ClicknComplain レイチェル・アイルボット|社会起業家が語る「MBAにお金をかけるなら、起業したほうがずっと良い」とは?
ClicknComplain創業者であり社会起業家のレイチェル・アイルボット氏インタビュー(創業手帳・海外支社の直撃インタビュー)
(2016/04/10更新)
社会起業家とは、社会問題を解決し変革を起こすための手段として、ベンチャー企業を創設する人たちのことを言います。創業手帳では、アメリカ人の社会起業家であるレイチェル・アイルボット氏に、ベンチャー企業の立ち上げや社会的企業に対する考えとアドバイスについて伺いました。創業手帳海外支社のカトリーナ記者の直撃インタビューです。
ClicknComplain創業者であり、社会起業家。Startup Weekendのメンターや社会的企業の創業の支援を行うとともに、ベンチャー企業の立ち上げとビジネス拡大に関して助言を行う。
社会的企業は、目指すゴールが違う
レイチェル:実は、「社会的企業」とは何かという定義もなければ、どのようなビジネスが「社会的企業」であるかという統一基準も存在していません。
ですが、従来の企業と社会的企業の区別として、その「目指すところが何か」という点で決定的な違いがあると思います。
ただ単に利益最大化を目的とするのか、もしくは利益を出しつつも社会や環境によい影響をもたらすことを目指すのか。
社会的企業は、企業として持続可能な利益を上げることと、人々や環境に対する支援のバランスを目指していると言えるでしょう。
従って、社会的企業は「2つの収支決算」があると言えます。
組織によっては、いかに「社会的」であるかを企業の評価基準としています。
基準の例としては、多様な人々に雇用機会を提供したり、従業員の潜在力を引き出しているかどうか、といったことがあげられます。
レイチェル:私にとって社会的企業は、社会的問題を解決するだけでなく、すべての業務において倫理的で、環境の持続可能性を考える企業です。
例えば「Human Nature」という入浴・美容製品を販売する、フィリピンの社会的企業があるのですが、この企業の製品は全て天然のものであり、包装もリサイクルされた材料によるパッケージです。
これらは地元の低所得農家から調達されたものを使用しています。またこの企業は製造でもブランディングでも、「親フィリピン」にフォーカスしています。
フィリピンの製品に対するプライドを強化し、企業に関わる人たちの潜在力を引き出し最大限に活用しようとしています。
パーソナルケア製品の販売を中心としたビジネスモデルですが、ビジネスのやり方にたくさんの愛情を感じることができますし、まさに社会的企業と呼ぶにふさわしい例だと思います。
MBAにお金をかけるなら、起業したほうがずっと良い
レイチェル:「Startup Weekend」というイベントを企画していますが、それにとても力を入れています。
「東南アジアヤングリーダーイニシアティブ」(YSEALI)というプログラムがあり、その一環で「Startup Weekend」のイベントが今週末にマレーシアで行われますが、私はメンターの一人として参加します。
ASEAN各地の若者たちが集い、アイデアを実現できるよう作業するのです。
起業し何かを生み出すというアイデアには必ず大きなエネルギーがみなぎっているので、このようなイベントにはいつもわくわくさせられます。
また、元気ももらえますし、前向きさや自信を培うための刺激にもなるので、起業イベントは大好きです。
いつか誰かが「起業のために努力するのは、わずかなお金でMBAをとる勉強をするようなものだ」と言ったことがあります。
私自身、トライアンドエラーの中からとても多くのことを学びましたし、今でも積極的に起業イベントに関わり続ける理由のひとつはそこです。
コミュニティづくりは起業という生態系の中でものすごく重要ですが、これがまたとても楽しいのです
起業家を成長させる、超実践プログラム
レイチェル:EDM Entrepreneursは社会的企業のためのコンサルティングや研修プログラムの提供を行っている会社です。
その中で私が関わっているプログラムは、Pitch YESと呼ばれるものです。
学校を中途退学した若者たち(OSY)を対象とした社会的企業を起業するためのプログラムで、セブ州政府と共同で運営しています。
参加者はプログラムを通じ、自分たちの会社を起業します。
私たちは集中的な研修セッションやワークショップを提供します。ワークショップでは、コミュニティの調査や社会のニーズ、そして市場でのチャンスなどを元にした現実味のあるビジネスコンセプトを導き出します。
社会的側面からは、倫理的企業の実際から環境への配慮の確保といったトピックまでをカバーします。
レイチェル:そうです。
実践的な取り組みとメンターからの助言により、参加者はそれぞれの事業においてコンスタントに前進していくことができるのです。
会社を始めることは簡単ではありません。だからこそメンターや指導、そしてサポートがきわめて重要なのです。
若い起業家たちを呼んで、彼らの経験を学生たちに話してもらうこともあります。
私たちの活動は、リソースやヒント、ビジネスのノウハウを提供して起業家を助けるという点で、創業手帳に似ていますね。
レイチェル:参加者にビジネススキルを教える以上に大きな目的は、プログラムを通して自信や積極性を身につけてもらうことです。
研修やワークショップを終えた参加者たちはより自信に満ち、行く手に障害があっても、どうすることもできないとあきらめる代わりにむしろそれを潜在的なチャンスだと捉えるようになっていきます。
学校を中途退学した若者たちの中でも、経済的な問題で退学したのではなく学校への興味を失ったことが理由の場合もあります。
彼らは、他のみんなが学校で教えられてきたような概念を身につけていないので、何事も独自の考え方で解決しないといけないのですが、むしろ正式な教育を受けていないことが創造性を育む土壌となっているかも知れませんね。
ビジネスの場でも「結婚する前にデートしろ」は当てはまる
レイチェル:ClicknComplainは、実は第1回目の「Startup Weekend」の中から産まれたのです。
これは市民の苦情を受け付けるためのプラットフォームなのですが、市民が携帯電話を使って行政の問題にタグを付けます。
それが該当の行政当局に報告されるという仕組みです。私たちチームは市民が抱える問題や苦情と地方政府のアクション、問題解決を結びつけることにより、市民の関与と市の整備を向上させることを目指しました。
レイチェル:興味深い質問ですね。
成長に伴う痛みもあれば苦労もありましたし、試行錯誤の連続でしたが、起業を通して貴重な教訓も学びました。
チーム運営の難しさもありましたし、コミットメントや責任の問題もありました。
やって良かったのは、腰を下ろして会話をし、各人の「コミットメントのレベル」や、「どれぐらい責任をもてるのか」ということを議論することでした。
「結婚する前にデートしろ」という言葉は、ビジネスパートナー選びにおいてもそのまま当てはまるという教訓を得ました。
一緒に会社を始めてくれる人を選ぶには、その人とチームを組むと決断する前に、まず一定期間一緒に仕事をして、その人がビジネスに対してどのようなビジョンを持っているのか知るために会話を重ねることが大切です。
ゴミ0社会へ向けての「Unpackaged Coalition(包装いらない連合)」
レイチェル:Unpackaged Coalition(包装いらない連合)という名前の組織を通じてごみゼロ社会の実現に向けた運動を行っています。
ごみ処理を改善しようというのではなく、ごみそのものをなくそうという考え方が運動の背景です。
それを実現させるには、社会のあらゆるレベルで変革が求められます。私たち2人は半年前にごみを出さないライフスタイルを選択することにしました。
それは、使い捨ての包装に入って売られている製品は買わないというものです。
難しいことではなく、レジ袋を使わなくて済むよう自分のバッグを持参するといったとても簡単なことからできるのです。
私たちは、クラウドソースを利用したガイドを作り、各都市でどこに行けばごみゼロ製品が入手できるのかわかるようにしました。
関心を寄せる人たちが、世界中から都市の情報を追加してくれています。多くの人がこのガイドを見て、情報を追加してほしいですね!
(取材協力:ClicknComplain創業者/Rachel Eilbott)
(編集:創業手帳編集部)