岐阜県内にオフィスを新築して本社機能を移転する場合には最大5億円、賃貸の場合は3億円の助成金を受けられます。
また、23区内から移転した場合に限り、次のようなさまざまな経費もそれぞれ所定の比率まで助成金対象に。これはオフィス部分の助成金に上乗せして支給されます。限度額は合計で5億円です。
大まかな補助金のスキーム
参考:https://www.pref.gifu.lg.jp/uploaded/attachment/95371.pdf
広島
広島県では「広島県企業立地促進助成制度」を運用しています。この助成金の特徴は、必ずしも本社を移転・新設する必要はなく、既存の広島に立地する設備の拡充などでも活用できる点です。
広島にある支店・支社の機能を拡大する予定のある企業なども活用を検討するとよいでしょう。特定業種にのみ適用される助成制度は他にもありますが、多くの産業に適用できる助成制度は次の2つです。
- 企業人材転入助成
- 研究開発機能拠点化助成
具体的な制度の内容は次のとおりです。
大まかな補助金のスキーム
参考:https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/430683.pdf
本社移転のときに考えておくべきこと
本社移転には相応のコストがかかりますし、従業員の負担も決して小さくありません。そんな本社移転を効果的なものにするためには、事前準備をしっかりしておくことが大切です。ここでは本社移転のときに検討・確認しておくべきポイントについて整理しておきます。
本社移転の目的を明確にしておく
まず、自社が本社移転を検討する理由を明確にしておきましょう。この理由づけは本社の移転先の検討や移転したオフィスのデザインに大きく影響するため、本社移転の準備に本格着手する前に、まず整理しておく必要があります。
例えば次のような本社の移転理由が一般的です。目的は一つである必要はありませんが、複数の目的がある場合には優先順位も整理しておくと、その後の作業がスムーズになります。
- コスト削減
- 業務の効率化
- 現オフィスのキャパシティ不足
- BCP対応
など
目的にあった本社移転先を検討する
本社移転の目的を整理したら、まずはそれにあった本社移転先を探しましょう。移転先は地域・具体的な立地・建物とさまざまな要素を検討する必要があります。
いきなり一つに絞ろうとせず、複数の地域の複数の候補をピックアップしたうえで、自社の本社移転の目的にもっとも適した物件を選びましょう。先にも紹介した通り、助成金・補助金の適用条件や金額が地域によって異なるので、これらを踏まえたコストの優位性なども加味しなければなりません。
また、賃貸なのか、自社ビルを建設するのか、という点も重要な検討要素です。既存の建物で、移転目的を充分満たせるのか、自社の目的を最大限満たす物件を新築した方がよいのか、あわせて判断していきましょう。
現状の本社の課題解決につながるオフィスデザインを検討する
立地が決まったら次はオフィスデザインを考えていきます。デザインは主に次の観点から整備していく必要があります。
- 企業のカラーやブランディングに沿ったデザイン
- 従業員が働きやすいデザイン
- ビジネスを効率的に運営できるデザイン
検討事項は多岐にわたります。必要に応じてオフィス内装やデザインの専門業者も入れながら、自社の目的を満たす本社にしていきましょう。
主なオフィスデザイン検討事項
- 新オフィスの収容人数や入居部署の確認
- 部署のゾーニング
- 執務室以外の機能(エントランス、会議室、応接室、休憩室、収納庫など)
- それぞれの場所の視覚的なデザイン
- 購入・リースする家具・OA機器の洗い出し
- 廃棄する家具の洗い出し
移転に向けたスケジュールや手続きを整理しておく
本社移転のタイミングでは、どのようにしても本社が稼働できない日が発生すると想定されます。スケジュールを事前に決めて、ビジネスへの影響が最小限にすむように工夫することが大切です。
また、特に本社を完全に移転させるケースでは、さまざまな官公庁への手続きなどが発生します。期限が短い手続きもありますので、引っ越しの準備と並行して、準備を進めておきましょう。
創業手帳では以前、移転時の手続きに関する記事を公開していますので、あわせて参考にしてみてください。
地方への本社移転は企業経営の強化にもつながる
コロナ禍を機に検討する企業が増えている本社移転。パンデミックや緊急事態宣言によるロックダウンへの対応として有効なだけでなく、コスト面や従業員の労働環境の改善などさまざまなメリットがあります。
テレワークのインフラを活用することで、人口密集地に本社を構えずとも、ビジネスを円滑に遂行できる企業が増えたことも背景となっています。
本社を地方に移転することでコスト削減や助成金・補助金や減税などの効果があるため、経営基盤の強化にも有効です。既存の本社に課題を感じている企業においては、本社移転を検討してみるのもよいでしょう。