【第二回】人気漫画家・三田紀房氏に聞く 勝ち続ける漫画家と起業家の共通点

創業手帳
※このインタビュー内容は2015年04月に行われた取材時点のものです。

漫画家・三田紀房氏 特別インタビュー(2/2)

【第一回】人気漫画家・三田紀房氏に聞く 勝ち続ける漫画家と起業家の共通点

競争が激しい漫画の世界で数々のヒット作を生み出し続ける三田紀房氏。ドラマ化され、社会現象ともなった『ドラゴン桜』は未だ記憶に新しい。しかし、もともと氏は漫画家志望ではなく、現場で働くビジネスマンだった――。異例の経歴を持つ漫画家三田紀房氏の仕事に対する姿勢や態度、あるいは美学から、同じく競争が激しいスタートアップ企業が生き残るための戦略を全二回にわたって探る。

三田 紀房(みた・のりふさ)明治大学政治経済学部を卒業後、西武百貨店に入社。その後父親が体調を崩し、経営していた2つの衣料品店を兄とともに引き継ぐため西武百貨店を退職。経営不振と多額の負債で資金繰りに苦しむ中、漫画雑誌の新人賞の募集を見て、賞金を得るために作品を投稿。3社に応募し講談社ちばてつや賞(一般部門)に入選。店を閉め上京し、30歳で漫画家として活動を開始する。「東大受験」をモチーフにした異色作『ドラゴン桜』で社会現象を巻き起こし、05年第29回講談社漫画賞(一般部門)を受賞。05年7月からTBS系にてドラマ化もされた。主な作品に『マネーの拳』『空を斬る』『銀のアンカー』。そのほか『個性を捨てろ! 型にはまれ!』『汗をかかずにトップを奪え!』などビジネス書の執筆も行う。

全てを分かってもらおうとしてもダメ

ー漫画家を経営者と似たものとして考えたときに、経営で重要なことは何だと思いますか?

三田:つきなみですけど、やっぱり「個性」が必要ですね。その作家にしかない作風。分かりやすく言えば「ブランド価値」。いわゆるふつうの一般企業も一緒で、よく分からない会社は何かが違いますよね。ピンとこない。同じように、何がこの人の代表作なのか分からない漫画家は作家寿命が短いです。「この人はこういう漫画を描かしたらピカ一だよね」「この人はこういう作風が面白いんだよね」ということが大事ですね。つまり作家でも企業でも、圧倒的な個性が必要なのです。その人ならではの強み、その会社ならではの他社にはない強み。それに尽きると思います。

ービジネスで新規のお客様をとるのが大変ですが、漫画においても似たような面はありますか?

三田:その作家の作品ならなんでも読むという読者も結構いますね。どんな漫画を描いても読んでくれる。そういうお客様はありがたいですよね。ただ、そういったファンを獲得するのは難しいです。とくに我々は顔の見えない商売をしていますので、具体的にどういうファンの方がどれくらいいるのかを把握するのは難しい。また、そういったファンを強く意識して描けるわけでもありません。

“ちょっとした興味”を持たせること

ーご著書である『プレゼンの極意はマンガに学べ』の内容に関連して、起業家に「これをやりなさい」ということはありますか?

三田:この本は、起業家というよりは営業マンが取引先にどうやって商品を売り込むか、という内容になっています。漫画のプロセスを解説する感じには、なっていますがね。そもそも漫画というのは、関心のある人ばかりが読むわけではありません。人気雑誌でもすべての作品が読まれるとは限らない。その中でどうやって自分の漫画を読んでもらえるか。そういったことを吸収してもらえればと思います。

ー「次を読みたい」「次を聞きたい」と思わせる“引き”を作るには何が重要なのでしょうか?

三田:引きを作るときは「なぜ?」という疑問形で終わらせること。これがひとつのテクニックですね。「これからどうなるの?」「これは何なの?」ということです。謎で終わって、次に解答を探させるような。

人に何かを説明するときに不足があってはいけませんが、全てを分かってもらおうとしてもダメです。そうなると、とにかくたくさんの情報を相手に与えればいいと考えてしまいます。人に対して興味を持つときというのは、何かしら自分で考える時間があるわけです。「これは何だろう?」「これはどうしてこうなるのだろう?」と。そのように、相手にちょっと考えさせる余裕、時間的な余裕を与えると興味をもってもらえるのです。

つまりちょっとした興味を相手に持たせることで、強い引きを起こせるのではないでしょうか。「これ、どうなっちゃうの?」ということです。相手に疑問を持たせることが重要ですね。一番面白くないのは、まず説明して、さらにその説明の説明をするというパターンです。飽きてしまいますよね。飽きれば興味を失ってしまう。ですので、最初に結論を言って、それに対する補足のようなかたちで説明するのが一番面白いプレゼンになるのではないでしょうか。

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一週間後には「会社つくりました」ぐらいの人じゃないと

ー起業についてはどのようなお考えをお持ちですか?

三田:起業はしたほうがいいと思いますよ。できる人というか、やろうと思った人は積極的にしたほうがいいです。楽しいじゃないですか。やっぱり燃えますよね。自分で目標をたててやることは、燃える経験になります。サラリーマンで燃える経験というのはそうそう無いじゃないですか。

たとえば、企業でプロジェクトなんてそんなにどんどんできないし、だいたい取引先も決まってる。何か新しいことをやる機会はあまり無いですよね。そういうチャンスに巡り合うことがそもそも無い。起業して新しいオフィスを立ち上げるときには、不動産屋をまわるのも楽しいわけですから。新しいオフィスで「さあ開店だ!」というのは本当に楽しいですよね。そのような経験はいいと思いますよ。起業したほうがいいと思います。

ー起業する際に「これだけはやっておくべき」ということはありますか?

三田:漫画家もそうなのですが、「漫画家になるために準備する人」っているんですよ。ある一定の技術を身につけて、ストーリーの作り方とか色々なものを勉強してから本格的に漫画を描きはじめる、というように。そういう人はだいたい駄目ですよね。つまり、「一定のレベルに到達しないとできない」と考える人は向いてないですね。漫画家になる人は、何かを思いついたらすぐ描く人。紙にどんどんガリガリと描く人でなければ、デビューするのも難しいので。

起業家も同じだと思います。「いま構想を練っています」と言う人もいるかもしれませんが、大体そういう人はうやむやで終わってしまう。何か面白いことを思いついて、「これをやったらうまくいくな」と感じたらすぐ行動に移す人。一週間後には「会社つくりました」ぐらいの勢いがある人じゃないと、まあ上手くいかないのではないかなと思います。行動の遅い人は駄目ですね。

ー理屈をこねるのではなく、チャンスをものにする人。

三田:そうですね。自分が行動を起こすための裏付けを求める人、「これができればこれができる」「これをやるにはこれが必要だ」という風に考える人は、もう止めたほうがいい。そのような考え方をする人は始めてもうまくいかないと思います。つねに質問に対する答えを求める人はうまくいかない。創造ができない。

失敗は当たり前

ー最後に、創業者に向けてメッセージをお願いします。

三田:きつい言い方かもしれないけど、起業はだいたい失敗しますよね。残念ながら。日本の統計でもはっきり出ていますが、おおむね九割が失敗する。最初は「絶対うまくいく」と考えているものですが、そもそも大半が失敗するようにできているんです。

漫画家も九割は失敗します。100人デビューしても、漫画で食べていける人は10人もいない。だから、失敗は当たり前なので「どうすれば失敗しないか」「どうやったら上手くいくか」ということを常に考えないといけない。上手くやれる、生き残れる方法を、創業したその日に考えるべきですよね。

ただほとんどの人は、創業して上手くいくと調子に乗っちゃう。それで何かがおろそかになって、ちょっとしたほころびから急激にダメになってしまう。そうしたパターンが多い。だから、常に失敗に対する危機管理を怠らないこと。それを習慣づけたほうがいいですね。

(創業手帳編集部)

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