上場基準とは?知っておく必要性と市場別の内容
上場基準とは何か目的や内容を解説。東証の市場再編による変化はあるか
上場したい会社にとって、上場基準は上場できるかどうかの重要な条件です。2022年に市場が再編されたことで、上場基準にも変化がありました。
今後の上場には、新しい上場基準が欠かせないため、上場を検討している企業は対応をする必要があります。
この記事では、上場基準とは何か、新しくなった基準はどのようなものなのかについて解説します。
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この記事の目次
上場基準とは
上場とは、株式を証券取引所で売買する資格が与えられることです。では、上場基準とはどのようなものなのでしょうか。以下で詳しく解説します。
上場審査の基準
上場するには、証券取引所に申請して審査に通る必要があります。
上場すると世界中の投資家の売買対象になるため、証券取引所は企業が株の売買にふさわしいかどうかを審査します。
審査に通るには、証券取引所が定めている基準を満たさなければなりません。これを、上場基準といいます。
形式要件と実質審査基準がある
上場基準には、上場を申請するのに必要な「形式要件」と、上場企業になるための適正を審査する「実質審査基準」があります。
2つの違いを詳しく見ていきましょう。
【形式要件】
形式要件は実質審査基準の前に、上場可能か判断されるものです。
証券取引所や市場によって異なりますが、財務数値や株主数、株式数などの数値を達成していることが必要です。
上場申請のために提出された資料などで判断されます。
【実質審査基準】
実質基準は実質要件とも呼ばれます。企業が上場にふさわしいかを審査するものであり、形式要件のように金額や数値などの基準はありません。
企業が安定しているか、収益を維持しているか、適切な経営が行われているかなど、企業の質が信用できるかが問われます。
資料ではなく、ヒアリングや実地調査などで判断されます。
市場区分の見直しによる上場基準も変化
東京証券取引所は、以前は東証1部・2部・JASDAQスタンダード・マザーズ・JASDAQクロースの区分がありました。
しかし、2022年4月からプライム市場・スタンダード市場・グロース市場に見直されています。
東証1部がプライム市場に、東証2部とJASDAQスタンダードがスタンダード市場に、マザーズとJASDAQクロースがグロース市場になっています。
各市場区分にはコンセプトが用意され、流動性・ガバナンス・経営成績と財政状態の項目が設けられました。
市場区分によって概要が異なり、上場会社がほかの区分へ変更するには変更先の基準を改めて受け直す必要があります。
上場基準の概要と目的
ここでは、上場基準の概要と目的について解説します。形式要件と実質審査基準について、さらに詳しく見ていきましょう。
形式要件
企業が上場するには、まず形式要件を満たさなくてはなりません。形式要件とは形式基準とも呼ばれており、受付基準と不受理事項の2つに分けられます。
ここでは、受付基準と不受理事項について詳しく見ていきます。
受付基準
受付基準とは、上場のために最低限満たさなければならない基準です。各市場にはそれぞれの受付基準があり、以下の内容について基準が設けられています。
-
- 株主数
- 流動株式数
- 流通株式時価総額
- 時価総額
- 流通株式比率
- 収益基盤
- 財政状態
- 公募
- 事業継続年数
- その他
不受理事項
形式要件が満たされていても、企業が不受理事項に当てはまる場合は受理が取り消されます。不受理事項は以下のとおりです。
1.合併・会社分割・子会社化もしくは非子会社化・事業の譲受もしくは譲渡する予定のある場合
2.合併・株式交換または株式移転をする予定のある場合
3.上場前に第三者割当増資などによる募集株式などの割当などの確約を提出しない場合、また割当を受けたものが所有していない場合
1は、上場申請した日の直前事業年度の末日から2年以内に予定がある場合を指します。
また、申請会社がそれによって実質的に存続できなくなっていると認めた時も含まれます。
さらに、申請会社の子会社が行う、行う予定がある場合も含まれるので注意してください。
2も、上場申請した日の直前事業年度の末日から2年以内に予定がある場合を指しますが、上場日前に行う場合は当てはまりません。
実質審査基準
形式要件を満たしたのちに上場を認める基準になるのが、実質審査基準です。実質基準も各市場によって異なりますが、形式基準ほど各市場との違いはありません。
基本的な適正は共通しているといえます。
実質審査基準で判断されるものは、以下のとおりです。
-
- 企業の継続性及び収益性
- 企業経営の健全性
- コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
- 企業内容等の開示の適正性
- その他公益及び投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
基本的に、各市場の「上場審査等に関するガイドライン」に基づいて判断されます。以下で内容について詳しく説明します。
企業の継続性及び収益性
実質審査基準では、合理的な事業計画が作成されており、企業が安定して継続して収益が見込める状態かどうかが確認されます。
継続性や収益性が満たされていないと、上場にふさわしくないと判断されてしまう場合もあります。
適切な事業計画には、事業基盤が適切に整備されている、または整備される見込みがあることが必要です。
また、事業環境やリスク管理にもしっかり対応していることが求められます。
企業経営の健全性
株主の利益を保護するためには、事業が公正で忠実に行われている必要があります。
例えば、以下のような状況は公正とはいえません。
-
- 取引行為などの経営活動で不当な利益を享受または供与している
- 役員が親族関係で勤務実態やほかの会社との兼務状況が公正でなく、職務や監査の実施を損なう状況
- 親会社があり、企業グループの経営が親会社から独立性を有する状態
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性
実質審査基準では、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制がしっかりと整備されて機能しているかが確認されます。
具体的には、以下の状況が求められます。
-
- 役員が適切に職務を遂行するための体制が適切に整備・運営されている
- 内部管理体制が適切に整備・運営されている
- 安定かつ継続的に内部管理体制を維持するための人員が確保されている
- 会計処理が適切に整備・運用されている
- 法令などを守るための体制が適切に整備・運営されており、法令違反を起こしていない
企業内容等の開示の適正性
投資家は会社情報を見て投資を決めるため、企業は十分な会社情報を開示しなくてはなりません。
そのため、開示できる体制を構築し、情報管理が適切に行われているかが確認されます。
具体的には、以下の状況が求められます。
-
- 会社情報を適切に管理し、投資者に随時開示できる状態にある
- 開示に関わる書類が法令に準じて作成されており、適切に記載されている
- 取引きや株式の所有割合などによって、企業グループの開示で不正を行っていない
- 親会社がある場合、申請会社の経営に影響を与える情報を適切に開示している
その他公益及び投資者保護の観点から各取引所が必要と認める事項
上場するには、公益及び投資者保護の観点が重要視されます。
具体的に必要な状況は以下のとおりです。
-
- 事業計画にビジネスモデルや事業環境、リスク要因などが反映されており、適切に作られている
- 事業遂行のための事業基盤が整備されている、または整備される見込みがある
- 株主の権利や行使状況が、公益または投資者保護の観点に合致している
- 経営や業績に重大な影響となる争いがない
- 事業の継続に支障をきたす要因がない
- 反社社会勢力の経営への関与を防止する設備が整っている
- 公益または投資者保護の観点から適切だと認められている
東京証券取引所の上場基準
ここでは、東京証券取引所の上場基準についてまとめました。以下で紹介する3つに分かれています。
プライム市場
プライム市場はもともと東証1部だった市場です。プライム市場は高い時価総額を持っており、成長と企業価値の向上が期待できる企業向けの市場になっています。
形式要件
プライム市場の形式要件は以下のとおりです。(一部)
株主数(上場時見込み) | 800人以上 |
流通株式(上場時見込み) | ・流通株式数 2万単位以上 ・流通株式時価総額 100億以上 ・流通株式比率 35%以上 |
時価総額(上場時見込み) | 250億以上 |
純資産(上場時見込み) | 連結純資産50億以上(単体純資産の額がマイナスではない) |
利益または売上高 | 次の1または2 1.最近の2年間の利益が総額25億以上 2.最近の1年間の売上高が100億以上で時価総額が1,000億以上になる見込み |
事業継続年数 | 3カ年以前から取締役会を設置して継続的に事業を行っている |
実質審査基準
プライム市場の実質審査基準は以下のとおりです。(一部)
企業の継続性及び収益性 | 事業が継続的に行われており、安定して収益基盤がある |
企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に行っている |
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備されて機能している |
企業内容等の開示の適正性 | 会社情報が適切に開示できる状況である |
スタンダード市場
スタンダード市場は、もともと東証2部とJASDAQスタンダードでした。
上場企業として期待される高水準を保っており、成長と企業価値の向上が期待できる企業向けの市場です。
形式要件
スタンダード市場の形式要件は以下のとおりです。(一部)
株主数(上場時見込み) | 400人以上 |
流通株式(上場時見込み) | ・流通株式数 2,000単位以上 ・流通株式時価総額 10億以上 ・流通株式比率 25%以上 |
時価総額(上場時見込み) | ー |
純資産(上場時見込み) | 凍結純資産がプラス |
利益または売上高 | 最近の1年間の利益が総額1億以上 |
事業継続年数 | 3カ年以前から取締役会を設置して継続的に事業を行っている |
実質審査基準
スタンダード市場の実質審査基準は、以下のとおりです。(一部)
企業の継続性及び収益性 | 事業が継続的に行われており、安定して収益基盤がある |
企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に行っている |
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備されて機能している |
企業内容等の開示の適正性 | 会社情報が適切に開示できる状況である |
グロース市場
グロース市場は、もともとマザーズとJASDAQクロースだった市場です。
成長の可能性が期待できる企業向けの市場のため、投資家にとってはリスクが高い傾向にあります。
形式要件
グロース市場の形式要件は以下のとおりです。(一部)
株主数(上場時見込み) | 150人以上 |
流通株式(上場時見込み) | ・流通株式数 1,000単位以上 ・流通株式時価総額 5億以上 ・流通株式比率 25%以上 |
時価総額(上場時見込み) | ー |
純資産(上場時見込み) | ー |
利益または売上高 | ー |
事業継続年数 | 1カ年以前から取締役会を設置して継続的に事業を行っている |
実質審査基準
グロース市場の実質審査基準は、以下のとおりです。(一部)
事業計画の合理性 | 合理的な事業計画を作成しており、遂行するための事業基盤を整備、または整備する見込みがある |
企業経営の健全性 | 事業を公正かつ忠実に行っている |
コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性 | コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が適切に整備されて機能している |
企業内容等やリスクの開示の適正性 | 会社情報が適切に開示できる状況である |
上場している企業・上場したい企業が押さえておきたいポイント
ここでは、すでに上場している企業はもちろん、今後上場したい企業が押さえておくべきポイントを紹介します。ぜひ参考にしてください。
新市場の上場基準を踏まえて市場を選択
2022年に市場区分が変更されたことで上場基準にも変化があり、各市場にも明確なコンセプトが打ち出されました。以下に各市場のコンセプトを記載します。
【プライム市場】
多くの機関の投資対象になる規模の時価総額を持っており、高いガバナンス水準を備えている市場です。
投資者と建設的な対話を行い、持続的な成長と企業価値の向上を目指す企業向けになっています。
【スタンダード市場】
公開された市場として一定の時価総額を持っており、基本的なガバナンス水準を備えている市場です。
持続的な成長と企業価値の向上を目指す企業向けであるのは、プライム市場と共通しています。
【グロース市場】
高い成長の可能性を実現するために、事業計画を適切に開示できる状況の企業が参加できます。ただし、事業実績から見るとリスクが高い傾向のある市場です。
以上のコンセプトから、自身の企業が今どの立ち位置にいるかを把握し、市場を選択しましょう。なお、上場前の会社はグロース市場への上場を目指すのが一般的です。
今一度コンプライアンスの見直しを
上場したい会社がつまずく原因のひとつに、コンプライアンスに関する問題があります。職種でいうと、人事労務が当てはまります。
人事労務は、社内で働く人たちの管理や統制を行うため、コンプライアンスにも深く関わる業務です。
上場を目指す際、目に見えやすい形式要件には気を配りますが、社内統制は大丈夫だろうと軽視してしまう場合もあります。
しかし、上場の際は、就業規則の整備や残業代の未払い、訴訟の有無などを指摘される場合もあるので、事前に改善しておくようにしてください。
上場不受理に抵触しないように注意を
上場に向けて万全の体制で形式要件を満たしたとしても、不受理事項に当てはまると上場できません。
そのため、不受理事項には抵触しないように十分気をつける必要があります。
例えば、上場時期を知っている人が利益のためにインサイダー取引を行う恐れもあるため、防止する対策を考える必要があります。
まとめ
上場するためには上場に向けた準備を企業全体で行う必要があります。2022年に市場が改変されたため、上場のための要件などが変更されました。
上場するには、まず形式要件を満たし、さらには実質審査基準を満たす必要があります。上場の要件は複雑であるため、場合によっては専門家に相談してみましょう。
(編集:創業手帳編集部)