日本資産運用基盤グループ 大原啓一|日本の金融業界の問題を解消し 金融ビジネスの最適化を目指す

創業手帳
※このインタビュー内容は2022年04月に行われた取材時点のものです。

優れた資産運用のサービスをつくるためのベースを構築したい

金融機関でロンドン駐在という華やかな経歴を捨て、日本の金融業界を何とかしたいと起業した大原氏。日本の金融業界には大きく2つの構造問題があると言います。

資産運用サービスを手がける金融機関を、コンサルや業務代行などでサポートする「日本資産運用基盤グループ」は現在4年目。大手金融機関を卒業したシニア人材を雇用するなど、ユニークな試みでもメディアの取材を多数受けています。そんな大原氏に、創業手帳代表の大久保がインタビュー。

お互いに全て漢字の社名について、また日本の金融業界の構造的な問題など、さまざまな話題について語り合いました。

大原啓一(おおはらけいいち)
株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長
2003年東京大学法学部卒。2010年ロンドンビジネススクール金融学修士課程修了。野村資本市場研究所を経て、2004年に興銀第一ライフ・アセットマネジメント(現アセットマネジメントOne)に入社。日本・英国で主に事業・商品開発業務に従事。同社退職後、マネックスグループ等から出資を受け、2015年8月にマネックス・セゾン・バンガード投資顧問を創業。2016年1月から2017年9月まで同社代表取締役社長。2018年5月に日本資産運用基盤を創業し、代表取締役社長に就任。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計100万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。

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お客様や社会がどう受け止めるかで社名は決めるべき


大久保:起業の経緯を教えてください。

大原:27才でロンドンに駐在になり、金融危機などで予定より長く、8年ほど滞在したんです。世界的に金融機関の姿が大きく変わっていくのを目にして、どうしても起業がしたいと会社を辞めて日本に帰りました。

そこで、会社ってどう立ち上げるんだろう?と苦労しながらひたすら金融機関を回り、マネックスグループの子会社として「マネックス・セゾン・バンガード投資顧問」という会社を立ち上げました。このときは出資をしていただいたこともあり、資産面ではあまり苦労をせず、サービスの立ち上げに集中することができました。

ただ、この事業はあまりうまく展開することができず、2年半ほどでこの会社から離れ、2社目である「日本資産運用基盤株式会社」を設立することになりました。ただ、会社をおこすということについては、創業手帳さんを始めとしていろいろな方がノウハウをシェアされていたり、サポートしてくれる会社もあり、情報を集めるのも比較的容易ですが、金融機関を立ち上げるときはそうはいきません。

ヨーロッパで新しく金融機関を立ち上げようとすると、そういった支援をしてくれる会社があったりノウハウがシェアしてあったりするのでスムーズなのですが。定款作りから登記、オフィスのレンタル、創業融資、人の採用からシステム構築まで、ひとりでやったので非常に苦労しましたね。

今の会社では、昔の自分のように日本で金融サービスを立ち上げる人のサポートをしたいと思っています。

大久保:創業手帳もそうなのですが、会社名が「日本資産運用基盤株式会社グループ」と、グループ以外はすべて漢字ですよね。創業手帳は、官公庁でもうまく使っていただきたいとわざと古いイメージの社名にしたのですが、そういったところは意識されましたか?

大原:創業手帳さんはシンプルで誰が見てもわかるいい社名ですよね。弊社も官公庁ではないですが、昔ながらの歴史がある金融機関などに安心して使っていただけたらというところもあり、重厚感がある名前という点は意識しました。社員についても、金融機関を卒業された方などにも来てもらっているので平均年齢が57才と高く、そのあたりともマッチする名前になったのではと思っています。たまに政府系の機関と間違われることもありますが(笑)。「JAMP」という略称もあります。

起業の相談なども受けることがあるのですが、会社名ってすごく皆さん考えるじゃないですか。創業者の思いをこめたり、プロダクトアウト的な社名にしがちですが、なんでもかんでも横文字にするのではなく、お客様や社会がどう受け止めるかで社名は決めるべきだと思います。

日本の金融業界には2つの構造問題がある


大久保:顧客はどういった方なのですか。

大原:基本的には全て資産運用に関わる金融機関です。立ち上げた当初は個人のファイナンシャルアドバイザーの方や、数人規模の企業などが多かったのですが、銀行の頭取に自筆の手紙を書いたり、業界誌に論文やレポートを寄稿したりしてネットワークを地道に広げた結果、最近では地方銀行や信用金庫、大手の資産運用会社など、さまざまな組織のサポートをさせていただけるようになりました。

大久保:どのようなサービス内容なのでしょうか。

大原:メインはコンサルティングと、システム開発提供や業務BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)です。

大久保:同じようなサービス内容の他社も多いと思うのですが、やはり金融の場合は普通の会社にはまかせにくい部分があるのでしょうか。

大原:システムや業務BPOは金融の法律に基づいた要件を満たしていないと法令違反になってしまいます。その前工程であるコンサルティングも、金融ならではの部分が大きいので、普通のコンサル会社にまかせるのは正直厳しいのではと思いますね。

大久保:日本の金融業界にはさまざまなルールがあって大変だなという印象がありますが、日本の金融業界に対してどうお考えですか。

大原新しい金融ビジネスのチャレンジを妨げているのは、日本の金融業界が抱える2つの構造問題だと考えています。1つは「金融専門人材の偏在」です。高度な金融専門性をもつ人材の多くが大都市の大手金融機関に偏在し、また、各金融機関においては、「役職定年」等の日本特有の制度のため、ベテランの専門人材が十分に活用されていません。

もう1つは、「硬直的な垂直統合事業モデル」です。金融事業者が自前でほとんどの機能を揃える、垂直的な事業構造による運営は、例えばATMのように、非競争分野であるにも関わらず、多数の金融機関が同類のシステムを独自に保有するという非効率を数多く生み出しています。

ルールについては、お客様の個人情報を保護するためにルールが必要なのは当然なのですが、やや過剰になっているために、新しいサービスが生まれにくいんですよね。

最近、金融業界の外の方がユーザー目線で「こういうサービスがあったらいいのでは」というアイディアを元に起業しようとして、でも手続きに要する工数が多すぎて本当にやりたいことに割ける時間がほぼないというケースをよく聞きます。そういった柔軟な発想を持っている方にはぜひサービスに集中していただいて、手続きに関しては我々に任せて欲しいです。

地方銀行の今までのメインは預金や地元の起業への融資だったと思うんですが、企業もお金を借りなくなってきていますし、そもそも低金利でお金になりません。ですから次に注力すべきなのが個人に向けての投資信託などの資産運用サービスなんですよね。

斜陽産業だという声もありますが、地方銀行や信用金庫さんほど未来が明るい金融機関はないとわたしは思っているんです。プロダクトはコモデティ化が激しいですし、派手に立ち上げたオンライン証券会社のいくつかは既に儲からなくなってきています。そのエリアで圧倒的な知名度と信頼を持っていますし、親戚や友人が地元で起業するときに助けてくれるのはメガバンクではなく、地方銀行や信用金庫なんですよね。

大久保:IT系は栄枯盛衰が激しいというところはありますよね。ただ地方銀行や信用金庫もそのままでいていいということではないですよね?

大原:そうですね、やはり業務の効率化など変革は必要だと思います。今後どんどん支援に力を入れていきたいと思っていますね。

大久保:創業手帳にも信金の出身者がいるのですが、今まではパソコンはあるけどメールはできなかったという驚きの発言をしていましたね。

大原インターネットではなくイントラネットですね。行内ではつながっているけれど外部にはつながっていないという。でも、変にシステムがない分、導入しやすいという側面もあります。

大久保:システムの話になりますが、金融機関が使っているシステムって非常に高額ではないですか?

大原:そうですね。金融機関はいろいろなシステムを使っていますが、資産運用に関するものは特に専門性が高く、独占のような状態になってしまっています。競争がないため、価格が下がらないんですね。システム会社を儲けさせるためにビジネスをやっているというような図式になってしまっている部分もあるので、そこはどうにかしないとという空気感は高まっていると感じていますね。

やはりオーダーメイドで作っているというのも価格が高い原因ではありますので、金融法で守られているとはいえ、ある程度の部分はシェアしたり、使いまわせるものは使いまわせばいいのにとは思います。

また、海外の金融機関さんがよく怒っているのは、法律に書いていない業界独特のルールや慣行についてですね。あれは中にいてもやりにくいなと思います。

資産運用ビジネスが日本の経済成長につながる


大久保:金融業界が改善されるということは、日本全体にとってもメリットが大きいことですよね。

大原:そうですね。日本はもう経済的に成熟している国なので、どこに経済成長を求めるかということが重要になってきます。現在、個人の金融資産は2000兆円と言われていますが、日本の年金制度や社会保障制度は先細りするのが目に見えていて、安心することはできないですよね。自分たちで自分の将来に備える意味でも、資産運用が非常に大事になります。そのために、資産運用ビジネスを発展させる組織のお手伝いをすることによって基盤となりたいという思いがあります。

大久保:クライアントが増えると共有できるサービスも増えるのでしょうか。

大原:はい、もちろんそれぞれのクライアントで差別化は必要ですが、本質的には差別化できない部分はありますので、クライアントが増えることにより、溜まった知見を生かすことができていますね。

大久保:金融機関で働くってサラリーマン中のサラリーマンというイメージがありますが、そこから起業してみてどうでしたか。

大原:経営コンサルタントの一倉定さんという方が「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも社長の責任だ」という言葉を残されているんですが、「自分が知らないところで起きた外部環境の変化や社員の行動も、すべて社長の責任である」という意味なんです。そのぐらい社長の責任というものは重いものだと。社長ってすべて自分でやらないといけないので、この言葉を日々噛み締めていますね。

自由である反面、責任もあるなということを実感していますし、サラリーマンとして働いていた頃と、社長である今、「仕事」という言葉は同じなんですが、とても同じことをしているとは考えられないほど何もかもが違いますね。

昔は60才が定年で、それ以降は仕事しなくてよかったのが、今や死ぬまでの時間がどんどん伸びていて、例えば弊社のメンバーのように再就職してもいいし、60才から起業したっていいわけです。ただそれまでの人生でアントレプレナーシップを持っていないと厳しいですが。今後はますます第二の人生で起業される方が増えていくんじゃないかと思っています。

大久保:最後に起業家へのメッセージをお願いします。

大原迷うよりも、まずやってみたほうがいいということはお伝えしたいですね。 周りにも、起業したいと言いながらも情報を集めるばかりで行動にうつさない方がいますが、ある程度情報を集めたら動いてしまったほうが早いと思います。

昔と違って今は、創業手帳さんのようにさまざまな情報をシェアしてくれたり、支援してくれる会社がたくさんあります。調べて動いても、うまくいかないところが出てくるのは避けられないので、まずは動くべきです。

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(編集:創業手帳編集部)

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(取材協力: 株式会社日本資産運用基盤グループ 代表取締役社長 大原啓一
(編集: 創業手帳編集部)



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