事前確定届出給与とは?手続きやメリット・デメリットについて解説

資金調達手帳

役員報酬を事前確定届出給与として届け出すると損金算入できる!


会社を経営する中で、利益は出ている状態でもできる限り節税対策に取り組みたいと考える人も多くなっています。
利益が出ている状態でできる節税対策として、「事前確定届出給与の利用」があります。事前確定届出給与とはどのような仕組みで節税につながるのでしょうか。

今回は、事前確定届出給与の概要や手続きの流れ、メリット・デメリットなどを解説していきます。
事前確定届出給与について知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

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事前確定届出給与とは?


まずは事前確定届出給与の特徴や、他の役員報酬に関する制度とどのような違いがあるのかをご紹介します。

役員へ支払う金額を定めて届け出する給与

事前確定届出給与とは、役員へ支払う金額を所定の時期に定めて事前に税務署へ届け出を提出し、支給する給与を指します。
決められた時期にまとまった金額を報酬として支払うため、役員の賞与として扱われることが多いです。

従業員の給与は会社の損金として算入できますが、役員報酬では条件を満たさない限り損金算入ができません。
しかし、事前確定届出給与なら支給する金額が事前に決められていることから、損金算入が可能となります。

役員報酬として利用される以外にも、非常勤役員に対して不定期に役員報酬を支払う際にも事前確定届出給与が利用されています。

定期同額給与との違い

定期同額給与とは、役員に対して1カ月以内など一定期間ごとに議事録で決まっている金額を毎月支払う給与です。
月収と似ていますが、こちらには残業代や手当などはつかず、毎月の支給額も変動しません。こちらは事前確定届出給与とは異なり、税務署に届出の提出は不要です。

報酬額の変更は原則年に1回までで、変更できる時期は決算後から3カ月間と定められています。
また、会社の経営状況が著しく悪くなってしまった場合にも、決められていた金額から減らすことは可能です。
このようなケースなら変更した分の差額も損金として認められますが、基本的に変更が可能なタイミング以外で報酬額を変えてしまうと、変更した分の差額を損金として計上できません。
例えば毎月50万円の報酬を支払っていた場合、30万円に減らしても差額分の20万円は損金計上できず、その分法人税が増加してしまいます。

業績連動給与との違い

業績連動給与とは、会社の業績と連動して支払われる役員給与です。
事前確定届出給与は最初から決まった金額が支払われますが、業績連動給与は業績に応じて報酬が決まるため、金額が確定していない点が異なります。
もともとは「利益連動給与」という名称でしたが、2017年に行われた税制改正で変更されました。

業績連動給与は損金算入できますが、以下の条件を満たす必要があります。

  • 報酬を算出する方法が所定の指標を使った客観的なものであること
  • 有価証券報告書を記載・開示していること
  • 通常の同族会社以外であること

なお、所定の指標というのは利益を示す指標(営業利益・EBITDAなど)や株式指標、売上高を示す指標などが挙げられます。
有価証券報告書を記載・開示する必要があるため、株式を公開していない非上場企業は利用できません。

事前確定届出給与を利用するための手続き


事前確定届出給与を利用するためには、事前に手続きを済ませる必要があります。
きちんと決められた手続きや要件を守らないと、損金算入が認められない可能性もあるので注意が必要です。

1.株主総会で決議を行う

事前確定届出給与を利用するには、まず役員報酬の支給日と金額を決定します。会社法の中で役員報酬は、定款または株主総会の決議で決めることが示されています。
定款に役員報酬の支給日と金額を記載した場合、その内容に従って支給しなければなりません。

株主総会の決議で役員報酬の支給日と金額を決めた場合、損金算入させるためには議事録の作成が必要です。
議事録には役職と氏名、月額給与、事前確定届出給与の支給日と金額を記載してください。

2.事前確定届出給与の届出を作成する

株主総会で決議し、議事録も作成したら税務署に提出するための届出書を作成します。届出書や付表は国税庁のホームページまたは税務署から入手することが可能です。
届出書には法人名や代表者名以外にも、以下の項目を記入する必要があります。

  • 事前確定届出給与について株主総会で決議した日や機関
  • 職務執行の開始日
  • 臨時改定事由の概要と事由が生じた日付
  • 事前確定届出給与につき定期同額給与にする支給としない理由や、支給時期を付表の支給時期とした理由
  • 届出期限

届け出と合わせて提出する付表には明確な支給日に加え、1円単位で支給金額を記載しなくてはなりません。
あいまいな内容で記載してしまうと提出しても受理されない可能性があるため、記載する時は正確に作成するようにしてください。

3.期限内に税務署へ提出する

書類がすべて準備できたら、所轄の税務署へ提出します。届け出の提出期限は以下のいずれか早い方になります。

  • 株主総会などで決議した日、または職務執行開始日のいずれか早い方から1カ月以内
  • 会計期間開始日から4カ月以内

なお、新たに法人を設立した際に役員の報酬や支給日を定めた場合は、法人の設立日から2カ月以内に提出しなくてはなりません。

事前確定届出給与は変更が可能


事前確定届出給与は事前に支給日と報酬が決められているものですが、場合によっては変更が必要になることもあります。
その際は、事前確定届出給与でも定期同額給与と同様に、変更することは可能です。
例えば以下の事由が生じた場合、改定が認められています。

  • 役員の職制上の地位を変更した
  • 職務内容に重大な変更があった(臨時改定事由)
  • 会社の経営状況が著しく悪化した(業績悪化改定事由)

金額を変更する際には、税務署に変更届出書を提出する必要があります。臨時改定事由によって変更する場合は、以下のうちいずれか早い日を期限とします。

  • 株主総会などで決議した日、または職務執行開始日のいずれか早い方から1カ月以内
  • 臨時改定事由が生じた日から1カ月以内

事前確定届出給与を変更すること自体は可能ですが、変更に至るまでのハードルは高く、認められないケースも多いです。
例えば、一時的な赤字や資金繰りの悪化程度では認められない可能性があります。

節税だけじゃない!事前確定届出給与を利用する3つのメリット


単に役員へ賞与を支払うのではなく、あえて事前確定届出給与にすることで様々なメリットを得られます。ここでは、事前確定届出給与を利用するメリットをご紹介します。

役員賞与が損金算入できるようになる

事前確定届出給与を利用する最大のメリットは、役員賞与を損金算入できる点です。通常、役員賞与は従業員の給与と違って損金に算入できません。
しかし、あらかじめ税務署へ支給日と金額を示し、届け出を提出していれば損金として認められます。
法人税は会社の利益に応じて課税されるため、事前確定届出給与で損金算入すると会計上の利益は減少し、節税につながります。

社会保険料の節約につながる

社会保険料は、原則4~6月の3カ月間に支給される報酬がベースとなって決定されます。
毎月支払う定期同額給与の金額を控えめに設定し、事前確定届出給与でまとまった報酬を支払えば、その分毎月の社会保険料の負担を軽減できるでしょう。
また、賞与に対しても社会保険料を負担することになりますが上限が設けられており、上限を超えた金額であれば社会保険料はかからないことになります。

【報酬の上限】
  • 健康保険料:年間573万円
  • 厚生年金:1回あたり150万円

事前確定届出給与は年3回までの支給なら社会保険上「賞与」に分類されます。
社会保険料を算出する際には標準報酬月額が用いられますが、事前確定届出給与だと標準賞与額が適用されるため、確認が必要です。

事前確定届出給与を利用するデメリット


事前確定届出給与には節税効果や社会保険料の負担を軽減させるなどのメリットがありますが、その一方でデメリットになる部分もあります。
事前確定届出給与を利用する際にはデメリットがあることも踏まえた上で、利用するかどうか検討することが大切です。

退職金・老齢年金・傷病手当金が少なくなる可能性がある

事前確定届出給与を利用すると、退職金や老齢年金、傷病手当金が少なくなってしまう可能性があります。なぜ少なくなる可能性があるのか、それぞれの理由を解説します。

・退職金
退職金があまりに高額だと判断されてしまうと、妥当と判断された金額を超過している部分は損金として算入できません。
高額かどうか判断する際には、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率の計算式が用いられます。
この最終報酬月額は役員に支払われている毎月の報酬分であり、賞与は含まれていません。
もし毎月の報酬を少なくして事前確定届出給与で高額にしていた場合、高額と判断されてしまう金額がかなり低くなってしまいます。

・老齢年金
老齢年金は毎月の給与から天引きされている「厚生年金保険料」に応じて、受け取れる金額が変わってきます。
事前確定届出給与によって毎月支払う社会保険料を少なくした場合、将来的に受け取れる老齢年金まで減少してしまう恐れがあるため、注意が必要です。

・傷病手当金
老齢年金と同様に、傷病手当金も納める社会保険料が少ないことで受け取れる金額が現象してしまいます。
事前確定届出給与を利用する際は、給付金などとの兼ね合いも考慮しながら支給する金額を決めることが大切です。

所得税が増える可能性がある

所得税には「社会保険料控除」というものがあり、1年間に支払った社会保険料を所得金額から差し引いて、所得税を抑えられる仕組みになっています。
事前確定届出給与によって毎月支払う社会保険料を抑えてしまうと、その分所得税から差し引ける金額も少なくなり、所得税が増えるかもしれません。
課税される所得金額が増えれば増えるほど適用される税率が上昇し、負担する金額も増えてしまいます。
そのため、社会保険料を減少させることがデメリットにつながる可能性もあります。

事前確定届出給与で損金算入できないケースに注意


事前確定届出給与の届出を税務署に提出しても、損金算入が認められないケースもあります。
どのようなケースで損金算入が認められないのか、解説します。

支給日や支給金額に相違などがあると損金算入ができない

年間で複数回事前確定届出給与を支給する場合、それぞれ支給された時期と金額が届出として提出した内容と一致していなければ、全額損金算入できなくなってしまいます。
例えば届け出には「7月30日に100万円、12月30日に100万円」と記載して提出したとします。
その後7月28日に100万円、12月30日に100万円で支給した場合、届け出と異なる日付で支給した夏の100万円はもちろん、冬期に支給した100万円分も損金算入できません。

金額が高額すぎると不正などを疑われ認められない場合がある

事前確定届出給与によって支給する金額があまりにも高額に設定されている場合、不正などを疑われてしまう可能性があります。
高額と判断される金額は、売上げや業界などによっても異なることから一概にどの程度の金額が高額であるとは言えません。
それでも同業他社と比べて10倍以上も高い場合など、明らかに利益を調整していると見受けられる場合は、事前確定届出給与が認められない可能性もあるので注意が必要です。

役員報酬や事前確定届出給与の相談は税理士に


事前確定届出給与は届け出の内容どおりに支給されないと、すべて損金算入できなくなってしまいます。
適切な金額で役員報酬を設定し、不備のない事前確定届出給与の届出を作成するなら税理士に相談するのがおすすめです。
税理士は税金に関する相談を独占業務としており、役員報酬や事前確定届出給与に関する知識も豊富です。

また、事前確定届出給与以外に節税対策についてアドバイスをうけることもできます。まずは無料相談を活用して、自身と相性の良い税理士を探してみてください。

まとめ・事前確定届出給与は節税対策になるがその他の手当とあわせて慎重に検討しよう

事前確定届出給与は事前に支給日と金額を明記した届け出を税務署に提出することで、損金算入できるようになる制度です。
損金算入によって法人税の節税や社会保険料の節約につながります。
ただし、かえって所得税の負担が増えてしまったり、退職金や老齢年金、傷病手当金が少なくなったりする場合もあります。
これらのデメリットを回避するためにも、事前確定届出給与を利用する際は適切な報酬額を設定することが重要です。

創業手帳(冊子版)では、事前確定届出給与のように利益が出ている場合での節税対策などもご紹介しています。
経営に役立つ情報を豊富に提供していますので、ぜひご活用ください。

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(編集:創業手帳編集部)

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