雇用契約と労働契約の違いは?原則や契約締結のポイントなども解説
雇用契約と労働契約は労働者の範囲に違いがある
企業が人を雇う際には、雇用主と労働者との間で雇用契約・労働契約を結ぶことが法律で義務付けられています。
雇用契約と労働契約は同じものと捉えられることがありますが、実際には労働者の範囲に違いがあります。
そこで今回は、雇用契約と労働契約の違いについて解説し、5つの原則や締結の流れ、締結する際のポイントを紹介します。
雇用契約と労働契約にどのような違いがあるのか知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
この記事の目次
雇用契約と労働契約の定義の違い
雇用契約と労働契約の定義と違いについて解説します。
雇用契約の概要
雇用契約とは、労働者が雇用主のもとで労働に従事し、雇用主がその労働に対する賃金を支払うことを約束した契約です。
民法第623条で定義されており、労働者は雇用契約を締結することで労働基準法・労働契約法により保護されるようになります。
雇用契約を締結するためには、雇用主側が契約内容の記された雇用契約書を労働者に提示し内容を十分に確認してもらった上で署名・捺印してもらうことが必要です。
労働契約の概要
労働契約と雇用契約は、ほぼ同じ意味です。労働契約法では「労働者が雇用主に使用されて労働し、雇用主は労働に対して賃金を支払うことを労働者と雇用者の間で合意すること」と規定しています。
雇用契約と労働契約を使い分ける際には、民法上で定められた契約のことを雇用契約、労働基準法や労働契約法など労働に関する法令を扱う際に使用される場合は労働契約、となる場合が多いです。
厳密にいえば細かい違いはあるものの、一般的な範囲で使用される場合はほとんど同義になります。
法律における労働者の範囲の違い
雇用契約と労働契約はほぼ同義ですが、法律の観点で見ると「労働者の範囲」に違いがあります。
民法第623条では、「相手方に対して労働に従事するすべての人」を労働者と定義づけており、民法の適用対象としています。
仕事を提供する形態や報酬の労務対償性などから、使用従属関係が認められれば労働者です。
また、労働基準法第116条2項でも、同居の親族のみを使用する業務では労働者から除外されることが明記されています。
労働者の範囲が法律によって異なることは気にする必要はないものの、雇用主と労働者間でトラブルになり訴訟に発展した際には焦点となる場合があります。
雇用契約・労働契約と似ている業務委託契約との違い
雇用契約や労働契約と似ているものに、「業務委託契約」があります。
業務委託契約とは、企業が自社だけでは対応できない業務を受託者に依頼し、受託者が報酬を得る契約を指します。
業務委託契約の場合、雇用契約や労働契約のように「雇用主」と「労働者」という関係にはなりません。
また、業務委託契約には主に以下3つの契約が含まれています。
・請負契約
請負契約とは企業が社外の人材に対して業務を依頼し、依頼した結果(成果物)に対して報酬を支払う契約。
・委任契約
委任契約とは、業務を遂行すること自体を目的としているため、結果に関わらず報酬を受け取れる契約。
・準委任契約
準委任契約は、法律行為に該当しない業務を行う際の契約。コンサルティングやリサーチ業務、システム運営などの委託が該当。
雇用契約・労働契約における5つの原則
雇用契約・労働契約には遵守しなくてはならない5つの原則があります。それぞれ具体的に解説していきます。
1.労使対等の原則
労使対等の原則とは、労働者と雇用主は対等な関係で契約を締結すべきとの原則です。
雇用主は労働者を使用する立場にあることから、労働者側の立場のほうが弱くなります。
しかし、労使対等の原則があることから、雇用主が上の立場になって労働者を支配してはなりません。
2.均衡考慮の原則
均衡考慮の原則とは、労働契約の締結や変更を行う場合、実際の就業状況に基づいて行うべきであるとの原則です。
例えば、正社員と非正規雇用者の条件面で差を付けたり、年齢・性別などで待遇を変えたりすることは、均衡考慮の原則を破る行為にあたります。
3.ワークライフバランス配慮の原則
ワークライフバランス配慮の原則は、労働者の仕事と生活のバランスに配慮すべきとの原則です。
労働者一人ひとりが仕事と生活を両立できるように、雇用主はバランスを考えることが大切です。
4.信義誠実の原則
信義誠実の原則とは、誠意のある行動を取るべきとの原則です。
雇用主だけでなく労働者にも求められるもので、互いに尊重し合い労働契約を遵守することが重要となります。
また、誠実に権利を行使しながら義務を果たす必要があります。
5.権利濫用の禁止の原則
権利濫用の禁止の原則とは、労働者と雇用主の両者が本来の目的以外に労働契約の権利を行使してはいけないとの原則です。
いくら契約の範囲内でも、むやみに権利を振りかざしたり行使したりすれば権利濫用にあたる場合があります。
雇用契約・労働契約の締結に必要なもの
雇用契約と労働契約を締結させるためには、雇用主側で契約書と労働条件通知書の作成が必要です。ここでは雇用契約・労働契約の締結に必要な2つの書類について紹介します。
雇用契約書(労働契約書)
雇用契約書(労働契約書)とは、雇用主と労働者で雇用契約の内容に同意したことを証する書類です。
雇用契約書には、就業時間や場所、休暇、職務内容などが記されており、双方で内容を確認することで署名・捺印を行います。
雇用契約書は雇用する際に必ず作成しなくてはならないように考えるかもしれませんが、作成する義務はありません。
ただし、雇用契約書を作成していなければ、労働者との間でトラブルが生じた際に双方が労働条件の内容を確認し同意した証明を行うことが難しくなります。
トラブルを未然に防ぐためにも、雇用契約書を必ず作成してください。
労働条件通知書
労働条件通知書は、主に労働条件を明示するために必要な書類で、労働者に提供されます。
雇用契約書と同様に勤務時間や場所、休暇、報酬などの条件が明記されており、労働者が自身の労働条件を把握できます。
労働条件通知書は、労働基準法第15条で交付が義務付けられていることに注意が必要です。
また、雇用契約書に記載されている内容と、労働条件通知書の内容に矛盾が生じないようにすることも重要です。
雇用契約・労働契約を締結するまでの手順
雇用契約・労働契約が締結するまでの流れを事前に確認しておくことも大切です。ここでは、2つの契約を締結するまでの手順を紹介します。
1.契約に必要書類を作成する
まずは雇用契約・労働契約を締結するために必要な書類を準備しておきます。必要な書類とは、雇用契約書(労働契約書)と労働条件通知書の2種類です。
これらの書類はもともと書面で交付されるのが基本でしたが、労働基準法の改正により、労働者が希望する場合は電子メール・FAX・SNSなどでも明示できるようになりました。
なお、労働条件通知書の条件を満たした雇用契約書を作成しておけば労働条件通知書と兼用できるため、書類作成の手間が省けます。
2.対象者に適した労働条件を決める
次に、対象者に適した労働条件を決めていきます。労働条件は労働基準法のほかに、パートタイム・有期雇用労働法などの法律に基づいて条件を決めていくことが基本です。
労働条件には、労働者に明示することが義務付けられた項目(絶対的記載事項)と、必ず定める必要はないが、定める場合は記載が必要な項目(相対的記載事項)があります。
3.労働者との合意を得て書面を交付する
労働条件を定めたら労働者に提示し、問題がないか確認してもらいます。労働者からの合意を得られれば書面を交付します。
なお、契約書には雇用主と労働者双方の署名・捺印が必要です。
4.労働者から必要な書類を提出してもらう
雇用契約書・労働条件通知書を交付したら、従業員から書類を提出してもらう必要があります。
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- 雇用保険被保険者証
- 年金手帳
- 住民票
- 扶養控除等申告書
- 運転免許証のコピー
- マイナンバーカード など
中途採用の場合は、以前勤めていた会社の源泉徴収票や健康診断書、雇用契約書なども必要です。
5.保険・税金の手続きや法定三帳簿を用意する
次に、社会保険や税金に関する手続きを行います。入社する従業員が正社員で70歳未満だった場合、年金事務所や健康保険組合、厚生年金基金に「健康保険/厚生年金被保険者資格取得届」の提出することが必要です。
また、法定三帳簿も準備する必要があります。法定三帳簿とは、労働者名簿と賃金台帳、出勤簿の3つの書類のことで、雇用主による作成・保管が義務付けられています。
法定三帳簿には労働者に関する情報や給与の詳細などが記載されており、3年間の保管が必要です。
6.備品を用意して支給する
手続きがおおむね完了したら、業務に使用する備品を用意して支給してください。制服や社員証、デスク、PC、事務用品などを用意します。
ICカードや指紋登録が必要なアクセスシステムがある場合も、事前に対応しておけばスムーズに業務へ移行できます。
雇用契約・労働契約を締結する際のポイント
雇用契約・労働契約を締結する際には、以下のポイントを押さえておくことが大切です。
雇用形態を問わず書面で契約を締結する
雇用契約は雇用主と労働者間で行われるものであり、雇用形態は問われません。そのため、アルバイト・パートなどの非正規雇用者でも雇用契約を結ぶ必要があります。
雇用契約は口頭のみで成立させることが可能ですが、トラブルを避けるために書面を交付しておくことが大切です。
雇用形態を問わず、すべての労働者に対して交付するようにしてください。
労働条件通知書に絶対的明示事項を明記する
法律で交付が義務付けられている労働条件通知書には、明示が必須となる「絶対的明示事項」があります。以下の事項はすべて労働条件通知書に記載しなくてはなりません。
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- 労働契約期間
- 契約を更新する場合の基準(契約更新が必要な場合に限る)
- 就業場所
- 業務内容
- 始業・終業の時刻
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休憩時間
- 休日・休暇
- 労働者を2組以上に分けて就業させる際の就業時転換に関する内容
- 賃金の決定や計算方法、閉め切り、支払い時期
- 昇給に関する内容
- 退職に関する内容(解雇の事由含む)
規程があれば相対的明示事項を記載する
各企業によって就業規則に違いはありますが、該当する規定があれば以下の相対的明示事項を労働条件通知書に記載するか、口頭で説明をする必要があります。
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- 退職金が支払われる労働者の範囲
- 退職金の決定、計算、支払い方法、支払われる時期
- 臨時的に支払われる賃金・賞与、最低賃金に関する内容
- 労働者に負担させる食費や作業用品、その他に関する内容
- 安全および衛生に関する内容
- 職業訓練に関する内容
- 災害補償や業務外の傷病扶助に関する内容
- 表彰や制裁に関する内容
- 休職に関する内容
試用期間や契約期間を明示する
雇用契約・労働契約を締結する上で、試用期間や契約期間を明確にしておくことも大切です。
例えば、契約社員やアルバイト・パートと期間を定めた有期雇用契約を結ぶ場合、契約期間を明示しないまま雇用してしまうと「期間の定めなし」とされ、一定期間が過ぎても会社都合による契約終了ができなくなります。
また、正社員として採用する場合も、試用期間に入った時点で雇用契約が成立することになるため、試用期間を明示した上で雇用契約書を取り交わす必要があります。
なお、試用期間中と本採用後で労働時間・処遇などが異なる場合は、試用期間雇用契約書を別に準備しておいてください。
転勤や人事異動・職種変更の有無を記載する
絶対的明示事項には就業場所と業務内容が盛り込まれており、明示する必要がありますが、2024年4月からそれぞれの変更範囲についても記載が必須になりました。
入社後の就業場所が支店で、後に本社や別の支店へ異動する可能性がある場合には、その旨を記載しておかなければなりません。
また、採用後に人事異動や職種変更を命じる可能性がある場合も、その旨を記載する必要があります。
労働条件を変更する際は労働条件変更通知書を発行する
企業が労働条件を変更したい場合、新たに契約を締結し直す必要があります。労働者にとって有益な変更であれば個別に同意を取る必要はありませんが、労働者への説明は必要です。
労働者に説明する際は口頭だけでなく、労働条件変更通知書も発行するようにしてください。
労働条件変更通知書の発行は法律で義務付けられていません。ただし、企業と従業員が双方で確実に変更内容を把握するためには、労働条件変更通知書の発行は必要なことです。
まとめ・雇用契約と労働契約に違いはないが契約締結は適切に行うこと
今回は、雇用契約と労働契約の違いについて紹介してきました。雇用契約と労働契約に大きな違いはないものの、労働者の範囲が異なります。
また、雇用契約と労働契約の締結は法律で義務付けられているため、適切に行うことが大切です。
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(編集:創業手帳編集部)