Upmind 箕浦 慶|「心に余白をもつこと」の習慣化をアプリで実現!幸せに生きる手伝いをしたい

創業手帳
※このインタビュー内容は2023年07月に行われた取材時点のものです。

心の状態の数値化とマインドフルネスのコンテンツを提供。病気になる前に「予防する」という選択肢を

メンタルの不調を訴える人が増え続ける現代でも、「心に余白をもつこと」を習慣化できれば、病気になる前に予防ができるのではないか。

そのような思いで、心の状態を数値化するアプリ「Upmind」を開発したのが、Upmind株式会社で代表取締役社長を務める箕浦さんです。
Upmindアプリは、質の高いマインドフルネスコンテンツや、手軽に利用 しやすいUI・UXが評判を呼び、リリースから2年で30万ダウンロードを突破しました。

今回はそんな箕浦さんに、起業までの経緯や、起業家が「心に余白を持つ」ことの大切さについて、創業手帳代表の大久保がインタビューをしました

箕浦 慶(みのうら けい)
Upmind株式会社 代表取締役CEO
オーストラリア・パース生まれ。2015年に東京大学工学部を卒業、チームラボに入社。2016年までスマートフォンアプリのエンジニアとして開発業務に従事。2017年に米Bain&Company(戦略コンサルティングファーム、東京支社)に転職し、経営戦略の立案に従事。2021年にUpmind株式会社を設立。瞑想歴はゴア(インド)で体験してから10年以上。

インタビュアー 大久保幸世
創業手帳 株式会社 代表取締役
大手ITベンチャー役員で、多くの起業家を見た中で「創業後に困ることが共通している」ことに気づき会社のガイドブック「創業手帳」を考案。現:創業手帳を創業。ユニークなビジネスモデルを成功させた。印刷版は累計250万部、月間のWEB訪問数は起業分野では日本一の100万人を超え、“起業コンシェルジェ“創業手帳アプリの開発や起業無料相談や、内閣府会社設立ワンストップ検討会の常任委員や大学での授業も行っている。毎日創業Tシャツの人としても話題に。 創業手帳 代表取締役 大久保幸世のプロフィールはこちら

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大学の頃インドで出会った「メディテーション(瞑想)」が事業のきっかけに


大久保:まずは、箕浦さんの経歴を教えてください。

箕浦:私はオーストラリアのパースで生まれました。3歳までオーストラリアにいて、その後は神戸が地元です。東京へは東京大学への進学を機に出てきました。

大学では、1年生の夏から「チームラボ」というIT企業でインターンをしていました。そこで「自分も物を作れる人間になりたい」と思い、大学3年生のときに経済学部から工学部に転部もしています。

大久保:留学などもされたのですか?

箕浦:1年間、留学のために大学を休学して、インド、アメリカ、オーストラリアに行きました。そのときにインドで出会ったのが、今の事業にもつながる「メディテーション(瞑想)」です。

大久保:アメリカには、何か勉強したいことがあって行かれたのですか?

箕浦カリフォルニア大学のバークレー校に行き、図書館で寝泊まりしながら、英語だけでなくプログラミングの勉強をしていました。帰国後に、「そのままアメリカのコンピュータサイエンス系の大学に行こうかな」とも考えたのですが、大学院に進学できなかったので諦めたんです。

大久保:大学卒業後は、インターンをしていた「チームラボ」に就職されたと伺いました。

箕浦:はい。「チームラボ」では、休学中に勉強したプログラミングの知識を活かして、スマートフォンアプリのエンジニアとして2年間働きました。その後は、アメリカに本社がある経営コンサルティング企業のBain&Companyで4年間働き、Upmind株式会社を設立して今に至ります。

日本人の忙しさに疑問を持ったことからスタート

大久保:インドだけではなくてオーストラリアに行かれたことも、起業につながったのでしょうか?

箕浦:そうですね。オーストラリアには3ヶ月間いたのですが、オーストラリアの人は18時ごろ仕事を終えると、あとは休んだり家族との時間に充てたりといった過ごし方をしていたんです。
私の生まれはオーストラリアですが、そのときが日本に越してから初めての里帰りだったので、かなり「のんびり」した雰囲気に驚きました。

日本では、社会人になると仕事中心の生活で、忙しさのあまり体調を崩す人も珍しくありませんよね。だからこそ、学生の時に「オーストラリアのような世界もあるんだ」と気づけたことは、起業のイメージを膨らませる上で、大きかったかもしれません。

大久保:確かに日本の人は、「忙しい」のが当たり前という価値観があるような気がします。

箕浦本当にやりたいことや自分がどうありたいかを意識しながら生きた方が、後悔のない人生、幸せな人生を歩めるのではないでしょうか。でも、日本では目の前の仕事が忙しすぎて、それらを意識できていない人が多いと感じていました。

だから、日本の人たちにもう少し休むことを覚えてもらったり、生き方のヒントを与えられたりするような事業をしたいと思ったんです。そこで自分の人生を振り返ってみると、インドでのメディテーションの経験やマインドフルネスというスキルが役に立ちそうだと考えました。

このような流れで、2年前マインドフルネスを軸にした事業を立ち上げようと決めました。

海外市場と日本市場の違いを研究して「手軽さ」を重視した


大久保:テーマをマインドフルネスにすると決めた後、すぐに現在のプロダクトを選ばれましたか?

箕浦:いいえ。かなりいろいろ考えた結果、このプロダクトになりました。

私が伝えたいと思ったのは、マインドフルネス要素を含む「心に余白を持つこと」と、その手前の「健康を大切にしよう」ということ。 ですので、マインドフルネスを絡めた「健康を促進できるサービス」を考えました。
でも日本だと、そのようなサービスで成功している例がなかったんです。

大久保:たしかに、マインドフルネスと言われても、あまり思い当たるものがありません。

箕浦:海外を見ると、メディテーションのアプリが流行っていたり、カウンセリングが一般的だったりします。日本に同じモデルを持ってくるのはどうかと、いろいろ検討はしてみました。

でも、日本ではメディテーションもカウンセリングも一般的ではありませんから、海外と同じモデルでの起業は難しいと感じました。

大久保:日本では、カウンセリングにさえ抵抗がある人も多いですからね。

箕浦:ですので、「手軽」に自分の心と向き合えて、健康も意識できるようなサービスなら、日本の人にも響くのではと仮説を立てました。「自分でも心の状態は、わかるようでわからない」という話も聞いたので、今の自分の心の状態を客観的にフィードバックされるものがあれば、役に立つんじゃないかと。

そこで、スマートフォンカメラで心拍の状態が測れる機能にくわえて、質にこだわったマインドフルネスのコンテンツ、2つの機能を提供できるアプリ開発をスタートしました。それが、今の「Upmind」アプリの原型です。

科学的な実証をおこない「安心して使ってもらえる」アプリを目指す


大久保:21年の7月にUpmindをリリースされてから2年。ダウンロード数も順調に伸びていますよね。

箕浦:おかげさまでダウンロード数は30万を超えました。アプリストアのヘルスケアフィットネスの部門で、ダウンロード数1位を獲得したこともあります。売上で見ても、過去には2位を獲得したことも。

ダウンロード数をさらに伸ばして、「あすけん」と「ルナルナ」についで、国内で3番目に大きいヘルスケアアプリにするのが直近の目標です。

「心の健康までカバーした、手軽に多くの人が使えるサービス」は今までなかったので、Upmindがそのようなポジションや認知を得ることは、日本社会にとって大きな意味のある第一歩になるのではと考えています。

大久保:他のアプリと比較して優位性はどのあたりになるのでしょうか?

箕浦:Upmindの競争優位性は、大きく3つあります。

1つ目は、自分の心の状態の見える化とケアの実践、その後の状態の確認というサイクルをアプリ内で完結できる点です。

2つ目は、とても「手軽」な点です。メディテーションの呼吸ガイドなども2分、10分などの短いものを中心にしています。

3つ目は、東京大学との共同研究をおこない、「科学的に実証されているアプリ」を目指している点です。

大久保:メンタルヘルスの分野に少しネガティブなイメージがある日本だからこそ、科学的な実証には効果があるように思います。

箕浦:昨年、東京大学のメンタルヘルスの教授である滝沢龍先生の研究室と、3年間の共同研究の契約を締結しました。

アプリで提供しているコンテンツが、科学的に健康改善の効果があるのか、歩数や睡眠時間が心と体調にどのような影響があるのかなどを実証していきます。

大久保:現時点ではどのような研究結果が出ていますか?

箕浦:例えば昨年は、健康な労働者に5分から10分のメディテーションを「Upmind」を利用して1ヶ月間していただく実験をおこないました。

すると、生産性が17%向上したという結果が得られたんです。こういった科学的な検証を重ねることで、多くの方が安心して使えるアプリにしていきたいと考えています。

資金調達をしないという選択の理由

大久保:Upmindは、資金調達をせずにここまで成長されたんですよね。

箕浦:そうですね。資金調達をして資金を入れると、投資の力で最初からスケールの大きいことができますから、「時間が買える」というメリットがありますよね。

一方で、「〜年以内にリターンを出す」という制約がかかります。そうすると、本当にやりたいことと、リターンを出すためにやらなければならないことが乖離してしまいます。その結果、悩んでしまう起業家の方が多いと聞いていました。

メンタルヘルスは難しい市場だとわかっていたので、自分がやりたいことを通すために、資金を入れない方針にしたんです。

大久保:では、会社の立ち上げ当初は大変だったのではないでしょうか?

箕浦:おっしゃる通りです。一番最初のサービスをローンチするまでは、自分の貯金を切り崩していました。

また、コストを抑えPDCAを早く回すために、私自身がアプリ開発をしました。当時、チームラボをやめてから4年間プログラミングのコードを書いていない状態でしたので、学び直しからのスタートでしたね。

大久保:そのようなご苦労がありながらも、ご自身が本当にいいと思うサービスづくりを徹底されたからこそ、支持されるアプリになったのですね。

箕浦お客様にとにかく「手軽」に使ってもらうためにも、 UI、UX、ブランディング、デザインにはこだわりました。それが、iOSのアプリストアでの4.5という高評価にもつながっているのだと思います。

より「予防」に目を向けてもらうため法人向けプログラムを展開

大久保:個人向けにとどまらず、法人向けのプログラムも展開されているのですよね。

箕浦:はい。健康経営に興味がある企業や保険組合とパートナーシップを組んで、BtoBtoCのような事業展開をしていく予定です。つまり企業の従業員や保険組合の加入者が対象の事業ですね。

大久保:なぜ、単純な法人向け(BtoB)ではなく、「BtoBtoC」に焦点を当てているのでしょうか?

箕浦:今のUpmindアプリは、直接お客さんからお金をいただいています。でも、日本は健康保険制度が整っているので、病院での治療費も安いですよね。だから、わざわざお金を払ってまで「予防」をしたいという人は少ないんです。

大久保:たしかに「予防」のためにお金を払うのは、ハードルが高いかもしれません。

箕浦:一方で、メンタル不調に陥る方は、ここ15~20年で増加傾向にあります。経済産業省によると、医療費増加や生産性の低下による経済損失は約2兆円にもなるそうです。

「病気を予防すること」が、本人にとっても国や企業にとっても一番大事なことだと思うのですが、そこにはお金をかけてもらえない現状があります。

だから代わりに、「医療コスト」や「従業員の健康」を気にかけている企業や保険組合にお金を出してもらい、使う側には無料で提供することで、「病気の予防」を広げていくモデルが良いのではないかと考えました。

モチベーションを湧かせる健康促進の仕組みを

大久保:法人向けプログラムは、具体的にどのような内容ですか?

箕浦:基本的には今のUpmindアプリと同じですが、よりモチベーションが湧く仕組みを導入したいと考えています。

例えば、健康を促進する歩数や睡眠時間を保てたり、マインドフルネスのコンテンツをしたりするほどポイントが貯まり、そのポイントは健康アイテムや給与へのキャッシュバックとして受け取れるといったものです。

大久保:そのようなご褒美があれば、頑張れますね。

箕浦:アプリだけではなく、月に1、2回、メディテーションやヨガのワークショップを1時間程度組み込むプログラムもご提供したいと思っています。

その他、オフィスビルの中に仮眠やメディテーションができるような空間を作る取り組みを、東京建物さんと始めていく予定です。

仕事の場でもリラックスを意識できる環境を整えることで、より多くの日本の方に「心に余白を持つ」こと、さらにその手前の「健康に気をつけること」を習慣づけたい。これらの取り組みは、 創業当時からずっとやりたいと思っていたことなので、今後力を入れていきたいと考えています。

マインドフルネスのスキルが「本来の自分の思い」を支えてくれる


大久保:プレッシャーのかかりやすい起業家ですが、箕浦さんがおっしゃる「心に余白を持つこと」は起業家にとっても大切ですか?

箕浦:大切だと思います。事業をやっていると、どうしても目の前の作業に追われてしまいがちですよね。でも、意識的に休む時間を取って「本当に自分のやりたい事業は何なのか」を考えるようにした方が、新しいアイデアも湧くのではないでしょうか。

大久保:箕浦さんが、意識的にされていることはありますか?

箕浦:私は海外へ行くようにしています。ちょうど先週もヨーロッパに3週間くらい滞在していたのですが、仕事をしていない時間、観光地を歩いている時間の方がアイデアも湧くんです。

大久保:最後に、これから起業される方や起業したばかりの方へ、アドバイスをいただけますか?

箕浦:研究結果にもあるのですが、自分への思いやりを持てる方が、心が安定します。だから、例えば今日中に完成させたかった仕事が終わらなくても、少しでも頑張ったのであれば「頑張った」と自分を褒めてあげることが大切です。

短期で結果を出すことも大事ですが、起業家の人がやり遂げたいことを実現するには、時間がかかると思います。ですから、長期的にパフォーマンスを出すために、もう少し「心の余白」を意識していただけたらと。

事業をしていると、自分が本当にやりたいことと実際にやっていることが、かけ離れてしまうことがあるかもしれません。そのときに「本来の自分の思い」と今の状態のバランスを取る方法として、マインドフルネスは有効です。ぜひマインドフルネスのスキルも取り入れていただけたら嬉しく思います。

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(取材協力: Upmind株式会社 代表取締役CEO 箕浦慶
(編集: 創業手帳編集部)



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