経営者から横浜市長へ 林文子氏に聞く横浜市の女性起業家支援策

創業手帳woman
※このインタビュー内容は2016年05月に行われた取材時点のものです。

【第二回】横浜市長 林文子氏インタビュー

(2016/04/20更新)

BMWやダイエー、日産など、名だたる大企業の経営職を経て横浜市長へと転身を遂げた林文子氏。自身の経験から、横浜市を“日本一女性が働きやすい、働きがいのある都市”にするための支援策を次々と打ち出しています。今回は、横浜市の特徴や魅力、女性起業家やベンチャー企業への支援策についてお話を伺いました。

林 文子(はやし ふみこ)
東レなどを経て、1977年ホンダ販売店に入社。トップセールスとして活躍。その後、ファーレン東京㈱(現フォルクスワーゲンジャパン販売㈱)代表取締役社長、BMW東京㈱代表取締役社長、㈱ダイエー代表取締役会長兼CEO、日産自動車㈱執行役員等を歴任。2009年8月、横浜市長に就任、現在2期目。2014年在日米国商工会議所(ACCJ)「パーソン・オブ・ザ・イヤー」等受賞歴多数。「おもてなしの行政サービス」を信条に、保育所待機児童対策や放課後児童の居場所づくりなど、女性の活躍支援に力を注ぐ。

「和」と「洋」、「新しさ」と「伝統」の魅力を併せ持つ横浜

ー横浜市の特徴や魅力を教えてください。

:横浜には、開港以来多様な価値観を受け入れてきた寛容さと、そこから新しい価値を生み出し発信してきた進取の気風があります。

ウォーターフロントの美しい街並み、ビジネスや観光の拠点となるみなとみらい21地区がある一方で、郊外部には豊かな自然も残り都市農業も盛んです。

千を超える直売のお店もあり、安全・安心な美味しい食材を身近なところで入手できます。

海や港の景観、近未来的なまちづくりを進めているみなとみらいエリアといった横浜らしいスポットだけでなく、「横浜能楽堂」や「三溪園」など伝統的な日本文化もあり、コンパクトな中にも実に多様な魅力をもつ街です。

「和」と「洋」、「新しさ」と「伝統」の魅力を併せ持つ横浜は、国内だけでなく国際会議や観光で訪れる多くの海外のお客様にも大変ご満足いただいています。

また、372万人の人口を擁し、大消費地である首都圏が後背圏である上に、交通アクセスや人材の集積などの面でも優れたビジネス環境を持つ横浜は、国内外の企業から大変高い評価をいただいています。

近年では米アップル社や資生堂、ダウ・ケミカル社などの多くのグローバル企業の進出が相次いでいます。

さらに、保育所待機児童対策や女性の活躍支援、文化芸術創造都市施策など、横浜が先駆的に進めてきた取組は国の内外から注目を集め、横浜への「信頼」と「期待」はますます高まっています。

多様な魅力を併せ持つ横浜は、高い志を持って新たな価値を創造しようとする起業家の皆様にとって、最初の一歩踏み出す最適な地であると自負しています。

ー横浜市の起業家に対する取り組みを教えてください。

:横浜市では、多くの起業家が生まれるように、そして起業後も成長していただきたいという思いで、「起業家支援」を市の成長戦略にも位置づけ、取組を進めています。

特に女性起業家には生活に密着した分野等での新たな市場開拓が期待でき、多様な働き方の実現にもつながるため支援に力を入れています。

また、女性に限らず、拡大成長を目指すいわゆるベンチャー企業や、社会課題の解決に向けたソーシャルビジネス、シニアの起業など、多様な起業スタイルとそれぞれの成長ステージに寄り添ったきめ細かな支援を行っています。

160名を超える女性起業家を輩出

ー横浜市は多くの女性起業家を輩出していますが、具体的にはどのような支援を行っていますか。

:女性にとって、自らサービスを創り出す「起業」は、女性の強み・能力を活かし、柔軟な働き方を実現できる大きな可能性を秘めています。

「日本一女性が働きやすい、働きがいのある都市の実現」を目指す横浜市では、全国に先駆けて女性起業家のための特別な支援プログラムを進めています。

19年度から起業をめざす女性を対象とした「女性起業UPルーム」を開設し、起業に関する情報収集や相談、ネットワークづくり等を支援しています。

23年度には、インキュベート機能を備えたシェアオフィス「F-SUSよこはま」の設置をはじめ、専門の支援チームによるコンサルティング、起業セミナー、優遇利率による融資サービス等のサポート体制を強化しました。

身近にロールモデルが少なく、先輩起業家に相談できる機会がほしいというご要望を受け、メンター事業や女性経営者等によるステップアップ講座を実施しています。

さらに、実際に店舗運営をしながら販売戦略や資金計画などのノウハウを学ぶためのトライアルスペース「Crea’s Market(クレアズマーケット)」を設置するなど、きめ細かな支援を行っています。

これらの支援を受けて起業した女性起業家は、5年間で163名にのぼっています。

ーベンチャー企業にはどのような支援を行っていますか。

:横浜での起業や新規事業展開に挑戦するビジネスプランを全国から募集し審査する「横浜ビジネスグランプリ」を開催し、多くの起業家を発掘・育成しています。

コンテストの応募者には、事業プランのブラッシュアップをはじめ、第一線で活躍している経営者からの実践的なアドバイスなどのサポート、ファイナル出場者には経営支援や販路開拓支援など事業化を後押ししています。

さらに、経営コンサルティング等の基礎的な支援をはじめ、事業拡大に向けた金融機関等とのマッチング機会の創出(ベンチャーキャピタルを含む)、豊富な知識・経験を持つ企業OBの顧問派遣など、成長ステージに合わせて必要となる支援を行い、成長・発展の後押しをしています。

ーソーシャルビジネスやシニア世代には、どのような起業支援を行っていますか。

地域や社会課題の解決にビジネスの手法を用いて取り組むソーシャルビジネスの支援では、起業に向けた初期相談やビジネスプラン作成支援、既存事業者への個別支援と、成長段階に沿った支援策を展開しています。

新たな経済の担い手として期待されるシニア世代の起業は、長年培ってきた経験やスキルを活かした起業が多いという特徴があります。

ご自身の強み・弱みの分析をした上で、市場調査の方法やビジネスプランの作り方を学ぶセミナーを行ったり、ビジネスプランを既にお持ちの方にはより実践的な知識を身に付けられる連続講座を開催しています。

経営者としての経験から、真っ先に待機児童問題に取り組んだ

ー様々な政策を行っていく上で、林市長の経歴をどのような点で活かせていると感じていますか。

:自治体の仕事はごみの収集や保育所の整備、福祉、教育など、お一人おひとりの生活に密着してきめ細かく対応する事業から、世界の潮流をいち早く捉え、都市の成長戦略を描き、実行していくといった取組まで多岐にわたっています。

まさにトップとして繊細かつ大胆な判断と都市経営のセンスが求められ、大きなやりがいと経営の醍醐味を感じています。

私自身、経営者として、保育所に子どもを預けられずキャリアを断念する優秀な女性が何人もいることを悔しい思いで見てきました。

こうした経験から、女性が働き続けられない状況を作っている「待機児童」の問題には、市長就任後真っ先に取り組みました。

ゼロという明確な目標を掲げ、きめ細かく現場のニーズを把握し、公民が連携してあらゆる手を尽くすことによって、全国最多だった待機児童数を大きく減らした横浜市の取組は、今や全国に広がっています。

また、厳しい経営状況の会社を建て直してきた時にも、常に実践してきた、「すべての基本は人」という信念を、行政の中でも実践しています。

トップと職員・社員の間に共感と信頼がなければ組織は成り立ちません。

困難な課題であればあるほど、職員をモチベートし、組織を活性化すれば、成果につながるという信念を行政でも職員の皆さんに伝えてきました。

職員には当初違和感があったようですが、「共感力」と「受容力」という、女性の強みを活かしたリーダーシップが結果につながっていると感じています。

私が市長就任当初から掲げた「共感と信頼の市政運営」「おもてなしの行政サービス」「現場主義」は今やすっかり徹底され、おかげさまで、窓口満足度調査では実に96.7%の方々に「満足」「やや満足」という高い評価をいただき、「市役所は変わった」という声も多くいただいています。

市民の皆様からの期待、信頼を土台にこれからも市政運営にあたっていきます。

ー最後に女性起業家へのメッセージをお願いします。

:大切なのは、一人ひとりが学び、人間性を高めることです。

そして、その人達がつながって、ネットワークを作っていくことだと思います。

女性起業家にとって、身近なロールモデルや悩みを相談できる仲間との出会いは、事業の継続や自身の成長にとって本当に大切なものです。

様々な分野の方との出会いは、新たなビジネスチャンスにつながります。

全ての基本は「人」ということが私の信条です。お互いに学び合い、真摯に議論することで、自分自身の成長につながり、相手の方にも良い影響を与えられる素晴らしい関係が生まれます。

是非、横浜市が毎年開催している「横浜ウーマンビジネスフェスタ」や「横浜女性ネットワーク会議」などの様々な機会を捉えて、ネットワークを作り、元気を分かちあってほしいと思います。

そして、「これだ」と思ったら、まずやってみる。できない理由を考えすぎて、行動しないのでは何も始まりません。

まずは行動して、上手くいかない部分があれば修正したり、やり直したりしながら、全力で立ち向かっていけば必ず道は通じるものです。

私自身、「前例がない」、「女性には無理」といった理由で断られることも多々ありましたが、諦めることなく、チャレンジし続けた結果、道が開けてきました。

車の営業、経営者、そして市長と、新たなステップを踏み出しても、いつも「人」との関係を大切に、相手に寄り添い、全力を尽くすことで多くの壁を乗り越えてきました。

やってみたい、という気持ちが芽生えたときが、一歩を踏み出す時です。ぜひ素直に一歩を踏み出してください。その気持ちが応援してくれる人を引き寄せます。

一度くらいうまくいかなくても、前向きな気持ちを持ち続ければ、必ず願いは叶います。

(取材協力:横浜市長/林文子)
(編集:創業手帳編集部)

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