初の女性社長が起業家へ提案する”イケアの価値”とは
イケア・ジャパン代表取締役社長ヘレン・フォン・ライス氏インタビュー(前編)
(2016/12/12更新)
「より快適な毎日を、より多くの方々にご提供する」ホームファニッシングカンパニーのイケアは、今年10周年を迎えました。イケアは1943年、スウェーデン南部のスモーランド地方にある小さな村エルムフルトで誕生しました。日本上陸は2006年で、IKEA Tokyo-Bay、IKEA港北の2店舗をオープン。現在は神戸、新三郷、鶴浜、福岡新宮、立川、仙台を加えた全8店舗とIKEA Touchpoint 熊本を展開しています。日常のあらゆるものを取りそろえたイケアストアは、 年齢、性別を問わず広く利用されています。また、家庭用の家具や雑貨はもちろん、オフィス、飲食店、ストアなど、さまざまなビジネスシーンにも使える製品が取りそろえられています。
2016年8月、イケア・ジャパンの代表として赴任したのが、ヘレン・フォン・ライス氏。初の女性社長でもあり、2人の子供を持つ母親でもあります。 そのヘレン氏に、家庭と仕事の両立について、また企業運営に必要な会社ビジョンについてお伺いしました。
日本のビジネスシーンにすでに溶け込んでいる、イケア製品
ヘレン:日本に来てまだ数ヶ月です。もともとスウェーデンのイケアで働いていましたが、中国、アメリカに続き、海外での勤務は3ヶ国目となりました。東京では雑貨店やレストランなどさまざまなお店で、イケアの商品が使用されている場面を何度も目にしました。美容室に行った時も、備品を入れる移動式のワゴンが、イケアがキッチン用にデザインしたワゴンだったり。いろいろと工夫して、使っていただいているのだなと感じました。
ヘレン:職場やお店で使えるものを手ごろな価格で提供できるイケアは、起業される方にぴったりだと思います。会社の創業の際には、大きな家具だけでなく、小物も必要ですよね。たとえば飲食店であれば、エプロン、お鍋、お皿、紙ナプキンなどの調理やサービス用品のほかにも、店内に置くクッションやテーブルクロス、照明、カーテンなどのインテリア用品も必須でしょう。イケアはそれらを販売するだけでなく、「この家具が気に入ったけれど、どうやって配置したらいいのか……」とお悩みの方には、ビジネスの内容に合わせたレイアウトの提案もしています。
ヘレン:ビジネスシーンでは、家庭と違って、ネットワークをつくりたいというご要望があります。セミナーを積極的に行うことで、今後の仕事や暮らしに役立つ知識を増やしていただき、更に参加者同士でのネットワークを広げていただけたらと思います。
この根底にあるのが、イケアのビジョンとそれを支えるビジネス理念です。家具を販売することが私たちの目的ではありません。イケアのビジョンは「より快適な毎日を、より多くの方々に」お届けすることです。そしてイケアのビジネス理念は「優れたデザインと機能性を兼ねそなえたホームファニッシング製品を幅広く取りそろえ、より多くの方々にご購入いただけるようできる限り手ごろな価格でご提供する」ことです。
アルバイトから、イケア・ジャパンの代表へ
ヘレン:はい。スウェーデン南部で産まれ、17歳でのアメリカ留学を経て、大学進学の際にスウェーデンに戻りました。マーケティングとコミュニケーションを専攻しながら、週末にイケアでアルバイトをする日々でした。
その頃はイケアのビジョンなど意識せずに働いていました。お客さまに会って素敵な家具をおすすめすることで、快適な毎日を過ごしていただくためのお手伝いをする仕事は楽しかったです。その後は、出版社に3年ほど勤めました。
ヘレン:一度離れてみてやっとイケアがどういう会社なのか気づいたんです。どんな価値を持っていて、それがどれだけ大切なのか……距離を置いてみてわかりました。
なによりすばらしいと思ったのは、フラットな組織であること。マネージャーであってもそうでなくても、どんな立場でもお互いの話にきちんと耳を傾ける。仲間と一緒に何かに取り組むという“togetherness(連帯感)”の精神がとても魅力的だと感じました。それがイケアに戻ったもっとも大きな理由ですね。
一度離れたのにまた受け入れてもらえたのは、イケアには「学んできなさい。そしてあなたが学んできた事を活かしましょう」という精神があるからです。
戻ってからは「IKEAカタログ」をつくるIKEA Communicationsに入社し、プロジェクトリーダーを経て、IKEA of Swedenで商品開発に携わるなかでイケアのバリューチェーンについて学びました。そこで過ごした時間は掛け替えのないものでした。クリエイティブな人達と共に働き、イケアブランドについては特にしっかりと学ぶことができました。ここでイケア製品の基本について学んだ経験は別のところで、その後に役立っています。
それから、お客様と接したいという思いを実現するため、中国の深圳(シンセン)のイケアストアのストアマネジャーになりました。その後、アメリカ法人の副社長を経て、2016年に日本に来ました。
ヘレン:その通りです。一つひとつステップを積み重ねていくことは、イケアの基本です。いろいろなことにチャレンジし、成長していくうちに、リーダーのポジションについている人がほとんどです。
ヘレン:子供が2人いますが、家族のことについては常に主人と相談していますし、お互いにイケアで働いていますが、家事も分担しています。
とくに海外へ行くとなると、家族の同意が不可欠です。幸い、主人は私が海外で働くことにとても興味を持ち、同意してくれたことが大きな支えとなりました。中国へ行く時も主人と相談し、「よい機会だから」と決めたのです。
中国語を話せないなど不安もありましたが、「より快適な毎日を、より多くの方々にご提供する」というイケア共通のビジョンは変わらないので自信を持って家族で中国へ行きました。
ヘレン:9割は全世界共通ですが、もちろんその土地のニーズに合わせた商品やサービスもあります。たとえば、中国の深圳の暮らしはスウェーデンとは違います。特に若い人々のエネルギーがとても強く、毎日を懸命に過ごす若い人々が手軽に手に入れられる製品を提供することにより、彼らの生活をより快適にするお手伝いができているのだと実感しました。
その後に行ったアメリカは、まったく違った状況でした。アメリカはドイツに並び、イケアにとって大きな市場です。アメリカは、すでに市場も大きく、イケアの製品も広く知られていたので、より愛していただくための工夫を学ぶことができました。それらの経験を生かして、日本では日本に合ったソリューションをご提供できればと思っています。
(取材協力:イケア・ジャパン 株式会社/ヘレン・フォン・ライス)
(編集:創業手帳編集部)