サイバーエージェント 上村 嗣美|サイバーエージェントの広報の女性創設者が語る 「明日から使える広報のコツ」

広報手帳

時間に制約があっても成果を出す働き方

(2017/10/02更新)

サイバーエージェントの創業期から広報活動をけん引してきた上村嗣美さん。彼女いわく、華やかそうに見える広報の世界は、地道な努力の積み重ね。無名のころから、幾度となく難しい局面も乗り越えてきた上村さんが考える広報のコツは、実は大企業ではなく、スタートアップで1人でも実践できるような現実的なものでした。今回は、上村さんに伺った「スタートアップが取り組むべき広報のポイント」をご紹介します

上村 嗣美
株式会社サイバーエージェント 広報責任者
1978年生まれ、東京都出身。1999年法政大学経営学部在学時よりサイバーエージェントの内定者インターンを開始。インターンを通して広報・IRという職種に興味を持つ。その後、正社員として管理部門に配属、2000年10月より社長秘書となる。秘書業務の傍ら、入社当時から希望をしていた広報業務も徐々に行うようになり、2005年には広報専任となる。2008年より広報責任者として全社の広報統括と企業広報を担当。

上場時、サイバーエージェントには「広報」がいなかった

ー上村さんが入社された当時、まだ「広報」がなかったそうですね。

上村:私が入社した時は、まだ表参道のとても小さなオフィスで社員数20〜30人くらいの規模でした。広報担当者はおらず、取材がきても社長の藤田がひとりで対応していたほど。それを見ていたのと、マザーズ上場が決まったことで「サイバーエージェントをもっと世の中に知ってもらう仕事をしたい」と思い、広報という仕事を意識しました。

ー当時の広報と、会社が大きくなった今の広報では、違いはありますか?

上村:会社が小さな時はビジネスの社会的影響力も大きくはないので、まずは会社の信頼度や認知を上げる経営に貢献する広報活動が中心でした。スタートアップともいえる段階では、会社の理念や経営者の想いが企業の差別化となります。ですが、上場も果たし会社が大きくなるにつれて、事業へ直接的に貢献する広報活動も求められるようになりました。

例えば弊社ですと、広告事業であれば、新規取引や既存顧客の取引拡大につながるような広報活動。新サービスであれば、ダウンロード数や利用者数の拡大につながるような広報活動といった具合です。スタートアップの時は採用目的の認知拡大や信頼性向上といった経営の課題解決のための広報活動が、徐々にそのような「事業に直接貢献する広報』へと変わってきました。

広報は「ゴール」を決めることから始まる

ーベンチャー企業が広報をしようとした時、まず何からするべきでしょうか?

上村:広報をしようと考えるからには、認知度を上げて企業の信頼性を上げたい、人材採用のため認知拡大したい、サービスの利用者を増やしたい、といった何かしらの目的があるはずです。何のために広報をするのかというゴールや、広報によって解決したい課題は何かをまず明確にしましょう。やりたいことが明確になってから、アクションプランを作っていきます。

ー広報の目的を明確にした後、アクションプランの組み立て方はどうすれば良いでしょう?

上村:例えば、目的が人材採用なら「リーチしたい人材」に知ってもらわないといけません。募集している職種はエンジニアなのか、営業なのか、ほかの職種なのか。また、どういった志向を持っている人か、といった具合です。リーチしたい人物像によって広報として狙うべき媒体や伝えるポイントは変わってきますが、その内容は会社の理念や経営と一致していなければいけません。

つまり、アクションプランはゴールから逆算したうえで、それに沿った手段やメッセージ、必要であれば媒体を選択し、設計することが重要です。
誰に何を伝えるのか、広報でどういった課題解決をしたいのかを明確にしないまま「広報って大事らしいから力を入れなきゃ」と丸投げされて右往左往するケースをよく見かけます。その場合、何が課題で何をすべきなのかという経営や事業の考えを理解できていないため優先順位が明確にならず、結果広報として色々頑張っても経営貢献や事業貢献にうまくつながらないということが多いですね。

攻めの広報と、攻めを守る広報

ー積極的に会社を知ってもらうために行う広報、「攻めの広報」とも呼ばれていますが、具体的にどのような行動を起こせば良いのでしょうか?

上村:広報のゴールが決まったら、その手段を考えます。オウンドメディア(企業が自社で所有するWEBサイト)やSNSの活用、セミナーや勉強会、イベントなど多数の手段がありますが、広報活動でまずみなさんが思いつくのは、企業や団体が自社のニュースをマスコミに売り込んで、メディアで報道されることを目的とする「パブリシティ活動」ではないでしょうか。このパブリシティ活動では、伝えたい、認知させたいメッセージやイメージの決定、広報ネタの切り口を考えるとともに、メディアの方とのリレーション構築も行います。

まずはどの媒体であれば興味を持ってもらえそうか考え、その媒体やコーナーの特性に合わせてアプローチします。例えばテレビ番組のあるコーナーにプレスリリースや企画書を送りたいのであれば、まずは電話をして送付先や曜日ごとの担当ディレクターの方を教えていただいたり。また、新聞や雑誌、Webなどは署名記事も多いので、業界や打ち出したい切り口の記事を書いている方に直接連絡していました。

単に「ご挨拶したいです」だけでは先方も困ってしまうので、「こういう記事を書いていらっしゃるのを拝見しました。つきましては私達はこういった情報をご紹介したいです」というふうに相手の興味や担当分野に寄り添った情報提供をするのが重要です。

すぐにメディア掲載につながらなくても、後日、特集や企画の際に「こんな情報ありませんか?」と思い出して連絡をくださることもあります。また、自社に関係なくても、「こういう人いませんか」「こういう取組をしている会社さんを知りませんか」と相談されることも。直接的に自社の利益に繋がらなくても、そこで協力することが記者の方との関係構築につながったりします。

自分の会社を売り込もうとするより、メディアやその先にいる視聴者の視点に立つことが、結果、信頼関係に繋がります。それが自社について深く知っていただくきっかけにもなるし、そうやって取材に至るケースはとても多いですね。

ーメディア関係者と繋がりを持っておくことで、タイミングが合うときに掲載してくれることもあるんですね。

上村:そうですね。なので「自分の会社を売り込まなきゃ」「いますぐ記事にしてもらわないと」と思うことはなくて、興味を持ってもらえそうだな、この人に取材してもらいたいな、と感じる人と繋がりを作っておくと良いと思います。

自分も「この記事すごく面白いな」「この人の視点は独特で鋭いな」という方に書いてもらえたら嬉しいので、広報と記者だからと構えずに、人と人としてお付き合いすればいいのだと思います。そうすることで、メディアの視点や思考も理解できるようになるのではないでしょうか。

ー反対に、会社を守るための広報のやり方、「守りの広報」とも呼ばれていますが、この際はどのように動くと良いでしょうか?

上村:守りの広報にはいろいろなパターンがあります。

リスクを取ってこそリターンが大きい、と考えるスタートアップの経営者は多いのですが、そこで取るリスクがもし企業価値に関わるのであれば、広報として、企業ブランドの毀損や今後の業績に影響を与えないよう回避する提案をします。

さらに、外部環境によって生じてくる守りの広報もあります。

例えば不正ログインなどの他社のトラブルや同業他社の問題など、SNSやメディア上で話題になっていないか、小さな芽も見逃さないようにアンテナを張っています。他社の問題でも、自社の場合はどういう体制になっているのか、対策をした方がいいのかを確認し、問い合わせがあった時のための事実把握をするとともに、必要に応じてスピーディーな対応を決めていく。問題があった時の対応はもちろんですが、問題が生まれないようにするための動きも守りの広報の一つととらえています。

実際に何かが起きた時には、各部門と連携したうえできちんと状況把握をし、対応策を決定するのはもちろん、被害を最小限にするための対応や方針を判断します。

ー外で起きたことを社内に反映させるには、自社のことも知らなければなりませんね。

上村:そうですね。私たちの会社では、広報や法務で小さな芽を見逃さずに現場にフィードバックし、必要な対策を講じることに力を入れていますが、それは広報というより「広報を発端として社内の事業を良くする動き」ですね。

メディアに露出したり、プレスリリースを書いたりといったことは、手段のひとつでしかありません。企業にある何かしらの課題解決や、事業や経営を掛け算で伸ばして貢献していくことが広報の大きなゴール。そのために、広報は社外と社内の架け橋になるべきだと考えています。社内コンサルと言うと少し言い過ぎかもしれませんが、会社を社会に伝えるだけでなく、社会の目を経営や現場にも反映させる、そのようなポジションになっていくべきだと思っています。

ちなみにサイバーエージェントのバックオフィス部門に「攻めを守る」という言葉があるのですが、まさに現場や事業部が「攻め」られる環境を作るための基盤づくり、つまりは「守り」に失敗すると大きなダメージに至ります。だかれこそ、「攻め」も「守り」も、企業の広報には同じくらい重要です。

社員のモチベーションアップも広報の大きな目的

ー広報をすることの効果は、会社の露出、事業への貢献の他には、どんなことがあるのでしょうか?

上村:会社が露出をし、共感者を増やしたり認知を上げていくと、社員のやりがいに繋がります。家族の応援度合いも変わってきますので、社員としてのモチベーション向上にも貢献することを実感しています。

ー社員さんのモチベーションのためには社内への広報も重要ですよね。

上村:そうですね。弊社は社員数が300人ほどの時に全社の社内報を立ち上げました。4000名を超える規模となった今は、全社の社内報意外に事業部ごとの部内報もあって、社内に10種類近くの社内報があります。例えば、サイバーエージェント全社員向け、技術者向け、ママ社員向け、各事業部向けなどですね。目的はさまざまですが、それによって社員の活躍を伝えたり、一体感醸成を図っています。

社員のモチベーションを上げるのは、お金だけではありません。
自分の仕事を誰かが見てくれている、何かに貢献している、といった非金銭的なモチベーションはものすごく大きいと思います。そのために広報は役立つことができます。

社内報もそうですし、社外向けにも自社のコーポレートサイトやオウンドメディアなどを通じて、普段光が当たりづらい部署や、縁の下の力持ちのような社員を取り上げることも行っています。そこで反響が生まれると広報の効果を実感してもらいやすくなりますし、協力も得られやすくなります。

時間に制約がある中で成果を出すために

ー上村さんは子育てをしながら広報という仕事をしていらっしゃいますが、同じように子育てをしながら働いている女性の方に、メッセージをお願いできますか?

上村:子供を育てながら働くことって、大変そうに思われるかもしれませんが、私自身は「子育てがネックになっている」とは感じていません。特に広報は専門性の高い仕事なので、産休育休を経ても広報として復職しやすく、実際にサイバーエージェントの広報担当でママ社員は複数います。

今はスマホの普及でずいぶんと仕事をしやすくなりました。電話だけでなく、スマホでメールチェックをしたり、グループチャットなどで場所を問わずやり取りできます。Googleドキュメントやスプレッドシートの活用などで、会社でないと作業できないというケースも減りました。時間に限りがあるからこそ、優先順位を明確にすることを心がけています。出産前より生産性は確実に上がったと感じますね。

つまり、今の自分の状況に合わせて、働き方を臨機応変に変えることができるんです。その点をもっと上手く利用できると、子育てをしながらでもすごく働きやすくなると思います。ただ、そのうえで一緒に仕事をする人との信頼関係はとても重要です。急ぎの案件には帰社後であってもスピーディーに対応したり、きちんと周囲との情報共有をしておくなど、自分がボトルネックにならないような配慮は必要です。

あと、SNSも私にとってすごくありがたい存在ですね。
顔を合わせて「最近どう?」と話さなくても、タイムライン見ているとなんとなく何をしているのかわかります。ちょっとご無沙汰していてもあまり久しぶりだという感じがせず、コミュニケーションがとれます。広報の場合でしたら、記者さんともSNSで繋がっておくことがプラスになっていると感じます。社内のネタ収集と記者さんとのネットワークが重要な広報という仕事だからこそ、SNSを通じた情報収集は欠かせませんね。

(取材協力:株式会社サイバーエージェント/上村嗣美
(編集:創業手帳編集部)

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