コト消費とは?モノ消費との違いや成功事例、トキ消費との関係・将来性などを解説

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体験を消費するコト消費を意識したビジネスモデルの検討を!近年のトレンド「トキ消費」との違いもチェック

コト消費とは、旅行やアクティビティ、エステ、教室などでの体験(コト)にお金を使う消費行動のこと。物品の購入・所有にお金を使う従来のモノ消費に取って代わる消費のトレンドとして注目されています。

今回はそんなコト消費について、モノ消費との違いやビジネスの成功事例などを紹介します。近年誕生したさらに新しい概念である「トキ消費」や「イミ消費」、「推し活」などとコト消費の関係についても解説するのでぜひ参考にしてください。

この記事の目次

コト消費(体験消費)とは

コト消費(体験消費)とは、「するコト・行くコト・見るコト」といった体験にお金を使う消費行動のことです。とりわけ旅行や習い事、芸術鑑賞などの非日常的でアクティブな機会やサービスを消費することを指します。

XやInstagram、FacebookなどのSNSによる体験の共有・拡散は、コト消費のニーズを触発します。ちなみにコト消費に対応する英語は「experiential consumption(経験の消費)」「intangible goods consumption(無形な商品の消費)」などです。

コト消費とモノ消費の違い

モノ消費とは、家電・衣類・アクセサリー・車など、有形の商品(ハード)にお金をかける消費行動のことです。生活必需品の買い物はもちろん、ステータスとして高級ブランド品を買うこともモノ消費に該当します。いわゆる「物欲を満たす」行為がモノ消費です。

モノ・コト消費の違いですが、モノ消費では形ある商品の購入・所有が重要なのに対し、コト消費では形のないサービスの体験が重視されます。またモノ消費が日常的なモノも含めた消費なのに対し、コト消費では主に非日常のコトが消費される点も違いです。

日本では、1990年代後半から2000年代にかけて消費のトレンドがモノ消費からコト消費に変わったといわれています。その理由としては、高度経済成長期・バブル期の大量生産によってモノが溢れ、人々が消費社会に疲れたことが挙げられます。またバブル崩壊後の経済停滞により、モノ消費を控える風潮ができたこととも関連があるでしょう。

コト消費はさらにトキ消費へ移行

モノ消費からコト消費へと移行した消費行動のトレンドは、さらにトキ消費へと移行しつつあるといわれています。「トキ消費」という言葉は、2017年に博報堂生活総合研究所が使用し始めたことから普及しました。

トキ消費とは、その場でしかできない体験(しばしば他者と一緒に)主体的に経験することにお金を出す消費形態のこと。フェスやファンミーティング、スポーツイベントなどへの参加がトキ消費の代表例です。

SNSによる体験(コト消費)の拡散が一般的になり、人々は「体験」に既視感を感じ、その多さに疲れ始めました。しだいにネットで擬似体験できるコトよりも、その場限りでしか経験できないトキへの需要が高まっていったのです。とりわけSNSをよく使用する若者・Z世代には、コト消費からトキ消費への移行が顕著だといわれます。

コト消費が注目される背景

コト消費が注目されるようになった、あるいはモノ消費からコト消費への移行が進んだ背景には、以下のような事柄があります。

モノの「所有から利用へ」価値が変化

1990年代のバブル崩壊以来、日本ではモノの所有ではなく、モノの利用価値が重視されるようになりました。限られた家計をやりくりする人々は、モノ自体に価値を認めるというよりむしろ、モノの機能性を評価、判断する傾向にあります。

例えば、かつて自家用車はステータスでしたが、今は「公共交通機関が便利」「必要なときだけレンタカーを利用する」といった人も多くいます。また幅広いジャンルでサブスクリプションサービスが普及し、音楽や映画、衣類など、さまざまなモノを所有せずに消費することが可能となっています。

とりわけZ世代を中心とする若者世代では、モノの実用性・効率性を優先する傾向がより顕著です。彼らは、低額でさまざまなモノを利用できるサブスクリプションのほうが所有よりはるかに「コスパがいい」と考えます。

ネットで買える時代になり実店舗の役割が変化

ネットショッピングの普及により実店舗でモノが売れにくくなったことも、モノ消費からコト消費への移行と関連しています。

ネットに顧客を奪われることに危機感を抱いた実店舗が、「店舗ならではの体験」で惹きつけるコト消費的集客活動を始めたのです。例えば、新商品に関するイベントやカウンセリング販売、ユニークな店舗デザインなどがコト消費的集客活動に該当します。

また消費者目線でも実店舗には体験(コト消費)を求める傾向があります。ネットで何でも買えるからこそ、単なる商品の購入ではなく「販売員に相談するコト」「店舗でくつろぐコト」などが実店舗に行く意義になりつつあります。

インバウンド消費も爆買いから日本文化のコト消費へ

2019年頃まで、インバウンドの消費行動は、中国人・台湾人・韓国人らによる「爆買い(モノ消費)」が主流でした。しかし、コロナ禍が明けて2023年以降は、欧米客の割合が増加し、日本文化の体験がより重視されるようになっています。

富士山や京都の寺院などの観光名所はもちろん、着物・浴衣の着付けやゴーカート、花火などの体験も人気です。欧米客は遠くから来る分、日本に長く滞在する傾向にあり、地方を含めて複数の地域を巡り、さまざまなコト消費を楽しみます。

観光国である日本にとって、インバウンドの消費傾向は重要です。訪日外国人の価値観がモノ消費からコト消費へ移行しつつあることが、国内のビジネスモデルおよび消費傾向に影響を与えている側面も大きいでしょう。

コト消費は5種類に分類できる

コト消費は以下の7種類に分類できます。これらはコト消費を意識した集客活動(ビジネスモデル)の類型とも捉えられます。

参考:川上 徹也, 「コト消費」の嘘, 角川出版社, 2017

1.純粋体験型コト消費

純粋体験型コト消費とは、体験そのものが企業の商材となっている形態です。旅館・ホテルでの宿泊、スキーやラフティングなどのアクティビティ、エステ、体験教室などが該当します。

事業者目線では、シンプルに(体験型の)サービスだけを提供するビジネスモデルが純粋体験型コト消費だといえます。

2.アトラクション施設型コト消費

アトラクション施設型コト消費は、商業施設に娯楽施設を併設して集客につなげる形態のことです。例えば、ショッピングセンター内に作られた遊園地やゲームセンター、百貨店に併設された映画館などが挙げられます。

アトラクション施設を目的に来場した人々は、併設の商業施設でさらなるコト消費やモノ消費を行い、事業者の利益を増幅させます。

3.時間滞在型コト消費

時間滞在型コト消費は、商業施設が提供する快適な空間でゆっくり良い時間を過ごすコトの消費です。例として、おしゃれな内装のブックカフェ、いろいろなお店や飲食店が立ち並ぶアウトレットモールなどでの消費が挙げられます。

時間滞在型コト消費を意識したビジネスモデルでは、いかに居心地の良い空間を作り、来場者を長時間滞在させられるかがポイントとなります。

4.ライフスタイル型コト消費

ライフスタイル型コト消費とは、商業施設が消費者の生活に合った商品を総合的に提案、提供する形態のことです。例えば「北欧風」をテーマにモデルルームを作り、複数の家具やインテリアを販促することがこれに該当します。

そのほか「おうち時間の充実」「アウトドアを楽しむ」などと題して、生活用品やその他グッズを包括的に売ることもライフスタイル型コト消費的な販促です。

5.コミュニティ型コト消費

コミュニティ型コト消費は、商業施設が消費者にコミュニティを提供し、体験(消費)をつくることです。例えば、ショッピングセンターが定期的に子育ての交流会を開催し、地域のママ・パパを集めること挙げられます。

事業者はコミュニティを販促(モノ消費)につなげられるほか、コミュニティ自体を収益源にすることもできます。YouTubeのメンバーシップやスーパーチャット、ファンクラブの会費などは、コミュニティが直接収益を生むモデルの好例です。

コト消費型ビジネスモデルの成功事例

以下ではコト消費型ビジネスの成功事例を3例紹介します。体験(コト)を提供するビジネスモデルを考案する上での参考にしてください。

事例1:クロスシー「医療ツーリズムで中国人インバウンドにコトを提供」

株式会社クロスシーは、2024年4月から訪日インバウンド(主に中国人観光客)向けの医療ツーリズム「スーメイ」の運営を開始。日本の美容医療・再生医療と連携し、訪日中国人旅行者のサービス利用をサポート、フォローアップも実施します。

欧米に比べて、中国と日本の距離は近く、気軽に買い物にも来られることから、従来、中国人インバウンドの消費行動は「爆買い(モノ消費)」が中心でした。クロスシーの医療ツーリズムは、そんな中国人のコト消費を開拓しようとする点で画期的です。

日本の美容医療は安心・安全という点で信頼性が高く、インバウンドからも人気があります。そのため、適切にサービスを周知し、利用をサポートできれば、中国人旅行者にもその魅力が伝わるでしょう。この医療ツーリズムが中国人の日本でのコト消費を触発することで、中国人向けのコト消費的ビジネスが続々と誕生するきっかけにもなるかもしれません。

事例2:メナード化粧品「訪問販売からフェイシャルエステへ転換」

メナード化粧品は1959年の創業以来、化粧品の訪問販売を主業としていましたが、2003年に「メナード フェイシャルサロン(エステ事業)」を開始。モノ消費(化粧品の物販)からコト消費(エステ)への転換によって業績を伸ばしました。

メナード フェイシャルサロンは、同社の化粧品を使ったスキンケアなどの施術をエステセラピストから受けられるサービス。利用者は化粧品を購入してキープすることで、割安価格でエステを受けられます。

この事例の特筆すべき点は、コト消費(体験)を主体とするサービスを新設し、そこに既存のモノ消費(物販)を従属させていること。モノ消費的なビジネスをコト消費的なモデルへと転換させることを考えるうえで良い参考となるでしょう。

事例3:ソウ・エクスペリエンス「日本に体験ギフトの市場を開拓」

ソウ・エクスペリエンスは、1990年代からイギリスにあった「体験を贈る」という文化を日本に輸入。2005年の創業当時には日本で全く馴染みのなかった「体験ギフト」という新ジャンルを開拓し、堅調に市場規模を広げています。

ソウ・エクスペリエンスの体験ギフトは、アクティビティ、ランチ・ディナー、スパ・エステなどのチケットを贈呈できるサービス。結婚祝いや両親への贈り物などにふさわしい非日常のリッチな体験をプレゼントできることから人気を博しています。

体験ギフトは「体験を売る」コト消費的ビジネスの最たるものといえるでしょう。そんな体験ギフトが市場規模を拡大し、成長を続けているという事実は、我々にモノ消費からコト消費への移行が進んでいることを実感させます。

コト消費的ビジネスモデルの課題

消費者に体験を提供するコト消費的ビジネスには、以下のような課題があります。

コト消費的集客にかかるコスト

店舗で開催するイベントや実演販売など、コト消費(体験)を集客に活用する場合、追加の経費がかかります。また取り組みには一定以上の面積が必要であり、店舗の販売スペースも減らすことになります。

一方、消費者は店舗での体験だけを無料で消費し、商品を購入せずに帰る可能性もあり、コト消費的集客が必ずしも収益につながるとは限りません。こうした場合、コト消費(体験)自体は直接収益を生まないため、十分な費用対効果が得られるかが問題となります。

なお、近年は複数のECサイトや店舗を比較し、一番安いところで購入しようとする動きもあり、体験を付加価値として値上げをすることは難しいでしょう。以上を踏まえると、モノ消費(販売)を前提としてコト消費(体験)を販促に使うビジネスモデルには限界があるかもしれません。

SNSでの擬似体験による価値の低下

SNSによるコト消費の共有は、閲覧者にサービスの擬似体験を与えます。その擬似体験はリアルの体験を触発することもある一方、体験への既視感から自ら体験しようとする意欲を削いでしまう恐れもあるのです。

またSNSでの拡散により、世の中にコト消費(体験)が溢れると人々がそれに疲れてくることも考えられます。かつてモノが溢れてモノ消費が倦厭され始めたように、コト消費もすでに飽きられほかに取って代わられるリスクを抱えています。

コト消費の代替となり得るのが、当日限定のフェスやイベントなど、その場限りの体験に主体的に参加するトキ消費です。

コト消費を意識したビジネスのポイント

コト消費を意識してビジネスモデルや経営戦略を考える場合は、以下のポイントを意識してみてください。

モノ消費を前提としないビジネスモデルも検討する

先述の通り、モノ消費を促進するためのコト消費的集客活動には、追加のコストがかかり、費用対効果が課題となります。イベントその他の販促活動で十分な成果が得られなければ、経費やスペースを浪費するだけに終わるかもしれません。

コト消費的集客活動の問題点の一つは、コト消費(体験)自体が収益を生まないことだといえます。この点を踏まえると、モノ消費を前提とせず、コト消費(体験)自体を売るビジネスモデルを構築するのも一案でしょう。

コト消費的ビジネスの代表例は、純粋型コト消費に分類されるアクティビティやエステ、教室などが挙げられます。化粧品販売からエステサロンへ、寿司屋からインバウンド向けの寿司教室へといったように、モノ消費型からコト消費型へと事業構造を転換する選択肢も考えられます。

トキ消費を組み合わせて付加価値を上げる

モノ消費に代わって広まったコト消費も、SNSの普及によって転換期を迎えています。SNSによる体験の拡散は、コト消費的ビジネスモデルへの既視感を生み、すでに市場から飽きられつつあるといえるかもしれません。

近年注目されているのは、繰り返し体験できるコトではなく、その場限りのトキを経験する「トキ消費」です。トキ消費の特徴は、非再現性・参加性・貢献性の3要素。体験型のビジネスモデルにこれらの3要素をうまく掛け合わせられれば、よりユーザビリティの高いサービスを作れる可能性があります。

トキ消費の3要素
非再現性:そのトキを逃すと二度と経験できない体験や盛り上がり
参加性:同じ趣味嗜好の人たちで盛り上がるトキに主体的に参加する
貢献性:参加することで集まりやイベントなどトキの盛り上がりに貢献する

トキ消費的なマーケティングのアイデア

トキ消費的なマーケティング戦略の一案としては、特定の日・場面(トキ)にちなんだ商材・サービスを提案すること。

例えば、森永製菓は8月12日を「ハイチュウの日」と制定し、新商品の発売やキャンペーンによって業績を上げました。これはハイチュウの日という「トキ」にハイチュウを食べる「コト」というトキ消費を意識したコト消費的な戦略といえます。

また体験ギフト大手のソウ・エクスペリエンスは、「結婚」「母の日」「誕生日」などの記念日のプレゼント用ギフトを打ち出し、急成長を実現。これも体験を提供するコト消費的なビジネスモデルに、日・場面を限定するトキ消費的要素を掛け合わせた戦略・戦術でしょう。

若者には「イミ消費」や「推し活」の要素も

Z世代を中心とした若者世代にはトキ消費以外に「イミ消費」や「推し活」といった消費行動も顕著に見られます。

イミ消費とは、モノやサービスの購入が地域貢献・社会貢献というイミを持つ消費行動のこと。例えば「売上の一部が被災地に寄付される」「環境に配慮した素材で作られている」商材・サービスの消費が挙げられます。SDGsの広まりもあって、イミ消費も消費のスタンダードに加えられつつあります。

また若者はほかの世代に比べ、有名人やキャラクターを応援する「推し活」にお金をかける人が多いことが、消費者庁の調査でわかっています。そのため、アイドルやアニメキャラとタイアップしたプロモーションが、若者向け商材の販促には有効です。ちなみに推し活には非再現性・参加性・貢献性があるため、トキ消費の一形態といえるでしょう。

推し活を絡めた販促は時に劇的な効果を生む

2023年、三重県のテーマパークである志摩スペイン村は、人気VTuber「周央サンゴ」氏をプロモーションに起用し、劇的に生産性を向上させました。同氏を起用したコラボイベントの開催期間中(同年2月3月)の来場者は前年比の約1.9倍、同氏が絶賛したチュロスは例年の約33倍に相当する1日平均1,000本を売り上げたといいます。

これは推し活を絡めた販売促進戦略がいかに有効であるかを示唆する事例です。有名キャラ等とコラボすることで、自社の商品・サービスも消費者の推し活(トキ消費)の対象となるため、少なくとも短期的には売上を伸ばせる可能性が高いと考えられます。

まとめ

コト消費は、するコト・行くコト・観るコトといった体験にお金をかける消費行動のこと。近年はそこに非再現性・参加性・貢献性の要素を加えたトキ消費も注目されています。

Z世代やインバウンドの消費傾向を踏まえると、モノ消費からコト消費・トキ消費への移行は今後も進むと予想されます。これを機会にぜひ、かけがえのない体験(コト・トキ)を売るビジネスモデルを検討してみてください

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(編集:創業手帳編集部)

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