知財戦略とは?知的財産権と産業財産権の重要性

創業手帳

知財戦略の意義と進め方を解説!知的財産権と産業財産権の違いやビジネスで必要な理由


近年の事業戦略の動きとして、スタートアップに知的財産権や知財戦略重視の傾向が見られています。
知的財産権は事業展開の大きな武器となり、経営に大きな影響を与えるものです。
起業や事業経営に携わる人は知財戦略とは何か、知的財産権や産業財産権とは何か、理解しておく必要があります。

なぜスタートアップが知的財産を重視するのか、必要性を解説します。
知財戦略の必要を感じた事業者は、知財戦略の進め方や知的財産権と産業財産権の違い、注意点などもチェックしておきましょう。

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知的財産権とは


知的財産権とは、知的創造活動によって生み出されたものを作った人の財産とする権利です。
知的財産権制度は、知的財産とそれを作った人を法的に保護し、一定の期間他者が勝手に使うことを防止します。
この制度があることで、独自のアイデアといった知的財産を使ったビジネスをより進めやすくなります。

知的財産権の具体的な内容やそれを生かした知財戦略の目的をチェックしておきましょう。
自社に当てはまるものがある場合には、知的財産権の取得も視野に入れる必要があります。

産業財産権との違い

知的財産権と似た言葉に、産業財産権があります。産業財産権も知的財産権と同じく、知的創造活動によって生み出された成果を保護するものです。
ただし、知的財産権の方が産業財産権よりも広い概念となっています。

知的財産権は、産業財産権を含む様々な種類の権利を指すものです。
産業財産権は経済産業省の特許庁が所管していますが、知的財産権の中には農林水産省へ出願するものもあります。

産業財産権の種類

産業財産権は、知的財産権の一部であり以下の4つの権利があります。
新しい技術やデザイン、ネーミングやロゴなどに独占権を与えて、模倣の防止、研究開発へのインセティブの付与、取引上の信用による産業の発展を図るのが産業財産権の目的です。
これらの権利は売却や譲渡による移転もでき、ライセンス契約として他社に技術の使用を許諾することもできます。

・特許権
自然法則を利用した産業上利用可能な新しい発明を保護する権利です。特許法によって定められています。保護期間は出願時から20年間です。

・実用新案権
ものの形状や構造、組み合わせに関する考案を保護する権利です。実用新案法によって定められています。保護期間は出願時から10年間です。

・意匠権
独創的で美観を持つ物品の形状や模様、色などのデザインを保護する権利です。
対象は工芸品、工業製品で、意匠法によって定められています。保護期間は登録時から20年間です。

・商標権
商品やサービスを区別するために使うマークを保護する権利です。商標法によって定められています。保護期間は10年間です。

知的財産権の種類

知的財産権には、産業財産権の4つに加え、以下のようなものがあります。

・著作権
作品を創作した者が作品をどう使うか決められる権利です。作品は文芸、学術、美術、音楽など。著作権法によって定められています。

・回路配置権
半導体集積回路の回路配置について創作者などに認められる権利です。半導体集積回路の回路配置法によって定められています。

・育成者権
新たに植物品種を育成した人に与えられる権利です。登録品種の種苗や収穫物、加工品の販売などを独占できます。種苗法によって定められています。

・地理的表示
地域の風土や製法で作られる農産品や食品の伝統的な産地の名称を保護する権利です。地理的表示法などによって定められています。(夕張メロンなど)

・商品表示・商品形態
表示や形態などに特徴のある商品を保護する権利です。不正競争防止法によって定められています。

・商号
営業上、会社名などを表す名称についての権利です。会社法・商法によって定められています。

知的財産権による知財戦略の目的

知的財産権の種類は豊富にありますが、知財戦略に大きく関わるのは、主に産業財産権でしょう。
自社が独自に開発、発明したものへの権利を取得し、競合他社の参入、追随を退けるのが知財戦略の目的のひとつです。

これにより、研究開発によって得た知識から得られる収益を最大化することができます。企業経営の成功には、投資からより多くの収益を得ることが欠かせません。

知的財産権は、研究開発へ投下した資本をより効率よく収益につなげるレバレッジとなります。

知財権取得がポイント

知的財産権を経営戦略に十分生かすためには、ビジネスモデルと結びついた権利を取得することが必要です。
単純に権利化することを目指すのではなく、目的をもって知的財産権を取得することが重要となります。

自社の事業の中心となる技術に関しては、他社に侵害されないために知的財産権を取得することが必要です。
また、他社との交渉の材料として取得する知的財産権もあります。自社の事業戦略の一つとして、知財戦略を取り入れ、活用していくことが大切なポイントです。

知財戦略をスタートアップが早めに進めたほうがいい理由


知財戦略は、信用度や資本で勝負できない中小企業やベンチャーのスタートアップ期にこそ重要な役割を果たします。
知的財産権の取得がスタートアップ期にもたらす影響、知財戦略が果たす役割についてチェックしましょう。

技術と権利を守るため

技術情報を守り、数少ない開発製品を取られないために、早めの知財戦略は重要です。
体力のない企業にとって、知的財産戦略の有る無しが経営に与える影響は大きくなります。

スタートアップ企業は、大企業に比べて研究開発費も少額になり、知的財産の数も少なくなるものです。
そのため、ひとつでも技術や独自製品を失えば、経営が大きく傾く可能性もあります。大企業ならば持ちこたえられる損失も、持ちこたえられないかもしれません。

そのため、予防線を張る意味でも、知的財産権を取得し、他社が侵害できないようにしておく必要があります。
知的財産権があると、侵害された場合には損害賠償請求などの対応策もできます。

市場で優位に立てるため

知的財産権を取得することは、その技術や製品に関して、市場で他社を退け優位に立つことにもつながるでしょう。
規模や資本の小さいスタートアップ企業でも、自社の知的財産権を武器にして、他社の市場介入を阻止、維持拡大することが可能です。
他社は、その技術を知ることはできても、真似をすることができません。企業規模に関係なく、独り勝ちできる可能性が広がります。

大企業との対等な会話をするため

大企業と連携、共同開発や取引きする際にも、知的財産権を取得しておくことで、対等に権利を主張し、適切な条件で契約を結びやすくなります。

今後の開発の方向性を的確にできるため

知財戦略では、その過程で他社の技術開発の進捗や他の知的財産の状況を知ることも可能です。
そのため、知財戦略では、自社の技術が遅れているかどうかも分かり、今後の開発の方向性も見えやすくなるでしょう。

知財戦略の注意点


知的財産権は取得するだけでなく、うまく使いこなさなければ意味がありません。
知財戦略を進めるにあたっては、知的財産権を無駄にすることなく、また、別のリスクを負うことなく進める必要があります。
ここでは、知財戦略を上手に進めるための注意点も知っておきましょう。

知財を保有するだけでは意味がない

知的財産権を取得、知財を保有するだけでは、知財戦略とはいえません。保有する権利を活用し、収益を上げることを目指すのが本来の戦略です。
自社で使っていない知財がある場合には、ライセンス契約や売却なども検討し、収益化を計ることが必要となります。

出願しないという戦略も

知的財産権を取得する際には、その内容を公開することも必要です。そのため、出願によって他社に新技術の内容を知られてしまうことも考えられます。
そのため、新技術を開発しても、システムの中身をブラックボックス化するために、意図的に知的財産権を取得しない選択肢を取ることもあります。競合に情報を与えないことも戦略のひとつです。

しかし、すべての技術に対して知的財産権を取得しないのはリスクもありますし、ライセンスで収益を上げることもできません。
そこで、コア技術に関しては知的財産権を取得せずに情報を隠し、それ以外の開発では知的財産権を取得してライセンスによる収益を上げるといった方法も考えられます。
どの技術を出願するかという点も、戦略として重要です。

知財戦略の進め方


知的財産権を取得し、事業戦略を進めるための方法を紹介します。
他社に差をつける技術があっても、それを保護し、有効利用する手段を持たなければ、みすみす利益を逃し、他社に奪われる可能性があります。
自社の技術と事業を守るために、知財戦略の第一歩を進めましょう。

他社の知的財産権の状況を把握

知財戦略では、まずは他社の知的財産権の状況を把握することが大切です。
他社の知的財産権を調査し、自社の技術が他社の権利を侵害しないか、新しい技術として独自性を持っているか見極めます。

もし他社の検知を侵害するなどの問題があった場合には、戦略の練り直しが必要です。
他社の権利を侵害しない方向を見つける、他社の権利を無効にできるか検討する、クロスライセンスの交渉をするといった方法があります。

差別化した独自の成果に対して知的財産権を確立

他社と差別化された独自の成果に対して、知的財産権を確立し、市場を獲得します。
知的財産権の取得には、特許庁などへ出願することが必要です。

知的財産権を取得した技術は、市場で他者を退け、シェアを拡大するだけでなく、さらなる研究開発に生かし、次の新技術の獲得のためにも活用します。

知的財産権を取るには


知的財産権を事業戦略に取り入れるためには、まずは知的財産権を取得する必要があります。知的財産権の出願の流れや費用を知っておきましょう。

出願の流れ

すでに出ている先行技術の調査で出願が可能だと分かった技術について、出願を行います。
特許をはじめとした産業財産権は、それぞれの出願書類を外部サイトからダウンロードすることが可能です。

一般的な流れとしては、出願をすると審査が行われ、審査に通ると権利を取得できます。それぞれ手続き費用や登録費用が必要です。
また、知的財産権を取得出来た場合、その後も年間の登録料がかかります。主に3年ごとに支払うことになるため、注意しましょう。

主な知的財産権の費用

出願費用は以下の通りです。

特許出願14,000円
実用新案登録出願14,000円(実用新案登録料も必要)
意匠登録出願16,000円
商標登録出願3,400円+区分数×8,600円

審査請求費用は以下の通りです。

特許出願審査請求138,000円+(請求項の数×4,000円)
実用新案技術評価請求42,000円+(請求項の数×1,000円)

実用新案については、出願時に登録料も支払うことになっています。

実用新案登録料2,100円+(請求項の数×100円)

助成金対象となることも

出願と審査請求は、助成金の対象となる可能性があります。例えば、江戸川区では、区内に本社を置く中小企業者に対して以下の経費を助成する制度があります。

  • 特許権の出願
  • 実用新案権の出願
  • 意匠権の出願

また、このほかにも特許庁の特許料の減免制度なども、条件を満たした企業を対象に行われています。
国際出願に関する手数料の軽減措置もあるため、必要な企業は申請を検討してみましょう。

まとめ

知的財産権を取得することで、設立したばかりの中小企業やベンチャー企業も市場で優位に立ち、大企業と対等に渡り歩くことができるようになります。
また、特にスタートアップから知的財産権を確立し、知財戦略を練ることは、小資本で生き残るために重要なことです。
他社との差別化やライセンスによる収益、独自の技術などを生かした経営を始めましょう。

出願することにより、技術の内容やシステムが明らかになるという注意点もありますが、長期的な視野を考えると知的財産権を取得することは大きな安全策となります。
どの技術を出願するかの選択も含め、トータルで知財戦略を練ることが大切です。

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(編集:創業手帳編集部)

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