公庫に「1500万かな」と言われた融資が「3500万」に!その理由とは?
予約のとれない日本橋フレンチ「La paix ラペ」を半月でオープンさせた、松本オーナーの開業術
(2016/02/24更新)
創業のための資金調達方法として、最もメジャーな方法の1つが「日本政策金融公庫の融資制度」。公庫に借りられなければどこでも借りられないと言っても過言ではないほど、融資においては重要な機関です。そこで、想定の半額である1500万円を提示されてしまった松本オーナーに残された開業準備期間は、あと半月。
そこから総額3500万の借入に成功し、開業からたった1年で「東京最高のレストラン2016」の総合ランキング同点1位になるまでに成長しました。その松本オーナーに、開業にあたっての資金調達、短期間開業でのコツなどを伺いました。
1974年、和歌山県のおでん屋に生まれる。奈良調理短期大学卒業後、東京・六本木のレストラン「Vincent」でサービスからパティシエ、ソーシエまですべてのポジションを学ぶ。その後1年間ベルギーのナミュール「レッソンシェル」ミシュラン一つ星で修業。帰国後、麹町「オーグードゥ ジュール」のスーシェフ、日本橋「オーグードゥ ジュール メルヴェイユ」のシェフを10年勤めた後、2014年10月に日本橋室町にフレンチ「La paix ラペ」オープン。
「1500万円かな」と言われた融資が「3500万円」に
松本:実際に前職を辞めると決まったのが、独立開業の半年ぐらい前でした。
しかも退職日は9月15日、独立店のオープンが10月1日と、開業期間は半月しかありませんでした。
タイムスケジュールも詰まっていて、かなり忙しかったです。
それでも、過去にグループ店の店舗立ち上げも何件か担当していましたし、スタッフの育成・管理の経験もあったので、独立について難しく考える事はありませんでした。
もともと雇われている立場の時から「もし自分の店だったら……」と経費のことなどを意識しながら働いていたので、物も無駄にしないし、どうすればスタッフが働きやすいかということを考えていました。
事前にそういうシュミレーションができていたので、独立へのビジョンが作りやすかったのだと思います。
そんな下地もあって、ちょうど10年も働いてきたという区切りも実績もあり、やると決めて一気に独立しました。
松本:今までの繋がりに頼らずまったく新しいお店を立ち上げたかったので、休みの日はいろいろと足を運びながらも、WEBを中心に情報を集め、内装のデザイナーや物件を探しました。
また、働く環境やシステムを完璧にしないと料理に集中できないと考え、飲食店専門の社労士さんをネットで探しました。
そこで見つけた社労士の先生から、さらに税理士の先生を紹介していただきました。
並行して、お金の借入については自分で事業計画書を作り、直接、日本政策金融公庫に持って行きました。
話を聞くだけのつもりで訪問したので、公庫の方も私の経歴を知らず信用がなかったのでしょう……融資金額については「借りられても1500万くらいかな」と言われました。
開業資金は総額3000万円くらいを想定していたので不安になり、自分で作ってみた事業計画書を持って税理士の先生に相談したんです。
(左から、社労士の原氏、税理士の大野氏、松本オーナー)
松本:最終的な融資額は、概算3500万になりました。
内訳は、中小企業経営力強化資金という専門の支援が必要な融資で1700万円、生活衛生共同組合の組合員が申請できる振興事業貸付の融資で1800万円です。この組み合わせはとても珍しくて、日本でも初めてなんじゃないかと税理士の先生が仰っていました。
私からも「この融資はどうでしょう?」と提案をしたりしたなかで、先生は、どの融資とどの融資を組み合わせると私が開業したい店にとって最も利息的に有利であるかをシュミレーションして、ベストなものを選んでくださいました。
松本:そうみたいですね。
それでも借り入れできたのは、私の事業計画書からさらに先生が、売上や五カ年計画など、ポイントを抑えた計画内容に変更してプレゼンしてくださったからだと思います。
この融資については、開業時にもっともプレッシャーに感じていたことなので、決まってとてもホッとしましたね。
その後も税理士の先生とはFacebookなどでやりとりをしていろいろ教えていただきました。
飲食店専門の先生だったので深夜勤務にも理解があり、24時間対応してくださいました。
開業準備期間がとても短かったので、オープンが押してしまえばそのぶん固定費がかかってしまうという不安のなか、すぐにお返事をいただけたことはとてもありがたかったです。
おかげでお金のことは考えず、開店準備のために労力を割くことができました。
結局、開業資金は、自己資金が500万、親族からの出資が500万で、総額4500万くらいになりました。
“こだわり”にはとことんお金をかけた
松本:デザインや内装費は絶対に節約したくなかったんです。
安く仕上げた内装は後のメンテナンスがとても高くついてしまい、後悔することは過去に経験していました。
特にダクトや水回りはしっかりしないとダメ。気持ちよく仕事をするために、環境作りは大事なんです。
予算は総額3000万、内装費だけで2000万と設定して、飲食店関係の専門サイトに自分のイメージするデザインやコンセプトなどを登録しました。
比較的高額な登録内容だったので「やりたい」という声を20件ほどいただきましたが、そこから選ばないといけないのは大変でしたね。
松本:内装のデザイン案や価格ではなく、実際にその業者さんが過去に作ったフレンチ店の厨房や内装を見学し、経験値を見ました。
また業者さんが決まって工事が始まってからも、何度も現場を見に行きました。当然、施工業者さんはデザインの図面通りに作るので、「やっぱり普通の壁じゃなくて防音の壁にしよう」などといった変更に対応していただくには、現場に行かないとできない。
特に厨房についてはマニアックですが、スタッフの立ち位置や動線、機材の配置など、全て計算してこだわって作っています。
調理に具合のいい幅は何cmだとか、かなり細かいんです。結果、内装費の総額は2000万円程で、デザイン料は10%でした。
松本:どういうお店にするかというコンセプトがちゃんとしていないと、開業する理由は絶対にブレます。
ラペの場合は、場所は日本橋ということと、日本の文化・物を使ったフランス料理にするということは決まっていました。
ただ単に料理を作るだけでなく、お客様に日本の文化をもう少し知っていただき、喜んでもらえるコンセプトにしたんです。
そのため「日本らしさ」をテーマに、素材や器、お店の空間にこだわって店をつくりました。
もちろんお店を作り始めると、多少の修正や変更はあるかもしれません。
それでも、基本的には最初に決めたコンセプトに忠実に実行することが大事だと思います。
だからそこにかける費用については下げることはしませんでした。
松本:彼とは専門学校からの付き合いなんですよ。
支配人の田中にはサービス面、数字、教育やワインなどを任せ、僕は料理に専念しています。
任せることって本当に大切なんです。自分が自由じゃないと余裕がなくなってしまいますから。
極力自分にも時間を作って、スタッフの皆も働きやすい環境にしたい。
金額のことだけを考えると自分でやれば安くすむんですけど、そうなると本職の料理に集中できなくなって、お客様に美味しい物を提供できない。
なので、社労士の先生や税理士の先生など専門家の方に任せられるところはお任せして、自分は本職に専念する環境作りを心がけています。
ただし任せきりにするのではなく、常に自分のイメージを持って、こちらでも把握していないといけない部分もあると思います。
初期費用は多めに、資料はわかりやすく
松本:不動産関係で大出費がありました。
物件を取得する際にフリーレント期間が3ヶ月あったんですが、借りるのが早くて、フリーレント期間がオーバーして家賃の支払いが予定より1ヶ月分増えてしまったんですよ。
安い金額ではないので、初期費用は多めに算出しておいた方がよいですね。
ちなみに物件については、いろいろ探したんですが唯一条件に合う空き物件が今の場所だったんです。
けれど大家さんが飲食店は避けたかったみたいで、申し込んだ後もずっと保留状態でした。
店舗を貸していただけるように何通も手紙を書いて、コンセプトをお伝えして、事業計画書や店舗デザイン案を見ていただいたりして、やっとOKしていただけたんです。
協力者となる方を説得するためには、わかりやすい資料を作成することも効果的だなと思いました。
松本:はい。
スタッフ全員を正社員にし、社会保険に加入させたかったので申請しました。
多くの小さな飲食店では、立ち上げの際に削る費用は社会保険料や社労士さんへの顧問料だと思うんです。
でも、スタッフのみんなは前の職場から来てくれることが決まっていたので、早く開業して、彼らの仕事がなくなる期間を少しでも減らしたかったんです。
そこを譲らないのは第一条件でした。かつてないほど忙しかったけれど、それこそ、社員の保険や労務に関する各種手続きのサポートをしてくださる社労士の先生のお力があったのでとてもやりやすかったです。
松本:とくに広告宣伝はしていないんですよ。
発信しているのはFacebookくらいですね。今は昔と違い、携帯だけでいろんな宣伝・発信ができるようになりました。
クーポンを出すという手もあるのですが、安売りすると原価を落とすことになってしまう。
最終的にラペに来るお客様の満足に繋がるかどうかと考えた結果、お金をかける宣伝はしませんでした。
その後、日本橋の三越さんからデパートでのグラタン販売のお話をいただいたりしたことがブランディングにもなったと思います。
そこでも、質の低い物を売ると悪い評判に繋がるので、値段が高くても売れなくても食べて満足してもらえる物にこだわりました。
その結果、お客様に受け入れてもらえたのではないかなと思います。
松本:コンセプトと、人を大切にすることです。
どんなお店にしたいかということはしっかりと計画を立ててブレないことです。
また人との繋がりを大事にすることで、いろいろと助けていただける。そして、皆様に助けていただいたぶんは、料理で返していきたいですね。
(取材協力:ITA大野税理士事務所大野晃 飲食店開業融資専門税理士
東京山の手社会保険労務士法人/原陽介 社会保険労務士)
(編集:創業手帳編集部)